買い付け
「次はこちらです」
と、案内された牢屋を見ると、またも健康で質の良さそうな亜人奴隷。
子供ではあるのだけど……女の子だ。
そして、やはり嘘くさい笑顔でこっちに手を振る。
「あー……却下」
「えー!?」
やはり抗議される。
育ちが良さそうなのが気になりすぎる。
俺の知る奴隷って、目が死んでいて全てを諦めているんだよ。
あのキールでさえ、ラフタリアがいなければ怯えの色があったんだぞ?
絶対誰にも買われた事のない、夢見る冒険者みたいな顔をした奴は奴隷では無い。
で、どの奴隷も拒むと同じように俺に文句を言う。
これが数回繰り返された。
大体コイツ等の目的がわかったぞ。
俺は半眼で奴隷商ズを睨む。二人共、揃って汗を拭っている。
「おい」
「盾の勇者様のご希望に添えなくて残念です。ハイ」
「はぁ……しょうがない。この手だけは使いたくなかったんだが」
俺は案内された性奴隷? に手招きをして近寄らせる。
「言え、お前の裏に何がいる? 盾の勇者の命令だ。逆らうのなら滅べとお前の国に命令するぞ」
ドスの利いた声で念を押す様に言い放つ。
最近は使っていなかったが、買取商などに使っていた手口だ。
「ヒィ……パ、パパが……盾の勇者様の嫁に成れって、勇者は奴隷しか招かないから斡旋をする業者にお金を払って……」
俺の睨みに奴隷が怯えながら答える。
小さな子だけど、これはしょうがないな。
「……お前はそれで良いのか?」
「え?」
「家の為とはいえ、好きでもない相手への捧げものにされるんだぞ?」
見た感じ、昔のラフタリアより少し幼い。
こんな子を使って自分の国での地位を向上させようって考えに嫌悪感を抱く。
「とりあえず、見破られてしまいましたとでも言って帰れ。それで納得しなかったら、盾の勇者様は本当に困っている亜人に手を差し伸べている、と言っていたとでも言え」
どうやら団体単位で送り込まれているようだな。
奴隷商ズもさすがに冷や汗が凄い。
「そんな訳だ。丁重にお断りする」
シルトヴェルトの見合いだったんだな。
奴隷というのは名ばかりの金持ちや王族の子供がここで俺の奴隷になるために送り込まれていた訳か。
「確か盾の勇者の言葉は絶対な方針だったな。俺が直々に書状を書くぞ? これ以上の奴隷の押し付けはお前が不利になる様な事を言う」
「わかりましたです。ハイ。先方も盾の勇者様の考えに引き下がると思います。ハイ」
「さすが盾の勇者様。偽物の奴隷を見抜くその眼力、私、ゾクゾクしています」
「わからないでか!」
明らかに偽物だって公言してるじゃねえか!
もっと隠す努力をしろよ。
「嘆かわしい……」
ラフタリアまで呆れているぞ。
「ナオフミ様がそんな簡単に誘惑されるはず無いじゃないですか……女とかで誘惑出来たら苦労しません」
ん? 何を言っているんだ?
「他には無いのか? 無駄足だったら怒るぞ」
「ありますとも、むしろそちらの方がメインでございます」
「……時々、俺を騙そうとするな」
まったく、だからコイツには関わりたくないんだ。
「盾の勇者様は、何をお望みで?」
「今は手先が器用な奴隷だな。後は……俺の右腕をしてくれているラフタリアの同郷の連中を探している」
一応、村にも数名手先が器用な奴がいるんだが、もっと人手が欲しい。
せっかく洋裁屋、薬屋なんかが領地にいるんだから学ばせない手は無い。
だが、イミアの例からできれば資質のある奴を使いたいというのが本音だ。
「なるほど、ではこちらに」
「嘘を混ぜるなよ?」
「ええ、わかっていますとも」
「ラフタリア様ですか、勇者様の領土というとあの村ですね」
「はい。少々大変ですが、いませんか?」
「そのお話は聞いております。既にご用意できておりますので、お待ちください」
奴隷商ズが案内する先に……なんか見覚えのある種族が出てくる。
「こっちにもルーモ種がいるんだな」
「他にもおりますよ」
手先の器用なー……タコみたいな亜人もいるんだな。
「クト種と呼ばれる水生系の獣人でございます」
「魔物みたいだな」
「これは痛い所を突きますね。他にカフィ種辺りが用意できますよ」
こっちはイルカ……二足歩行の獣人だ。
色々と居るんだなぁ。
さすがは治安の悪い国、その分黒い部分が集まる訳だ。
「俺の領地は海に面しているから問題は無い」
「では手配いたしましょう。子供の方がよろしいのですよね?」
「別にこだわりは無いな、壊れてなければ問題ない」
あ、そうだ。
「ルーモ種は多いみたいだな。なら選別させてくれ」
「わかりました」
俺はルーモ種がいっぱい居る牢に近付く。
「イミアって女の子を知っている奴はいないか?」
出来るなら信用してもらうために知り合いであった方がやりやすい。
だからイミアの知り合いがいないか探してみよう。
「ありふれた名だ。だから、そんな普通の名前の子、特定できない」
む……まあ同性同名は良くあるか。同姓でない所がネックだな。
なんだったか、あいつの本名。
リュ……思いだせない。
しょうがない諦めるか、良い考えだと思ったんだがな。
「イミア=リュスルン=リーセラ=テレティ=クーアリーズちゃんですよ。ナオフミ様」
な、ラフタリアがイミアの本名を当たり前のように答えやがった。
どんだけ記憶力があるんだ。
ラフタリアって地味にスペック高いよな。
最近だと武人キャラを女騎士に取られ気味だけどさ。
「クーアリーズのイミアか!」
「知っているのか?」
「俺と、同じ集落出身の奴が何人かいる」
「じゃあ、そいつらで良いや」
「わかりましたです。ハイ」
「おい。アンタは何者だ?」
「見て分からないのか? 奴隷使いだよ」
本当の事をここで教えると群がりそうだ。
面倒なので言う必要も無い。
「また嘘を言って……」
「イミアは元気か?」
「元気ですよ。私達の村で頑張ってます」
素直だもんなぁ、あいつ。
問題は何を教えるか悩み中なんだよな。
「そうか、会うのが楽しみだ」
あの長い名前が役に立つとは。馬鹿にならないな。
その後、ラフタリアの同郷の連中が三名、牢に居て購入した。
一人は水生系のシャチみたいな獣人だった。
サディナという名前だ。
確かキールを買った時にラフタリアが口にしていた人物だったと思う。
表情が掴みにくいし……横にも縦にも大きい。
デブでは無いが、やや巨漢染みている。種族的には平均らしいがな。
なんかあの村では浮いているような気がする。
「サディナ姉さんは漁師だったんですよ」
「初めまして、えっとラフタリアちゃんが大きくなって驚いているわ」
「話は聞いたが……アンタみたいのがなんで奴隷に?」
「いやはは……私だけなら海に逃げれば奴隷狩りから逃げ切れたのですけどねー……村の子を守ってたら捕まってしまいまして」
フィーロと良い勝負の体型だ。鈍重そう。
というか、これで人の分類なのか。
獣人は亜人より種族差が大きいみたいだな。
「お前、村の連中と比べて浮いてないか?」
俺の知る村の連中って亜人ばかりで獣人は珍しい。
しかも犬っぽい奴が大半で、猫っぽいのが数名だけだ。
そういや、ラフタリアの種族であるラクーン種の奴も他に居ないな。
「私はラフタリアちゃんのご両親と同じで流れ者だったので」
「そうか」
流れ者でも住みやすい村だったのか。
俺の前任の領主は名主だったらしいからなぁ。
それほどの実力者が亡くなった所為であの地域は荒廃した訳だし。
「まあ……こんな物か……」
懐がさびしくなってきている。これ以上の奴隷の購入は難しい。
「ありがとうございます」
ラフタリアが俺に頭を下げる。
「気にするなって、それに見合うほどの活躍をお前はしているんだ」
「本当に……」
ラフタリアが涙を堪え切れず俺の手を握る。
ま、俺に出来るラフタリアへの礼ってこんな事しかないからな。
「さて、そろそろ帰るか」
「お待ちください」
この国の方の奴隷商が遮る。
「なんだ? まだ何かあるのか」
「遠路遥々お呼びしたのは是非見て頂きたい奴隷がおりまして」
「あの国の斡旋した奴隷ならもういいぞ。お前も仕事だからな。そこは我慢してやる」
「いえ、そうではなく……言うなれば本日のメインディッシュにございます」
「金が心もとないのだが?」
「劇薬の様な奴隷故、貴方なら使いこなせると信じて格安で提供いたします」
劇薬、ねぇ。
下手をすれば毒になって、使いこなせれば薬と。
まあ、見る分にはタダか。
どうせ武器屋に寄って盾をコピーする位しか予定も無かったし、丁度いい。
「わかった」
購入する奴隷を案内しつつ、俺は奴隷商ズについて行った。