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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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旗、再び

「で、何をするつもりなんですか?」


 路地で合流したラフタリアと合流した。


「簡単なサングラスをな」

「それくらいなら、売っていると思うのですが」


 まあ、売っては居るんだよな。サングラスの歴史って俺の世界でも結構古いし。

 この世界にもある。


「こう言う所から節約しておかないといけないんだよ」


 店売りだと地味に高いし……。

 眼鏡のフレームだけを安く買い。ブラックフライウィングの羽をフレームの部分に合わせて切って繋げる。


「よしできた!」


 簡単なサングラスをルーモ種の奴隷の顔に掛ける。


「えっと……」


 与えられたサングラスにルーモ種は困ったような顔で言葉をこぼす。


「ラフタリア」

「はい」


 ラフタリアが魔法を解く。


「あ……」

「大丈夫か? まぶしくないか?」

「はい……」


 キョロキョロとしながらルーモ種の奴隷は頷いた。


「よし、じゃあ行くとするか」

「はい」


 逃げないようにルーモ種の奴隷と手をつないで歩く。

 ま、奴隷紋があるから逃げようは無いけど。


「あ、ありがとうございます」

「気にするな。家にはお前の様な奴が腐るほどいる」

「え?」

「この方は名高い盾の勇者様なんですよ」

「ええ!?」


 今更になって驚いているのか、この奴隷は。

 と、路地を歩いていると。


「そこにいるのは盾の勇者様のお付きの子かしら?」


 すれ違いざまに話しかけられた。


「え?」


 見ると洋裁屋の店主がこっちに話しかけている。

 久々に会ったな。フィーロの一件以来だから随分前だよな。

 あやふやだが、微妙にオタク入っているんだよな。

 それも腐女子方面。


「今度は獣人を連れているけど、どうしたのかしら?」

「武器屋の親父から話は聞いていないのか?」


 ローブを顔の部分だけ脱いで答える。


「そういえば、そんな話をしていたのを覚えています」

「お前な」

「前々から思っていたのですけど、ご一緒の亜人さんは綺麗ですねぇ。私の服とか買いに来ないのですか?」

「高い服は……ちょっと」


 ラフタリアの俺の所為で染み付いた貧乏性がここにきて出ている。効率主義のラフタリアは鎧とかの方を欲しがる。

 正直、フィーロの服だけで精一杯だ。


「もったいないですよ。男の人に綺麗って思われるには服も重要ですよ」

「そ、そうなんですか……?」


 長くなりそうだなぁ。

 女のファッションとかどうでもいいから早く終わらせて欲しい。


「ってそこは良いんですよ。この子はルーモ種ですか? なんか似合う服が無いかインスピレーションが刺激されます」

「わ、わ……」


 なんか持っていた紙にスケッチで服をデッサンしていく洋裁屋。

 相変わらずの奴だな。


「最近、町は復興ムード一色で服にお金掛けないんですよー」


 ガリガリと描いている洋裁屋が愚痴ってくる。


「私の所には鎧のデザイン要求が来るんですけどね。本職は服ですよ」

「そうだろうな」

「でも、正直作るの飽きてきているんですよね。刺激されるような人が少ないですし」


 フィーロは素材が良いみたいな事を言っていたような気がする。


「前に来た時の子の服がとても楽しかったですよ。また作らせてくれませんか?」

「あれは高いしなぁ……」


 フィーロの服はあれ一着で良いだろ。

 今のままで困っていないのに、アイツに新しい服とか買う程余裕は無い。

 そもそもそんな金があったら他の事に使っている。

 というか、フィーロって人型より魔物の姿でいる事の方が多くないか?


「こう……盾の勇者様の所の子は刺激が良いんですよね」


 とか言いながら、ルーモ種の服のデッサンが終わったらしい。

 オーバーオールやチョッキ。その他、色々なデッサンのパターンがある。

 そういや……家の奴隷たちって服装が……中古の鎧ばかり着させているせいで、前線基地や冒険者の酒場っぽい感じなんだよな。


 私服を買い与えるというのも金が掛るから節約しているけど……。

 武器屋の親父がくれた安物の服くらいなら買い与えると良いかもしれないけど。

 ま、ダメ元で聞いてみるか。


「毛皮とか微妙な素材しか提供できないけど、俺の領地へ来るか?」


 と、ホント、ポンと言ってしまった。


「本当ですか!?」

「あ、ああ……」

「この子みたいな面白可愛い子居ます?」

「か、どうかは知らないが、俺の領土には亜人奴隷が多いぞ」

「おお、お、男の子奴隷もいますか?」

「そりゃいるだろ」

「本当ですか!?」


 なんかめっちゃハイテンションで洋裁屋が飛び跳ねる。

 嫌な予感がしてきた。


「新たな刺激を求め、ぜひ厄介にさせてください!」


 な、なんだかなぁ……。

 コイツが食いついた部分……男の子奴隷って単語じゃなかったか?

 やばい、俺の知る同人っぽいので男の子奴隷と来るとあのフレーズしかない。

 早計だったかもしれないな。


「じゃ、じゃあ、最初は様子見程度に遊びに来てくれ、気に行ったら店ごとな」

「ええ! ぜひ!」


 と、なぜか洋裁屋と話を纏めてしまったのだった。



 それでは後日と嵐のよう立ち去った洋裁屋と別れ、俺たちは歩いていると。

 きゅるるるるる……。

 ルーモ種の奴隷の腹からそんな音が聞こえてきた。なんか恥ずかしそうにしている。


「……飯にするか」

「そうですね」

「こいつは何を食べるんだろうな。亜人と同じで良いのか? それともミミズとかを食べるのか?」


 それだと飯の調達が難しくなるぞ。

 家にはデューンが居るけどあれは飯じゃない。

 必要なら食べさせるが、正直食べられても困る。

 あれだな。谷子がうるさそうだ。


「えっと……その……」


 もじもじとルーモ種の奴隷は言葉を濁しながら呟く。


「家じゃ……たまに出たけど……なんでも大丈夫です」

「そうか、じゃあ飯屋で食うか」

「ナオフミ様が作らないんですか?」

「城下町に来てまで作れってか? 匂いを嗅ぎつけてあいつ等まで来るぞ」


 家には腹ペコのガキ共が群れ単位で居るんだ。河原で作ろうものならフィーロ辺りが嗅ぎつけて、それこそ一日が潰れかねない。


「良いじゃないですか」

「ラフタリアが良くても俺が面倒なの」


 まったく……最近、俺を炊事担当にしたがるのは程々にして貰いたいな。

 料理の腕が向上してきている奴隷がせっかく作った飯を、


「えー……今日は盾の兄ちゃんが作ったんじゃないのかよ」


 と、ほとんどの奴隷が呟いた時に担当した子、今にも泣きそうなのを堪えていたし。

 また作ってくれと宥めるのが大変だった。


「とにかく、今日は外食にします」

「分かりました」


 で、俺は市場の方へ顔を出す。

 買い取り商の店、行列が出来ているな。楽しげに買い取った物を高値で売ってる。そこからは腕の見せ所だぞ。

 何処で食うかな。

 飯屋を探していると、昔、ラフタリアと一緒に飯を食べた店を発見した。


「ここで良いか」

「はい」

「あ……」


 ルーモ種の奴隷の手を握って店に入る。


「いらっしゃ……いませ」


 店員が全身ローブを着た俺と連れの奴隷を見て渋い顔をする。


「お客様? 少々外見に謎のある方と亜人の来店は……」

「……そんなルールがあるのなら店の前に掲げておくんだな」

「で、ですが」


 ふむ……連れているルーモ種の奴隷が小汚いと入店拒否をしているのか。

 いや、小汚いのなら昔、ラフタリアを連れて入った時点で注意したはず、だけどあの時は何も言われなかった。

 今回注意してきたという事は、亜人の中でも獣人が原因か。


 ローブを被っている奴なんて良くいるし。組み合わせが理由かもしれないけど。

 食品を扱う店故に……というのは理解できる。衛生面で動物を入れるのを拒む店だって俺の世界じゃあるし。

 だけど、獣人もこの世界じゃ、ちゃんとした人間として扱われているはずだ。

 この国の差別意識が根強いのは知っているが……しょうがない。

 俺はローブを脱いで、顔を出す。


「これで良いか? それともこの店は亜人や獣人に飯を出せないと?」

「あ……いえ……わ、分かりました」


 唖然とした表情で店員は席に案内する。

 ルーモ種の奴隷が店内をキョロキョロと見渡している。


「昔のラフタリアを思い出すな」

「もう、あの頃の話を出さないでくださいよ」

「やはりお子様ランチがまだ欲しいんだろ?」

「要りませんって!」


 ルーモ種の奴隷は何処となく落ちつかない様子で足をぶらつかせている。


「何が食べたい?」

「えっと……」


 メニューを見るが、そこで渋い顔をされる。


「読めないです……」

「じゃあ勝手に頼んでも良いか?」

「はい……」


 手を挙げて店員を呼ぶ。


「日替わり定食を一つにお子様ランチを――」

「日替わり定食を二つに子供向けのランチを一つください!」


 俺が言い終わる前にラフタリアに遮られた。


「どうしたんだ?」

「ナオフミ様が勘違いして、まだ私があの定食を欲していると思っているからです」

「なんだかんだで欲しいだろ? 村の連中も大興奮して食べるメニューだぞ」


 現にこの前作った時、ラフタリアも大事そうに旗を取っていたじゃないか。大興奮でみんな食べていた。見た目十四、五程度の外見をした連中で、あの興奮具合はちょっと引くほどだったけど。


「良いんです。子供扱いしないでください」


 難しい年頃って奴なのか? 背伸びしたいんだな。体だけ大きくても精神まで成長している訳じゃないだろうに。


「ご、ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」


 そそくさと店員が店の奥に行く。

 なんか店の奥で、盾の勇者が来てるって声が漏れるな。

 しばらくして、妙に豪華な定食が来た。


「日替わり定食と子供向けランチをお待たせしました!」


 お子様ランチも派手だ。旗なんて二本立ってるし。


「……前に来た時より妙に羽振りが良いな」


 絶対、見栄を張っている。

 名声ってスゲー……他の勇者の奴らもこんな扱いで過ごしていたのか?

 顔バレするのも不便だけど、こう言う時は素直に喜ぶべきなのだろうか。


「あ、あの……」


 目をキラキラさせてルーモ種の奴隷は唾を飲み込む。


「ああ、食っていいぞ」

「良いんですか?」

「ああ」

「食べる直前で床に落としたりしないですよね」

「……何処の外道だよ。もったいない」


 上げて下げる手法って奴? 落ちた飯を踏みつけて食わせるってか?


「良いから……好きに食え」


 ラフタリアの時もそうだったな。


「好きに食べて良いんですよ」

「は、はい……」


 ま、ラフタリアが居るから信用も得やすいか。

 ルーモ種の奴隷は恐る恐るお子様ランチを食べ始める。

 やはり手づかみであんまりマナーはなっていないが、飯は好きに食べさせるのが良い。

 マナーなんて後で覚えれば良いし。


 ……家の奴隷共はバイキング状態になりつつあるけど。

 大家族の食事形態というか。

 思えば懐かしいな。あの時の俺は味覚障害を患っていて、飯なんて安ければ何でも良いとか思っていた。

 店のカウンターから外を見る。

 霊亀の山が高々とそびえたつ景色……復興はまだまだ先だな。


「ありがとうございます」


 涙しながらルーモ種の奴隷はお子様ランチを頬張っている。


「そう思うのならちゃんと食えよ」


 残したらそれこそ怒る。


「ただ、種族的に無理な物を食えとは言わないからな」


 体質の違いとかあったら困るしな。


「はい」


 ラフタリアが子供をあやす様にルーモ種の口元を拭いて食べさせている。

 のどかな光景だな。

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