3月の失業率上昇は
ほんの始まりにすぎない
コロナ問題が勃発するまで、米国の労働市場はかつてないほどに安定していた。米労働省が3月6日に発表した2月の雇用統計(速報値、季節調整済み)では、失業率が3.5%(前月比0.1ポイント改善)と、半世紀ぶりの低水準だった。米国は働く意思と能力がある人が全員仕事に就いている「完全雇用」に2018年ごろに突入し、その状態を長期にわたって維持してきたとされている。
ネットを通じて単発の仕事を請け負う「ギグエコノミー」が増え、労働者の収入や立場を不安定にする批判はあったものの、好調な企業業績と株高が労働機会を生む好循環にあった。それが今、急転直下で悪化している。
この原稿を執筆している時点で、3月の雇用統計はまだ発表されていないが、エコノミストへの調査では、3月の失業率は前月比0.3ポイント悪化し3.8%になるとの推計が出ている(米国時間4月1日のロイター報道)。日本時間4月3日夜の発表値がこの予想の範囲にとどまるかどうかは、まず足元の注目点だ。
そしてこの悪化は序章にすぎず、4月以降、史上最悪のレベルに達する恐れがある。米セントルイス連邦準備銀行のエコノミストは、4~6月期の失業率が32.1%に達するという予想を3月24日の公式ブログで明らかにしている。働く意欲と能力がある人の3人に1人が働けないということだ。この数字は、1930年代の大恐慌で記録された24.9%を大幅に上回り過去最悪だ。
日本と異なり米国の失業率には、復職の可能性がある一時解雇者も含まれている。一時解雇者の比率が高ければ、新型コロナの影響が一巡した後、垂直立ち上げ的にスムーズに経済活動と雇用状況が良くなる可能性がある。ただ取材では、完全に職を失ったという人も決して少なくなかった。
例えばシリコンバレーにある大手半導体メーカー社員だったケビン氏(40代)は、設計エンジニアとして関わっていた開発プロジェクトが経営判断で突如「保留」になった結果、自身を含むチームの約130人が一気に解雇された。
解雇された時期はトランプ米大統領が非常事態を宣言するより前だった。ケビン氏自身は勤め先の業績状況について詳しく語らなかったが、半導体業界では新型コロナ以前から、米中の激しい対立によって景況感が急速に悪化していた事実がある。業界にとっては、新型コロナの打撃は駄目押しの痛手だったのではないか。
「これからはフリーランスのエンジニアとして、半導体設計以外の仕事を探すつもり。政府の緊急対策で失業保険が早く下りるようになったので、家族のことを考えるととてもありがたい。出掛けなくて済むように、まずは食料品を買い込む」。ケビン氏は弱々しく語った。