優遇も差別
「ほう……」
強い魔物を創造する、か。
極めてシンプルな目的だな。
ゲームなんかでは合成や配合といったシステムが出てくるから理解できない程じゃない。
まあ実際の生物でそれをやるとなるとフォーブレイの連中と同じく、反感は生まれるんだろうな。
「その為には魔物を分析し、さまざまな錬金術や魔術を組み合わせて作りだす必要があるの。なのにあいつ等、神が絶対に許しはしない悪魔の研究だとか言って研究所を破壊するわ。研究対象を殺すわで大変だったわ」
「えっと……つまり、お前は錬金術を使って魔物を強くする研究をしていた魔物使いだと思えば良いのか?」
「そうね。概ね間違っていないわ」
む、否定されるのを前提に言ったのに魔物使いの扱いで良いとか。
狂気的と思ったが、客観的視点も持っている様だな。
そこに目的が絡むと暴走するタイプか。
「基本的常識から聞いて良いか? 騎士であるお前にも聞きたい」
「ん? 私もか?」
剣を抜いて警戒態勢だった女騎士は不思議そうに言った。
尚、フィーロは被害を受けてどこかへ去っていったが、ラフタリアも同じく剣を抜いて警戒している。
確かに、フィーロは事実上俺達の中で一番強いからな。
それを簡単にあしらった事実から警戒度は高い。
俺の場合、盾の防御力の所為で少し警戒が疎かになっているな。
今度から気をつけるとしよう。
「ああ、こいつだけに聞くと間違えそうだからな」
「そうか、何を聞きたいんだ?」
「そうだな……強い魔物……俺が育てた魔物を掛け合わせて更に強い魔物を作り出すのは違法か? 例えばキャタピランドとデューンの組み合わせとか」
「教会の管轄では一部が違法行為だ。魔物使いは繁殖で魔物の卵を作る時、同種の魔物同士しか許可されない」
「じゃあラト、お前の研究って」
「そうね。それも入るわ」
……俺の知る育成ゲームとかだと異種配合は当たり前のように使われている。
この世界の魔物使いってただの羊飼い的な扱いなんだろうなぁ。強い魔物を作るとかじゃなくて労働力とか生産力を使われているとかそんな感じ。
……待て、当然の様に異種交配ができる事を前提に考えていたが、少しおかしくないか?
それって別の種族同士で子供が作れると言っているのと変わらないぞ。
「と言うか魔物って異種族間で卵を作れるのか?」
「作れるわね。亜人で例えるならフォクス種とツイーイル種の子が優秀なように、魔物という大きなカテゴリー内で作れるのよ。私の研究じゃ、掛け合わせで優秀なのは――」
「いや、そこは知らないしどうでも良い」
正直、亜人の組み合わせとか言われても、そっちこそ人道的に問題がありそうに思える。
しかし、人間と亜人のハーフが存在するという事は生殖が可能という事だ。
魔物で同じ理屈が通らない訳じゃないという事か。
……ますますこの世界の生態系がわからなくなってきたな。
「つまりだ。お前がやりたい事って」
「ええ魔物を研究し、有能な生物を作り出して戦力として認めさせる事よ」
大きく両手を広げるラトに、何故か谷子が目を輝かせている。
いや、こいつは元々魔物が好きだった。その考えに賛同してしまっているとかそんな感じか。
「認めさせる、ね」
「魔物は悪しき者であり、人に倒される者。それを誰が決めたというの? 私はそれに異を唱えたい。確かに私たちは魔物を倒して力を向上させるわ。でもそれって逆に魔物が人を倒したって力を向上させるのは変わらないわ」
「そうなのか?」
「人殺しは、一応、経験値が入る。数値的にも道徳的にも、割には合わないがな」
ほう……そうだったのか。
なんだかんだでブラックな世界だな。
「皆平等、なのになぜ魔物だけ地位が低いのか、それは魔物が弱いからよ」
ふむ、頭がおかしいトチ狂った奴かと思ったが信念はあるみたいだ。
だが、耳当たりの良い言葉だけを並べている可能性は否定できない。
「そのケースの一つとしてフィロリアルは有名すぎるわね。かのドラゴンと双璧を成す程の能力を備えた神たる鳥、私はあの魔物のように後の世にも称えられる魔物を作りたい。人々に力を貸すあの生き物をね」
まあ、フィーロはドラゴンの肉を貪った過去があるから否定は出来ないけど。
普通のフィロリアルってそこまで強くは無いと思うのだが……伝説が存在すると言う事は崇めたてられているのだろう。
あるいはフィトリアの様な存在の事を言っているのかも。
アイツはフィーロよりも強いからな。
「考えは分からなくもない」
魔物を育成するゲームとか俺もやりこんでいた。
こいつはその世界で当たり前のように行われている事を、この世界でしようとしているだけなのだろう。
ま、嘘を言っている可能性は否定できないけど。
「で、俺の村にいる魔物を見て研究を手伝ってほしいと?」
「ええ」
「俺は嘘を吐く奴が嫌いなんだ。嘘が吐けないように俺の奴隷になるのなら協力してやるが、それでもやりたいか?」
「ええ、その程度で良いのなら喜んで人の尊厳を差し出すわ」
ものすごくアッサリとラトは了承した。
しかし……嫌な言い方だ。
別に俺は奴隷にしたからといって人の尊厳を踏み躙ったりはしないぞ。
「それで私の研究が進むのならどうってことないわ」
「ふむ……」
つまりこいつを招きいれたら色々と魔物関係で強化させる事が出来る訳だ。
人材としては悪くない。
奴隷紋を刻めば、後々問題を起こしても無理矢理コキ使う事も可能だ。
「俺は魔物をコキ使うが良いか? まさしく奴隷のように。お前を含めてな」
「人間だって亜人だって奴隷はいるわよ。可哀想だからと優遇するのも差別よ」
む……優遇も差別。面白い考えだ。
そういえば俺の世界で海外の女性が男女平等を謳う際、優遇されるのも嫌うという話を聞いた事がある。
日本の都心で存在する女性専用車両などは、本当の平等を望む人間には嫌われるそうだ。
その考えに近いのかもしれない。
「一部の生き物だけを保護して、他の生き物を蔑にするって考えは嫌いよ。フィロリアルの知能は高いから食肉にしてはいけないとか訳のわからない団体のあの考え、大嫌い。その口でドラゴンは滅ぼせって言うのよ。ふざけないでほしいわ!」
「ほう……」
「私はね、魔物を酷使するなとは言わないわ。むしろ推奨する。魔物は役に立たないという考えが嫌なの。魔物だって生きているし、波とだって戦える。魔物は波から生まれたなんて仮説を否定する。魔物だって兵器と呼べる強さを持てるわ。勇者のようにね。良い意味でも悪い意味でも差別が嫌いなの。どっちも同じ物でしかないの。この世界に等しく生を受けているんだから」
谷子がムッとラトを睨む。
考えが近いだけで、どこかが違うのが分かっているんだろうなぁ。
「お前のやりたい事は理解した。魔物も大きな戦力、兵器として波で戦わせたいと」
「ええ! なのにあの七星勇者! 事もあろうに私は邪道だって切り捨てたのよ!」
「じゃあ仮に――」
俺はバイオプラントの種をラトの前に出す。
「この種は植物だが、改造しだいで魔物のようになる。だが、改良して役に立つ薬草を作るような行いはお前にとって、どうなんだ?」
「何よそれ、私がやりたい事じゃない。つーか研究させてよ。あっちでも種を貰ったけど交配が進みすぎて、劣化が激しいのよね」
ふむ……コイツは、俺がやりたい事と方向性が近いな。
使い道には困るかもしれないが、奴隷紋という手綱があればある程度は操れそうだ。
「良いだろう。俺の奴隷になると言うのなら、お前の研究に力を貸してやる」
「そうね。盾の勇者は奴隷しか信じないというのなら喜んで信用を得る為に奴隷になろうじゃない」
俺はラトと握手を交わした。
「これからよろしく頼むわ。私は信用を得る為に奴隷になる。その代わりに私の研究を手伝いなさい」
「嘘は許さない。それを了承するのなら、良いだろう」
こうして、魔物の研究をしている錬金術師であるラトが俺の村に住み着く事になった。
「さしあたって、あのフィロリアルの改造がすることかしら? お腹に大きな目玉を付けて背中には吸盤の付いた触手を生やさせようかしら?」
「やー!」
遠くでフィーロが叫ぶ。苦手な奴が増えた感じだな。
「本人が嫌がっているからやめとけ」
「あら残念」
「所で何故、俺のフィロリアルに薬物注射をしたんだ?」
「知らないの? フィロリアルって案外凶暴な魔物なのよ? 薬を使って動けないようにしないと調べられないじゃない」
そう言うものなのか? まあ、猛獣にいきなりスキンシップするようなマネを普通はしないよな。いきなり触れて、暴れたから即座に薬を投与したような物か。
「幸い、貴方のフィロリアルはこれでもかって位健康体よ。元気過ぎて困っているでしょ?」
当てられた。
確かに生まれてから元気過ぎて困っているな。
病気になった事も無いし。
これは研究もさる事ながら獣医的な役割も任せられるかもな。
なんとなく、良く分からない奴だ。色々と考えが矛盾しているような気もしなくはない。
差別は嫌いで兵器はOK、改造して優秀な魔物を作りたい。好きなのか嫌いなのか。
とにかく、これで研究も進みやすくなるだろう。