キャンピングプラント
「大分上手く行って来ているな」
「そうね。僅か二日でこれだけできる、私って天才だわ」
「ナオフミ様」
あれから二日、ラフタリアが若干恨みがましい目を向けている。
俺もちょっとやりすぎたかなぁ、とは思う。
ラトと一緒にバイオプラントの改造を行った。その成果は目を見張るものがあった。
やはり専門家を引き入れたのは大きかったな。
尚、既にラトは俺の奴隷と化している。俺に嘘を付いていないのをちゃんと確認した。
使った奴隷紋も高度だ。けして逃がしはしない。裏切りは死だ。
警戒は怠らないが、今の所研究に没頭していて、満足している様に見える。
本題はここからだ。
まず、バイオプラントの危険領域、知能とかその辺りの値を割り出して作り出した物をラトに魔物紋を刻んで貰った。
微調節しながらラトの用意した機材にバイオプラントの種を入れて、ラトが更に改造を施す。
フィーロみたいに解除される危険性もあったけど、これは概ね成功した。
完成した種を植えると同時に指示通りにバイオプラントは動き出すに至る。
今回の研究で作りたかったのは簡易的な家になるバイオプラントだ。
新しく奴隷がやってくる事を視野に入れて増築を行いたかった。
だからそんな面白植物が作れないかと制作した訳だ。
で、実験は成功。指示さえすれば家の形になる便利なバイオプラントが完成した。
その名もキャンピングプラント。
ラトが勝手に名付けた。面倒なのでそのままの名称だ。
効果は、屋根に花が咲き、間取りを覚えさせればちゃんとその形になる。
花の部分は陽の光で光合成し、夜までに魔力を蓄え、夜になると火を灯せるというオプション付きだ。
奴隷共の適応力は高く、一見危なそうなこのキャンピングプラントで作られた家に簡単に住み着いた。
一応、仮設住宅の扱いなのだが、キールの奴が、これで俺の家を建てようとか言い出したのでやめさせた。
お前の思い出の家をこんな簡単に建てて良いのか?
長所は家が邪魔な場合、除草剤を撒けば枯れる。
要するに非常に便利で簡易的な住環境が完成した。
で……村が緑の家で溢れ返ったのをラフタリアは俺に詰問している訳である。
「悪いな」
「何がですか?」
「お前の村が人外魔境化してきている事を怒っているんだろ?」
「まあ……それはしょうがありません……分かってはいますよ。それよりもラトさんと引っ付き過ぎかと思いまして」
「それはアイツが勝手に引っ付いてくるんだろうが」
俺がバイオプラントを改造している所を見るなり、大興奮ですり寄ってきた。
どうも研究の仕方が同じだと思っていたが、俺の大まかな改造方法がいたく気に入ったらしい。画期的な方法だとか。
画期的と言われても盾の能力から改造しているだけだがな。
盾からの影響力も強いし、俺が大雑把に言うとおりの比率で改造し、細かな調整をラトが行う、という状況となっている。
目下、依頼しているのは薬草を作り出せるバイオプラントの研究だ。
薬を作れるバイオプラントでも良かったのだが、難しいと言われた。
もちろん、ここに来るまでには何回も失敗を繰り返している。
ちなみに試作品第一号は人食いハウスだった。
ラトが執拗に危険だから入るなと注意したにも関わらず『わぁあああ』と目を輝かせた谷子とフィーロが勝手に入って食われたが、ラフタリア達と一緒に殲滅し、谷子も救出して事無きを得た。
その時の村の連中の顔は微妙だったなぁ。
後はラトに魔物の卵の鑑定をして貰った。
そして俺が管理する魔物は伸びが良いのをいち早く気づき、事情を聞いてきた。そして魔物使いの盾にある成長補正という技能を説明すると、これまた大興奮で盾をジロジロ観察していた。
あ、ちなみに魔物使いの盾とかを覚醒させてみたのだけど、性能こそ上がれど技能は増えなかった。
習得する技能が優秀な奴ほど覚醒させても良い技能は覚えられないみたいだ。
「へー勇者の育成する魔物は能力が高いなんて話を聞いたけど、これが原因だったのね」
「おそらくな、というか他の勇者も同様の能力があるのか?」
まあ最初から盾に備わっていた訳じゃないから、魔物使いや奴隷の盾みたいな伝説の武器が存在してもおかしくない。
同様にバイオプラントの様な物に変化させた伝説の武器の存在も十分ありえる。
しかし今の所、そういった植物は見た事が無い。
この村とバイオプラントの出所さえ除けばな。
「あくまで噂や伝承の範囲よ。私の知る勇者とはそんな話をした事が無いわ」
「そうか」
仲が悪かったらしいからなぁ。
話を聞く限り、フォーブレイの七星勇者は堅物みたいだな。
魔物改造とか、現在の常識から逸脱した研究、それこそラトが専攻する錬金術の様な物を嫌っているらしい。
詳しい話はラトが言いたがらないので、興味も無いしどんな人物なのかは聞いていない。
……客観的にこの村を見たら、しょうがないとも思うしな。
さて、食料生産も軌道に乗っている。味も折り紙つきだし、後はラトに任せればバリエーションの作成も可能だろう。
魔物の育成も奴隷共にさせているし、行商を本格化させるのは近い。
奴隷も全員Lvが三〇を超えたから体格も問題無くなった。
後数日もあれば始められるだろう。
「私も研究所を簡単に建てられたし、良い事尽くめよね。この種」
ラトの研究所……キャンピングプラントで建造されたあの大きな建物だ。
どこからか大きな試験管を持ってきて、ラトの研究室に設置されている。
ゴポゴポと、何かの魔物が浮かんでいるあの光景は、SFの化け物を彷彿とさせる。
あれを見た時、迎え入れたのは間違いだったかと少し悩んだ。
ちなみに谷子とラトは魔物に関する関係でライバルだ。
魔物を戦わせて強くさせるのが一番という考えの谷子と、魔物は改造してこそ強くなると主張するラトで意見がぶつかっている。
双方、強くさせると言う方法を模索している関係ゆえに憎みきれないと言った感じで、一緒に何やら話し合っている。
ま、谷子の学力が足りないから、ラトに遊ばれている事の方が多いけど。
「じゃあ、飽きるまでバイオプラントの研究をさせてもらうわ。で、援助の目処が立ったら教えてほしいわね」
「ああ、俺も魔物自体の改造を行っていきたいからな」
波と互角に戦える魔物がいれば相当楽になる。
どうしても俺は配下の戦力が重要になるからな。必要な事だ。
霊亀の例から味方の数は多いに越した事は無い。
それに加えて魔物が強ければ尚良い。
そういえば……バルーンの卵があったな。
いや……卵じゃないか。あれって産卵するのかと思ったら休眠状態のバルーンらしい。
バルーンは空を飛ぶ、バルーンの集合体みたいなバルーンレギオスという魔物から分離して空から降ってくるという生態系を持っているとラトから聞いた。
空の彼方で変な色の物体が浮いていたら、それはバルーンレギオスだそうだ。
バルーンレギオスは滅多に地表に降りてこないらしく、珍しい生物だが、通常のバルーンは高い頻度で地上で目撃される。
定期的に本体から分離して増えるという事だろう。
休眠から目覚めたバルーンは既に魔物紋を刻み、配下にしている。
バルーンはLvを上げると、その姿のまま大きくなり、馬車に括りつけてアドバルーンにしておいた。
これで行商中に遭遇する弱い魔物はフィーロの轢き逃げと同じく、経験値となる。
昇り旗を付けて、盾の勇者の行商と書く。
ちなみに魔物名はアドバルーンと言うらしい。
何の冗談だ?
そのアドバルーンは人の手で育てられたからか言う事を聞く。
大きな風船に遭遇した魔物が食われる光景は、ちょっと怖い物があるが……。
谷子がバルーンに乗って高い所で両手を広げた時は、あいつは何者なんだと突っ込みを入れたくなった。
スピードは遅いけど、護衛として戦力にはなるだろう。
俺と言えばバルーンだからな。
随分前に元康との戦いで活躍してくれた恩を忘れてはいない。
「お前は後々魔物研究第一号として使ってやる」
「ガル!」
「頷くな!」
盾の影響か? 知能があるのか微妙な線だ。
「……さて、俺も行商に出かけてくるとするか」
「分かりました」
「じゃ、私は研究をしているわ。何かあったらいつでも私の研究室に来なさい。伯爵」
伯爵……そういえばそうだったな。
完全に忘れていた。
「あれ? 伯爵だって聞いたけど違うの?」
「いや、あっている」
「ともかく、用があればいつでも来なさい」
「はいはい。先に言っておくが俺がいないからと言って問題を起こしたら迷わず殺すからな」
「大丈夫よ。そんな愚かな事はしないわ」
「どうだかな」
薬草を生産するバイオプラントが完成する事を想像しながら、俺はフィーロを呼んで行商ついでに隣の町へと出かけた。