9割以上のマスクを国内で生産しているマスク大手のユニ・チャームもその一社で、通常の2倍に当たる週に2500万枚のマスクを生産中だ。だが、決してウハウハとはいえない。平時は機械で行う包装作業を人力でも補うなど、通常の3~4倍の人員を投入して対応に当たっているからだ。
前出とは別のマスク業界幹部によれば、業界全体で見ると材料費も高騰しているという。
中国メーカーに委託生産するメーカーにおいてもコスト増は必至だ。前述したように、日本はもともとマスクを全量、国内生産していたわけではない。日本衛生材料工業連合会によると、コロナ発生前の2019年12月時点で、日本のマスクの7割が中国を中心とする海外に生産を委託して作られていた。
日本と中国のマスク製造における取引の“パイプ”は太く、世界的なマスクの需要増の下でも「輸入がストップするわけではない」とマスク業界関係者はみているという。むしろ、2月の末ごろから中国のマスクメーカーを名乗る企業からひっきりなしに委託生産の依頼が来ているくらいだ。ただし、米国などによって中国に高値発注が殺到していることは間違いなく、委託コストは上がっている。
「新規投資でこれ以上の増産をさせたいなら、経産省は設備投資の補助金を出すだけではなく、それとセットでコロナ終息後の需要減に備えた“買い取り保証”をきちんと表明しないと無理じゃないですか。それでも、店頭のマスクの棚は埋まらないでしょうが。買いだめする人はどこまでもする。配給制にでもしない限り、マスク逼迫問題は解決しませんよ」。マスクメーカー関係者は頭を抱えている。
こうした切迫した状況下でメーカーに仕入れ価格の値上げを要請されたが最後、ドラッグストアもゼロ回答は出しにくい。ドラッグストアとて、マスクを仕入れられないと困るのだ。もうすでに、新規取引先に関しては仕入れ値が既存の取引先と比べて高く設定され始めているという。店頭価格を上げられないのであれば、小売りも粗利を削る以外に道はない。
「マスク参入に関しては、大前提として社会貢献という目的がある」。シャープ関係者はあえて異業種から参入した意図について説明するが、マスク関連事業者には中小企業も多いといわれる。消耗戦下でマスクを安定的に供給し続けることはできるのか。懸念は深まるばかりだ。
Key Visual by Kaoru Kurata