御用
隣の町には魔法屋、薬屋、洋裁屋が既に店を構えている。
まだ仮設の家に近いけど、とりあえずは店舗として機能を始めた。
「あ、勇者様。いらっしゃい」
魔法屋が出迎える。
以前の店と比べればランクは幾分下がるがある程度優遇している。
再建したばかりの領土の町としては十分な規模だろう。
「どうだ?」
「まあぼちぼちね。城下町の方でも店の再建の目処が立ちそうって所よ」
「じゃあこっちが支店だな」
「そうね。それまではここで店を開きつつ、そちらに魔法を教えに行くわ……なんか面白い事してるでしょ?」
魔法屋も研究者である故に俺の村の変化に気付きつつある。
あれは確かに魔法と呼ぶにふさわしい進歩だ。
「……ふん」
薬屋もその匂いを感じ取っているのだろう。
時々俺の村の方に視線を向ける。
「研究が進んだら薬屋にも世話になる。楽しみにしていてくれ、人手も増やす予定だから手伝ってくれるとありがたい」
「……分かった」
「でー……洋裁屋は何処だ?」
「入れ違いになったんじゃないかしら? 勇者様の村へ行ってくるって出かけて行ったわよ」
ふむ……まあ、魔物の素材を洋裁屋には渡してある。
近々素材で作った服を持っていくとも言っていたな。
寸法とかを測りに行ったとみて良いだろう。
「ここも大分復興してきたな」
村に比べて人手が多いからか、日に日に建物が増えていく。
領主の屋敷も建てなおす計画らしい。
今は土台が組まれていて、完成は二週間後を予定しているとか。
「色々とすまない」
「問題無いわよ。ここでちょっと余裕のある連中で作って貰っているだけだから」
「そうか」
「その代わりに盾の勇者様が作った食事を食べさせて貰える時があるって、大喜びなのよ。そんなに美味しいのかしら? ご相伴に預かりたいわ~」
……時々、援助として飯を作りに行くがそれでやる気を出されているのか。
どうも盾の料理技能は優秀だな。
「まあ良い。二、三日行商に行ってくるから帰ってきたら飯でも作るさ」
「じゃあ、そう伝えておくわね」
「はいはい」
俺は手を振り、隣の町から出て行商を始める。
今回の同行する奴はラフタリア、フィーロ、他二名だ。
意図的に戦力を集中させて、ラトや他の勢力が何かしてこないかを調べる為の割り振りでもある。
行商二日目。
目的の商品が大体捌けた所で、大きな町に到着した。
「ん?」
自警団の詰め所前で何やら騒ぎが起こっている。
無視しても良いのだが……。
「なんでこいつらが無罪放免で俺が疑われなくてはならない!」
と、聞き覚えのある声が聞こえたので馬車を停めて近付く。
人垣が出来ているので、ふと尋ねる。
「どうしたんだ?」
「なんでも剣の勇者が盗賊を捕まえたって連れてきたんだけど、疑わしいんだとよ」
……どこかで聞いた事のある話だな。
「ん? あんた盾の勇者じゃねえか!?」
そこで気付かれた。まあ、後ろには目立つ様にしている馬車があるし、フィーロも連れているからな。
人垣が割れて首謀者が見えてくる。
そこにはニヤニヤと笑みを浮かべる盗賊共と、錬が自警団の連中に向かって抗議している所だった。
んー……なんとなく経緯は理解できるな。
盗賊の奴ら、俺の時も似たような事をしていたし。
しょうがないか。俺は割れた人垣を進んで首謀者共の所へ行く。
「よう」
一応、下手に刺激したら危険だからそれとなく話しかける。
「そこに居るのは尚文じゃないか!」
「久しぶりだな」
錬がこれ幸いと言うかのように俺を手招く。
俺は錬にではなく、盗賊に言ったのだが。
盗賊の方は俺を一目見て瞬く間に青い顔になった。
まあ……合計二回、今回で三回目の遭遇だからな。知らないとは言えないだろう。
そもそも権力的に今は自警団に突き出す事も可能だ。
「お前等も懲りないなぁ。旗色の悪い奴に捕まったら自分は被害者ですって言い張れると本気で思っていたのか?」
「う、うるせえ!」
あ、これは実験になるかも。
俺が根底の原因なのは事実だが、コイツ等がその大本だし。
「フィーロー」
「なーに?」
人垣を飛び越えてフィーロがやってくる。
盗賊の奴ら、更に顔を青ざめる。
「召し上がれ」
「うん」
あ、やっぱり子供以外は食いもの認定なんだ。
ドスッと一歩踏み出したフィーロに盗賊の連中、必死に自警団に向けて縋りつく。
「俺達が犯人です! どうか助けて!」
自白はえー……そんなにフィーロが怖いのか。
いや、まあラト曰くフィロリアルは凶暴らしいし、ましてやそのクイーンだからな。
「いやいや……違いますよ。こいつ等は盗賊じゃありません。剣の勇者も誤解をしていまして」
アジトを喋らせて戦利品を得ないとな。
コイツ等、中途半端に能力がある所為か結構早く復活してくるし、金を溜め込むのが上手いんだよ。
今度も逃がして良い金になってもらおうか。
「尚文! お前まで」
「まてまて、お前は悪くは無い。良いから黙ってろって、俺に考えがある」
「喋る! 喋るし金を渡すから、俺達をその鳥の餌にさせないでくれ!」
「ねえごしゅじんさま、なんかフィーロ凄くイヤな予感がするの気の所為?」
「子供以外は食べ物と思っている所がダメだな」
「むー……」
人垣が囁き合っている。
『あの神鳥って人食い?』
『いや、盾の勇者様って脅しが上手だって噂で聞いたわ』
『ああ、やっぱり? 城下町で楽しそうに子供をあやしている神鳥を見たって聞いたものね』
良かったな、フィーロ。お前の正体が食欲の権化とは思われていないみたいだぞ。
魔物として扱われるか、人として扱われるかはこれからのフィーロ次第だ。
「と言う訳だ。そいつらは俺が悪名高い時も同じように冤罪を掛けようとしてきたんだ。みっちり絞ってくれ」
「は、はぁ……」
自警団の連中も呆気にとられた表情で俺に挨拶する。
「こいつ等の賞金、くれるよな?」
「あ、はい……ですが盗賊の首領を捕まえないと」
「アジト……」
「はい! 地図をお見せください!」
聞きわけが良くて助かる。
「よーしフィーロ、ラフタリアを連れて、この場所にいる連中を仕留めてこい」
「うん!」
「分かりました」
フィーロとラフタリアに地図を渡し、俺は出撃させる。
「他の連中は行商しておいてくれ」
「「はい」」
人垣が俺の馬車に向かって歩いて行く。
「盾の勇者様がこの場を収めた」
「凄いわね。あの嘘を言う盗賊たちを自白させる手腕」
「それだけ大変だったんだろうさ」
「そうね」
まったくだ。
正しい事をしても正しく罰する事が出来るとは限らない。
「さて、久しぶりだな、錬」
「あ、ああ……」
じりじりと錬は警戒しながら距離を取る。
「待て待て、別に俺はお前を捕まえる為にここに居る訳じゃない。話を聞きたいんだ」
「そ、そうか……どいつもこいつも俺を疑って掛りやがって、石まで投げてくる奴がいるんだぞ!」
錬がふてくされて答える。
その程度で済んでいるだけまだマシだと思うがな。
俺なんて知りもしない話で悪魔とか罵られたぞ。
主な原因はクズとビッチ、三勇教だけどな。
「とりあえず酒場にでも入って話すか」
錬を連れて酒場に入る。なんかぞろぞろと酒場内に一緒に入ってくる連中もいるが気になんてしていられないな。
酒場のカウンターに座り、飲み物を注文する。
ん? ついでにルコルの実が出てきた。
酒場のマスターが期待の眼差しで見てくる。
しょうがないな。一口頬張る。
「本物だ!」
「すげー!」
俺の証明はルコルの実っていうのが鉄板か。
なんとも微妙な扱いだ。
「色々と苦労しているみたいだな」
一応、当たり障りのない言葉を錬に投げかける。
この手のソロ思考、しかも追い詰められた奴は何をするかわからないからな。
実際、俺もラフタリアやフィーロを配下にする前は、復讐をする事だけを考えていたし。
「ああ……ギルドも勇者はお断りとか言いやがるし、フリーの魔物退治や賞金首討伐を行っても賞金はピンはねされる。挙句の果てにあれだぞ!」
クールを自称する錬が怒りを露わにして愚痴った。
ま、気持ちは分からなくもない。
「だから魔物のドロップとかを売って貰って細々と食いつないでいるが……うんざりしてきた。どいつもこいつも手のひらを返しやがって。なんで俺がこんな世界を守らなければならない」
「人なんてそんなもんだよ。盾の悪魔だった頃の俺はお前と同じか、それ以上だったんだぞ?」
「そ、そうか……」
「一応聞くが、霊亀の件にお前は関わっているのか?」
そういえば取り巻きがいないな。
逃げられたのか?
ま、錬がいなくても成り立っているような連中だったし、切り捨てられても文句は言えまい。
「いや……その……」
錬は凄く言いづらそうに言葉を濁す。
「またそうやって隠すのか?」
「そ、そういう訳じゃ……」
相変わらずの奴だ。
秘匿癖もここまで極まるとイラっとしてくる。
そういえばコイツには怨み辛みも沢山あるが、受けた恩も数えられる程度にはあったな。
「第二王女暗殺未遂の時だ。少なくとも、あの時のお前には感謝しているつもりだ。お前がした様に話は聞く。俺はやられたらやり返す主義だからな」
「……」
「言えないのなら錬、お前の立場はもっと悪くなるぞ。盾の悪魔みたいに」
「……分かった。話を聞いてくれ」
錬はポツリと呟き、話し始めた。