今週のきみちゃん

今週のきみちゃんVol.26「生と死」

2020年3月28日(土)

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ヒロイン・喜美子役の戸田恵梨香さんが、毎週の放送の中から印象に残ったシーンやエピソードについて語ります。


武志は「作品は生きている」と初めて実感し、作品とひとつになったんだと思います
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 武志(伊藤健太郎)が完成させた水の波紋を表現した大皿。その大皿からチリンという音を聞いた喜美子は、慌てて武志を呼びに行きます。それは釉薬の層にヒビが入る音でした。「焼き上がって完成したと思ったのに」と言う武志に喜美子は「終わってなかったな。生きてるで」と言うのでした。
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 「物を作るということは『生』ということだと思うんです。第18週で、喜美子が初めて完成させた自然釉の作品『うずくまる』を"取り上げた"とき、私自身は出産を経験したことがないのに、実際に子どもを産んだかのような感動を覚えたんです。物を作り上げるということは、誕生させる、生かす、自分の魂を吹き込む、ということなんだなと感じました。そしてこの『スカーレット』という作品のテーマが『生と死』なんだなと気づきました。喜美子自身が、作品は生きている、土とお友達になるところからはじめる、土とコミュニケーションを取る、物にも心は伝わる、ということが分かっている人だから、武志に対しても『(作品は)生きてるで』と言えるんですよね。そのことが武志の作品には『音』という実際に感じられるものとしてあったので、喜美子はわざわざ呼びに行って、武志に聞かせたんだと思います。きっと武志は今まで心の底から『作品は生きている』と感じたことがなく、初めてこの作品で感じることができ、そして作品とひとつになったんだなと思いました。
その音はいずれ止まるのですが、止まったからといって終わるのではなく、生き続けるんだということまで描かれていたので、なんて素晴らしい脚本なんだろうなと思いました。『作品は生きている』という例えは陶芸家だからこそできるもので、私自身も物に対する感じ方がどんどん変わっていって、静かに感動しました」


武志の強さと優しさに心が締めつけられる思い。母親として自分を責めました
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 治療の副作用で食べ物の味が分からなくなってしまった武志。八郎が作ってくれた卵焼きの味も分からず、ついに武志は「お父ちゃんの卵焼き、この先何回作ってもろても味分からへん。こんなんなる前に作ってくれたらよかった」とつらい気持ちを爆発させます。そのあと自分の部屋に行き、同じ病気で亡くなった安田智也(久保田直樹)からの手紙を読んだ武志は「おれは終わりたない、生きていたい」と喜美子の前で初めて涙を流します。
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 「いよいよ副作用で味覚障害が出てきて、その味覚障害がどれだけつらいものなのか、食べ物がどれほどに喜ばしいものではなくなるのか。喜美子は大崎先生(稲垣吾郎)からの電話を受けてから、いろいろと考えたと思います。なにかを失うことで一歩ずつ死に向かっていく怖さを、あのとき武志はもちろん、喜美子も八郎も感じたんだと思います。親でもどうやって彼を支えていったらいいのか分からなくて、その難しさを実感しました。そしてこれまで武志が気丈にふるまっていてくれたからこそ、私たちがいつも通りに過ごすことができていたんだなと気づきました。

『生きていたい』と涙を流す武志がとにかくいたたまれなくて、触れてあげることしかできなくて...。かけることばも見つけられませんでした。ハチさんに武志が白血病だということを告白して、『うちの責任や、すまん思うてます』と頭を下げるところがありましたけど、今回も、なんで白血病にさせてしまったんや、うちのせいや、と改めて思って、本当に申し訳ない気持ちで抱きしめていました。母親というものは、こういうとき、自分を責めてしまうものなんですね。なんで健康な体に産んであげられなかったんだ、って。

でも武志は、声を荒らげることはあっても、なんで僕を産んだんや、とか、生まれてこんかったらよかった、とか、お母ちゃんのせいや、というようなことを一切言わないんですよね。なんてできた子なんだ、本当に優しいなと改めて思いました。普通がどうかは分かりませんが、武志のような状況になれば『それやったら最初っから生まれてこんかったらよかった』というようなことばが出てしまうものだと思うんです。死を前にしていない健康な私たちでさえ、なにかに打ちのめされて一度は思ったことがあると思います。それを武志は一切口にしない。武志の優しさと強さに本当に心が締めつけられる思いです。喜美子は、いっそのこと言ってくれたらいいのに、とすら思ったかもしれないですね」


息子の作品を認めてもらった喜びと...。やっぱり喜美子には武志しかいないんです
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 喜美子の作品のほか、武志が希望を持って生み出した新たな作品も展示される「みんなの陶芸展」の日がやってきました。家族、友人、知人をはじめ、庵堂ちや子(水野美紀)、草間宗一郎(佐藤隆太)、ジョージ富士川(西川貴教)という喜美子が尊敬する人たちも会場を訪れてくれました。

「武志が作品を完成させ表に出すことができたことが一番大きくて、それをみんなに見てもらえることが母親としてすごくうれしかったです。草間さんやジョージ富士川先生がいろんなことばで息子の作品を認めてくれたことで、少し大げさかもしれませんが、武志の存在そのものを世間に認めてもらえたような気がして...。武志が作品を残してくれたこと自体、なんて親孝行をしてくれたんだ、とうれしく思いましたし...。やっぱり喜美子には武志しかいないんだなと思いました。
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 今週のきみちゃんVol.26「生と死」 ジョージ富士川先生が『今日が私の一日なら』というデモンストレーションをやってくれたことで、病気が分かってから今日にいたるまでの間に、武志にとっての一日が変化していたんだということを、喜美子は知ることができました。それを知るきっかけを作ってくれた『みんなの陶芸展』は喜美子にとってとてもラッキーな出来事でした。喜美子はこの陶芸展をきっかけに、思う存分生きていることを楽しもう、しんどいと思うだけではなく、生きている喜びをちゃんと感じようと思ったと思います」


とにかく幸せで、こんなにいとおしい子はほかにいないと思いました
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 春、夏、秋がすぎ、冬が来ても武志は陶芸に向きあうことができていました。喜美子と武志、工房で二人それぞれが作陶していたある日、喜美子は武志に「ギュウしてええ?」と言ってから思い切り抱きしめます。武志は喜美子に抱きしめられたまま「幸せや」とつぶやくのでした。

「このシーンを撮影していたとき、健太郎君が『武志史上、一番声出てる。一番元気』と言っていて、それがすごくうれしくって。健太郎君って意図せず、本当に素直なことばをぽろぽろと出してくるんですよ。第18週のとき『こういう家族っていいな』と言ってくれたのもすごくうれしかったですし、ほかにもそういうことがちょくちょくあったんです。その中でも『武志の中で一番声出したな』というこのことばが本当にうれしくて。
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 白血病という病気と向き合っていなかったら、もしかしたらギュウすることはなかったのかもしれないと思うと、本当に一日一日が特別なんだなと思いました。私も15歳を演じて以来、声をガンとあげて『ギュウ~』と言いました。武志を抱きしめることの喜びがすごかったですし、とにかく幸せで...。本当に息子でしかなくて、『こんなにいとおしい子はほかにいない』と思いました。その思いが強すぎて、両足でホールドしてから結局、息子に抱っこしてもらうというところまでやりました(笑)。武志の病気のことを考えたら絶対やってはいけないことなので、ギャグのひとつとしてやったのですが、気持ちは表現しました。放送では武志に抱っこされた部分はカットしてくれていたらいいなと思っています(笑)」


「役を生きる」とはこれだ、と実感しました
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 -約11か月間という長期の撮影を振り返り、戸田さんご自身にどのような変化があったのか教えてください。

「喜美子が変化していくのと同時に私も変化していくことができました。いろいろな作品をやり続けてきたこれまでは、演じている役として学ぶことや進むことはあっても、私自身が置いてけぼりになってしまうことが多かったんです。だから1年に1度、1か月間まとまったお休みを取るようにしていて、その1か月間で自分自身の充実と進化を試みていました。ところがこの『スカーレット』に挑んだ11か月間は、撮影がない土日もずっと台本を読み込んでいましたし、実質自分の時間はほとんどなかったのですが、私自身が置いてけぼりになることが一切なかったんです。それが初めての経験で、なんでだろうなと考えたとき、それは『時間の進み方だな』と気がつきました。クランク・インするときの自分の中のテーマとして『時間』を掲げたんです。時間はみんなに平等に与えられているけれど、人によって濃度や速度が変わってきますよね。それを"高める"ことをテーマとして、ずっと意識してやってきました。撮影が始まったころはみんなと同じ一秒だったんですけど、途中で自分の一秒が速くなっていることに気づいたんです。自分の時間がすごいスピードで進んでいる、つまり自分自身がすごい勢いでアップデートしているということなんですよね。

今まではひとつの作品が終わるごとに振り返っていたのですが、その瞬間に答えは出ず、1年が終わるころにようやくその1年が自分にとってどういう年だったのか分かるというような感じでした。ところが、この11か月間では、自分自身がどうだったのかを随時感じることができました。役者としても人としても、とてつもなく成長させてもらったと思います。

今週のきみちゃんVol.26「生と死」 それとは別に15歳から40代後半までを演じた中で、喜美子31歳、私自身も31歳という時期が、一番お芝居をする上で楽ではあったのですが、その先の40代50代は想像の世界でしかないと思っていたのが、なぜかそこに違和感がなかったんです。それがとてもおもしろくて。もちろん他の作品でも年相応ではない役はあって、ときには自分にはできないとお断りした作品もあったのですが、今回は今まで演じたことがない40代後半でさえもまったく違和感がありませんでした。これが"朝ドラ"のすごさなんだということを改めて感じました。たぶん松下さんもそうだったと思いますし、ほかの皆さんも違和感なく年を重ねることができたと思います。『役を生きる』とはこれだ、と思いました。そして、とてもぜいたくな時間だなと思いました。喜美子がたくさんの出会いと別れを経験して、たくさんのことを学んだように、私自身もたくさんの出会いと別れを経験させていただきました。本当にすばらしい財産をいただいたなと思っています」


『スカーレット』が10年後も20年後も皆さんの心の中で生き続けますように
今週のきみちゃんVol.26「生と死」 -最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。

「水橋文美江先生が書く脚本には独特の世界観があると思うんです。視聴者の皆さんを信頼しているからこそ、大きく時間を飛ばしたり、逆に細かく描いたり。最後までこの一種独特な『スカーレット』の世界についてきてくださってありがとうございます。喜美子をはじめ登場人物たちを皆さんが愛してくださっているという声を聞くたびに幸せでした。
喜美子だけではなく、人間というものは不完全である、その不完全さをどれだけ楽しむことができるか、それゆえに生き物は愛するべきものなのだということを、私自身が感じたように、皆さんにも感じてもらえていたらうれしく思います。そしてそんな登場人物たちを最後まで笑って泣いて支えていただきありがとうございました。『スカーレット』が、10年後も20年後も皆さんの心の中で生き続けるような、そんな作品になっていればいいなと思います。私にとってはこの作品が自分の基盤になりそうな気がしています」