そんなわけで、日頃から消毒液の容器を手掛けるメーカーには注文が殺到している。「多いときには、消毒液関連の容器の注文を打診するメールだけで1日に400件も来る。営業担当者も生産現場もてんてこ舞いだ」。医薬品や化学品用のプラスチック容器を製造する東洋硝器の関係者はこう打ち明けるが、注文量は平時の数十倍に上るというから尋常ではない。

容器不足の現状は、花王が発表した消毒液の増産方法からも見て取れる。花王は今回、19年の通常月の20倍以上に消毒液を増産するに当たり、ビオレu 手指の消毒液に関して新たに詰め替え用の容器でも提供することを決めた。この決断で、生産量を同10倍強にまで引き上げることが可能になるという。さらに、「ハンドスキッシュ EX手指消毒剤」については、ボトルの一部の自社生産にまで踏み切る考えだ。
「消毒液の生産がどれだけ増えようと、主原料として使われることが多い発酵アルコールが不足することはまずない」(前出の経産省関係者)。サトウキビやトウモロコシから作られる発酵アルコールの用途は、酢やみりん、しょうゆといった食品や試薬など幅広く、消毒液はその一部を成しているにすぎない。いかに容器が消毒液増産のボトルネックになっているかが分かるだろう。
ボトルネックはポンプとガンスプレー
輸入依存の脆弱性が明るみに
一方、容器の重要部品を輸入に頼っていることも容器不足の原因となっている。
実は、容器が不足していると一口に言っても、特に足りていないのは消毒液を噴射するポンプやガンスプレーだ。
ポンプやガンスプレーは中国やフィリピン、タイ、台湾などからの輸入に頼った製品だ。ポンプでいえば約20のパーツを組み合わせる必要があり、手間が掛かる割にもうからないため、海外生産に頼らざるを得ないのが実態なのだという。
これらの輸入が、コロナで滞った。代表的なのが世界でいち早く感染拡大の恐怖に直面した中国からの輸入分だ。東洋硝器でも、調達先である中国・浙江省の工場がストップし、1月末に納入されるはずだったポンプが3月頭まで遅れたという。
それでも、海外に太い調達先を確保している東洋硝器はまだましな方だ。ポンプにしてもガンスプレーにしても、今では順調に確保できる体制に戻ってきているからだ。これが消毒液用の容器製造に不慣れな容器メーカーになると、日本の販売会社を通してポンプを発注した場合、足元では納品までなんと半年もかかってしまう。通常ならば1カ月で済むというのに、だ。ガンスプレーでも状況は似たり寄ったりで、納品までに3カ月はかかるという。
ポンプやガンスプレーの調達先である海外メーカーには、日本企業同士の“有事における助け合い精神”など通用するはずもない。大量発注できなければ部品確保はままならず、ぽっと出の消毒用容器メーカーは、とてもではないが現在の需要には応えられそうにない。
ポンプやガンスプレー付きの“完全体”の消毒液の増産ペースが思うように上がらないのは、こうした理由が大きいとみられる。