大学に入るまでPCをほとんど扱ったことがなかった末竹さんと、ゲーム制作に興味はあるものの普通科の高校だった斉藤さん。情報系の研究とは何だろう?という基本からスタートした2人がわずか1年間で*1九工大PBLで未来志向賞を受賞するまでに。
いったいどんなことを研究・発表したのか、2人の話を聞いてみました。
いったいどんなことを研究・発表したのか、2人の話を聞いてみました。
*1九工大PBL:九州工業大学主催のPBL合同成果発表会
VRのような没入型仮想現実の研究を実現したいという末竹さん(左)と、高校時代に取り組んだ男子新体操を、もっとたくさんの人に知ってもらえるようなゲームを作りたいという夢を持つ斉藤さん(右)。 壁にぶつかりながらも進めた2人の初めての研究は高い評価を得ました。
斉藤:私は高校では普通科だったのですが、ゲーム作りに興味がありました。工業系の大学で専門的な学びを経験したいと思っていたところ、両親から福工大のパンフレットを貰い、1年生から研究ができる※「FITポケットラボ」のことを知りました。高校の時は「研究ってなんだろう」と漠然と思っていたので、大学に入ったらぜひ経験してみたいと思ったのがきっかけです。
末竹:私はPCを触る機会があまりなかったのですが映像技術で実現可能な、近未来のシステムを現実で扱えるか試してみたくて、まずは基礎研究として自分の考えた通りに画面上のキャラクターを動かすことを目標に、1年生から研究ができるポケットラボへ参加して、研究をしてみようと考えました。
*2FITポケットラボ:低学年時からユニークな学術研究活動に専念できる情報工学部の学科横断的取組の1つ。参加者はやってみたい研究テーマを自分で設定し、先輩や教授のアドバイスを受けて1年間実験や研究を行える。文部科学省主催の「サイエンス・インカレ」に参加する学生も多く、2017年までの4年間でファイナリスト総数は27名。4年連続で受賞歴あり。
末竹:私の場合は、VRのような没入型仮想現実について何か研究をしたいと思っていたので、夏休み前に同じ1年で参加している斉藤君に、脳波の何か研究をしてみないかと声をかけました。しかし、どんな手段や考え方で研究を進めたら良いかはっきりせず、夏休みはいろいろな論文を読み漁りました。
斉藤:私も末竹君に誘ってもらって彼の研究に興味を持ったのですが、どうしてよいかわからなくて、他のグループは論文を書き始めていたのに、論文も全く進まず少し焦りを感じていました。
末竹:それでポケットラボ担当の下戸先生に相談したところ、まずは脳波をセンシング(センサーを通して計測)してみてはどうか、ということで『necomimi』という脳波をセンサーで読み取る市販の装置があるので、それを使ってみてはとアドバイスをいただきました。 その装置を実際に使って脳波を計測してみたところ、使用者が集中しているときは『Attention(アテンション)』、リラックスしているときは『Meditation(メディテケーション)』といった、データの数値が動くことがわかりました。そのデータをPCで読み取って、PC上のアニメーションモデルを操作するシステムを考え、*3サイエンス・インカレに提出することにしました。 このデータを取ることで将来的には脳波で何かを動かしたり、コミュニケーションを取ることが可能になると考えられます。例えば、ゲームのキャラクターを自由に動かしたり、医療の面では*4ALSといった難病の人達の手助けが出来るといいと考えています。
*3サイエンス・インカレ:学生による自主研究の祭典
*4ALS:筋萎縮性側索硬化病。脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える運動ニューロンが侵される病気
*4ALS:筋萎縮性側索硬化病。脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える運動ニューロンが侵される病気
額からセンサーで脳波を読み取り、集中しているときは耳がピンと立ち、リラックスしているときは下にさがったりと、猫のように耳が動く。
末竹:試行錯誤しながらも論文を作り上げ、サイエンス・インカレへ提出しましたが、研究・実験内容が突き詰められておらず、落選してしまいました。
私たちが取り組んだ内容は、どちらかというと「脳波を計測してその情報を基にアバターを操作するシステムを作る」というモノづくりのジャンルに該当するもので、このシステムで得られるデータを基に何が判るか、将来どう役立つかという「研究」部分が不足しており、もう少し研究成果を明確にする要素をプラスした方が良いのではないか、という指摘でした。
私たちが取り組んだ内容は、どちらかというと「脳波を計測してその情報を基にアバターを操作するシステムを作る」というモノづくりのジャンルに該当するもので、このシステムで得られるデータを基に何が判るか、将来どう役立つかという「研究」部分が不足しており、もう少し研究成果を明確にする要素をプラスした方が良いのではないか、という指摘でした。
斉藤:でも、この指摘は僕たちにとってとてもありがいことで、どうすれば良いか改善点が明確になりましたし、新たな視点で研究を進めることができました。
末竹&斉藤:もっと研究内容の精度を高め、3月の九工大PBLに目標を定めることにし、研究を進めました。研究には先輩や友人たちにも協力してもらい、データを収集したりしましたが、脳波は個人差が激しく、取得したデータにムラが出たりと、途中自分達の不甲斐なさを実感することもありましたが、それが良い経験につながったと思っています。
斉藤:発表は7分間と短いため、いかにわかりやすく、簡潔にするかが大きな課題でした。末竹君と練習を重ねて挑みましたが、やっぱり初めてのことなので緊張しましたね。でも内容には自信があったので、もう少し上の賞が狙えたのでは?とちょっと悔しい気持ちもありました。
末竹:今回のことで、同じように研究をしている学生や先生方といろいろな話をしたり、論文を再収集したりする中で、もっといろいろな研究をしてみたいと思うようになりました。貴重な経験ができたと思います。
斉藤:今回の経験で大きな刺激をもらえたと思っています。プログラミングなど、いろいろやりたいことが増えてきて、学ぶことが楽しいと思えるようになりました。
necomimiはセンサーで読み取った脳波に合わせて耳が動くというものですが、さらにそのデータを無線でPCに送れるようにし、受信したデータをPCで読み取り解析して、アニメーションでも表現するというのが2人の研究内容。
本番では緊張から正確な脳波が計測できないかもしれないと、事前に動画を撮影。
本番では緊張から正確な脳波が計測できないかもしれないと、事前に動画を撮影。
研究成果は九工大PBLで『未来志向賞』を受賞。大学1年生での受賞は珍しいとのこと