報告
リーシアを包むクラスアップの発光が収まるのを確認し、ステータスを確認した。
全体的にステータスが伸びているが、目立つ物は無い。
「どうだ? どんな可能性を選んだんだ?」
「やはりわたしは……一から手伝ってくれましたが、どれもやりたいと思い、前回とは違いますが万能になる道を選びました」
「そうか……」
リーシアの決意が形として現れているのか、前よりもステータスが伸びている。
それでも、高いとは言えない数字だ。
リーシアのステータスは同じくらいのキールと比べても劣る部分の方が多い。
でも、リーシアが自ら選んだのなら、樹の時の様な酷い結果にはならないと思う。
以前より度胸が付いているし、決断力もある。
今はLvやステータスには無い要素がリーシアを強くしてくれると俺は信じている。
「次は俺だな!」
キールがリーシアと交代で砂時計に触れる。
同じように魔法陣が展開され、俺の視界にアイコンが浮かび上がる。
「わ!?」
今度はフィーロのアホ毛が抜けて俺の視界を通じてキールのクラスアップに干渉した。
もうもうと煙が立ち込める。
……ラフタリアの時と同じようにステータスが跳ね上がっている。
ただ……ラフタリアの時と比べると若干倍率が低い気がした。
「すげぇ……なんか、何でも出来そうなくらい力が漲るような気がする」
「どういう原理なんだ?」
リーシアでは何も起こらなくてキールだとアホ毛が発動した。
亜人や魔物でしか範囲に入らない?
それから奴隷達のクラスアップが続いたのだが、やはり出る時と出ない時がある。
亜人の中でも分かれるとなると法則がまだ分からない。
「さて、じゃあフィーロは外で待っててくれ」
「うん」
自分の未来を自分で選んだ奴の番になり、フィーロは建物から出て行ってもらった。
これで多分、クラスアップに干渉は無いだろう。
俺の読み通り、クラスアップは普通に終わった。
「さて、俺は少し用事があるから各自自由に行動していろ。夕方になる前には城下町の門で待ち合わせだ」
「分かったよ盾の兄ちゃん!」
無いとは思いたいが逃げ出したら奴隷紋を発動させよう。
「私はどうしましょうか?」
ラフタリアが聞いてくる。
そうだな。一度情報の整理に女王と話しておきたい。
となると、ラフタリアには奴隷商の方を任せるか。
「奴隷商の所へ顔を出していてくれ、俺も女王と話をしたら行く」
「分かりました」
「フィーロは?」
「奴隷共と一緒に遊んでいろ」
「はーい!」
こうして俺は久しぶりに女王に会いに行くのだった。
城の方へ行き、女王に話しに行く。
「これはイワタニ様、どうですが領地の状況は」
「まあまあな所だな。少しずつ人が増えてきている」
「でしょうね。移民の話はこちらにも来ております」
「そっちの復興作業はどうなんだ?」
「正直、戦争でも起こったら厳しい財源ですね」
損害が膨大か……これもあの勇者共の所為と来ているんだからしょうがないか。
「槍の仲間……エレナと話をした」
「ええ、承っております。変わった能力で槍の勇者に逃げられたと」
「そうなんだよ。アレを捕まえるのは難しい」
「そこは承知しております。ですので無理矢理の捕縛は見送ってくださるようお願いいたします」
下手な刺激は逆効果だ。かと言って野放しにしているのも危険なんだよなぁ。霊亀クラスの化け物を目覚めさせかねないし。
まあ、元康のあの態度から見て、いきなりそんな真似はしそうに無かったけど。
他の二人も自分が不利になる様な事を進んでやるとは考え難い。
「ふむ……」
「問題は捕縛しても逃亡されてしまう所です。無理に賞金を掛けようものなら亡命され、戦争の引き金になりかねませんし、偽物と弾劾しても能力があり、実際は本物である故……抹殺をしようものなら勇者を殺したと騒がれる危険性もあります」
箸にも棒にもかからない厄介な奴としか言いようがない。
できれば波には参加してほしい。
無理だとは思うが、俺と同じく武器を四倍にもして欲しいが……この調子じゃあ無理そうだな。
となると奴隷共を三ヶ月以内に最前線で戦える程度には強くしないとな。
「そうそう、他の勇者も目撃報告は見受けられるようになりました」
「目撃報告か……錬と樹だな」
「今の所、剣の勇者と槍の勇者の話ばかりです」
「樹はどうしたんだろうな」
「未確認の情報ですが、ゼルトブルで目撃証言がありますね」
どうもあやふやだな。
「そういやお前の娘はどうなんだ?」
「同じように目撃証言があるのですが、どれも決定的な情報には乏しいです」
生きてはいると。
「影にも捜索を命じてはいるのですが、芳しくはありません」
「どうして見つからないんだ?」
「複数の可能性はあります、一つはどこかで動けなくなっている。もしくは敵国に捕縛されている可能性」
「ふむ……」
「もう一つは道具を使って妨害している可能性です」
「道具? そう言う物もあるのか?」
「奴隷を解放しようとする組織の存在があるのが問題です……高度奴隷紋を外すのは困難ですが、妨害は可能なのです。その組織に取り入っているとしたら……」
ビッチならやりそうな事だな。
ここでも奴隷解放の組織の話が出てくるとは……こりゃあ本格的に注意した方が良いな。
「後はイワタニ様には問題が無い話ですが、七星勇者も数名、消息が掴めていないそうです」
「会った事のない奴の話をされてもな。緊急事態だったから捕まえられなかったって所だろ」
「ええ、そんな所でしょうね」
「他には何かあるか?」
「良い話として霊亀の洞窟で未知の金属が発掘され、界隈が活気づいている所でしょうか」
「ほう……」
こういう話には飛びつく商人や鍛冶師が出てくるだろうな。ましてや霊亀の洞窟と言うと数が定められている。
そういえば……霊亀の素材で出た盾には聞いた事のない強化素材が必要なんだよなぁ。
霊亀鋼とか純霊亀結晶とか……。
その類か。
「この辺りに税を掛けた所、収益が増大しており、復興の役に立っておりますね。この金属で作られた武器は中々優秀だそうですよ」
「税が掛っていたらなぁ」
高そう。俺の所で使わせられると言ったらラフタリアかフィーロクラスじゃないと買い与えるのは不可能だ。
「イワタニ様になら洞窟で採掘の許可も簡単に出せますが?」
「考えておくよ」
鉱石の販売を視野に入れたら儲けられそうだとは思う反面、もったいないような気もする。
「少し考えさせてくれ」
「分かりました。実物を何点か後でお送りしますね」
「わかった」
こりゃあ、本格的に武器屋の親父に色々と頼まないといけなくなる。
だけど親父に頼むには金がなぁ……。
温情だけで恵んでもらうのは程々にしておきたい。親父だからこそ、俺は報いたいし。
「他に問題があるとしたらフォーブレイで多くの問題を起こした錬金術師が霊亀の出現を聞いてメルロマルクに流れてきているという噂ですかね」
「なんだそれは?」
そんな噂が女王の耳に入るって、相当の問題児なんだろうな。
「なんでも……魔物の研究で右に出る者はいないそうです。問題は常軌を逸脱した研究内容ですが」
「ほー……」
研究かー……そう言えばバイオプラントの研究を俺も始めないといけない。
上手く行けば、金の木になる物だし。
大分、商売も軌道に乗ってきているから、始めても良いだろう。
帰ったら挑戦だな。
失敗しても対処できるほどの人材も揃ってきた。
「他に何かありますか?」
「騎士団の使う中古の武器をもう少し譲ってほしいな。後、行商に必要な商業通行手形を何個か発行してくれ」
色々とガタがきている物もあるし、奴隷を増やしていく関係で武器は入り用となる。
手形の方は行商班に持たせておきたい。
樹では無いが、成り済ましが現れないとも限らないからな。
「わかりました。ですが、イワタニ様に成り済ます方は早々おられないかと」
「どういう意味だ?」
「話ではルコルの実を食べさせて本物かどうか調べたという報告を受けたので」
「ああ、あったな、そんな事が」
くれるならと受け取って食べたら、気持ち悪そうな顔をする奴も居れば『本物だ』と騒ぐ奴もいた。
あれはそう言う意図があった訳か。
「いや、俺が行商についていない場合の身元証明に何個か欲しくてな。女王の判まであれば、さすがに成り済ましも難しいだろうしな」
「そうですね。では後で武器と一緒に発行した物を届けましょう」
武器か。
国が試作品の武器を作って俺の所に送ってくれるとかそういう展開は無いかなぁ……。
「なんでしょう?」
「いや」
淡い期待はやめておこう。女王が何やら計算している数字を見て、さすがに言うのは厳しいのだろうなぁというのは分かる。
財源として大丈夫なのか? と、不安になる数字だ。
「お互い、復興に尽力しましょう」
「そうだな」
女王から聞ける話はこのくらいしかない。
「そういや……クズは何処だ?」
「国境で見張りをして貰っていますよ」
「見張り?」
「ええ、英知の賢王が見張っている砦に他国も侵略などと言う愚かな行為は出来ない……ですかね」
「無知の愚王が守っている程度で効果があるのか?」
「ここ数年は効果がありましたし、問題は無いでしょうね。それにこちらから見れば四聖勇者を全員召喚した事はマイナスが多いのですが、他国からは賢王が行った新たな策略とも見えるはずです」
「……そういう見方もあるのか」
女王のため息が深い。
「あの人も子供が出来るまでは優秀だったのですけどねぇ……」
「想像できないぞ」
「もしかしたら、昔のあの人に戻ってくれないかと期待はしています。イワタニ様も出会えると良いですね」
まるで他人事のような言い方だ。
子供が出来るまではって……第一子はビッチだろ? 俺にはクズの頭がわからん。
どんなビッチでも自分の子供はかわいく見えるって奴だろうか。
俺は母親みたいな事をしているが、奴隷共を時々しばき倒したくなる時があるぞ。
ちょっと前まではキールが筆頭。最近では谷子か。
「あんな奴の何処がかわいいのかねぇ……」
「まったくですね。まだメルティの方が可愛げがありますよね」
「お前が頷くな」
実の娘を可愛いと思っていないって……すげえ親。
俺の親と良い勝負だ。
良く考えてみれば俺の親も弟の方に期待を掛けているからなぁ。親の期待と言う点ではビッチは……ってクズがビッチの方を可愛がっているのか。
じゃあ違うな。
……すごくどうでも良い事に頭を使ってしまった。
「じゃ、また何かあったら会いに来るとしよう」
「ええ、イワタニ様の領地が発展することを心から願っておりますよ」
「言ってろ」
「おや? 割と評判は良いですから成功は確信しておりますよ」
白々しいな。
さすがはメルロマルクの女狐。
そんな感じで女王と話を終えて、城を出た。