感染のリスクをおかしても
働き続けるしかない人々

――ジニ係数が高い都市はあらかじめ、新型コロナで大勢が死ぬかもしれないと警戒して、対策を講じる必要があるというのですね。

イチロー・カワチ教授写真
Ichiro Kawachi/1961年東京生まれ。12歳でニュージーランドに移住。オタゴ大学医学部卒業後、同大学で博士号を取得。内科医として同国で診療に従事。92年にハーバード大学公衆衛生大学院に着任、2008年から同大学院社会・行動科学学部長。同大の公開オンライン講座「Harvard X」で担当した「健康と社会」は3万人以上が受講する人気コースとなった。

 そういうことです。経済的な難しさを抱える人は、健康状態が悪いだけではありません。ほかにもいくつも新型コロナに対する弱さを抱えています。

 まず、感染の可能性そのものが高い、という悲劇的な事実があります。多くの都市がロックダウン(都市封鎖)しましたが、オフィスで働くホワイトカラーの労働者は在宅勤務が可能です。しかしサービス業や製造業で働く人は、物理的に店や工場に出勤しなければならない。つまり働き続けるためには、感染するリスクを取り続けるしかないのです。

 またロックダウンによる経済停滞で、一番失業者を生んでいるのが飲食や小売り、つまりサービス業です。米国では失業は、収入がなくなるというだけでなく、健康保険の喪失をも意味します。3分の2以上の人が勤務先の企業から保険を提供されています。ですから失業すると、自己負担で健康保険に参加するか、または無保険の状態に陥るのが基本です。

――無保険の人は、米国にどれぐらいいますか。

 国民の1割程度です。この数はトランプ政権の下で増加しています。高齢者はメディケアというシステムに参加していますが、国民皆保険(国民全員が公的医療保険に加入する制度)がある日本に比べると、医療のセーフティーネットがまったく整備されていない状態です。

「新型コロナみたいだな、ちょっと体がおかしいな」と気づいた場合、外来診療に行くこと自体は無保険でも可能です。しかし現実的にそれを選択できるかというと、なかなかハードルが高い。米国の医療費は、仮に保険に加入していても非常に高額です。例えば歯医者で治療を受けただけでも、300~400ドル(約3万2100~4万2800円)かかります。

 一方で米国の家庭では、預金が400ドルに達しないところが多い。病気のような緊急事態で400ドルを支出できるかという質問をすると、多くの人ができると答えられていない。無保険で貯金もないという経済的に困難な人たちが、新型コロナでもぎりぎりまで病院に行くのを我慢し、病状を悪化させることは容易に想像できます。