粗利5~10円の衝撃
目玉商品では儲からない
まず、トイレットペーパーから説明しよう。ドラッグストア業態は、粗利率の低い目玉商品で顧客を引き寄せ、粗利率の高い主力商品で利益を確保する「粗利ミックス」のビジネスモデルで展開している。トイレットペーパーはこの目玉商品の代表格だ。
冒頭のドラッグストア幹部の問いに答えるなら、1袋当たりの粗利はたった5~10円しかない。物にもよるが、一般的なトイレットペーパーの粗利率は限りなく0%に近く、利益度外視の商品といっていい。
粗利率が業界平均で20%台後半だといわれる化粧品や、同30%台後半だとされる医薬品など、ドラッグストアの主力商品も一緒に買ってくれればいい。しかし、「今はマスクとトイレットペーパーだけが目当てなので、それだけを購入して帰ってしまう。買えなければチラッと店内をのぞいて他のものをちょっと買ったり買わなかったり……そんな程度ですから」(同)と、現実は厳しい。
ただでさえ、都市部のドラッグストアはコロナショックでインバウンド需要まで“消滅”しているから、泣きっ面に蜂だ。1人平均1万~2万円をドラッグストアに落としていたとされる訪日外国人の主な購入商品こそ化粧品と医薬品であり、重要な収益源を失ってしまっているのだ。
ならば「粗利率を上げるべく、売り値を上げればいいじゃないか」と思うかもしれない。しかし、この非常時に利益目的の値上げをしようものなら、一瞬にして消費者の信頼を失ってしまう。小売業という客商売において、その愚行を実行に移す選択肢はない。
ドラッグストアをはじめとする小売りの有事における反値上げの精神は、マスク不足の原因の一つだとまでいわれるほど根強い。実際に霞が関官僚の間では、市場の摂理に従い、「需要激増・供給逼迫に合わせて小売価格を上げないからマスク不足が解消しないのだ」という説までまことしやかにささやかれていた。