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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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パーフェクト=ハイド=ジャスティス

 奴隷登録用のインクに血を入れ、後を奴隷商に任せる。


「この前みたいに変なのを登録に混ぜるなよ?」

「わかっておりますとも」


 今回は奴隷項目の部分をちゃんと整頓して、確認している。先に貰った奴隷のリストと違う奴隷が混じっていたら即座にクレームを付けてやる。


「では、登録の間は暇でしょうから、上のコロシアムでの決闘を鑑賞に行きましょうです。ハイ」

「分かった」


 奴隷商の指示で奴隷が案内を始める。

 俺たちはその後をついて行く。

 奴隷商の話だと、今日はフリーのコロシアムが開催されているらしい。

 コロシアムに参加して、勝てば賞金を獲得できる。

 で、観客の方はどちらが勝つかを賭けるという分かりやすい賭博だな。

 地下の牢屋から階段を使って地上のコロシアムの会場へと入る。


「結構な観客なんだな」


 まだ試合は始まっていないようで、受付とかが賑やかだ。

 野球場とかスタジアムみたいな雰囲気がある。


「叔父の事業の要でもある仕事ですので、集客は見込めるのです。ハイ」

「金回りも良さそうだもんなぁ……」

「勇者様もご参加されては如何でしょう?」

「俺が参加してどうするんだよ」


 守るしか出来ないのに、こんな試合に参加してどうするというのだ。


「チーム戦もありますよ。勇者様なら一躍人気選手になる事請け合いかと」

「報酬しだいだな」


 金稼ぎには良いかもしれないがー……。

 霊亀を倒せるラフタリアとフィーロが居れば負ける事はまず無いと思う。


「私共の経営する別のコロシアムには魔物専用というのもありますです。ハイ。是非、勇者様のフィロリアルのプレゼンを行うのもよろしいかと」


 谷子とラトがめっちゃ抗議しそう。なんだかんだであいつ等、魔物を酷使するの嫌がるし。

 知った事ではないか。フィーロに戦わせて金稼ぎも悪くは無いな。


「考えておく」

「良い返事を期待していますです。ハイ」


 とか言いながら奴隷商のコネで用意された来賓用の席へ行く途中。

 選手用の控室を上から見渡す。仕切りがあるだけで、高い所から見えるみたいだ。

 へー……なんか目つきが悪い連中多いな、武骨というか筋肉質な奴も多い。


 ――そこで信じられないモノを俺は目撃した。


「い、樹!?」


 さも当然のように選手の中に紛れ込んでいるが、そこに居たのは紛れもなく樹だった。

 俺は選手用の通路の方へ降りる。


「どうかしたのですか。ハイ?」

「いやな」


 俺は奴隷商に弓の勇者である樹がこの選手用の控室に居ると説明した。


「ここは素性が分からない者も参加できます故、勇者が参加している可能性も無くは無いと思いますです。ハイ」

「登録とかは無いのか?」

「選手名の登録は自由ですので……」

「ちなみに、あいつは?」


 俺は樹の胸に付いているバッチのナンバーを指差す。


「えー……」


 顔を布で隠した屈強な男が奴隷商にリストを持ってくる。


「あの番号は本日の参加番号982……えっと『パーフェクト=ハイド=ジャスティス』さんだそうです」


 思わず転ぶかと思った。

 何の冗談でもなく、人って転ぶ事があるんだな。

 パーフェクト=ハイド=ジャスティスって何の冗談だよ。

 厨二病も裸で逃げ出す位直球だ。

 恥ずかしい奴だ。思わず俺まで恥ずかしくなった。


「話は出来るか?」

「ええ、私の権限で許可します」


 奴隷商が部下に指示を出し、俺たちは選手用の控室に案内させてもらった。


「おい。久しぶりだな」


 樹に向かって話しかける。

 リーシアを呼んでからでも良かったけど、試合が始まったら話も出来ない。

 その時にでも探せば良い。


「僕は……そう……みんなが……」

「おい」

「みんな僕を求めてる……うん。みんなが……僕を求めてる……」

「聞けよ!」


 樹はブツブツと小声で呟き続けていて、何を言っているのか良く聞き取れない。

 目も虚ろで、何処を見ているのか。


「僕は……劣ってなんかいない……僕は……実は……」

「おい! 聞けよ!」


 ブンブンと樹の肩を掴んで揺らしたが、一向に反応しない。

 ゴーンと銅鑼を鳴らすような音がコロシアムの方から聞こえてくる。


「僕は……正義の味方だ!」


 俺の言葉なんて耳に入らないかのように樹は他の選手を押しのけて走り去って行った。


「なんなんだアイツ……」


 まるで俺の事なんて眼中に無いかのようだった。


「えー……先ほどの選手に関する事を調べたのですが、連日、この国のコロシアムを練り歩いているようですね。ハイ」

「そうなのか?」

「ええ、この界隈でも有名になりつつある、謎の弓使いという触れ込みです。勝利による喝采を喜んでいるかのようだ、そうですよ」

「……何があったんだ?」


 元々称賛欲求が強い奴だとは思っていたが、あれでは病人だ。

 一体何が樹をあそこまで追い立てたんだ?

 まあ霊亀で何か問題を起こしたツケなんだとは容易く想像できるけど。


「影」


 とりあえず居るかどうか呼んでみる。


「なんでごじゃる?」


 ……出てきた。


「盾の勇者殿の馬車は乗り心地が最悪でごじゃるな」


 気にしたら負けだ。相手をしない方が良いな。


「あんな露骨に居る樹を何故、見つけられなかったんだ?」

「弓の勇者は自身の正体を隠す癖がある故、情報だけで判別は不可能でごじゃる」


 まあ、そうだよなぁ。勇者って自称するか武器を変えて強さで覚えられている。武器をコロコロと変えなきゃ勘付かれたりしないか。

 弓を使ってはいるけど戦闘中まで変えてはいないのか。


「あれは捕まえるべきか?」

「逃げられる可能性が高いので保留せよと女王からの指示であったはずでごじゃるが?」

「まあ、そうなんだけど……監視を付ける程度が無難か」

「そうでごじゃるな。霊亀の件で人員が減ったでごじゃるが、応援を要請しておくでごじゃる」

「頼んだ。あ、そうだ」


 俺はラフタリアの方を向いて尋ねる。


「ラフタリア、あれをリーシアに教えるべきか?」

「ダメです! 絶対に教えてはいけません。あんな姿の弓の勇者を見たらリーシアさんまでおかしくなってしまいます」

「まあ、そうだよなぁ……」


 なんか廃人みたいになっていたし、称賛されたいが為にコロシアムに出ているようだった。

 あんな状態の樹にリーシアが会ったら何が起こるかわかったもんじゃない。

 いや、しつこく樹に話し掛けるとかそんな予想が立つけど……何か違くないか?

 なんというか、ろくでもない結果にしかならないと思う。

 というか仲間は何処へ行った?


「一応、調査を始めるでごじゃる」

「ああ、詳しい事が分かったら教えてくれ」

「承知でごじゃる」

「さて、じゃあリーシアの方はどうする?」

「私がリーシアさんと合流して、それとなく会わせないようにしますので、どうか……秘密にしてあげてください」

「わかった。じゃあ頼んだぞ」


 システムを呼び出してリーシアの所在地を探す。何処ら辺にいるのかはあやふやだけど分かるようになっている。

 もちろんパーティを抜けている相手や所在が分からないようにしたり、遠すぎる相手のは分からないみたいだけど。


「ここから南の広場を歩いているみたいだな。頼むぞ、ラフタリア」

「わかりました。絶対に近寄らせません」


 ラフタリアはそのまま走り出した。

 なんだかんだで、アイツ等仲良いよな。


「まったく……何があったんだ?」

「そうそう、その話なのでごじゃるが、霊亀の町の生存者である兵士から事情を聞いているでごじゃる」

「それを早く言え」

「とは言っても、イワタニ殿の知っている話を整頓しただけでごじゃるよ? どうやら霊亀の封印を破壊する作業を行った順番が弓の勇者殿、槍の勇者殿、剣の勇者殿の順番だったようでごじゃる」

「ほう……」


 錬の時の話だと像を破壊して直ぐとか言っていたような気がしたが……。


「弓の勇者が一番早く問題を起こし、仲間同士でモメていたそうでごじゃる」

「どう言う事だ?」

「……弓の勇者殿が霊亀の封印を破壊したのが半日前、その後、騒ぎに便乗したトレジャーハンターが近隣の遺産を強奪し、情報が錯綜、その混乱に乗じて槍の勇者が封印を破壊、ほぼ同時期か少し遅れて剣の勇者が……となったようでごじゃる」

「樹達は犯罪者として連行される所だったとかそんな感じか?」

「近い状態だったようでごじゃるよ? そして弓の勇者殿の証言通りに霊亀が復活し……弓の勇者殿は討伐に出て……」


 行方知れずになったと。

 霊亀の封印が解けるタイムラグで何かあったな。

 正義感の塊だったからな、アイツ等。

 信仰する樹が問題行動を起こして正義面でもしたのかな?

 錬とエレナの証言で警備が安定しなかったのは、末端で情報が錯綜していたからか。


 俺は試合が始まったコロシアムで、樹の戦いを見る。

 近接と遠距離では卑怯じゃないかとか思ったけど、ルール上なのか戦闘範囲が狭い。あっと言う間に距離を詰められる程度の広さしかない。むしろ弓じゃ不利だな。

 だけど樹はアッサリと勝ち進んでいく。

 対人でも強いじゃないか。


 ただ、目付きがおかしい。歓声が上がるたびに嬉しそうに両手を上げて吠えてる。

 あれが樹なのか?

 俺の知っている樹はもう少し大人しいというか、人格者のフリをした偽善者だったんだがな。


 何があったのかは本人が語らないから謎だ。

 それ以前に語れるかどうかすら怪しい。

 ま、相手にするだけ無駄か。

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