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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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ゼルトブル

 ラトの研究所を出た所で、村に奴隷商の馬車が来ていた。


「どうも盾の勇者様!」


 最近良く来るな。

 まあこの村出身の奴隷を探せと頼んでいる訳だからしょうがないが。

 俺はコイツがあんまり得意じゃないんだよな。色々な意味で。


「新しい奴隷でも見つかったのか?」

「いえ! 見つかっておりませんです。ハイ」

「何しに来た! 帰れ!」


 塩を撒くか?

 暇だから食事をたかりに来たとか言い出したら張り倒すぞ。

 ちなみに塩は貴重じゃない。海が近くにあるからな。


「意味も無く顔を出したらこの対応、ゾクゾクしますね」

「お前は俺をシェフにでもしようとしている節があるからな!」

「と言うのは冗談です。ハイ」

「喧嘩を売っているのか?」

「いえいえ、盾の勇者様をお誘いに来たのですよ」

「……誘い?」


 奴隷商は高らかに腕を上げる。いちいち大げさな奴だ。

 どうせ、またろくでもない事だろうよ。


「ゼルトブルへ奴隷の買い付けにですよ!」

「買い付けねー……」

「私の親戚筋が是非、盾の勇者様に奴隷を買いに来てほしいと言いましてね」

「割引してくれるんだろうな?」

「目玉商品を準備してくれているそうですよ」

「高いんじゃないのか?」


 あんまり高い奴隷は欲しくない。

 というか、ラフタリアの同郷の奴を重点的に探しているんだが。

 今までの統計から、この村の奴は良くも悪くも値段はそこまで高くない。

 まあ子供が多いからLvは必然的に下がるし、年齢的にも奴隷として理想水準を下回っているからな。


「そこは、勇者様でもお買いになれる範囲で、工面いたします」

「多少は金があるから行っても良いが……」


 バイオプラントから採取した食料やキール達のLv上げで倒した魔物などの解体品から金銭は程々に稼いでいるし、現状金銭的には困っていない。

 強いてあげるなら、そろそろ武器屋の親父に盾や武器を依頼しようか悩んでいた位だ。


 村の方も以前と比べれば良くなってきた。

 一応、俺がいなくても村が回る位には発展してきている。

 それこそ、俺が料理する頻度が減る程度には回せている。

 ……ぶっちゃけ料理をしているのは、キール共が騒ぐのが原因だが。


「片道でどれくらい掛るんだ?」

「そうですねー……本来は船の方が早く行けますが、勇者様のご自慢のフィロリアルの足で三日でしょうか」


 フィーロの足で三日か……かなり遠いな。

 他国だから当たり前か。

 というか、随分前に勇者共がゼルトブルの武器屋が優秀だとか言っていたな。


 逆算するとアイツ等は一度行ったって事だ。

 ああ、だからあの時点で思いの他Lvが高くなかったのか。

 武器は相当優秀だったけどな。

 未だにアイツ等が使っている武器でわからないのが結構あるし。


 閃光剣とか、サンダーシュートとか、ポータルスピアとかな。

 正直、何から出るのかさっぱりわからん。

 この辺だけでも、今度あったら聞いておかないとな。

 アイツ等が言う確率は低いだろうが。


「船だと?」

「四日でございますね」

「ふむ……」


 俺はチラリと村の連中を見る。

 なんだかんだでみんな真面目に復興作業に従事している。

 イミアは……デューンと一緒に地面を掘っている最中だ。

 モグラだからか似合うな。


 ラフタリアは行商時の注意事項を教えていて、フィーロは昼寝をしている。

 リーシアとキールは女騎士に剣を教わっているようだ。

 戦闘意欲の高い奴隷はキールと同じように兵士に教わっているな。


 まあ、一週間くらい村を空けていても問題は無いか。


「じゃあ行くとするか」

「そう言われると思っておりました!」

「ラフタリア、フィーロ、あと他の奴らも一旦集合」


 俺は全員を呼ぶ。


「これから一週間くらい俺は村を空ける。メンバーはラフタリアとフィーロとー……」


 誰にするか。奴隷の買い付けだからなぁ。

 ゼルトブルには、確か樹が目撃された情報があったよなぁ。

 ……リーシアを連れていくか。


「リーシア、来るか?」

「はい!」

「リーシアが抜けた穴はキールに任せる」

「わかったよ、兄ちゃん」

「あんまり調子に乗るなよ?」

「わ、わかってるよ!」


 リーシアとキールだと経験や考え方の差からか、リーシアの方がLv上げが上手だ。

 リーダーの資質とでも言うんだろうな。器用貧乏はこう言う所が上手い。

 言い換えれば、全員の特徴を全部知っている訳だから指示は的確になる。


 フィーロやラフタリアを戦闘から外した場合の成功率は村でも一番高い。

 危険過ぎず、安全過ぎない、適正なラインで戦ってくれる。

 どちらかといえばフィーロ達は力技で経験値を稼いでいる状況だからな。

 奴隷達に実際の経験を積ませる、となるとリーシアが一番だと思う。


 その穴をキールに任せるとなると、若干不安だ。

 大怪我をして帰ってきた事もある分尚更な。


「何かあったら町の方に居る薬屋に頼むんだぞ。後、回復魔法を習得した奴にもな」


 魔法屋が時々、授業のように魔法のイロハを教えてくれているお陰か、簡単な魔法なら使えるようにもなってきた。

 まあ、一週間くらいならどうにかなるだろう。


「で……お前は」


 谷子を見ながら俺は考える。


「あんまりラトと魔物の事で張り合わないようにな」

「ババアが魔物に悪い事するんだもん!」


 まったく、谷子は魔物が好き過ぎるだろ。

 一体どんな生まれだ?

 今度話を聞かないといけないな。


「ああ、そうだ。キール、ラトに良ければと条件を付けさせて狩りに誘ってみてくれ」

「ん? 分かったけど、なんでだ?」

「フィーロを簡単に往なした女だぞ? 実力は十分にあるはずだ。魔物にも詳しいみたいだしな」

「わかった」

「一応、女王にイワタニ殿がゼルトブルへ行くと報告しておこう」


 女騎士が答える。


「別に何か問題がある訳じゃないだろ?」

「そうだな、おそらく女王も許可を出してくれるだろう。あの国もその辺りに細かくは無い」

「ついでに前と同じプランで行こう、ラトの監視は続けてくれよ」

「わかっている」

「……他に必要な事項は無いか。じゃあ行ってくる」


 こうして俺は奴隷商の誘いを受け、ゼルトブルへ向かうのだった。



 ちなみに、奴隷商と屈強な男二名が俺の馬車に自分たちの馬車を連結させてフィーロに進ませている。


「いやぁ、早いですねー」

「まあな……」

「そして気持ち悪いですねー。ハイ」


 笑いながら顔が青い。ギャグならお笑いものか?

 屈強な男も馬車の外に顔を出して既にリバース中だ。

 慣れなきゃフィーロの馬車には乗れん。完全に舗装された道じゃないから揺れるんだよな。

 フィーロの時速ってどんなモノだろう。

 早いとは思うが……。


「あははははははははー……楽すぃいー!」


 爆走するフィーロの声ってなんかやばいんだよなー。

 ヤクとかやってそうな……。

 あれが本能って奴か?



 こうして三日後、国境を越えて案外簡単にゼルトブルの首都に到着した。


「結構賑わっているな」


 ガヤガヤとメルロマルクの城下町よりも賑わった人通りを通り過ぎる。

 まだ俺の顔を覚えているような奴はいないようで何も言われない。


「そういやゼルトブルってどんな国なんだ? 今一知らないんだが」

「では私が説明いたしましょう」


 奴隷商が楽しげに説明しだす。


「傭兵の国ゼルトブル。この国の生業は、その通称の通り、傭兵業でございます」

「ああ、そうだとは思っている」

「傭兵の意味はご存知ですな。戦う事で金銭を稼ぐ職業です。冒険者業の統括を行っているギルドとも深いパイプを持ち、武器防具の流通から薬などの消耗品も一挙に引き受ける商業都市の側面も持っております。他の国に類を見ない程の規模で金銭が動く国でございます」

「活気はあるな」


 トコトコと進む馬車の中から外を見ると、確かに頷ける。

 メルロマルクの城下町も活気があるが、それよりも雑多な印象を受ける。

 活気のある商店街とスラム街が交互に続いているような、そんな感じ。


「ちなみにこの国に王は存在しません。大商人が議員となって運営しております」

「へー……」


 共和国的な方針の国か。

 まあ傭兵なんて謳っている位だからな。能力社会なのかもしれん。


「戦争にはゼルトブルの影ありと言われるほど闇の深い国でもあるので勇者様はご注意を」

「わかっている」

「私の一族もここに本拠地を構えておりましてね。儲けさせて頂いております」

「……そうだろうとは思っていた」


 なんて言うか、昨日悪夢を見た。

 奴隷商そっくりの連中が何十人も現れて俺に奴隷や魔物を勧める悪夢を。


「そして有名なのがさまざまな場所で開催されるコロシアムでございます」

「コロシアム?」


 って闘技場だよな。

 傭兵同士を戦い合わせて、賭博行為を行っているのか。


「この国の名物ですので、是非勇者様もご覧になって頂けると来た甲斐があるというものですよ」

「考えておく、で、何処へ行けばいいんだ?」

「大通りから外れ、あちらの裏路地へと行って頂けるとよろしいかと」

「分かった。フィーロ」


 奴隷商の指示する裏路地へフィーロを誘導する。

 すると……。

 何処からともなく縄がフィーロめがけて飛んできた。


「へへへ、珍しい魔物を連れてるじゃねえか!」


 なんか野蛮そうな男共が現れる。

 こいつ等、フィーロを知らないのか。

 まあ、他国にまで遠征した事が無いので知らない奴もいるか。


 それにしても、誰か似ているな。コイツ等。

 アイツ等はもう檻の中だがな。


「やー!」

「ぐはああああああああああああああ!?」


 ガチャンとフィーロの首に、縄を掛けて無謀な盗みをしようとしたアホがフィーロに蹴られて宙を舞う。

 ……野蛮な国だな。


「な、なんだこいつ! 大人しくしろ! ぐは!?」

「凶暴な魔物だ! 早く締めあげ――ぬぐぐうううううううううううううう!?」


 あ、フィーロが馬鹿一人に頭から噛みついた。

 ジタバタ暴れているけど、しばらくして大人しくなる。堕ちたな。


「ば、化け物だぁああああああ!」

「助けてくれー!」


 ペッとフィーロは堕ちた奴を吐き捨てて、首に巻きついた縄を引きちぎる。


「もうちょっとしょっぱい方が良いなーあんまり健康じゃないみたい」

「……」


 本格的に人食いになりそうで怖い。

 変な方向に成長をしているような気がする。


「フィーロ、人は食べ物じゃありませんよ」

「んー?」


 所詮はフィロリアル。理解力の発達は遅れているのか?

 面倒だ。使い道を考えれば、あまり知能は無い方が好ましい。


「フィーロ、人はな、子供の方が美味しんだぞ。やわくて」

「ナオフミ様も何を言っているんですか!」


 ゲームとか小説の化け物とかがそんな話をしていたような覚えがあるので、教えてみる。

 しかしフィーロは首を多く振って拒否した。


「やー!」

「フィーロにはこう言った方が効くんだよ」

「ああもう……ご理解なさっているのかなさっていないのか……」

「だからフィーロ、人は脅し以外で食べるような真似はしない方が身のためだ」

「うん。なんかこうした方が逃げていくと思ってやったの」


 む……脅しを理解してやっていたのか。

 意外と学んでいる。

 あまりに頭が良いと困るが、この程度ならまだ良いか。


「しょっぱいというのは?」

「舐めた味」


 ……そこから人の味を覚えない事を祈るしかないな。



 馬車を奴隷商の知り合いの店に停める。


「リーシアはどうする?」

「……私はイツキ様を探そうと思います」


 ここ数日、あんまりしゃべらず考え込んでいたリーシアが意思を告げる。

 大体わかっていたが、リーシアは相変わらず樹に惚の字か。

 実際、他の勇者は消息が掴めているが、樹はまるで情報が無い。

 というか、前からアイツは情報が無いというか、地味だったからな。

 将軍プレイによる、ヒーローごっこが主な原因だけどさ。


「わかった。じゃあ、晩に馬車を預けたこの店で集合だ。それまでは自由に探していてくれ」

「わ、わかりました」

「フィーロは?」

「リーシアだけじゃ不安だから付いて行ってくれ」

「はーい」


 人の姿に変身したフィーロにリーシアの護衛を頼む。

 リーシアも結構強くなってるから問題は無いと思うけど、変なのに絡まれる危険が無い訳じゃない。

 治安は良くないみたいだし。


「あとリーシア」

「なんですか?」

「着ぐるみは脱いで行け」

「わ、わかってますよう!」


 とか言いつつ、ずっと着ていたじゃないかとはツッコミを入れるべきか?

 それ所じゃなかったとかそんな感じだと思いたい。

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