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【社説】

WHOと米国 拠出停止は行き過ぎだ

 新型コロナウイルス対策を巡り世界保健機関(WHO)が中国寄りだとして、米国が拠出金停止を表明した。批判があるのは事実だが、過剰対応は感染防止への足かせとなる。拠出は続けるべきだ。

 不満を口にしたのはトランプ米大統領だった。WHOが「中国に偏っている」「誤った情報によって、多くの死を招いた」と激しい言葉で指摘した。

 今年一月、米国が中国からの入国制限に踏み切った際、WHOが批判したことや、WHOが新型コロナウイルスを巡る緊急事態宣言をいったん見送った後、感染者の爆発的拡大が起きたことに不信感を募らせていたようだ。

 WHOと台湾との対立も表面化している。台湾の衛生当局は昨年末にWHOに電文を送り、中国で発生した新型肺炎に対して警戒するよういち早く伝えたが、放置されたと不満を表明している。

 WHOは、国際的な衛生問題を担当する国際機関だ。世界百五十カ国以上からの約八千人が働く。感染症などの疾病撲滅を主要事業としており、今回の感染拡大でも重要な役割を担っている。

 ところがその組織のトップ、テドロス事務局長に、中国との密接な関係が指摘されている。

 テドロス氏の辞任を求めるネット上の署名では、世界中からすでに九十万件以上が集まっている。

 署名の理由書は、テドロス氏が事態をあまりにも過小評価し、中国政府から報告された死亡者、感染者数をうのみにしたことを問題視している。

 中国は近年、国際機関への拠出金を増やし、その影響力を強めている。WHOへの拠出は二〇二〇年に約二千八百七十万ドル(約三十一億円)となり、米国に次ぐ二位となった。日本は三位に落ちた。

 さらにテドロス氏の出身国であるエチオピアは、中国から巨額な経済支援を受けている。これらが「中国寄り」の背景なら、看過できない。批判に謙虚に耳を傾け、より公平な運営に努めるべきだ。

 ただ、トランプ氏の責任転嫁は見慣れた光景でもある。初動対策が遅れた自身への批判をかわすため、WHOをやり玉に挙げているだけではないのか。

 新型コロナウイルスの感染者は世界で二百万人に迫り、死者は十二万人を超えた。米国が拠出を止めれば、死者をさらに増やすだろう。無責任のそしりは免れない。

 不満があるなら、感染が世界的なピークを越えた後に、時間をかけて話し合えばいいはずだ。

 

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