シンガポール、マスク着用を義務化 ソーシャルディスタンス違反1回目で罰金も 新型コロナ巡り強まる管理

公園もついに閉鎖(著者撮影)

増える閉鎖場所と罰則

新型コロナウイルスを巡り、各国で外出などの自粛が続いています。シンガポールでも4月3日にソフトなロックダウンと言われるサーキットブレーカーが発表されたのですが、発動後の1週間で急速にその締め付けが厳しくなりました。

3日(金)夕方にサーキットブレーカーを発表し、7日(火)から職場閉鎖、8日(水)から公立学校等がオンライン授業への切り替えとなりました。当初外出自粛に強制力はありませんでしたが即法案化し、ソーシャルディスタンスを保たない、同居家族以外と集まるなどの命令に背いた場合に罰金や禁固刑を適用することもあると政府が発信しました。

その後、しばらくは空いていた公園も人が集まっていることが確認されたためか、次々と閉鎖され、それでも守らない人が多いということで10日(金)には1回目は警告して名前を控え、2回目から300シンガポールドル(2万4000円程度)の罰金、3回目からは裁判所出頭というルールが定められ、警察官等による見回りが強化されました。

歯医者があるサマセットのショッピングモール、ほとんど人がいない(著者撮影)
歯医者があるサマセットのショッピングモール、ほとんど人がいない(著者撮影)

私は、急ぎの虫歯の診察(ただの定期健診やクリーニングは禁止で、痛み等があることを確認されたうえ)で都心部にでかけたのですが、普段観光客などであふれるエリアはひとけがなく、さながらゴーストタウンでした。

ただ、郊外に住む人に話を聞くと、郊外の公園では、別の娯楽ができなくなったからか自宅付近では運動が満足にできないからと遠出をしてきたのか、普段以上に人出が増えていたようです。11日(土)には1回目の警告を受けた人が3000人規模で発生したため、翌日からは1回目で300Sドルの罰金が取られることになりました。

外国人にとってはこのような罰則はさらに厳しく適用され、ビザの剥奪、永久入国禁止になったという事例もあるので、もはやいたずらに外に出かけるのは恐怖です。

布マスク配布し、着用義務化

シンガポール政府が1人1枚配布した布マスク(著者撮影)
シンガポール政府が1人1枚配布した布マスク(著者撮影)

また、シンガポールはサーキットブレーカー発動と同時に、当初1月末に「具合の悪い人以外はマスクをしないで」としていたマスクの着用方針を転換。1人1枚布マスクを配布することを発表していました(近くのコミュニティセンターなどに受け取りに行く形式)。

その配布期間の最終日であった12日(日)から、マスクをしていない場合スーパーなどが入店拒否できるようになり、バスや電車等の公共交通機関はマスクなしで利用できなくなりました。これも現在は「自宅の外に出るときは常にマスク着用が義務」と強化されています。

今後これらの厳しい状況がどれくらいで解除されていくかどうかは、シンガポールにいる人たちが期間中、政府の言うことを守れるかどうかにかかっていると言えるかもしれません。日本はこのような締め付けをする必要がなくても済むようぜひ自主的に外出自粛を守ってほしいです。

ただし、日本が学ぶべき点もあり、シンガポールは補償面はきちんとしています。選挙前ということもあるかもしれませんが、21歳以上の市民には600Sドル(4万5000円程度)を一律配布し、子どものいる家庭や低所得層にはさらに手厚い支給もあります。また休業等に関わらず雇用調整助成金で全業種で働き手の給与の75%をカバーするとしています(上限あり)。

トレースも隔離も徹底

現在シンガポールでは南アジア系の人たちを中心とする外国人労働者の寮で大規模な集団感染が起こっています。シンガポールが建設や清掃などの低賃金労働を外国人に依存し、決して良いとは言えない住環境しか提供してこなかったツケともいえるかもしれません。現在こうした寮にいる健康な人たちについては、軍の施設や展示場、水上ホテルなどに移して、食事などを届けるといいます。

Trace Togetherをインストール後、保健省が使う画面(著者撮影)
Trace Togetherをインストール後、保健省が使う画面(著者撮影)

ただ、どこでどれくらいの感染が発生しているか日々政府が公開し、感染経路の特定と隔離政策は徹底的にやっていて安心感はあります。

接触歴については日本でも導入が検討されている接触者を記録するアプリ「Trace Together」が早期にリリースされ、政府がインストールを呼び掛けていました。感染者が見つかると数週間前までさかのぼり、アプリの履歴から接触者に連絡をしているようです。

直接感染拡大地域に渡航した人や、陽性が判明した人の濃厚接触者は2週間QO(Quarantine Order)と呼ばれる隔離になりますが、外国人でも該当者がかなりの人数で発生し、複数の経験者に話を聞くことができました。QOに該当すると、まず自宅に保健省の職員が訪れてきます。

3月中旬に感染が拡大してきた時期にQOを受けた人たちの話によると、夜中の12時半から遅い人は12時半に電話がかかってきて「午前2時半ごろ行く」と言われ、実際そのようになったというケースもあったそうです。訪問すべき家庭が多くなってきて、職員の数が追い付いていなかったのかもしれません。

そのうえで、自宅の中に適切に家族と隔離できる空間があるかを確認されます。具体的には、本人専用の個室とトイレを作れるかどうかで、これができない間取りの場合は政府の用意した施設での隔離となるようです。子どもがQOに該当した場合は、誰か一人を「ケアする人」に指定し、その人のみがマスクをして個室に入ることができるが、本人もケアする人も家から出てはいけないと言われたそうです。食料品などの調達については他の家族や一人暮らしなどの場合は雇用主がサポートをするように言われます。

そして極めつけが、1日1回程度、ビデオ付きの電話がかかってきて、これに応じないといけないとのこと。14日間の隔離で毎日健康状態などを聞かれ、きちんと守っているかを確認されます。電話に出損ねてもかけなおせば大丈夫だったという証言はありましたが、経験者からは、期間中は電話がいつかかって来るかわからないのが一番ストレスだったという声が複数ありました。

個人事業主にも支給、高級ホテルでの隔離も

とはいえ、このような厳しい隔離環境で人権を侵害される感覚かと言うと、経験者からは「職員の対応はプロフェッショナルで、子どものことは起こさないようにするなど配慮をしてくれた」と政府への信頼感を語るコメントも聞くことができました。きちんと健康状態を管理することで自分が感染していたら…という不安の払拭にもつながった面もあるでしょう。

さらに、QOになった場合はシンガポール企業の雇用者には雇用主を通じて、市民・永住権保有者の個人事業主には直接、一日100Sドル(8000円程度)が支給されるという施策つきです。

一時、英米からの帰国者が自宅に戻ったために家族を通じて感染が拡大したことを受け、シャングリラホテルなどの高級ホテルが無症状帰国者の隔離先に指定されたとの報道もありました(経済対策もあったと思われ、ホテル側には隔離先に名乗りをあげるかどうかは選ぶことができたようです)。

シンガポールから日本が学べること

電車内は座席、立ち位置が指定されている(著者撮影)
電車内は座席、立ち位置が指定されている(著者撮影)

第二波の感染拡大を防げなかった点で、シンガポールのCOVID-19対策が効果的であったとは言い切れません。また今回シンガポールの管理国家の強権ぶりも感じました。とはいえ政策は省庁横断で考えられており、効果がないと判断すれば取り下げ次の政策を出すという臨機応変さもあります。政府の発信はおおむね合理的と感じられます。

感染症対策のときには、不安がさらなる混乱を招いたり、差別が横行しやすい環境になり、それを払拭していくには信頼性のある情報がきちんと国民に届くことが非常に重要だと今回痛感しています。個々の政策については、国の状況や特性によっても異なり、一概に比較をできるものではないと思います。しかし、政府が何か政策を出すときには、その副作用として発生する事態にも対応した総合政策を出してもらい、透明性の高い発信をしてほしいです。

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