シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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遅れた分いつもの約二倍


『ファン一号となった幼馴染』

「ふわぁ~」

「ふぁ……」

 

 陽光が降り注ぐ帝都の朝。

石畳の通学路をいつものように幼馴染と肩を並べて歩きながら、ジエットは片手で口を覆い欠伸を一つ漏らす。目に浮かんだ涙をぬぐい、隣で同じように欠伸をした幼馴染に目を向ける。

 

「寝不足か?」

「う、うん。ジエットも?」

「まぁ……そうだな」

 

 帝国四騎士バジウッドと話した後、昨日は結局夜遅くまで頭を悩ませる事となった。

だが一晩考えてもいい案は全く思いつかない。鮮血帝ジルクニフ、そしてシャルティア・ブラッドフォールン。この二人に頭を下げて、なんとか条件の緩和を願い出るのが現実的ではあるが――

 

「なにか心配事?」

「えッ? いや、ちょっと……」

 

 歩きながらこちらを覗き込むように問いかける幼馴染。

その一言に思わず挙動不審になりそうになり、慌てて表情を取り繕う。あてずっぽうか、はたまた幼馴染故の察しの良さなのかはわからない。同じ班という意味ではネメルも巻き込まれているとも言えるが、相手が相手だけに素直に話してもどうなるというのか。

 

 結局口から漏れ出たのは誤魔化しの言葉だった。

 

「夢見が悪くてさ。そ、それよりもネメルは?」

「あ! あのね、昨日あの後シャルティア様に手紙読んでもらえたの!!」

「あぁ……そういえば一緒に――」

 

 嬉しそうな表情で告げられた言葉に、昨晩の件ですっかり忘れていた事を思い出す。

ネメルがフリアーネと共に、シャルティアのための学院の案内をしていたことを。

 

「だ、大丈夫だったのか……?」

「うん。シャルティア様すっごく優しくって、逆にありがとうって言われちゃった」

 

 まるで飛び上がらんばかりに興奮するネメル。

彼女に尻尾でもあれば激しく振り回し、その背中に翼でもあれば羽が周囲に舞う程に羽ばたかせていただろう。久しぶりに見る喜びの感情に満ちた幼馴染の表情に、なぜだか少しだけチクリとしたものを感じた。

 

「シャルティア様って凄いよね! 私達と同じくらいなのにキラキラしてて綺麗で、凄い地位にいるのにあんなに優しくて。胸もおっきいし」

「……そ、そうだな」

「だからね! 昨日は帰ってもちょっと眠れなくって――」

 

 興奮のせいか年頃の女として微妙な言葉を口走る幼馴染。

その勢いに押されるように思わず頷いてしまうが、ジエットとしてもほぼ同意できる内容だ。ジエットが今抱える悩みのほぼ半分を占める人物というのが大いに引っかかるが。

 

 幼い女の子が絵本に登場するお姫様に憧れるように、次から次へと昨日のシャルティアに対する憧れと羨望を口にするネメル。睡眠不足も相まって辟易した気持ちで適当に頷くジエット。周りの通行人が何人か不思議そうな顔で二人を見るが、気にせず学院への道を歩く。

 

「――それでね! 最後にまた皇帝陛下がいらしてね、食堂でお話をされていた屋敷を見に行かれたと思うの」

 

 皇帝――その言葉にビクリと心が震えてしまう。

だが、それを一瞬でも表に出すことなく感情に蓋をして相槌を打つ。

 

「そ、そうか……お前は大丈夫だったのか?」

「うん。フリ姉さんが事前に教えてくれて、私は先にお別れの挨拶をして離れていたから」

 

 その言葉に僅かに安堵の息が漏れる。

ジエットが事前にお願いした通り、フリアーネはネメルのフォローをしてくれたようだ。他にも案内の最中など、ネメルが気づいていないところで色々動いてくれたのかもしれない。

 

(今日お礼言っとかないとな、代わりに生徒会の雑務を手伝わされるかもしれないけど……)

 

 昨晩の件といい、今後彼女には色々相談することになるかもしれない。

大貴族グシモンド家の令嬢でありながらジエット達を気にかけてくれる彼女なら、昨晩のバジウッドとの会話内容を話せば何かヒントやアドバイスをくれる可能性はある。だがそれには一つだけ懸念材料があった。

 それは昨日、シャルティアの学院案内を皇帝から頼まれたと言っていた事。どのようにして頼まれたのか、フリアーネ自身がその要請にどんな気持ちで応えたのかはわからない。だが当然ながら公爵家である彼女の家は皇帝との繋がりがある。つまりジエットがフリアーネに相談した内容は、そっくりそのまま皇帝の耳に入ってしまう可能性もありえる。それを僅かでもあの皇帝が――多くの貴族から鮮血帝と恐れられる存在が不快に思えばどうなるか。そんな危ない橋を渡る度胸があるかと問われれば、ジエットは力なく首を振るしかない。

 

(はぁ……でもまだ時間はある。なんとかしないと……)

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「騎士が……」

「いっぱいだね」

 

 いつもとほぼ同じ時刻に着いた魔法学院正門前。

昨日と同じように騎士が大勢学院内を巡回しているのかと身構えていたが、全身鎧を着こんだ騎士達が門の前にズラリと整列していた。生徒の通行の邪魔にならないように並び、彫像のように静止した多数の騎士達。ジエット達と同じように登校したばかりの生徒が驚き、そしてどこか納得したような顔をするとおどおどした動きで騎士の整列した道を通り正門を潜っていく。

 

(昨日は正門まで出てきてはいなかったけど、どう考えてもあの人絡みだよな……)

 

 通っていく生徒達も、そしてジエットの脳内に浮かんだ女生徒もただ一人。

学院全体を震撼させた昨日の食堂での出来事を知らない生徒はほぼいないはずだ。

 

「ん? 昨日の騎士とは違う……?」

「え?」

「ほら、紋様が」

 

 帝国騎士のシンボルでもある鎧、その各所につけられた紋様は昨日巡回していた騎士達とは違うものだった。他にも鎧や兜の装飾に細かい違いがあり、貴族社会に生きる者なら一目で見破ったかもしれない。

 

(あれって確か……学院長先生の、だよな)

 

 式典や学院のイベントで何度か目にした記憶がある物。

この学院の最高責任者である学長が身に着けていた貴族家の紋様そのものだった。

 

(ってことは並んでる騎士達は学院長の? なんで学院に?)

 

 帝国騎士団の影に隠れがちだが、帝国貴族も自領の警護などのために騎士団を持っている。

ただ、やはり皇帝直轄の騎士達とは数も質も大きく劣るため、騎士団というか私兵に近い。その軍事力の差を背景とし皇族が貴族に睨みを利かせている、らしい。少なくとも平民にはそう理解している者が多い。

 

「あ、フリ姉さん」

「え? 何処だ?」

「あそこ、学院長先生もいるよ」

 

 ネメルの指し示す方向は門と校舎の間、登校する生徒達の流れから少しだけ離れた場所。

やや長い顎鬚の老人と見知った生徒会長、学院内のトップツーと言ってもいい二人が向かい合って居る様子が見えた。何か言葉を交わす二人は遠目に見て普段通り、穏やかに笑顔を交わしているように見える。やがて話は済んだのか、フリアーネが貴族の礼式で頭を下げると踵を返して校舎内に入って行く。それを見送った学院長は配下の騎士と思われる全身鎧(フル・プレート)の男から何やら報告を受けている。

 

「……とりあえず俺達も中に入るか」

「う、うん」

 

 道の真ん中で二人ポツンと立っていても通行の邪魔になるだけだ。

昨日である意味慣れてしまった騎士の姿。他の生徒達と同じように正門へ向かい、いつもはいない騎士達の列を通り抜ける。

 

「おい、あの眼帯……」

「昨日の平民だ」

 

 その際、校舎の出入り口近くにいた生徒の集団から妙な視線を受けたが、特に気にせず校舎へ入ろうとして――

 

「おや、ひょっとして君がジエット・テスタニア君かな? それと確か……ネメル・エネックス・リリエル・グラン君、だったかな?」

 

 唐突にその場にいた老人の――騎士と何か話していたハズの学院長の首がグルリと回り、その声がジエット達二人に掛けられた。

 

「え? あ……そ、そうですが……」

「おぉ、やはりそうか。報告で聞いていたのだがね、おはよう二人とも」

「おッ! おはようございます!」

「お……おはようございます」

 

 慌てて頭を下げるネメル。ジエットも不作法にならないようにその隣で同じように頭を下げた。

その胸中で湧いた疑問は至極当たり前のモノ。

 

(な、なんで俺とネメルの名前を?)

 

 当然ながらジエットが直接魔法学院の頂点に立つ人物に声を掛けられた事など、今この瞬間が人生で初めてとなる。入学の際や学院の行事などで生徒全員を相手に長い話を聞かされることはあったが、直接対面して挨拶をされたことなどない。隣に立つネメルも同じはずだ。

 

 ジエットだけの場合は眼帯を付けた生徒、という事で納得はできる。

だがネメルもとなるとそうはいかない。学院長が数百人にも上る生徒の顔と名前をすべて覚えているとも思えない。思い当たる可能性はただひとつ――

 

(き、昨日の昼食か! 皇帝陛下か、それともシャルティア様と何か……?)

 

 昨日の食堂の件で叱責を受けるのではないか?

仮にネメルにも及ぶのであれば庇いきれるか? 一瞬警戒を浮かべたジエットだったが、それは相手の次の言葉で霧散する。

 

「いや、急に声をかけて驚かせてしまったかな? 特に用という訳でもないのだが、二人ともシャルティア・ブラッドフォールン・アイ――ゴホンッ……様と昨日親しくされていた生徒と聞いていてね」

 

 老人特有の深い皺を穏やかなものに変化させ、朗らかな笑みを浮かべる学院長。

 

「二人とも、昨日は生徒会長であるグシモンドさんと共にブラッドフォールン様を立派に持て成してくれたそうじゃないか。さらには陛下とも……私は歳のせいか体調が優れなくてね、一生徒でありながらその穴を埋めてくれた君たちにはお礼を述べたいと思っていたのだよ」

「い、いえ、そんな恐縮です」

「も、勿体ないお言葉です」

 

 白い髭と眉を動かしながらお礼を口にする学院長に揃って頭を下げる。

同時に心の底から安堵の息を漏らし、地面を見ながら小さく息を吐きだした。

 

(良かった……てっきり何か問題があったのかと思った)

 

 ジエットが退学と言うならまだいいが、ネメルまで何かの不始末から責任を負わされては困る。

視察を終えた皇帝が『学院の生徒に悪いイメージを持った』などという報告が学院長の耳に届けば、あの食堂で直接言葉を交わしたジエット達が原因と思われる可能性は高い。

 

「いやいや、お礼を言ってるのは私なのだから、そんな畏まらなくても構わない。それより時間もまだあるようだし、よければ昨日の様子を少しだけ聞かせてもらっていいかな?」

 

 もちろんジエット達に断るという選択肢はない。

頭を上げると、先ほどの笑顔と変わらない穏やかな雰囲気のまま質問を投げかけてくる学院長がいた。まるで世間話のような気軽さだったが、隣に立つネメルの緊張感をヒシヒシと感じてしまう。それをカバーする――という訳ではなく、必然的にジエットが学院長の質問に答えていく。なにせ彼女の隣の席はジエットなのだから。

 

 朝の挨拶、授業の様子、食堂での出来事など、昨日のやり取りについて質問に答えていく。

勿論ジエットに緊張感がないと言われればそれは嘘だ。というよりも、目の前の学院長より昨日の事を思い出すだけで若干の冷や汗が流れる。我ながら危険な橋を渡ったと、そして多分昨日で終わりではない事に対する不安で。

 

「学院長、そろそろお越しになられるそうですが……」

「おぉそうか。二人ともすまないが、私はこれからブラッドフォールン様をお迎えしなくてはならないのでね、失礼させてもらおう。今の話は大変参考になったよ、感謝する」

 

 彼の配下と思われる騎士が静かに告げると、学院長はいそいそと門前まで子供のように駆けだして行ってしまった。ジエットは心労からホッと息を吐き出し、それを見送りながら周囲に目を走らせる。

 

(あぁ……なるほど、みんなシャルティア様が目当てなのか……)

 

 学院長に話しかけられる前に妙な視線を送って来た生徒達、その中には学院の中でも指折りの身分を持つ男子生徒達が何人も紛れていた。そしてほぼ全員が学院長と話していた間も、ジエットの方へチラチラと視線を向けてきていた。

 

(俺は邪魔者ってことだよな。いや、むしろ席を代わって欲しいくらいなんだけど)

 

 うぬぼれでも何でもないが、ジエットの知る限り皇帝やフールーダ・パラダインを除けば昨日シャルティアと話していた男はほぼジエットだけのはずだ。そんな彼女と――どんな思惑かはわからないが――繋がりを持ちたい生徒にとって彼女と接点のある平民など邪魔以外の何物でもないのだろう。

 ジエットとしても彼らの邪魔などする気はない。むしろ彼らの中からシャルティア自身が興味を持つ貴族が出てくれば、相対的にジエットと話す時間も減っていく。そう考えると、むしろ彼らを応援すらしたい気分だった。仮にそうなっても、鮮血帝が実技試験での依頼を無かったことにしてくれるのか? という不安が途端に湧き出してしまうが。

 

(そういえばランゴバルトはいないな……)

 

 彼らの中には学院内でも指折りの地位にいる生徒が混じっていたが、ある意味でジエットの印象に強く残っている貴族、ランゴバルト・エック・ワライア・ロベルバドの姿は無かった。人柄は決して褒められたものではないが、魔法の実力も家柄もここにいる彼らの中ではむしろ上位の存在のハズだ。率先して繋がりを求めるのならば、彼がここにいてもおかしくはないのだが――

 

(まぁどうでもいいか)

 

 シャルティアと初めて会ったネメルが襲われていた現場、その犯人達をけしかけたのは他でもないランゴバルトだ。ひょっとするとその件で皇帝の怒りを買い、貴族として失墜して家で日陰者となっているか、最悪追い出された可能性もある。だが、仮にそうなっていたとしてもジエットは同情しない。ネメルに遊び半分のゲスな感情を向け、その結果自ら穴に落ちてしまった馬鹿な男という感情しか残っていなかった。

 

「ねぇねぇジエット」

 

 無為な事を考えていたジエットをネメルの声が現実に引き戻す。

顔を向ければ登校途中にシャルティアの事を崇拝するように語りだしていた時と同じ顔があった。その幼馴染の顔から次に発せられる言葉を容易に理解したジエットは、間髪入れずに言葉を返す。

 

「シャルティア様を待つっていうなら、駄目だぞ」

「え!? な、なんで?」

「いや、ほら……どう見ても俺達邪魔者扱いだろ」

 

 小声のままジエットがチラリと視線を投げかけた方向には、シャルティアの到着を今か今かと待つ生徒達。

その彼らが放つ敵対的とまでは言わないが、決してジエット達を快く思っていない視線。それを見たネメルもジエットの言わんとすることはわかったのだろう。途端に興奮が冷め、落ち込んだような表情になる。

 

「じゃ、じゃあ邪魔にならないように離れた所からなら?」

「……まぁそれならいいかな」

 

 校舎に備え付けられた時計を見た後、時間に余裕がある事を確認して渋々頷くジエット。

どうせ教室に入れば嫌でも――嫌ではないが、顔を合わせてしまうのだ。ならばその前に相手の顔を見て慣れておくというのも悪くないと思えた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ――来た。

 

(って、なんだアレ!?)

 

 おそらく、その場にいた生徒の誰もがジエットと同じ疑問と衝撃を抱いただろう。

ネメルの提案から待っている生徒達の人数はさらに増え、最早生徒達による野次馬と言ってもいい規模。その中の出来るだけ後ろに二人で潜り込み、正門から向こう側の広い街路を見ていた。

 視界に映ったのは帝国騎士に護衛をされながら到着した目的の人物(シャルティア・ブラッドフォールン)。その美しさに昨日と同じように見惚れそうになった生徒達だが、少女が乗って来た馬車でも馬でもない生物に全員が目を見開く。

 

 全身が毛に包まれた魔獣。

大の大人が複数人乗れそうな巨体、その背中に目的の人物はちょこんと横向きに座っていた。

 

(すごく強そうな魔獣だ……)

 

 なぜ馬車ではなく魔獣に乗っているのか?

当然の疑問を頭の中で読み解こうとしている間に、正門で学院長の騎士達が動き出す。

 

 最敬礼。全員がヘルムを外しその姿勢をとった。

 

 やがて魔獣と騎士達の集団が正門前に着き、学院長自らがシャルティア・ブラッドフォールンを出迎える。

騎士が踏み台を用意する前に少女は巨体から軽やかに飛び降り、長いスカートを靡かせながら出迎えた学院長の前に降り立つ。そして出迎えた学院長は深々と頭を下げた。それを見下ろした少女はしばしの間を空け、小さく会釈を返す。

 

 その光景だけで、この学院でのトップが今誰なのかをまざまざと見せつけていた。

 

 二人が幾つか言葉を交わし、魔獣と騎士が別れの挨拶を告げて離れていく。

少女がジエットを含めた多くの生徒を一瞥し、学院長が集まった生徒達について説明を始めた。離れているので当然話の内容は聞こえないが、彼女と繋がりを持ちたい貴族の生徒達、単にその美しさに憧れた生徒達、そういった説明をしているのだろう。

 

「やっぱりシャルティア様綺麗だね~」

 

 実際ジエットの隣には後者となった幼馴染がいる。

その事にイマイチ面白くない感情が芽生えるが、学院長と共に歩き出した美姫を見れば同意するしかない。

 

 同じ人間とは思えないほどの作り物めいた精巧な美しさ、世界から浮き上がったような美貌。

長い銀髪が優雅に舞い、その歩く動作一歩一歩に優雅さと気品が滲み出ている。歳不相応な大きさで重たげに揺れる胸が男子生徒の視線を集め、陶器のような白い肌と真紅の瞳が女生徒までも魅了していた。

 

(なんであんな人が俺の隣の席なんだよ……)

 

 感嘆の溜め息をつく幼馴染のみならず、同じ反応をする周囲の生徒達を見てそんな場違いな感想を抱く。

昨晩、バジウッドと話した中で鮮血帝が手を回したという理解はしているが、こんな光景を見ていると『昨日の全てが夢だったんだじゃないか?』そんな不安な気持ちが湧き出しそうになる。

 

(まぁ夢だったほうがいい気がするけど……)

「ジ、ジエット」

 

 ぼんやり考え事をしていたジエットを、幼馴染の声が再び現実に引き戻す。

 

「どうし……?」

 

 ジエットが顔を上げると、周りの空間が奇妙な沈黙に満ちていた。

小声で話していたはずの二人の声が静寂に包まれた空間に響く。その世界の中心で真っ直ぐ校舎へ歩みを進めていた少女の方角が僅かに斜めにずれ――その視線がジエットを真っ直ぐ見つめていた。

 

 ――ッな!?

 

 それを受けたジエットの口が丸くなる。

勘違いではない。群衆と言ってもいい生徒達、その中のただ一人になったはずのジエットを少女の視線が射抜いていた。

 真紅の瞳が見つめる先を、従者のように付き従っていた学院長が、隣に立つネメルが、その場にいた全員が追いかけ、人々の視線が一斉にジエットという一点に集中した気がした。

 

 美姫の足音がジエットが混じっている生徒達の前面で止まる。

 

 ――その光景に凄まじい程の嫌な予感を感じ、冷や汗がどっと吹き出した。




書き手として全く意識はして無かったのですが、最後の状況は原作Web版後編の『学院-6』に似てますね。しかし相手がおぞましいアンデッドなら兎も角、(一応アンデッドだけど)美少女と目が合って嫌な予感がしちゃうジエット君……

モモンガ様視点の次話は(できれば)明日投稿予定

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