AIR AGENCYは、アニメクレヨンしんちゃん野原ひろし役などで知られる声優の藤原啓治さんが、癌のため闘病中のところ4月12日に死去したと発表した。55歳だった。

 藤原啓治さんはシリアスからコミカルな役どころまで幅広くこなす声優と知られ、『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし役として知られるほか、アニメではケロロ軍曹ナレーションポール森山、鋼の錬金術師マース・ヒューズ交響詩篇エウレカセブンのホランドノヴァクなどが知られている。

 海外映画の吹き替えでは、ダークナイトではバットマンの好敵手ジョーカーを演じており、ほかにもアイアンマンアベンジャーズシリーズに出演している俳優のロバートダウニー・Jr演じるトニー・スターク吹き替えを担当していることでも有名だ。

 藤原さんは、ビデオゲームでも主役、主役級として数多くの作品で活躍している。特に狂気的な悪役を演じることに定評があり、戦国BASARA松永久秀ファークライ4のパガン・ミン、バットマン アーカム・ナイト』ジョーカーCall of Duty: Modern Warfare 3のウラジミール・マカロフなど、飄々としてつかみどころがない不気味キャラクターを演じるのが上手く、洋ゲーファンにも馴染み深い人物だった。

 またRPGでは、グランブルーファンタジーの老兵オイゲンキングダム ハーツシリーズで「記憶したか?」が口癖のアクセル、さらにファイナルファンタジーXVのアーデン・イズニア。アーデンは、のちのち物語上で重要な役であることが浮かび上がる役で、大きな存在感を発揮した。最近では大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIALミュウツーFINAL FANTASY VII REMAKEタークスのレノを演じており、アクセル、レノ、アーデンと赤毛のキャラクターが印象的だ。

 主人公ヒーロー的な役どころだとうたわれるもの 偽りの仮面うたわれるもの 二人の白皇では主人公のハクを全編フルボイスの大ボリュームで演じきったのは、記憶に新しい。同作のアニメでもハクを続投しており、人を引き付けてつつ、過酷な運命に立ち向かうハクの姿は多くのプレイヤーの心を打った。

 洋ゲー主人公ではBioShock Infinite主人公のブッカー・デュイットだろう。落ちぶれたのんだくれの探偵だが、少女エリザベスと出会うことによって、徐々に心を開いていった。しかし自身の過去を知るにつれ衝撃的な事実が明らかになるなど、悩み多き複雑なキャラクターを演じきっていた。

(画像は『ファイナルファンタジーVII』公式サイトより)
(画像はうたわれるもの 偽りの仮面 公式サイトより)
(画像はBioShock Infinite公式サイトより)
(画像はファイナルファンタジーXV公式サイトより)

 藤原さんは、2018年8月に病気療養のために当面のあいだ、休養することを発表しており、野原ひろし役などは休養中の作品は代役や後任によって代わりを務めていた。その後、2017年から体調を見つつ徐々に仕事に復帰しており、復帰後の初めての仕事は『スパイダーマンホームカミング』のトニー・スタークだった。

 間近では、2019年10月に放映開始されたアニメGRANBLUE FANTASY The Animationシーズン2のオイゲン役で復帰。さらに藤原啓治さんがプロデュースするドラマCD文豪シリーズ4月24日に発売し、同日にはその発売記念イベントに出演することを予定していたが、突然の帰らぬ人となった。なお、藤原さんは文豪シリーズでは夏目漱石を演じている。

 段階的に復帰から回復に向かっていたのではないかと思われていただけに、今回の突然の訃報は業界人、ファンにとって大きな衝撃で、SNSなどでは、藤原さんを惜しむ声が立たない。

 アニメ、映画、ゲームなど多方面で活躍する藤原啓治さんは、日本を代表する声優といえ、まさに才能溢れたカリスマ的な人物だった。さまざまな作品やキャラクターで大きな存在感と功績を発揮した藤原さんが亡くなったことの損失は計り知れず、しばらくは余波が続くだろう。

 なお、通夜ならびに告別式は、親族のみで執り行われ、ご香典ご供花の儀は「ご辞退申し上げる」としている。

ライター福山幸司

85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter@fukuyaman