医療崩壊の危機迫る
新型コロナ対応のベッド数と
入院患者数データ

2020年4月14日

新型コロナウイルスに対応する病床数と入院患者数などについて、NHKは全国の都道府県に取材しました。その結果、入院患者の数が、準備している病床数の8割を超えているところが9つの都府県に上り、ひっ迫した状況になっていることがわかりました。

入院患者数が8割を超えているのは、東京都と大阪府、兵庫県、福岡県の緊急事態宣言が出されている地域のほか、山梨県と滋賀県、京都府、高知県、沖縄県でも8割を超え、各地で病床の確保が課題になっています。

「医療崩壊」の危機が迫る中、専門家は、受け入れができる医療機関を各地で増やすなど、態勢整備を急ぐべきだと指摘しています。

新型コロナ対応のベッド数と入院患者数

NHK調べ 4月13日時点の最新データ

都道府県 新型コロナ対応
ベッド数
入院中の患者数
(入院が必要な人を含む)
ベッドに対する割合
北海道 300 95 32%
青森県 38 19 50%
岩手県 184 0 0%
宮城県 388 34 9%
秋田県 93 10 11%
山形県 150 39 26%
福島県 111 35 32%
茨城県 200 94 47%
栃木県 130 28 22%
群馬県 200 60 30%
埼玉県 225 141 63%
千葉県 308 162 53%
東京都 2000 1959 97%
神奈川県 400 130 33%
新潟県 234 14 6%
富山県 155 40 26%
石川県 110 85 77%
福井県 100 68 68%
山梨県 28 ※ 29 104%
長野県 227 34 15%
岐阜県 458 105 23%
静岡県 88 37 42%
愛知県 300 185 62%
三重県 24 6 25%
滋賀県 40 33 83%
京都府 140 145 104%
大阪府 540 647 120%
兵庫県 259 266 103%
奈良県 64 32 50%
和歌山県 45 21 47%
鳥取県 265 1 0%
島根県 200 7 4%
岡山県 120 14 12%
広島県 119 32 27%
山口県 40 18 45%
徳島県 130 0 0%
香川県 24 7 29%
愛媛県 70 23 33%
高知県 42 40 95%
福岡県 250 222 89%
佐賀県 24 12 50%
長崎県 102 12 12%
熊本県 312 21 7%
大分県 118 27 23%
宮崎県 56 14 25%
鹿児島県 143 4 3%
沖縄県 60 58 97%

※他にも確保の病床あり(数は非公表)

NHKでは全国の放送局を通じて、4月13日、新型コロナウイルスに対応する病床や入院患者数などについて都道府県などに取材しました。

それによりますと、新型コロナウイルスの患者が入院するために確保している病床の数は、全国合わせて9600床余りで、現在の入院患者は少なくともおよそ5000人に上りました。

都道府県別に、確保できていると公表している病床数に対し、入院患者数が8割を超えているのは9つの都府県で、東京都と大阪府、兵庫県、福岡県の緊急事態宣言が出されている地域のほか、山梨県と滋賀県、京都府、高知県、沖縄県でも8割を超え、各地で病床の確保が課題になっていることが分かりました。

また、重症患者の治療を優先するため、軽症の患者には宿泊施設や自宅などで療養してもらう対応をすでにとっているのは8つの都府県でした。

そして、宿泊施設や自宅で療養や待機をしている人は、病床が確保できていない人たちも含めて16の都府県で合わせて少なくとも900人を超えていました。

このうち、緊急事態宣言が出されている埼玉県、千葉県、神奈川県では、自宅などで療養や待機をしている人がそれぞれ100人を超えています。

さらに、医療態勢について、懸念されることを聞いたところ、医療用マスクなど感染を防ぐための物資の確保や、宿泊施設に軽症者を移すための医療スタッフなどの不足、それに大病院に患者が集中することや、院内感染などを挙げています。

国立国際医療研究センターで患者の治療にあたっている忽那賢志医師は、「これまで患者を受け入れていない病院も一丸となって治療に当たらないと回らなくなってしまう。患者が少ない地域でもいまのうちに病床を確保しないと追いつかなくなる」と述べ、各地で対応できる病床を増やすなど、重症化する人を救う態勢の整備を急ぐ必要があると指摘しています。


東京都のベッド数の状況は?
「医療崩壊」の危機迫る

2020年4月14日更新

感染拡大が続く新型コロナウイルス。東京ではこのところ、連日、新たに確認される患者が100人を超え、東京都は患者が入院するベッドを毎日増やしてなんとかしのいでいます。

次の表は、東京都内で入院している人の数と、重症者数、それに新型コロナウイルスに対応した病院のベッド数をまとめた表です。

東京都は病床数を増やしていますが、新型コロナウイルスに感染して入院や療養が必要な人の数が増加し、医療機関は厳しい状態になっています。

医療機関で受け入れ可能な人数を超える患者が発生すると、人工呼吸器が足りなくなり、ふだんなら助けられる命が助けられない事態になるおそれがあります。

人工呼吸器が足りないとき、誰に人工呼吸器を装着して助けるべきなのか。
誰かの人工呼吸器を外して、より助かる可能性の高い人に装着することはできるのか。

そのとき、どう判断するのか、専門家たちは厳しい問いについて考えておかなくてはいけないと問題提起しています。

人工呼吸器が足りない… 「医療崩壊」が起きた現場は

感染者の爆発的な急増で、医療体制がひっ迫しているイタリア。これまでに亡くなった人は、およそ2万人に上っています。(4月13日現在)

イタリア北部の街の病院では、新型コロナウイルスへの感染が疑われる患者が連日60人から90人ほどやってきて、「誰を助けるか決めないといけない」状況だと、アメリカの医学雑誌に報告されています。

病院では、人工呼吸器が足りなくなり、つけられなかった人が持病がなかったにも関わらず、亡くなったとしています。

「もう限界に来ている。この状態が続けば医療体制は吹き飛ぶだろう」

患者数が爆発的に増えているアメリカ・ニューヨークでは、クオモ知事が4月6日の会見で、人工呼吸器が足りなくなり、1台を2人に使うなどしてしのいでいる厳しい状況だと述べました。

日本の集中治療のベッド数は決して十分でない

こうした状況が、日本でも起きるおそれがあります。

いまのところ、日本国内では人工呼吸器は不足していません。しかし、日本集中治療医学会は、日本は人口10万人あたりの集中治療のベッド数がイタリアの半分以下で、このままでは集中治療体制の崩壊が非常に早く訪れることも予想されると危機感を示しています。

対応できる医師や看護師なども十分ではないとされ、「医療崩壊」のおそれが現実味を帯びてきています。

【人工呼吸器を誰につけるのか 迫られる選択】

連日報道される欧米の医療崩壊は、決して対岸の火事ではない。3月30日、医療倫理を研究する医師や看護師、弁護士などの有志のグループがある提言を発表しました。

「COVIDー19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言」。

提言では、感染がさらに拡大して重症の患者が急増した場合、人工呼吸器が不足し、災害医療におけるトリアージの概念が適用されうる事態だとしています。

数の限られた人工呼吸器を、どの患者に装着するか。人工呼吸器で命をつなぎ止めている患者の呼吸器を、救命の可能性がより高い患者のために取り外すことが許されるのか。許されるのなら、それはどんなプロセスで判断するのか。こうした「未曽有の倫理上の問題に直面する」と警告しています。

もし、そのような事態になったら、どう判断して、どんな答えを出すのか。有志のグループは、『判断の基本原則』を次のようにまとめました。

  • 医療上適切かどうかや、「患者本人の意思」に基づいて行う。
  • 非常時には、救命の可能性がきわめて低い状態の患者への人工呼吸器の装着など、効果が期待できない医療は控えざるを得ない。
  • 医療やケアのチームで判断し、その内容を記録して患者や家族と共有する。

そして、誰かの人工呼吸器を取り外して、救命の可能性が高い患者につける選択の場合、病院の倫理委員会で検討して承認を得ることを原則とし、取り外される患者と新たに装着される患者の救命可能性の差が明らかである必要があるとしています。

こうした倫理上の問題に直面する判断について、あらかじめ、医療機関で対応の方針を決めておくことや、救命できるかどうか判断する際は、性別や社会的地位などによる差別をしないことなどを強調し、医療機関や行政、学会に、この提言を土台にして早急に議論を始めるよう強く要請しました。

“命の選択” 患者になる立場で全員に考えてもらいたい

提言の原案を作成した東海大学医学部の竹下啓教授は、医療者だけでなく、患者の立場になるかもしれない私たちにも、考えてもらいたいことがあると訴えています。

東海大学医学部 竹下啓教授
「患者になる可能性のある人たち。いまの状況であれば、それはすべての国民です。すべての方に、自分や家族が重篤な状況になるかもしれないという可能性がある。もしかしたら医療資源が足りず、途中で治療を諦めなくてはいけないかもしれない。そういうことを知っておき、そういうときに自分たちだったら、どうしたいのかということを話し合っておいてもらいたいと思います」

「最後まで、人工呼吸器をつけて頑張りたい」
「少しでも見込みのある人がいるなら、そちらに使ってもらいたい」
究極の状況で何を望むのか、家族や身近な人たちで話し合ってほしいと竹下教授は訴えます。

そうすることで、患者本人と家族、そして判断を迫られる医療従事者の精神的な負担を少しでも軽くすることができます。

東海大学医学部 竹下啓教授
「発症してからだと、呼吸も苦しかったり、急激に症状が悪化すれば時間がとれず、十分に話し合いができない可能性があります。また感染症の病棟に入れば、家族などは面会が厳しく制限され、物理的にコミュニケーションがとれない可能性もある。だから、いまからご家族と、大切な人と、話し合っておいてもらいたい」
「人工呼吸器が不足する事態は、もしかしたら避けられるかもしれない。私たち自身、『転ばぬ先の杖』になってくれればいいという気持ちでこの提言を作りました。でも、万が一の事態になってからでは、遅いのです」

誰もが患者になりうる

新型コロナウイルスの感染拡大は止まらず、4月7日には緊急事態宣言が出されました。それでも、どこか、自分は大丈夫と思っていないでしょうか?

専門家会議のメンバーで東京大学医科学研究所の武藤香織教授らのグループは新型コロナウイルスに関する行動に関して、3月下旬、インターネットを通じて意識調査を行いました。

20歳から64歳の1万1000人あまりが回答した調査で、76.4%の人が、「感染拡大を防ぐため、なんらかの対策をとっている」と答えた一方、「体調が悪化したときの相談先や移動方法を準備している」は、41.5%にとどまりました。

調査が行われたのは、緊急事態宣言が出される前ですが、研究グループは、「自分や家族も感染して患者になるかもしれないという意識」が根付いていない可能性があると分析しています。

東京大学医科学研究所 武藤香織教授
「自分が患者になる、ということを、まだどこかひと事として捉えている人も多いのではないでしょうか。患者の体験談などに触れて、もし患者になったときどんな事態が待っているのか、家族で話し合っておくことが必要だと思います」「患者や家族の立場として、ひと事ではないという気持ちで、心の備えをしてほしい」

最悪の場合を想定し 私たちはどう行動するか

日本はいま、感染者が爆発的に急増するかどうかの瀬戸際の状況になっています。自分や家族も患者になりうる。そして、最悪の場合、イタリアの医療現場で直面しているような厳しい選択を迫られることも起こりえます。自分にも起こりうることと受け止め、いま、私たちはどんな行動を取るべきなのか、考えておく必要があります。

(科学文化部 水野雄太)