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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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決断

 女騎士から報告を受けた町の方へ顔を出す。

 歩いて行ける程の割と近い所に隣の町はあったりする。


「あ、盾の勇者様だ!」


 俺が復興中の町に行くと建物を補修している奴や建設している奴が手厚く出迎えてくれた。

 営業スマイルというか、交渉する時の顔で相手をする。その中でのリーダー。顔からしてリユート村の若者と話をする。


「話は聞いている。どうだ? 何か問題になりそうな所はあるか?」

「そうですね……近くに川や井戸があって食料の流通も始まっておりますし、問題としては私達で処理できる範囲が大半ですよ」

「そうか」

「ただ、今は住居という所で揉めるケースが散見されます」

「ふむ……」


 土台が波で破棄された町だからなぁ。

 復興中で、しかも勇者が管理する土地だ。火事場泥棒的に自分の土地を主張する奴もいるだろう。


「例え、ここに昔住んでいた者であろうとも、今とは関係が無い。協調性の無い奴は出て行ってもらう」


 俺が宣言すると異議申し立てをしようとしていた奴が諦めたようだ。


「ただ、町の敷地を超えてしまったのなら自由に拡張を……」


 という所で、家が乱立した場合の問題を考える。

 道の整備をしてからが好ましいな。こう言うのに詳しい奴をあまり知らない。


「いや、とりあえずは商売をしやすいよう今の形状を維持しながら拡張してくれ、他に宿屋は必須だ」

「了解しました!」


 復興には何にしても商売が必要不可欠。行商する者が立ち寄りやすい町を心掛けないといけない。


「後は自警団の設置だな」


 今のところは国の兵士とかに任せて、後で波で戦いたいと志願する奴隷共に一任しよう。

 問題行動をした場合は罰しやすい。


「盾の勇者様の翼下に入りたい者が日に日に集まっております」

「村の方へ来られると困るんだよなぁ」

「そう言うだろうと村に駐在しておりました騎士様がこちらこそ本拠地だと風聞しろとおっしゃいました」


 中々優秀だな。あの女騎士。後で名前を聞いておこう。

 カンカンと復興の足音が聞こえてくる。実際は木槌の音だけどさ。


「あー盾の勇者様じゃないの」

「ん?」


 見ると魔法屋のおばさんがこちらに歩いてくる。そういやリユート村の連中が多かったからな。混じっていても不思議じゃない。


「ああ、魔法屋か。店が潰れたんだったか」

「そうなのよねぇ……」

「家族の手伝いか?」

「ええ、炊き出しの手伝いよ」

「そうか……所で店は大丈夫なのか?」

「あまり見通しは良くないわねぇ。城下町のみんなは待ち望んでいるけど」


 そりゃあ霊亀によって店ごと潰されてしまった訳だし、再開は難しいか。

 あの女王が整備していると言っても国の援助は厳しいほどに損害が出ているからなぁ。


「良かったらこの町で再開したいわねー……」

「魔法屋には色々として貰っているからな、特例で融通を利かせるぞ」

「そう言って貰えると嬉しいわね」

「ある程度復興したらという条件が付くけどな」

「期待しちゃうわよ」

「応えさせてくれ、後、余裕があったらで良いんだけどな、近くの村に魔法を教えに来てくれないか」


 これも考えていた事だ。さすがに魔法書で教えるにしても個別指導は限界がある。それぞれの適性が分からないし、それこそ専門の教育だって必要だ。

 学校みたいな施設だって作った方が教養も身に着く。

 今、戦闘訓練は兵士や女騎士、ラフタリアに任せているけど、もっと道場のような建物だって作りたい。

 その点で言えば魔法屋が近くに居る環境は非常に良い。


「お店を開けたら考えるわ」

「タダでは転ばない奴だな。ここまでの条件を提示してこれか」

「これでも城下町で一番大きな魔法屋をやっていたのよ」

「よし、じゃあそこは飲むから薬屋をこっちに引っ張って来い。事業拡大に欲しいんだ」

「あら、盾の勇者様も中々の商売人ね。楽しくなってきたわ」

「行ける時は貪欲に行かなきゃな、世界の為という名目もあるのだし」

「ふふふ……」

「ははは……」


 なんか、周りの連中が距離を取るな。

 そんな話をしながら俺は町の発展指示を行うのだった。



 あれから一週間。

 リーシアのLvが40になり、他の奴隷もクラスアップ時期に差し掛かっている。

 そろそろ集めて行くのが良いだろうな。

 女騎士には事前に女王へ伝言を頼んである。後は龍刻の砂時計へ行くだけで良い。

 そんな訳で信用できる奴隷を連れて城下町へ向かった。


「ここに来るのも久しぶりだな」


 近くの村に馬車を停めて、歩いて城下町に入った。馬車を引くフィーロの時点で正体ばれるからな。

 とはいえ二週間ぶりだ。城下町の様子は、まだ復興途中なのは変わらない。


「盾の兄ちゃん。なんでローブを被ってんだ?」


 リーシアの次にLvが高いのがキール。ま、男勝りな性格もあって、戦闘には向いているからなぁ。

 最近じゃ、リーシアやラフタリアと息が合ってきている。女騎士も成長が楽しみだと言う位だ。


「見つかると動けなくなるぞ?」


 盾の勇者様バンザーイ! って取り囲まれたり、ベタベタと触られたりする可能性が高い。

 ある意味英雄になったようなものだし、あんまりそう言った扱いは受けたくない。


「そうなんだ?」

「フィーロも出来る限り魔物の姿になるなよ。なるのは砂時計に到着してからな?」

「はーい」


 帰りには武器屋に寄るか?

 うー……む。まだ金が無い。下手に高い装備を依頼してツケにしたでは、俺が悪い気持ちになってしまう。

 待たせるのもどうかとは思うのだけど。

 金も少しずつ溜まってきているが、地味な出費がなぁ……。

 ま、帰りに寄ろう。

 で、龍刻の砂時計に到着する。


「お待ちしておりました」


 相変わらずお喋りっぽい兵士が出迎えた。


「今日は仲間のクラスアップに来た」

「承っておりますよ」


 ラフタリアやフィーロの時と同じように儀式を始める。俺はフィーロに魔物の姿になるよう指示を出した。


「え、えっとわたしは何にクラスアップすれば良いのですか?」


 リーシアが心配そうに俺の方を見る。


「お前自身が選べ、とはいえ……儀式の最中に邪魔をされる危険性があるんだけどな」


 フィーロのアホ毛が動くと選べないんだよなぁ。


「フィーロ」

「なーに?」

「事と次第によってはこの建物から出て行くんだぞ」

「えー……」

「お前やラフタリアみたいな事が起こっても良いのか?」


 結果的には良いのだけど、本人たちには良くは無い。だからこれは起こりうる可能性を視野に入れて、フィーロの所在を考えないといけない。


「うー……分かった」


 よし、フィーロの承諾は取った。


「お前等、ちょっと待て」

「何だ。盾の兄ちゃん?」

「一応、お前等に尋ねる。ここはクラスアップという儀式をするというのは分かっているよな」

「まあ……」

「前々から聞いてた」


 奴隷達がそれぞれの顔を合わせて頷く。


「でだ。俺の方針は自分の未来は自分で決めさせる事にしている。もちろん、波に備えた復興とは別の話だ」

「どういう意味だ兄ちゃん?」

「波に参加したいという奴を優先的にLvを上げさせている。だがな、同時に波を乗りきった時の事を考えろと言っているんだ」

「……」


 ラフタリアが黙って俺を見つめる。

 そうだ。ラフタリアの事を考えて俺は村の復興を考えた。だが、それ以上に、こいつ等の未来はこいつ等自身で決めさせないといけない。


「ここから先、自分の可能性を広げると同時に狭めるクラスアップが控えている。それはみんな理解しているだろ?」


 奴隷達は頷く。

 俺はそれを確認した後、再度問う。


「でだ。お前等にとって不測の事態が起こる可能性がこれから起こる。自分で選ばず、もっとも能力の伸びが良いのが勝手に選ばれてしまうかもしれない」

「そんな事が起こるのか?」


 その質問に俺は大きく頷いた。


「ここにいるラフタリアとフィーロがその被害者だ」


 二人がそれぞれ軽く手を挙げる。


「フィーロのこの冠羽が勝手にクラスアップする先を選んでしまう。だけどその時になったクラスは普通のよりも能力の上昇が高い」

「そうなんだ!?」

「ああ、だが、お前等のこの先の人生は何も戦闘能力だけが全てじゃない。何か別の特別な力が欲しいのなら特化する意味が絶対にあるはずだ」


 流されるだけで強くなって欲しくは無い。

 だからこそ、そんなイレギュラーが起こっても大丈夫だと覚悟してほしいのだ。


「一応、ラフタリアもフィーロも何をさせても卒がない程に技能はあるとは思う。けど、絶対ではないと俺は思っている」


 完璧超人にクラスアップした訳ではない。いや、この世の中に完璧なんてあるはず無いんだ。

 だからこそ。


「後悔をしないように選べ」


 奴隷たちがそれぞれ囁き合う。


「分かったよ盾の兄ちゃん。俺は……少しでも強くなりたい。その可能性があるのなら選択肢はいらない」


 キールが率先して頷く。

 そうそう、この前の事……キールの奴、大けがをして馬車で運ばれてきたんだった。


「俺がリーシア姉ちゃんみたいにみんなを引き連れてLvアップさせてくる!」

「無茶をするとお前だけじゃなく、仲間にも被害が出る。最悪死ぬんだぞ」

「分かってるよ盾の兄ちゃん」

「お前は誤魔化す癖があったな、後になって後悔じゃ遅いんだぞ?」

「大丈夫だって! 絶対、成功させるから!」


 って息巻いて出かけたのは良いが、魔物との戦いで油断して、思わぬ反撃を受けた。

 しかも仲間の怪我も酷かった。


「盾の兄ちゃん。俺、戦いを舐めてた……兄ちゃんの言うとおりにしないとあんな事になるんだな」


 俺が魔法と薬で怪我の治療を行っているとキールがそう呟いたのを覚えている。


「盾の兄ちゃんが優しいから……気付かなかった。戦いってあんなにも、怖いものだったんだ」

「……幸い、死者が出なかったから良いけど、死人を出したらもっと後悔する事になるんだぞ」

「うん……兄ちゃん。今まで舐めててごめん。みんなにも注意する」

「……しつけが大変だと思っていたが、勝手に学んだな」


 その代価は思いのほか大きいようだがな。その日の夜……キールは泣いていたようだった。

 まだキールにはその傷跡がわずかに残っている。だけど、怪我によって得た物は大きい。

 村の連中も、キールの部隊の大けがを見て、戦いに関しての恐怖を学んだ。

 真面目になったとも言うのだろうか、手が掛らなくなって助かる。ラフタリアが筆頭だけど、キールも奴隷共にしつけをしていくようになっている。

 俺は自分でも甘いという自覚はあるが、それを補ってラフタリア達が厳しく接しているようだ。

 色々と助けられている。

 で、そのキールの隣に立っていた男の子奴隷が前に出る。


「俺は……自分の未来は自分で選びたい」

「分かった。じゃあ二つに別れてくれ、選びたい者と選ばない者」


 俺の命令に従って奴隷たちは別れた。


「じゃあフィーロ、選ばなくても良い奴が先に受けるから、選ぶのを選択した者の時は下がってくれ」

「うん」

「リーシアはどうする?」

「私は……強くなりたいです。その為に選択肢を放棄するのならいりません」


 何よりも強さを求めるリーシアはこの選択を選ぶだろうと俺も思っていた。


「良いだろう。じゃあリーシアが先頭に立ってクラスアップしてくれ、お前は経験者だからな」

「はい!」


 俺の言葉にリーシアは強く頷いて、龍刻の砂時計に触れる。

 ふわっと淡い輝きが砂時計に走り、リーシアは目を瞑る。

 兵士達が砂時計を囲むように立ち、床にある魔方陣のような溝に液体を流し込む。

 砂時計が淡い光を宿し、その光が床の魔方陣を伝う。


 俺の視界にリーシアのクラスアップ先のツリーが現れた。

 だけど俺は拒否した。

 そしてフィーロの方を見る。

 ……。


「んー?」


 フィーロがアホ毛を弄る。

 今回は何も起こらないのか……?


「よし、リーシア、どうやら問題は無いようだから自分の可能性を選べ」

「は、はい」


 リーシアはゆっくりと息をして、しばらくの間考える。

 やがて、光が収束し始めた。


「決めました」

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