コロナ特需後に迫る
大衆薬業界の三つの憂慮

 前出の売り上げ好調な薬効を製品ポートフォリオに組み込んでいる大衆薬メーカーは、降って湧いた“コロナ特需”の恩恵を受けている。第一三共ヘルスケア(第一三共の100%子会社)は「全般的に前年を上回って推移している」と説明。国内最大手の大正製薬も好調のようだ。

 一方で、武田コンシューマーヘルスケア(武田薬品工業の100%子会社)は売り上げ好調な製品群がある一方で、ビタミンB1剤(製品名「アリナミン」)などインバウンド需要急減による売り上げ減の製品群もあり、広報担当者は「トータルでは横ばい」と話す。ただ、あらゆる業界にコロナショックによる不況が押し寄せている中、横ばいでも上々といっていいだろう。

アリナミン EX PLUS
武田コンシューマーヘルスケアが販売する、ビタミンB1誘導体が入った「アリナミン EX PLUS」。インバウンド需要急減の余波を受けている Photo by M.T.

 ただし、喜んでばかりはいられない。大衆薬業界は三つの憂慮を抱えているのだ。

 一つ目は、いずれは訪れるバブルの「反動」だ。一般的に大衆薬は購買インターバルが長く、日用品の中では単価が高いため、いったん反動期に入れば回復まで時間がかかる。東日本大震災で生じたバブルの後は、1年ほど前年比割れが続いた(インテージヘルスケア調べ)。今回のコロナショックでは、消費マインドの低迷が同時に押し寄せているのも厄介だ。

 二つ目は、インバウンド需要の回復が見通せないことだ。インバウンド需要への依存度は大衆薬メーカー各社で濃淡があったが、世界各国の“鎖国化”は当面続きそうな情勢で、影響の中期化は避けられそうにもない。純粋な内需を当てにした経営戦略への見直しが迫られる。

 三つ目は、コロナショック以前から続いている大衆薬市場の伸び悩みだ。市場規模は近年1兆1000億円前後で推移。その理由として、業界関係者は口々に「起爆剤にと期待されていた新規のスイッチOTC(医療用医薬品から転用された大衆薬)がなかなか市場に出てこないから」とぼやく。ボトルネックははっきりしている。国の検討会議でスイッチOTCの候補成分を議論の俎上に載せるたびに多くの場合、医師らが「誤用や乱用の危険性」などを理由に反対してきたからだ。

 ただし三つ目の憂慮に関しては、今回のコロナショックによる消費者マインドの変化が業界に対する救いの手となり得る。「感染リスクを冒して病院に行くよりも、ドラッグストアで自己責任で購入したいのにお目当てのスイッチOTCがない」「不要不急の外出を避け、インターネット通販で購入したいのにお目当てのスイッチOTCがない」といった、消費者からの“気付きの声”が上がるのは自然な流れだからだ。

 医師と患者がビデオ通話でつながるオンライン診療はこれまで厳しい制限がかけられていたが、コロナショックを機に初診から全面解禁された。ヘルスケアの現場で、さまざまな“規制緩和”が進むことになるだろう。

Key Visual by Kaoru Kurata