海の男女
ガラガラガラ……。
その日の昼過ぎに女王からの援助物資を乗せた馬車が到着した。
「ここに盾の勇者様がいらっしゃると聞いたのですが」
「なんだ?」
城から来た騎士が俺を呼んでいた。
なんか見覚えがある奴だ。確か……ラフタリアと剣の稽古をしていた奴だと思う。
外見は……ゲームとかで出てきそうな女騎士。顔はラフタリアに匹敵する美女って感じだ。
髪はロングで、ストロベリーブロンド。兜とかを被っている時は纏めている感じ。
フィーロが金髪碧眼のかわいい女の子だとするのならこの女騎士は厳しい女帝とかが似合う。
他に俺が賞金を掛けられる前の波での戦いで志願兵達が一緒に居る。
「盾の勇者様!」
「おお、お前らか、どうだ? 調子は」
「城の方の復旧作業も大変です」
「だろうな……じゃなくてお前等が来るとは、何かあるのか?」
「特に大きな問題はありません。一応、定時報告と人員の増強です」
「ああ、なるほどね」
女王も俺の意図を完全に理解しているな。事前に人員を増やしてくるか。
「後は私だけですが、一応、表立っての伝令兵として派遣されました」
「影じゃなく?」
「あの者たちは裏の伝令です」
何処が違うのかと聞きたいが……まあ良いや。
「他に奴隷の武術指南役も兼ねています」
「ああ、それは助かるな」
なんだかんだでラフタリアは我流だからなぁ。こいつと訓練して若干腕が良くなったとは思える。
「それで……肝心の奴隷は何処に?」
「Lv上げに行ってしまったな。帰ってくる頃にはLv25以上になっていると思うぞ」
「ふむ……ずいぶん早いペースで上がっておりますね」
「スパルタだ。それに、戦うのが嫌いな奴でも30は欲しいからな」
「それはどのような理由で?」
「色々だ。ま、建物の補修を頼む」
「承った」
さて、俺も次の作業に移らないとな。
最近、研究しているのだが、薬草を植物改造できないかという事だ。
この植物改造、難点が複数ある。
改造できる植物と出来ない植物が存在するのだ。
覚えた直後に薬草とかを馬車で増やせないか実験したのだが……結果はメニューを開いた瞬間に枯れ切ってしまった。
どうも改造に必要な生命力とか無くて、耐えきれないらしい。
その点、無茶な改造も耐えきるバイオプラントの種は優秀だ。
だからバイオプラントを基軸に改造をして既存の薬草を作れないかを試したい。
そんなこんなで下準備は問題なく終わった。
「盾の勇者様の思いやりっての……ホントだった」
帰ってくるなりヘロヘロになったキールが泥のように馬車から下りて俺に言ったのは蛇足か。
ま、食ったものを無駄にしなくて良かったな。
ぐー……。
きゅるるるるる……。
それでも飢えを訴えるこの連中。
数日後。
「あははー!」
バイオプラントで木登りをする奴隷たち。
全員、30前後になり、成長がなだらかになってきている。ただ……どういう訳か、外見年齢が14~15歳前後だ。
ラフタリアよりも若干幼い。これが戦闘に適した年齢なのだろうか? 顔もよくなるかと思ったけど、思いのほか普通。
確かに他の子供とかと比べれば……という程度で、ラフタリアに匹敵とかは居ない。栄養が行き届いていたら、という位だ。
男の中で顔が良いのはキールだろうな。妙に女顔で美少年に入るかな? 男に言うには失礼だが、ボーイッシュって感じ?
ちょっと失敗か?
「なー盾の兄ちゃん! 最近、肉と野菜ばっかで飽きたよ」
「ワガママを言うな!」
なんか最近、打ち解けたのか馴れ馴れしい。敵愾心があったらあったで面倒くさいが慣れられるのも面倒くさい。
ここはガツンと言ってやるのも手だが、やる事はやるから注意しきれないな。
なんか親しくなってきたからか、今までの奴隷生活をつらつらと俺に話して、最後は「ありがとう」で締める。
やる気があるのは良いんだがなぁ……。
後は……どいつも元は労働奴隷なんだよな。
俺が言うのもなんだが……子供を戦闘奴隷とか外国の少年兵じゃないんだから普通は別の用途で使う。
安く買える労働力が正しい使い方だろう。
「俺さ、海に行って魚採ってくるから作ってくれよ兄ちゃん!」
「お前の兄になった覚えは無い!」
キールに関しては完全に舐められている。
説教してやろうか。
そうそう、そのキールに関してなのだが、他の男の子奴隷と比べて小柄なんだよな。
声変りも遅いし……。
「お魚食べたいですね」
リーシアが同意し、奴隷たち全員が頷く。
「兄ちゃんの魚料理食いたい!」
「食いたい!」
「食べたい!」
あーもう……フィーロみたいのが大量生産されてる。
卵を孵化させなくて良かった。
これで変な魔物がご飯と騒いだら最悪だったからな。
「分かった。今日は海の幸を採ってこい。ついでにフィーロは泳いで魔物狩ってこい」
「はーい!」
と、奴隷共と海へ行く事になった。
なんだかんだで暖かくなってきているしなぁ。
海水浴には良いだろ。
こいつ等、海は慣れているから泳げるんだよな。
と、少し歩いて浜辺に着いた。
「キャハハ!」
と、奴隷たちが楽しげに銛を持って、全員服を脱いで下着で海に入っていく……。
その途中で気づいた。ラフタリアやリーシアも理解したようだ。
「ナオフミ様!」
「え? ええ!?」
「フィーロ! キールを捕まえろ!」
「へ? わかったー」
「わ!? なんだよ!」
海に入ろうとしているキールをフィーロに命令して捕まえる。
瞬間的に捕まったキールがフィーロの腕の中でジタバタしている。
「なんだよ、盾の兄ちゃん!」
「とりあえず、俺はどうでも良いが、お前の扱いについて大きく注意しなくちゃいけない問題が浮上した」
「だからなんだよ!?」
奴隷共が騒ぎに気づいて俺たちの方を見ている。
そして、何に対しているのか察した。
「キール君……もしかしてキールちゃん?」
「はぁ? 何言ってんだよ。俺は男だ」
そのキールの胸にはサラシが巻かれていて、股間……ふんどしが巻かれている所をラフタリアは手を当てる。
……何故、当然の様に股間へ手を伸ばした。
最近、ラフタリアの行動が読めない。
友人と再会して素の部分が前面に出てきただけなのかもしれないが。
「キール君……男と女の違いって分かる?」
「は?」
「あのね……男の人って言うのはね」
ぼそぼそとラフタリアはキールの耳元で何かを囁く。
「そんな訳ねーじゃん。俺が神様だったら男とか女とかめんどくさくしねーし」
「じゃあ、他の男の子、いえ、ナオフミ様を見てみなさい。色々と違うし、胸は膨らんでないでしょ?」
「何言ってんだ。あれは大人になったら生えてくるんだ。胸だって腫れてるだけで、その内治るさ」
生えてくる……凄い発想だ。
……キールって奴隷になる前はどんな家庭環境で育ってきたんだ?
色々と疑問が湧く奴だな。
つーか、子供を自由に育てていたとかなのか? 意図的にオトコ女を作っていたとか?
親としては普通に育てていたのにこうなったというのが無難だろう。
そもそも四ヶ月の奴隷生活で気付かなかったはありえない。
……奴隷商の画策か。
仮に俺が奴隷商だったとしたら、そういう層を狙って教育せずに売る。
この国は腐っているからな。必ずそんなクソみたいな性癖を持った奴がいるはずだ。
その手の変態からすればキールみたいなタイプは珍しいし、高値で売れるだろう。
本人も売られた経験があるっぽいんだよな。
そういえば、雑務で皿を割り過ぎて売られたとか言っていた様な……。
まあ共通して虐待を受けていた痕がある事からキールも例外では無い。
恐らくだが、この国に亜人奴隷を買って虐待する変態がいる。
ラフタリア然りキールに然り。
随分前にシルトヴェルトと戦争をしたと言うからその爪跡だな。
そういえば8人の内の誰かが、勇者の一人に一度助けられていると言っていた。
多分だが、事後処理の悪さ……その後も奴隷に身を落としている所を見るに、樹だな。
後の事は国に任せて~~とか言い出して、結局売られたんだろう。
ここに来て数日、キールに限らず大体どういう性格なのか把握出来て来ている。
昔の仲間やラフタリアがいるから空元気に振舞っている奴が……俺の見える範囲でざっと6人。
俺がどうこう出来る問題では無いから、その辺はラフタリアとリーシアに一任している。
夜にラフタリア達がガキ共と寝ているのはそれが一番の理由だ。
……特にラフタリアは自分も同じ経験があるからか、進んで行っている。
俺では、身体は成長させられても、心までは強くできないからな。
フィーロもフィーロでそういう部分を察しているみたいだし。
子供受け良いんだよな。フィーロは。
俗に言うアニマルセラピーという奴だ。
と言っても馬車の爆走は皆青い顔をしているけどな。
「で、でも父ちゃんが男子は自分が漢であれば例えなんであっても漢だって……」
海の漢って奴だったのか? 娘はそれを真似て男と女の違いを知らずにいたと?
というか、その発言その物がお前は女だと言っている様な物だぞ。
なんか、物語の登場人物みたいな育ちをした奴だ。
「キール君、かっこいいなって思ってたのに……女の子だったんだ」
「でも素敵よね。性別なんて関係ないわよ」
女の子奴隷が楽しげに囁き合う。
確かに男装の麗人とかはあこがれの対象になるらしいが……海の男になりたがる女ってのはどうなんだ?
「そんな……そもそも男とか女とかなんの為に別れているんだ! 訳わかんねーよ!」
キールは……モブのはずなのに後々出てくる男キャラと被るんですよね。
なので、個性を追加しました。