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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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武器屋の弟子

「やあああああああああああああああ!」

「フィーロたああああああああーーー……」


 本日三回目の元康が宙に舞う光景を溜息混じりに見送る。

 転送スキルで先回りしているのだろうけど良くやる。


「やっぱ盾の勇者様の所は面白いわねー」


 ケラケラと元康が宙を舞う光景に笑うサディナ。

 こいつ、常に笑っているような気がするのは気のせいか?

 フォウルなんて最初、悲鳴にも似た声をあげていたのにな。

 他の奴もドン引きで見ていたのにサディナだけアッサリと流して笑っていた。

 笑い上戸なのか? なんて言うか余裕を感じる。


 まあ良いや、なんだかんだで城が見えてくる。

 乗り物酔いが酷いフォウルがつらそうにしているが、目的地はもうすぐだ。

 帰りは転移スキルで……そもそも俺の領地を登録なんてしていないから、仮に手に入っても出来ない。

 ま、城の方で色々とやることもあるから良いか。


 城下町に入る前に毎度おなじみ近くの村で馬車を停めて行く。


「へー、ここから歩いて行くんだ?」

「フィーロと俺が有名でな、城下町に入ると目立つんだ」

「ふーん。じゃあフォウルくんも同じ理由で隠した方が良いわよ?」

「なんでだ?」

「メルロマルクは長年、シルトヴェルトと争っていたのよ? ハクコ種はそれはもう有名だからねぇ」


 む……一理あるか。見た目も有名かもしれない。


「私はあんまり見ない方だけど、有名じゃないから大丈夫」

「そうか」


 なんか鈍重そうだものな。別の意味で目立つけど、変わった冒険者で通るか。

 同じ理由でルーモ種の連中も大丈夫そうだな。

 親父の所へ預けに行くだけだし。イミアの叔父だったか。

 この種族って大人しいのか?


 そういや最近、俺は全然戦っていない。

 勘が鈍りそうで怖いな。

 戦闘顧問のババアに組み手でもして貰うか。


 フィーロは辺りをせわしなく警戒しながら俺の後ろを歩いている。

 そんなに元康が嫌いなのか。

 嫌いならあんな優しい言葉を投げかけるんじゃない。

 とか言いたくなったけど、この怯えようはそっとしておくべきか。

 これで村に元康が先回りしていたらどうするのだろうか?


 そう思いながら俺たちは城下町に入った。

 まずは女王にLvリセットの準備を頼んだ方が良いよな。

 それとも、親父に預けるのが先か?

 ま、城に入る前に親父の店を横切る形で預ければ良いか。


「お、アンちゃん」


 武器屋に入ると相変わらず親父がカウンターに立っていた。

 なんか安定の落ちつき感がある。俺も親父の事を信用しているんだなぁ。


「どうだ? 開発は進んでいるか?」

「さっぱりだ。霊亀から見つかった鉱石ってのも癖が強くてな」

「ふむ……」

「今じゃその辺りの界隈も難易度が高いと研究で躍起になってる」

「なるほど。そういやゼルトブルで――」


 俺はゼルトブルで見た霊亀剣という剣の話を親父にした。とにかく、一目見るだけで名工が作った一振りだとも付けくわえて。


「盾のアンちゃんが言うんだから相当な代物だな……見れば誰が作ったか、作り方がわかりそうなものだが……」

「買ってこいってか? 勘弁しろ、あんな高そうな武器は手が届かん」


 親父に作って貰った武器を売れば多少は金になるだろうが、それでは本末転倒だろう。

 ……そう言えば、魔物のドロップでユニーク武器とかレア武器とかを売る方法もあるんだよな。珍しいから高値になるだろうし。

 考えておこう。


「そうそう、親父の弟子にさせようと思っている奴隷を連れてきた」

「誰だ?」


 俺が連れている奴隷共の中でイミアの叔父を指差す。


「アンタ、さっきから見覚えがあるような気がするのは気のせいか?」


 親父がそのイミアの叔父を指差して尋ねる。


「いや、久しぶりだな。師匠の所をちゃんと卒業したみたいじゃねえか」

「やっぱりか!」

「知り合いか?」

「ああ」

「昔な」


 何でもイミアの叔父と武器屋の親父は若かりし頃に同じ名工の所で弟子をしていたそうだ。


「とは言っても……俺は中途半端な所で追い出されたんだけどな。実家の方も大変だったし、イミアとか子育てにな」

「あの時は経営が傾いちまってなぁ」

「名工だったのにか?」


 些かおかしな話だな。


「大きな商談と女がらみでな。俺の師匠って色恋に現をぬかす奴でな」


 元康みたいな師匠だったみたいだ。脳内で、親父の師匠が元康になる。

 ま、俺の知る元康は既にフィーロ馬鹿になってしまったが。

 このイミアの叔父ってどういう人生を歩んでいるんだ? イミアも奴隷になっているし、経緯がわからないんだよな。

 ラフタリアみたいな波で……にしてはおかしい。大きいし。


「そういやイミアにしろお前にしろ、どんな経緯で奴隷になったんだ?」

「奴隷狩りに捕まって無理やりだよ。その時にかなり死人が出て村も滅んだ。生き残りは盾の勇者様の所だけだ」


 なるほど、そういうパターンもあるのか。ラフタリアも似たような物か。


「親を亡くしたイミアがあんな楽しそうにしているんだ。俺も盾の勇者様に力を貸したいと思ってる」


 奴隷になる経緯なんて親の身売りか、身寄りが無いか、奴隷狩りくらいなモノだよな。

 同じ理由でサディナも奴隷狩りに捕まったんだろう。

 じゃあ、フォウルはどうなんだ?


「お前は?」

「アトラの薬代が払えなくて借金を背負った」

「……俺の所へ請求が来そうだな」


 金額によっては売るか?

 いや、薬代もあるしなぁ。こいつには俺から借金があるようなものだ。


「前に持ち主だった奴からアンタに贈与された時に一応、無くなった」

「そうか、それは良かった」


 あの奴隷商ズ。その辺りはサービスしてくれたのか。


「元々戦って働いて……借金が無くなってからじゃないと薬は買えなかったから」

「そうか……」

「アトラはもっと普通の生活が出来る筈だったんだ。病さえ患わなければ」

「お前どんな家庭環境だった訳?」

「さあ……? 祖父さんが凄かったくらいしか知らない。親も俺が小さな頃に戦争で死んだし、でも裕福だったとは思う。手伝いや色々としてくれる人はいた」

「部下が着服とかは?」

「んな奴いなかった。金が払えなくて家財を分け与えて別れを切りだしたんだ」


 薬代で没落か……。

 忠誠心ある部下まで居たとか、どんな貴族だった訳?


「何処に住んでたんだ?」

「なんでそんな事まで話さないといけないんだ」

「ま、そうだよな」


 こう言う主人公っぽい奴の家庭環境が気になるとか、どうでも良い物に意識を取られた。


「じゃあ知った仲なんだな、それなら話は早いな」

「まあ、そうだけど……まさか鍛冶の奉公先がお前だったとはな」

「俺も驚きだぜ。アンちゃんの頼みで弟子を取る事になったけど、まあ相手としては楽だから良いんじゃないか」

「懐かしいな。昔を思い出す」

「宿泊費込みで、どれだけの金を払えば良い?」

「住みこみなんだろ? コキ使って良いならいらねえよ」

「気前が良くて助かる」

「おい……死ぬまで重労働とかはやめてくれよ」

「アンちゃんの所で奴隷やっているお前が何言ってんだ。お前が居れば鉱山での採取も安く行かせられる」


 若干補正があるから。普通の亜人よりは頑丈になっているだろうなぁ。

 親父も教える時はスパルタなのか?

 というかよくよく考えてみるとイミアの叔父ってキセルとか葉巻が似合いそうなのに吸ってないんだよな。

 オーバーオールを着てて田舎くさい。

 どうでも良いか。


「昔やったのと同じ程度の仕事をさせるくらいだ」

「死ぬぞ、それ」

「ハッハッハ、案外大丈夫なもんだ」


 などと親父はイミアの叔父と雑談をしながら仕事を始めていた。

 これなら大丈夫そうだな。


「じゃあ俺たちは用事があるから」

「ああ、店の仕事を徹底的に叩きこむぜ」

「親父が俺の領地に来るか、こいつに技術を叩きこむかは教えてほしいが?」


 店番をさせる程度の腕前か、それとも親父に匹敵する腕前かによっては村の方で武器防具を作って貰う事になる。


「あんまり考えてねえな。とりあえず、どれだけの腕前かを見なきゃな」

「殆どやってねえよ。金物業を多少続けていた程度だ」

「謙虚な態度な事で、お前の金づちを振るう腕前がどの程度か見させてもらう」

「楽しみにしてろ」


 なんか昔からの友人が再会したような空気がある。悪くはないな。


「じゃあ、何かあったらまた顔を出す。俺に用事があったら村の方か、城に連絡してくれれば良い」

「わかったぜアンちゃん」

「頑張って仕事を覚えます。盾の勇者様」


 こうして俺たちは武器屋を後にした。


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