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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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本当はわかっている事

 錬は隣国の波を仲間と共に鎮め、その途中で更なる強さを得る為に霊亀の眠る地へ出向いたのだと言う。

 元康と発想が同じだとここで、突っ込みを入れたくなったが我慢して話を聞く。

 錬の話ではここに眠る霊亀というボスはこれから起こる事件の黒幕だから早めに始末しようという考えだったらしい。


「ここでもうすぐ、疫病が蔓延し、人々が倒れる……そして倒れた人々の死体を操る黒幕がこの地に居るんだ」


 なんでも錬の知るゲームの話では、この地域一帯全てが手遅れになる程の大きな被害が起きて、それこそ……国を挙げての調査班が組織されるほどにまで火が大きくなるそうだ。

 だから先にその事件を未然に防ぐのが目的となっていた。

 適正Lvは60前後。80もあれば余裕でボスである霊亀を倒せると踏んだ。

 ……元康の時と同じだな。



「一応聞いて良いか?」

「なんだ?」


 説明を遮って俺は錬に尋ねる。


「こう言う時のネットゲームって事前にそのマップとかに行く事が出来る、もしくはその事件が起こってからの侵入になるよな」

「そうだな、確かアップデートエピソード7、霊亀の暗躍だったか。それまではちょっと変わっているが普通の町なんだ。狩り場としてもな。だけどそのアップデート後は入るのに許可が必要になった」


 ……アップデートエピソード7。

 青い砂時計の数字も7とするに……符合する。


「続けてくれ」

「ああ」



 国に教えなかったのは、ゲームの前情報で、既にこの国の重鎮は霊亀に洗脳状態になっており、冒険者や他国からの干渉は受け付けない状態となっているそうだ。

 クエストとかでもその辺りが事前に語られるらしい。

 だから、やるだけ無駄。

 頭が痛いな。まだ洗脳されていないかもしれないと言うのに、いきなり実行したのか。

 元康の時と同じように近くのクエストで侵入する寺院の地下に入った。


「あの、レン様。このような真似をしてよろしいのでしょうか?」

「何を言っているんだ。ここで眠る化け物は国の上層部を洗脳している。話をするだけ無駄だ」

「貴様ら! 何者だ!」


 霊亀の正体を露わす仏像を破壊しようとした時、兵士が駆けつけてきた。

 こんな人知れず存在する寺院の地下にまで来れるというのは既に洗脳されている証、錬は走り出した。


「気にするな! まだ洗脳されていない連中の為に俺たちは突き進むぞ!」

「「「「はい!」」」」


 仲間と共に像を破壊した。


「な、なんて事だ……歴史的価値の可能性が……」


 侵入してきた兵士が声を漏らし、武器を取り落とす。

 元康の時も思ったが、文化財的な物だったんだろう。

 まあ……四聖勇者の伝説や七星勇者が残した碑文があるからな。

 この世界の伝承からして歴史的価値は計り知れない。


「む……その剣は……まさか剣の勇者!?」

「知られたからには答えるしかないな。俺は剣の勇者であり、この地に蠢く闇を倒しに来た。安心してくれ、俺達が黒幕を排除する!」


 そう言っている最中にゴゴゴと地震が起こる。


「よし! 霊亀が姿を現したな! いくぞ!」


 兵士達を気絶させ、錬は仲間と共に寺院から出て、出現した霊亀に向けて走り出した。


「大きい……こんな相手に勝てるんですか!?」

「勝てる! 俺達は十分強くなった!」


 確証を持って錬は言い放ち、霊亀に向けて走り出す。

 その途中で誰かがスキルを放っているような演出が見えたが、近くにいる冒険者が戦っているのだろうと気にしなかった。

 並みの冒険者ではこの化け物を倒せないと自惚れながら霊亀に向けて剣を振るった。


「ハンドレットソード!」


 流れる様に発動に時間の掛るスキル、雷鳴剣に繋げる。


「雷鳴剣!」


 しかし……霊亀には、大したダメージを与えられなかった。

 この辺りは元康と同じような事だったから省略。

 錬は首を傾げながら剣を振るう。

 諦めず、霊亀を倒して、人々を救うために戦い続ける。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ――気が付いた時、霊亀は遠くへ歩いている最中で、錬の周りには……仲間の死体が転がっていた。

 それはもう……無残な死体で、身元なんて分からないほどだった。

 ただ、ぼんやりと仲間が死んでしまったのだけは理解したという。


「な……嘘だろ……全員、Lv80あったはずなのに……」


 そんな馬鹿な! と錬は頭が真っ白になった。

 それからしばらく放心していた。僅かな可能性としてゲームのように蘇生を願った。

 だが、それが叶わない事を、さすがに錬も理解していた。


 やがて錬は、霊亀の使い魔の猛攻を掻い潜って逃げ切った後意気消沈し、意識を失った。

 気が付いたのは霊亀の猛攻が全て終わった頃だったらしい。



「俺が負けたのは、アイツ等が弱かったからだ。そして弱いから死んだ……もっと連携を駆使すれば勝てたんだ」


 淡々と、自分は悪くないと言うかのように呟く錬。

 これは……救いが無い。錬を信じて最後まで戦ったアイツ等も浮かばれないな。


「俺は悪くない。アイツ等が想像よりも弱かったのが原因だ。悪くない。悪くないんだ!」


 ……これは自分の罪から逃げる為に言っているな。

 同情する必要は無い。

 いや、甘言を口にする事こそが今の錬に最もしてはならない事だ。


「お前が悪い。いつまでもゲーム感覚でいたツケだろ。お前がやったのは無謀な突撃だよ」

「何!?」


 錬が怒りの形相で俺に怒鳴る。


「お前を本気で信じて付いてきた仲間にそんな事しか言えないとは……勇者どころか人間失格だな」


 仲間の為にとか綺麗事を言うかと思えばもっと悪い。

 自分は悪くないとか。

 コイツ……俺の想像した通りの自分勝手な後輩育成プレイしかしたことがないのか。

 強すぎるボスに特攻して仲間を全滅させて、弱いのが悪いとか言いきるとか……ラフタリアの言葉通りになったのも頷ける。


「この世界はゲームじゃない。いつまでもそんな感覚で居られると困るんだよ」

「う、うるさい!」

「どんなに後悔しても、俺達は波が終わるまで元の世界に帰れない。元々はこの世界の連中が行った身勝手な勇者召喚という名の誘拐だったかもしれないし、確かに俺達に非は無い。だが、駄々を捏ねても生き残った奴は戦わなくちゃいけないんだ」

「くっ……!」

「お前は俺に言ったよな『都合が悪くなったら逃げるのか? 最低だな』って、その言葉を口にしたお前だからこそ言いたい。お前は最低に成り下がるのか?」


 もはや自業自得だな。

 仲間が死ぬまで危険の有無の分析も出来ないとは……俺だってちゃんと戦えるかを試して進むと言うのに、こいつは全部ゲーム知識でしか物を語っていないんだ。

 自ら調べる事もせず、先人が見つけた物をネットで知り、攻略していく。

 ある意味、卑怯者だ。自ら発見した事なんて無いんじゃないか?


「もうゲームは終わったんだ。その知識は役に立たないんだよ」

「違う! 俺は……俺は、悪くない!」

「違わないね。『許されないぞ』とお前はラフタリアに言った。お前が認められないなら俺がお前に言ってやる。お前のした事は許されない。お前は立派な人殺しだ」

「黙れ……うるさい……口を開くな……」


 ふるふると自分を責める様に震える錬。

 疫病の村で多くの人を死に追いやった時に自分が悪いと認め、その場へ向かおうとした姿が思い出される。

 自分の中で答えが出ている。でも、それを認められない。いや、認める訳にはいかないと言ったところか。

 本当はわかっているんだ。


「わざとやった事じゃないのは理解している。だが、それでもお前は生きている。生きているからこそ、しなくちゃいけない事があるだろう?」

「うるさい! 口を閉じろ!」

「何度でも言ってやる。本当はわかっているんだろう? お前が今、何をしなくちゃいけないのか」

「黙れぇええええ!」


 剣を抜き、錬は振りかぶる。

 俺は盾で錬の攻撃を往なす。

 カンと盾から軽い音がした。

 ……んん?


「食らえ!」


 返す刃で錬は俺の顔面に向けて切りつける。

 俺は……守りすらもしなかった。

 ガン……と、金属音が俺の耳元でする。

 ニヤリと錬は笑う。しかし直後に信じられないと言うかのように大きく見開く。


「な……馬鹿な……」

「お前の今装備している剣、霊亀の素材で作られた物のようだが……弱すぎないか?」


 そう、錬の攻撃を、俺は構えることなく受けきれた。

 もちろん、完全強化している盾だが、幾らなんでも弱すぎるだろ。

 ラフタリアなら今の攻撃をしたら俺は傷を負ったはずだ。


「その程度で霊亀に勝てるとか無謀も良い所だ」


 60で勝てるとか間違っているだろ。

 いや……あくまで憶測だが、ちゃんと強化していたら勝てるのかも……周りの被害を考えず避ける事を意識していたら……霊亀の攻撃って鈍重ではあったから、できなくはないはず。

 ま、心臓と頭の同時破壊を度外視したらだけど。

 そして見た感じ、錬は自分の知る強化方法しかしていないようだ。


「影の話をちゃんと聞いていなかったな。お前の敗因は――」

「嘘だ! そんなに盾が強いはずがない! チートだ! 強さを独占するな!」


 お前が言うな!

 と突っ込みたい衝動に駆られたが、今はそれ所じゃないな。


「現実を直視しろ! お前の敗因は――」

「チッ!」


 錬が剣を高らかに掲げる。


「閃光剣!」


 剣がフラッシュして目が眩む。


「く……お前!」


 ガンガンと何度か俺を切りつけ、そして……。


「うわああああああああああああああぁ!」


 悲鳴の様な声を張り上げ、走り去る足音が聞こえ、視界が元に戻る頃には錬が消えていた。


「め、目が……」


 酒場の連中も目が眩んで、困惑している。


「大丈夫だ。眩しいだけで問題は無い。じっとしていてくれ、暴れると危ない」


 俺が注意するとみんな落ちついて、視力が回復するのを待った。

 まったく、迷惑ばかりかける奴だ。


 というか……錬であの程度の強さって……俺の中で錬は一番強かったはずなんだが。

 こりゃあ期待できないな。

 ラフタリアでも余裕だろ、あれなら。


 ちゃんと強くしているのならもっと強いはずなのになぁ。

 だけど、それは自分の非を認めなくてはならなくなってきているんだろう。

 正解だと確信している事を疑うのは難しい。

 ましてやその所為で仲間が死んだと……今の錬には認める事が出来ない。


 いっそ楽にしてやるのも一つの方法かもしれないが……。


 この考えは保留だな。

 俺だけで決めて良い問題じゃない。


 それに、些か外道な考えだが、あいつ等が苦しんでいる姿をもっと見たい。

 俺の苦しみを理解しろ。

 何をしても悪く取られる、あの地獄の様な日々をもっと味わえ。

 僅か二週間と少し程度で投げ出されては困る。

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