1200ドル給付は家計支えるが
未来の信用不安の種にも

「1200ドル(約12.8万円)の給付は必要な政策だ。僕はトランプ支持者ではないが、この政策には賛成する。ただ正直なところ、この程度の金額でははっきり言って全然足りない」。首都ワシントンでフリーランスのITエンジニアとして働くマーク氏(53歳)は、弱々しい口調でそう打ち明けた。

 新型コロナの影響で、仕事のオーダーは10分の1に急減。ワシントンもシリコンバレーやニューヨークと並び、生活コストが高く貧富の差が大きいことで知られる。「この都市で家賃や食費を払えば、1200ドルなんてあっという間になくなる。とにかく仕事をくれる企業を探すが、年老いた親を抱えて生活していける自信はまったくないね」(マーク氏)。

 トランプ政権は3月27日、新型コロナ対策で第3弾となる法案(略称CARES Act)を成立させた。財政出動規模は約2兆ドル(約214兆円)。GDP(国内総生産)の1割に相当する大規模な対策だ。この対策の目玉が大人1人当たり1200ドル、子供1人当たり500ドル(約5.3万円)を一律給付するプラン。家計への経済的な打撃を和らげ、新型コロナ一巡後に国家経済をスムーズに“再起動”させることを目指している。

 第3弾の対策にはほかにも、失業保険給付の増額や期間延長、雇用を維持した中小企業の事業経費に充当できる政府融資の提供、企業減税といった措置が幅広く盛り込まれた。こういった措置は共和党、民主党の双方からおおむね支持されているようだ。

 ただ巨額の財政支出が、国家経済に何のリスクももたらさないわけではもちろんない。2兆ドルの景気対策によって、米連邦政府の財政赤字は年2兆ドルを突破する公算。リーマンショック直後の09年の赤字をも上回る規模だ。

 市場アナリストの豊島逸夫氏は、「新型コロナの影響そのものですでに米国経済は大きく傷んでいる。それに加え巨額の財政支出のために国債を増発することで、米国債の格下げが起こる可能性が否定できない。そうなれば世界の金融市場にも波及する」と指摘する。新型コロナで逆回転する米国の雇用、経済、財政。そして最悪なのは、新型コロナ禍がいつまで続くのかがまったく見えないということだ。

Key Visual by Kaoru Kurata、Graphic:Daddy’s Home