「ようこそ死後の世界へ、私はあなたに新たな道を案内する女神エリス。
生きたま…肉体を維持したままこの世界へ来るのは本来、天界規定で禁止されていますが、
今回は事情が事情でしたので特例で招待させて頂きました」
モモンガが転移した先は、ナザリック地下大墳墓ではなく見た事の無い神殿の一室。
その神殿の中央にはエリスと名乗る一柱の女神が佇んでいた…
漂う雰囲気からは神聖さを感じさせ、モモンガと相性が悪い事を感じさせる。
…もしも彼女が恒星天の熾天使(セラフ・エイスフィア)以上の強さなら勝ち目は薄い。
彼女がこの世界に招いた黒幕かと警戒し、スタッフ・オブ・アインズウールゴウンを強く握る。
警戒を強めるモモンガに対し、女神は愁いを帯びた表情でこう続ける。
「モモンガさん…いえ、鈴木悟さん…未来の日本から理不尽に迷い込んでしまった悲しい人。
もし望むのならば次の人生は平和な元の世界の日本…カズマさん達が生活していた頃の日本で
裕福な家庭に生まれ何不自由なく暮らせるよう、転生させてあげましょう…」
女神から問いかけられるのは、世界がまだ幸運な時代だった時への幸せな転生。
環境の汚染はそれほどでもなく、自然が各地に残り、水道水は飲め、肺を改造しなくても呼吸ができ、食糧は捨てるほどにあり、飢え死にする者はほとんどいない、黄金時代末期の時代の日本。
重酸性雨の雨が降らず、雨は大地に恵みを齎し、大地で作物が作ることができ、野生の動物が存在し、子供たちは外で遊ぶことができ、空を見上げれば都会でも夜空が見える。
モモンガの脳内にそんな時代の風景が次々と流し出された…
憧れ、妬み、羨望、嫉妬、喜び、渇望、様々な感情がモモンガを襲う。
今の存在を終わらせようと様々な誘惑を繰り返し、次の生を望ませようとする。
…この動揺を終わらせたのは強制沈静化ではなく、モモンガの覚悟だった。
「次の生は…いらない、俺は仲間達と過ごしたナザリック地下大墳墓に行かなくてはならない」
そう覚悟を決め、スタッフ・オブ・アインズウールゴウンを構え女神エリスに向かい合う。
それを見た女神は優しく笑い、「わかりました」と頷いた。
「あそこには貴方を待つ人達が居ますからね…」と女神は呟く。
それを皮肉だと感じたモモンガは「そんなものはいない…」と不機嫌に答えた。
「もし居たとしたら‥ただいまと言ってあげてくださいね」と女神は困ったように笑い、
その言葉と同時に《ゲート/異界門》が現れ、この先に進むように薦める。
「……さあ、門を呼び出しました、この先は貴方の本来飛ばされるはずだった世界です。
その世界で貴方がどんな運命を辿るのか私にはわかりませんが、貴方にせめてもの祝福を!」
――モモンガは女神に頭を下げ、そして白い門を開き。
★ こ の す ば
気が付けばそこはナザリック地下大墳墓の玉座の間。
ワールドアイテムである玉座に腰かけ、ユグドラシルの最後の時を待っていた。
「…駄目だな、少し寝落ちをしてしまったか、もう時間が無いって言うのに。
まったく、悪い夢…いや…いい夢だった……か」
光の減っていないシューティングスター(流れ星の指輪)を見て苦笑いをする。
この世界が終わるまでの残り時間を確認しようと時計の表示を確認するが、表示されない。
シャウト、GMコール、システム強制終了入力…どれも感触が無い。
「どういうことだ!」…夢で体験した事と同じような事が起こっている。
その言葉に反応した人影が一つ、守護者統括であるアルベドが驚き語り掛けて来た。
「どうかなさいましたか、モモンガ様。あの…モモンガ様?
いかがなさいました?…何か問題がありましたでしょうか?」
口が動いている?おっぱいが滑らかに動く?NPCが会話をしている?…ありえない。
ありえないと言う気持ちを乗り越え、心配そうに見つめるアルベドにかけるべき言葉があった。
何時も誰かに言いたいと願い、モモンガの心の底から湧き出して来た言葉は…
「ただいま、アルベド」
そうモモンガが語り掛けると、アルベドは一瞬驚き、それはとても幸福そうに。
「おかえりなさいませ、モモンガ様」と答えた。
誰かが出迎えてくれる言葉、それがモモンガが一番望んだものかもしれない。
★ こ の す ば
「…おかえりなさい…モモンガさん?」
「ええ、ただいま戻りましたよ、ウィズさん」
ウィズが困惑したようにモモンガに問いかける。
仲間達の所へ帰ろうとしていたモモンガが、普通に魔道具屋にお客として買いに来てたからだ。
「あ、あれ?えーと、その、帰られたのでは‥」
「ええ、仲間達とは会えませんでしたが、彼らの残した子供達とは再会できました。
ここへはシャルティア便…親友の娘の《ゲート/異界門》の魔法で来たのですよ。
理想の支配者の演技をするのに疲れまして、息抜きに…不死者に効く胃腸薬無いですか?」
モモンガとウィズは苦笑いをする。
それと同時に、前に残していった災厄がこの場を見つけ突撃して来た。
「やっと見つけたわ、このクソアンデッド!この前はご飯を奢ると言って1万エリスしか置いていかなかったじゃない!他人の奢りだと思って思いっきり飲み食いしたら3万エリスも足りなくて、不足分の請求は全部私宛になってたんですけどぉ!…許せないわ、今すぐ浄化するべきね!」
…こうしてすばらしく、ろくでもない二つの世界は今日も時を進めていく。
閲覧して頂けた皆さまありがとうございました、短いですがこれで完結となります。
正直1話だけ投げて逃げる気満々だったこれを、一応なりとも完結まで進められたのは皆様のおかげです。
…後は細々小ネタをやるかもしれません。