同性のみ可
「本当訳わかんねーし! 男と女に分別して何をしようってんだ!?」
自分の性別が根底から揺さぶられてキールの奴、滅茶苦茶だ。
ん?
フィーロ? 何故貴様がしゃしゃり出てくる。
「えっとねー……雄と雌が別れている理由はね、交尾をする為なんだよ? それでね――」
うろたえているキールにフィーロが答える。
それはもう濃密に……甘美な響きを通わせながら、男と女の役割を能弁にフィーロはペラペラと語った。
なんか単純な物ではなく、嗜好に至る領域の……一言で言うなら、××まで知っているって何処で知った!?
俺は咄嗟にラフタリアの方向を眺めるが、ブンブンと首を振っている。
では、リーシアか? とリーシアの方を見ると『ち、違います!』と叫ばれた。
「何故貴様がそこまで知っているんだ、鳥!」
「さあ? フィーロ最初から知ってた」
遺伝子からの記憶って奴?
いやいや……きっとフィーロは野性のフィロリアルの雄とやった事があるんだ。
「なんか変な事考えているー!」
フィーロが心外そうな声で俺に抗議する。
知るか。まあ、フィーロが卵を産むか観察しておかないとな。
「ぶー!」
最近、抗議がうるさいな。
ラフタリアを含め、全員が真っ赤になっている。
男子勢は……海に浸かって出てこない。大丈夫か?
「い、いやだ! そんな事してたまるか! 俺は盾の兄ちゃんと絶対そんな事しないぞ!」
「何故俺がそんな事をしなきゃいけないんだ」
まるで性奴隷にするために買って育てたみたいな言い回しはやめてもらいたいな。
クソッ。イライラしてきた。
これだから色恋に現を抜かしているガキ共は嫌いなんだ。
早くビッチを捕獲して罰とやらを拝みたくなるな。
「くだらない話題をいつまでも続けるな。とりあえず決まりごとが一つ増えたな。恋愛は禁止だ」
「「「えー!?」」」
奴隷共が抗議する。
なんと言われようとダメな物はダメだ。
俺が欲しいのは戦力であって、少子化対策ではない。
ボコボコ増えたガキと親の面倒を見る程余裕は無い。
「そう言うくだらない事は世界が平和になってから俺のいない所でやれ」
「なんでだよ!」
「なんで? そんなの決まっているだろ? 俺が嫌いだからだ。それにラフタリアも嫌っている」
「ラフタリアちゃんが!?」
「え!?」
なぜかラフタリアまで声を上げる。
ああ、私に話題を振らないでって事か。分かったよ。
「あくまで俺達の目的は波と戦う事だ。三ヶ月半後の事だけどな、お前等の中で志願する者を波との戦いに連れていくつもりなんだ。もちろん、無理強いはしない」
「え!? あの波と!?」
「そうだ。お前等の家族を奪った波を鎮める為に俺は召喚された訳だからな。志願するのなら戦わせてやる」
まだ8人だが、もっと増やす予定だし、何通りか班を設けたい。
その上で戦闘班は志願した奴が理想だろう。戦闘は向き不向きもあるからな。
俺の言葉を聞いて、沈黙していたキールが不貞腐れ気味に口を開く。
「どうせ俺は女だったらしいから駄目なんだろ?」
「はぁ? そんな訳ないだろ。俺の周りをみてみろ」
俺はラフタリアとフィーロ、そしてリーシアを指差す。
「そ、そう言えば女ばかりだ! 嫌いって嘘じゃねえか!?」
キールがキレた! 何が不満なんだ。
「お前……参加したいのかしたくないのかどっちなんだよ」
「恋愛禁止って、女はべらせて何言ってんだ!」
「別に俺はラフタリアが男でも問題ない」
「え!?」
「ええ!?」
「フィーロは?」
「雄でも問題ないぞ」
「ぶー!」
何が不満なんだ、こいつ等。
そうだな。一度講義してやるか。
「男女平等というのは男とか女とか比べないんだ。使えるのならどっちだって平等に使う。履き違えるな!」
「そっか……盾のお兄ちゃん、両刀なんだね」
女奴隷の一人がポツリとつぶやく。
何処でそんな知識を知った?
「違う……」
「なーに? 両刀って?」
フィーロはそう言うのは知らないのな。
やはり遺伝子の記憶か。
「あのね。売られている時に聞いたんだけどね」
「説明するな! とにかく下手に恋愛して戦えなくなったら困るんだよ。だから禁止だ」
納得しかねると言った感じでキール以外の奴隷が渋々頷く。
「そうか、じゃあ俺も頑張れば戦えるんだな!」
「ああ、だが、戦後の事を考えて……いや、そう言った嗜好にヒットするかもしれないから、キールは行商の練習をしろ」
「なんでだよ!」
「この中で割と顔は良い方だからだ。物怖じしないし、行商には向いているだろ」
「お、俺が!? や、やだよ!」
「大丈夫だ。何時も通りにやれば良い。人間の方が魔物より厄介で楽しめるぞ」
「盾の兄ちゃんに言われるとそっちの方が怖いよ!」
何かおかしい事でもあったか?
とにかく、行商班にはキールを入れると良さそうだ。アクセサリー辺りを売らせたら女性陣に受けが良いだろう。
ついでにラフタリアも一緒に並べて男女共に金を差し出させれば良い。
「ああ……キール」
「何だよ?」
「同性の恋愛は認めてやる。存分にラフタリアと楽しめよ」
なんか嫉妬していたっぽかったし。
「そんな事したらラフタリアちゃんに殺されるよ!?」
「案外コロッと落ちるかもしれないぞ。ラフタリアみたいなタイプは泣きつかれると断れないってマンガで読んだ事がある」
「マンガってなんだよ!」
「そんな事は良いんだよ。俺に反抗的だったのもラフタリアが好きだったからだろ?」
「ち、ち、ちげーよ!」
キールがなんか震えだした。
その視線の先は……。
「……ナオフミ様?」
メラっと殺気を迸りながら満面の笑みで俺に注意しつつラフタリアが近づいてくる。
ふむ……やはりこの手の話題は禁句だな。
「そんな訳だ。全員、解散して海の幸を漁ってこい」
「はーい!」
それからしばらくして女騎士が浜辺に顔を出した。
「海で遊んでいると聞いたが、本当だったのだな」
「最近、あいつ等も頑張っていたからな、その褒美だ」
「既に十分な褒美を与えているとは思うぞ」
確かになぁ。ま、俺も海の幸を食いたかったというのが本音だ。
「私も楽しませてもらうとしよう」
女騎士は水着になって海に入る。
そしてラフタリアと一緒になって泳ぎだした。
なんだかんだ言っている割にはちゃっかり水着なんか用意しやがって……この国の奴はなんなんだ。
そういえばこの女、妙にラフタリアと仲が良いな。
先ほどの話題じゃないが、そう言う関係なのかもしれないな。
ぶっちゃけ他人の恋愛なんてどうでも良い。
増やして困らせなければ誰が誰と付き合おうが関係は無いんだがな……。
「ナオフミ様ー!」
ラフタリアが手を振っている。
「どうしたー? 溺れたか?」
「溺れてたら話せませんよ! それより、なんか失礼な事考えてません?」
何故ラフタリアにはバレる。
フィーロにも気付かれたしな。
これでも商売では表情でバレた事は無いんだが……。
「誤魔化してもダメですからね」
「ああ、はいはい。元気になってよかったな」
面倒なのでダメと言われた誤魔化しで適当に流しておいた。
「盾の兄ちゃん! 採ってきたよ!」
キールがうれしそうな顔で網に貝とか魚を入れて持ってくる。
「はいはい」
鉄板は既に熱してある。後は捌いて焼くだけだ。
と、そんな感じで今日も……料理してた。いい加減、料理を作るのをやめたい。
そろそろ、魔物の卵を孵化させる頃合いか。
食料も大分集まってきている。問題もあるまい。
「飯を食い終わったら、帰るぞー」
「分かったー!」
昼過ぎにもなり、みんな海から帰って、村で準備をする。
まずは魔物の孵化だな。
昨日の段階で契約は大半、終わらせておいた。
倉庫にしている納屋に並べてある魔物の卵の様子を見る。
「盾の兄ちゃん。何するんだ?」
「食料の備蓄もある程度済んだだろ? これは次の段階に入るための準備だ」
「へー」
「問題は……フィロリアルなんだよな」
馬車を引く魔物として優秀なんだけど、食欲魔人が二匹になると思うと不安になる。
「フィーロ?」
フィーロが首を傾げて聞いて来る。
「違う。新しいフィロリアルの卵だ」
「フィーロちゃんに妹や弟が出来るの?」
「すごーい!」
「わぁ……」
騒がしいなぁ……見た目中高生なのに、子供っぽい。
いや、こんな物か?
「カテゴリーで言えばそうなんだが……」
「ごしゅじんさま、新しい子がフィーロみたいになってほしくないの?」
答え辛い質問をフィーロはしてくるなぁ。
ま、気にしないが。
「乗り物として馬車を引く魔物として欲しいんだ。食欲魔人はいらん」
「ふーん。多分、大丈夫だよー」
俺はそんな返答をしたフィーロに顔を向ける。
「ご主人様が望んでいないのなら、多分フィーロみたいにならないよ?」
……フィーロのアホ毛がフィロリアルの卵に向かってピコンピコンと動いている。
何かあるのか?
「フィーロの眷属が生まれるんだよね?」
眷属!
まあ……フィロリアル・クイーンからしたら普通のフィロリアルはすべて眷属か。
「じゃあそうならないようにするね。ご主人様だけだとなっちゃうかもしれないし」
「……出来るのか?」
「うん!」
フィーロがフィロリアルの卵に触れて何か魔力を注ぐ。
「これでフィーロが命令しない限り、フィーロと同じにならなくなったよ」
「あ、ああ……助かる」
これって新しく生まれる命の可能性を摘み取ってしまったような気がしなくもないが……。
フィーロが大量に居ても騒がしくなるからな。しょうがないか。
実験の結果によってはフィーロにフィロリアル育成を任せるかもしれない。
で、しばらくして魔物は孵化した。
「ピイ!」
一匹はフィロリアルの雛。若干、紫っぽい子だ。
次に芋虫が二匹……これが大きくなると馬車を引けるようになるのか。名前はキャタピランド。卵を盾に吸わせたが効果なし。
次にミミズが三匹。デューンという魔物らしい。土壌整備はこいつに任せるのか?
基本的な禁則事項はセットして……。
「という訳だお前等、こいつ等のLv上げをしてこい」
「「「はーい!」」」
子供が親にペットを買って貰ったような感じでみんなして魔物を入れた箱を担いで馬車に乗っていく。
フィロリアルの雛はフィーロの頭に乗っていて、生まれたばかりだというのに楽しそうに「ピイ!」って鳴いている。
なんか、ここ数日でガキの面倒ばかり見ている気がする。
……俺、異世界に来てなんで親代わりしているんだ?
気にしたら負け……自分を納得させるんだ。これも波に備えた投資。
「あ、後」
「何?」
「そろそろ料理班を新設するからこの中で料理を覚えたい奴は名乗り出ろ。どちらかと言うと戦闘は苦手でやりたくない奴」
「じゃ、わたしが……」
女の子奴隷の一人が馬車から下りる。
「良いのか?」
確か、ラフタリアと一緒に夜食を要求してきた奴だったはず。
「うん……料理、作るの好き、戦うのは……やっぱり……」
「そうか、じゃあ大変だけど頑張るんだぞ」
「うん」
女の子は頷き、俺の隣に立つ。
「行ってきますね」
ラフタリアが手を振る。
「おう、行ってこい」
「ラフタリアちゃん。心配しなくても大丈夫だからね」
「は?」
料理班になった子が手を振りながら呟く。
何の話だ?
「ね?」
「心配してません!」
なんだ?
「じゃあ行ってきます」
「いっくよー」
ガラガラと音を立てて、馬車は進んでいった。
「……さて、じゃあ手伝ってくれ」
「はい!」
こうして俺はその子に料理を教えていくのだった。
とは言っても、男の雑な料理な訳で……。
盾の補正で美味くなっている分、厳しいか。
「盾のお兄ちゃん。手先が器用だね」
「そうか?」
「うん。魚とか魔物とか捌くの上手!」
「そうかそうか」
こう言われて悪い気はしないな。
「盾の不思議な力で美味しくなる訳で俺自身は上手じゃない。お前は……親に教わった味をイメージして作れ」
「うん! じゃあ盾のお兄ちゃんにわたしが美味しい料理を教えるね」
ちょっと地雷を踏んでしまったけど、笑顔で答えてくれた。
笑ってくれるのなら良いのだけど……。
結果で言えば、俺が教わる立場になってしまった……まあ、良いか。
この子も料理が好きで、料理と言ったらこの人ありと呼ばれるようになるのは、随分と後の事だ。