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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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村へ帰る

 樹の試合を見終わった後、コロシアムは続いているのだが面倒になった。


「そういやここの武器屋の品揃えが良いんだったか、ちょっと見て行きたい」

「案内いたしましょうか? ハイ」

「うーん……そうだな。頼む」


 結構賑やかな町だから迷子になりそうだ。


「では案内を遣わせましょう」


 屈強な男が手を挙げて立候補する。

 そいつに連れられて一番大きな商店という店に案内された。

 異世界だと言うのにデパートみたいな大きな建物だ。

 中は総合店みたいだな。


「おや? そこに居るのは盾の勇者様ではありませんか?」

「知らん」


 アクセサリー屋が手招きしてる。知らないふりをしたい。


「ここは私が経営している店でしてね。是非見て行ってくださるとうれしい限りです」


 貴方が引き継ぐ店ですよ。

 ってルビが入っているような気がする。

 ここで無視していると認めた事になりそうだ。

 溜息を吐きながら視線を合わせる。


「でかい店を経営しているみたいだな」

「ええ、勇者様は何階に興味がおありで?」

「武器と防具を見に来た」

「では二階ですよ。所で一階のアクセサリーに興味はありませんかな?」


 俺は店内を見渡す。これでもかとキラキラ輝くアクセサリーが店内に展示されている。正直、眩しい。


「興味は無いな」

「所で勇者様は私の教えた技術を使っておりますかな? 腕が鈍っているといざという時、素晴らしい物が作れませんぞ」

「たまに作っている」


 奴隷共の為に魔物の素材でアクセサリーの作製をしている。

 最近じゃ魔物の骨で作るのがマイブームだな。

 固くはあるけど、効果が思いのほか高い。付与をしても劣化が少ないのが強みだ。難点は付与効果が低い事だけど。


「ほら、武骨な物だがな」


 適当に作っていたアクセサリーを見せる。


「ほう! ボーンアクセサリーとな!?」

「……無いのか?」

「無い訳ではございませんが……ふむふむ、安値ではありますが、実利を望む冒険者には良さそうな効果が付与されていますな」

「安物だが、デザインの練習には良いだろ?」

「ですな! 所で勇者様が領地を得たという話を聞きましたぞ」

「……出店したいのならくれば良いんじゃないか?」

「言質は取りましたからね!」


 邪悪に目を光らせてアクセサリー商が叫ぶ。

 そう言われると渋りたくなるのが俺って人間だ。


「発展の邪魔をするなよ」

「分かっておりますよ。フフフ……」


 どうも俺の知る商人とは邪悪な連中が多い。来たとしても監視はすべきだろう。


「ミラカアクセサリーの売れ行きはどうなんだよ?」

「好評ですよ。とんだ大災害が起きましたからねぇ……民間人も自分の身を守るのは自分だと理解したのでしょう」


 なんだかんだで金の入りが良い奴だ。


「じゃ、俺は武器を見に行くんでな」

「次に会う時を楽しみにしております」

「はいはい」


 邪悪な商人を相手にすると疲れるな。

 と、言いながら二階に上がる。


 あ……ショールームのように展示された武器が色々と並んでいる。

 試着もOKみたいだ。

 ……えーっと、隕鉄の剣とか槍とか色々と並んでいるなぁ。あ、目玉商品で触るだけって奴だ。


 お? 霊亀の武具も並んでる。

 だけどメルロマルクで売っている物とあんまり変わらない。

 値段は滅茶苦茶高い。

 ま、原産国とじゃ違いがあるか。


 んー……盾とかを見てみるが、親父の店と殆ど変らないなぁ……。

 一応、見ない盾も多いから触れておくか。


「あ、ちょっとこの盾、持ってみても良いか?」

「どうぞ、どうぞ」


 店員に承諾を得てから親父の店に無い盾を持って、ウェポンコピーを作動させる。

 スパイクシールド、フリスビーシールド、ジュエルシールド、プラチナシールド……。色々とあるなぁ。

 そんな感じで適当に盾をコピーさせた。

 どれだけ強くなってきたのか試してみたくなる。

 最近、俺は戦う事が無いけどさ……呪いでステータス下がってるし。

 そういや霊亀の素材は扱いが難しいと武器屋の親父が言っていたけど、本当なんだなー……。

 こんな大きな店でもあまり加工された感じのしない武器しか並んでいないとは。


「ん?」


 その中で一つ、非売品と書かれて展示されている武器が目に入る。

 一振りの片刃の剣だったのだけど……霊亀の素材で作られた剣なのは一目で分かる。

 目利きを作動させて鑑定する。


 霊亀剣 品質……


 ダメだ。俺の目利きじゃ完全に鑑定しきれない。

 だけど一目で名剣だって分かる……しかも触るのもNG扱いでの展示だ。

 近々オークションで取引されるのか、凄いな。

 やはり名工というのはいるもんだ。とはいえ……ラフタリアに買い与えるのは些か厳しい。

 ま、親父への土産話にでもしておくとしよう。

 そんな感じで時間まで見て回っていたのだった。



「もう帰るんですか?」


 夜、集合場所の店でリーシアが残念そうに言った。


「買い付けた奴隷を村に連れて行かないといけないからな。大所帯になっているから滞在費がもう無いんだよ」


 奴隷商の所に預けて滞在する事は可能だし、最悪、村まで連れて行って貰うという手もあるが……リーシアが樹を見つけてしまう危険性があるから、足早に出国したい。

 ラフタリアも何やら冷や汗を流しながらリーシアを慰めている。


「ねえねえねえ、ラフタリアお姉ちゃんはなんで――」

「黙れ鳥」


 フィーロがラフタリアを見ながら質問攻めモードに入りかけているのを魔物紋を行使して黙らせる。


「むー……」


 フィーロが不満があるように文句を言うが、ここは黙らせないといけない。

 じゃないとリーシアがおかしくなる。

 ややフラグが立っているが、先延ばしにしないと面倒だ。

 樹が、まあ……もう少し苦しんでからリーシアを預ければ良いだろ。


 それにあの樹にリーシアを会わせるのは躊躇われる。人道的な意味で。

 甘い事言いそうなんだよなー……リーシア。

 これ幸いにと取り入るとか、性格的に無理かもしれないけど、結果的にそんな形になりそう。

 これはリーシアの為にならない。

 一応、聞いておくか。


「リーシア」

「なんですか?」

「お前は樹に、強くなった自分を認めてほしいんだよな」

「はい」

「じゃあもっと強くならないとな」

「はい。私はまだまだです。もっと、強くなってからイツキ様と一緒に戦いたいです」


 だからこそ、今は会うべきじゃない。

 樹の為にもリーシアの為にも。

 前者は建前で後者は本音だ。


 今、会うとどっちもダメになるのが目に見えてるし。

 そんな訳で俺達は黙って帰路に着く事になった。


 奴隷商が用意した奴隷を乗せた馬車が到着する。

 それを繋いで馬車は三台になっている。

 フィーロが楽しそうだ。


 奴隷商は、まだゼルトブルで買い付けがあるらしく、滞在するらしい。

 一緒に帰る必要もない。妙に名残惜しそうにしていたが、俺はアイツと一緒に居たくない。


 さて、馬車に乗る奴隷共を見る。窮屈そうだ。

 一応、乗りやすいように人員を別けるのだが、サディナがでかい……馬車に乗せると狭いな。


「なあ、お前デカイからさ、一人で海を行くというのはどうだ?」

「ナオフミ様!?」


 ラフタリアが怒っている。

 当然な反応だが、でも邪魔なんだよ。

 図体でかくて馬車に乗れない。馬車に乗らず、歩きで付いてくるなら問題ないが、それでもフィーロの持久力について来れるか?

 ありえないだろう。

 かと言って海から行けも酷いか。


「良いね。それ!」


 当のサディナは楽しそうにヘラヘラと笑いながら海へ行くのを了承する。

 半分冗談だったんだが。


「良いのか?」

「地上を歩くより楽だし、海流に乗れば案外早く付けるわ」

「海の魔物とか、一人で大丈夫か?」

「私を舐めないでよ」


 そういや、こいつ……Lv40なんだよな。

 奴隷商がオマケしてくれたけど結構高かった。


「わかった。じゃあ頼むぞ」

「はいはい。みんなに会うの楽しみだわ」


 と言いながら……サディナは一人、水路を泳いで行った。

 ゼルトブルは海が近いから、まあ、大丈夫か?


「サディナ姉ちゃん。とっても強いんだよ」


 今回買った村の奴隷が自慢げに言う。

 そういや、こいつ等、あんまり怪我していないな。


「お姉ちゃんがね。守ってくれたの」

「へー……」


 年長者の守護って奴? 頼りになった訳か。

 ステータス的にはそこまで高くは無いが、立派な人物なんだろうなぁ。

 きっと、村の子供たちを守り続けていたのだろう。笑ってはいたが全身に傷跡がある。


「……ふん」


 フォウルがそんなサディナの後ろ姿を見送りながら言う。

 守ると言う意識で理解は出来たのか?

 馬車で寝ているアトラに水差しを持ってくる。


「お兄様、ありがとうございます」

「気にしなくて良い。それよりも大丈夫か?」

「はい……凄く体が楽です」

「それは良かった」

「尚文様……出発は何時になるのですか?」


 アトラが俺の方を向いて尋ねてくる。

 目が見えないから、そういう事が心配なんだろう。


「ああ、もうすぐ出発だ」

「わかりました」

「そろそろもう一回、薬を飲んだ方がいいな」


 俺は盾を霊亀の神木の盾に変えて残ったイグドラシル薬剤の瓶の中身をアトラに飲ませる。

 良くなっていた状態が更に良くなった気がするな。


「ありがとうございます……」

「気にするな」


 俺はフォウルの方に恩着せがましく視線を向ける。


「ぐぬぬ……」


 悔しそうにしているなぁ。

 ま、お前は薬の分、精一杯働くんだ。

 優秀らしいからそれこそコキ使ってくれる。


「尚文様……」


 アトラが俺の手を握る。


「お兄様と仲良くしてくださいね」

「喧嘩はしていないさ! な!」


 フォウルが馴れ馴れしく俺の背中に手を回す。

 なんだその親しげな態度は。

 俺とお前の関係を勘違いしてもらっては困るんだがな。


「お兄様もお願いしますよ。この方は立派な方です」

「わ、わかってる!」

「それは、良かったです」


 アトラは疲れたかのように横になる。

 薬の効果が効いて来たとはいえ、病人には違いない。疲れているんだろう。


「少し、眠くなってきました」

「ゆっくり休むと良い。俺の村は少し遠い……後、馬車を引く鳥の運転が荒いから酔って気持ち悪くなるかもしれない」

「馬車を引く鳥さん、ですか? それは……尚文様に匹敵する力強い方ですよね」


 アトラがフィーロのいる方を指差す。

 目が見えていないけど、別の何かを感じ取っているみたいだなぁ。


「どうしたのごしゅじんさま?」

「ああ、新しく買った奴隷のアトラが目が見えないのにお前が力強いのがわかるんだと」

「えへへー、フィーロ誉められちゃった」

「その方ですね……とても元気で……無邪気な力を感じます。尚文様の優しさを一身に受けて育ったのがわかりますよ」

「うん!」


 フィーロが胸を張って答える。

 優しさ? 誰が誰に優しいって? 何を言っているんだ?

 気にしたら負けだな。


「とにかく、病人がいるからあんまり速度を出すんじゃないぞ」

「はーい」

「アトラも眠いのなら寝ておけ。フォウルは馬車で酔わないように努めろ」

「……ああ」


 反抗的な目でフォウルは俺を睨む。知った事ではない。

 馬車の連結も終わり、夜の闇に乗じて俺達は出発したのだった。

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