挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
162/982

フィロリアルとドラゴン

 女騎士に連れられて俺は奴隷共を置いて村の倉庫の方へやってきた。

 するとラトが不機嫌そうに腕を組み、谷子が目を輝かせて待っていた。


「どう言う状況だ?」

「いやな、まずは倉庫の中を見てくれ、一応整頓しておいた」


 俺は倉庫の扉を開いて中を確認する。

 中には……色々な武具と物資、そして魔物の卵がある。

 あれ? この倉庫には何も置いてなかったはずなんだが。


「なんだ? 預けていた金で勝手に物を買ったのか?」

「違う。これはイワタニ殿宛てで村の近くに放置してあった箱から出てきた物だ」

「何?」


 俺は倉庫の中にある蓋が開いている木箱を見る。

 何やら凄くへたくそな文字で『盾の勇者様へ、恵まれない奴隷たちにプレゼントしてください』と、でかでかと書かれている。


「なんだこれ?」

「一応、寄付の物資という事なのだろうな。武具の方はそれなりに高価な物が混じっている。物資も珍しい薬草や鉱石、材木がかなりある」

「で、ラトとこいつがいる理由が卵か……一体誰だ? こんな真似をしたのは」

「……女王にも報告し、返答を聞いた所によると、おそらくシルトヴェルトやシルドフリーデンの連中だろうとの話だ。文字の癖やインクの質から間違いない」

「受け取って良いのか?」

「身元を特定する方法が無い物ばかりだ。念には念を入れて銘まで潰されているし、仮に犯人を見つけても処罰するのが難しい」


 これはあれだな。あっちでの地位向上に寄付をしたという名目が欲しいのだろう。

 誰が、と特定する必要は無い。寄付をしたというイメージだけで遠い国にいる勇者に力を貸したと言う空気を出したいのだ。

 昔、とある漫画の神様のワガママで苛立った編集が、神様の息子のいたずらに腹を立てて庭の池に投げ落としたという話がある。

 その後、どの編集も自分がやったと言い張り、自慢話になったとか。

 真実は不明だけど、それに近い現象である可能性は高い。

 誰が寄付したかは良いのだ。自分は盾の勇者に援助した足長おじさんであると言い張れる状況が欲しいという所だろう。


「面倒な物を送りつけられたものだ」

「そうだな、で、卵の方はなんなんだ?」

「ウサピルからキワモノまで色々と送られてきているわね」


 既に鑑定済みか。

 それにしてはラトの態度がおかしい。凄く不機嫌だ。


「で、問題なのはあの一番奥のでかい奴」


 倉庫の奥に一回り大きな卵がある。

 なんだろうか? 霊亀クラスの怪獣の卵とかか? 


「なんだ?」

「飛竜の卵よ。ご丁寧に高くて強くて珍しい奴」


 なんとまあ。貰って困る品を送りつけられたものだな。

 ああ、ラトはドラゴンが嫌いだったっけ。


「ドラゴンがこの村に居るって素敵!」


 谷子が目を輝かせている。

 なんだこいつ。ラトとは逆にドラゴンが好きなのか。


「どうするの? 身元が不明だけど持ち主に返す?」

「そうは言ってもなぁ……寄付で困るとか思わなかった」


 高い物を送ってこられるとこう言う時に困る。下手に使って足場固めされると、変に付け入れられかねない。

 だが、返すのも無理となると、素直に受け取るしかあるまい。

 それでこっちに何か被害を出すようなら、大々的に反撃すれば良い。

 幸い、犯人はシルトヴェルトである可能性が高い訳だし、神である盾の勇者の言葉はまさしく鶴の一声だろう。


「とりあえず受け取っておこう。文句を言われてもシラを切る。所で飛竜は魔物紋の登録とかどうなんだ?」

「高度魔物紋を施す必要があるわね。ご丁寧に儀式用の道具まで置いてある始末だし……伯爵が望むのならしょうがないか……」

「なあ、なんでそんなにドラゴンを嫌うんだ?」

「ああ、伯爵には話してなかったかしら、私がドラゴンを嫌う理由」


 俺が頷くとラトは谷子を睨みながらイヤそうに話しだした。


「上位のドラゴンってね。一度発情すると節操がないのよ」

「はい?」

「知らないの? 多くのドラゴンが生息する地域は汚染地域よ。色々な意味で危ないから」

「そうなのか?」


 俺の知るドラゴンが生息していた地域って……錬が倒した東の村だけだったし。

 あそこはドラゴンの死体が病原菌をバラまいていたな。

 汚染地域といえば納得がいく。


「ドラゴンはね。節操が無いの、別種の魔物を平然と犯すのよ。だからその地域は簡単にドラゴンが混ざった生物が増えるのよ」

「結構、やばそうな話だな」


 ファンタジーのゲームとかだとドラゴンハーフとかドラゴンが混ざった亜種とか出てくるけど、実際はこんな物なのか?


「まあ、縄張りがあってそこからは出てこないけど、生態系が簡単に狂うから私は嫌い。飛竜もぶっちゃけ、弱い魔物との混血だし」


 ふむ……そう言う物か。


「厄介なのは、純血種ね。あれはホント種族選ばないし、人間だって犯そうとするのよ」


 厄介な生物だな。

 ん? 谷子がムッとなってる。


「品はあるもん!」


 何故お前が語る。さも関係者みたいな言い方だな。

 というかコイツ、魔物関連になるとうるさいな。

 いつのまにか魔物舎の管理をラトとやっているし。


「亜人種には既に種として確立しちゃったのもいるのよ、ドラゴニュートって言う」


 聞いた事はあるな。竜人種か。


「ま、純血種は発情しなきゃ品もあるし大人しいけどね。暴れると一番強いけど。ドラゴンの節操が無いのを拒めるのなんてフィロリアルくらいなモノよ」

「そうなのか?」

「ええ、フィロリアルはドラゴンと縄張り争いするのよ」


 へー……っとフィーロを思い浮かべる。

 あの食欲魔鳥ってそんな高貴な種族には見えないんだがなぁ。


「で、あの卵はそのドラゴンだから嫌いだと?」

「まあね。ドラゴン用の高度魔物紋には繁殖行為を抑制する命令があるから絶対にチェックを入れておきなさいよ。じゃなきゃ発情したらこの村の魔物は汚染されるわ」


 なんだかなぁ。

 狩人なゲームで夫婦のドラゴンを狩りまくった俺からすると、そこまで繁殖する生態を持っていて、なんで人間や亜人を滅ぼせないのか不思議だ。


「そんな真似は竜帝様が許さないもん!」


 谷子が怒鳴る。

 なんだよソレ、ぶっそうな名前だな。

 というか、なんでコイツは魔物の事に詳しいんだ?

 そういう生まれなのか? どうでもいいけど。


「はいはい。伝承の竜の王様ね。フィロリアルの女王と争ったって話の」

「そんな話があるのか」

「あくまで伝説よ。まあ、どっちも実在が怪しまれるけど」


 ……やべぇ。片方に会ったことがあるわ。

 話したら面倒そうだから黙っておこう。

 つまり、伝承にはドラゴンが人間や亜人の生活圏を脅かすとフィロリアルの女王がドラゴンを殺しに来るとかそんな話があるのだろう。

 もしくはフィロリアルとドラゴンは長年、争っている関係とかそんな所か。

 だから保護団体があるのか?


「しかし……そんな生態を持っているのに俺は殆ど会ったことが無いな」

「人の入らない辺境よ、基本的に。伯爵は行った事あるの?」


 俺が行った事があるのは行商用の道だけ……そういや山とか洞窟とか殆ど入った事無いや。

 道理で……。


「なるほど」

「まあ、縄張りがあるし、拡張して行かないから狙って行かないと会えないわね」

「そうか。まあ、使えるのなら、使う主義だから一応、孵化して育てるか」

「ちゃんと厳重に管理してよ? ドラゴンのハーレムを私は作りたくないから」

「はいはい」


 まあ、高度魔物紋なら管理できるみたいだし、問題があったら、フィーロの餌にでもすれば良いか。

 俺の態度を見抜いたのか谷子がムッとなってる。


「孵化するドラゴンに股を開くなよ」

「ひ、開かないもん!」


 意味分かって言っているのか?


「卑猥な話はやめなさい」


 ラトがため息交じりに言った。

 女騎士は……呆れかえっている。知らんがな。


「飛竜の育成とは大変なんだな。竜騎士の苦労が知れるな」

「ああ、霊亀の時にもいたな。そう言う連中」


 想像よりも頼りにならなかった覚えがある。

 霊亀の使い魔の攻撃を受けて悲鳴を上げながら墜落していた光景が思い出される。


「落下の危険があるからな。それに飛竜はそこまで強くない」

「そうか、じゃあ管理も簡単だな」

「伯爵が育てるとどうなるか分からないわよ。フィロリアルの例もあるし」

「む……そうだな気を付けよう」


 こうして、飛竜の卵を孵化させることになった。

 とはいえ、儀式が終わってから少し、孵化まで時間が掛るそうだ。仕上げは俺がしなくてはいけないらしい。

 ラトが不機嫌そうに仕事をしてくれている。

 そうそう、バイオプラントの試作が進み、薬草の生産が出来るようになった。まだ何処でも生えている薬草しか作れないが、研究の足がかりを掴めてきている。



「なんで卵を俺が背負わねばならない!」


 なぜか飛竜の卵を俺が背負って温める事になった。

 キールなんて俺を指差して爆笑しやがった。


「そうしないと親の登録が出来ないの。こういう下地を放置すると命令無視をよくするようになるから我慢して!」


 ラトがうんざりした口調で答える。

 飛竜とはこんなにも面倒なのか? 速攻で破棄したくなるぞ。


「そういうものなのか?」

「ええ! 研究者の私が言うんだから信じなさい」

「お前が言うから信じられないのだが……」

「なんですって?」

「はいはい。わかったよ」


 ああもう、面倒くさい。


「アハハハハハハハハハ! ナオフミ、何それー」


 何処からともなく現れたフィーロに乗ったメルティが爆笑して俺を指差す。


「うるせえ、第二王女!」

「第二王女って呼ばないって約束したでしょ!」

「なら笑うな馬鹿!」

「馬鹿!? わたしを馬鹿ですって!?」


 そうだ。フィーロと遊んで目的を忘れる子供だからな。


「あのー……凄い格好ですねナオフミ様」


 ラフタリアが言葉に困っている。変な同情が余計に痛い。


「くそ……さっさと行商に行くぞ! 今回はラフタリアとフィーロだけだ」


 こんな状況を村の連中全員に見せていられるか。村に居たら飯を作ってくれとか五月蠅いし、出かけるしかない。


「逃げるのよねー!」

「うっせー!」


 メルティが非常にうざい。


「ま、二、三日背負ってなさいな。そうすれば孵化するから」

「くっそ」

「私は隣の町で色々と指示しておくから安心しておきなさいよー。どうせ中途半端なんでしょ?」

「ちっ!」


 メルティの気の使い方にイラっとしてくるが図星だ。

 こんな格好を町の連中にだって見せていられない。そりゃあ飛竜の卵を孵化させるとか思われたってイメージがあるだろ。

 とりあえず……基本は馬車に隠れておこう。


「ごしゅじんさま、卵を抱えてるの?」

「そうだ。飛竜らしいからこうしないとダメらしい」

「へー……フィーロが温めちゃダメ?」


 そういやフィーロは鳥だから体温高いんだよな。

 この際、フィーロに預けるか?


「ダメよ」

「やー!」


 ラトが注意するなりフィーロが一目散に逃げ出す。

 そんなにも苦手か。


「さっきも言ったけどフィロリアルとドラゴンは相性が悪いの、絶対に温めさせちゃダメ」

「……しょうが無いなぁ」


 面倒事を押し付けるには良いかと思ったのだが……。

 この際、ラフタリアにでも預けさせて――。


「伯爵のドラゴンなんでしょ? 人に任せない」

「チッ!」


 なんでこう考えを読まれるかね。

 しょうがない。さっさと馬車に乗って旅立つしかあるまい。

 こうして帰ってきて早々、俺は逃げる形で行商に出るのだった。



 一応、マントを羽織って背中の格好悪い卵を隠し、馬車での旅を続ける。


「久しぶりですね。私達だけで行商だなんて」

「そういやそうだな」


 なんだかんだでラフタリアとフィーロだけで行商に出るのはずいぶん昔のように感じる。

 最近はキールや村の奴隷共も一緒だし、霊亀の前は逃げ回っていた。それを考えるとずいぶんと昔なんだな。


「飛竜ですか、どんな子になるんでしょうね」

「さあな」

「馬車はフィーロが引くの」

「そりゃあそうだろ」


 どうもフィーロは変なプライドがあるな。飛竜なんだから馬車なんて引けないだろ。


「ごしゅじんさまの足はフィーロがするのー!」

「どうだかな」


 空を飛べるって言うのはそれだけで有利だ。地面を走る事しかできないフィーロに比べて、優秀なら扱うまでだ。

 とはいえ、乗れる人数にもよる。

 一人しか乗れないとかだと急いで俺だけ出かける時とかしか使い道は無い。

 その辺りもラトに聞いておけばよかったな。


「むー……」

「ほら、フィーロ。前を向いて歩いてください」

「でもごしゅじんさまがー」

「大丈夫ですよ。フィーロが頑張ればナオフミ様もフィーロを頼ってくれますから」

「……ホント?」

「どうだかな」

「ナオフミ様は黙っててください」


 おっと、フィーロをからかうのも程々にしておくか。

 こりゃあ上手くいけばフィーロの当て馬にも出来るかもしれない。

 こいつ、自分の足に自信があるのか、ちょっと自惚れ気味だし。


「フィーロがんばる!」

「そうですよ。頑張りましょうね」

「うん」

「さて、俺は行商用の薬でも作っておくかな」


 他にも奴隷共の仕事の割りつけを考えておかないと行けないし。

 と……行商の旅一日目は問題なく終わった。


  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。