4月7日に、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を取りまとめるのに合わせて、2020年度補正予算政府案を閣議決定した。
閣議決定直後に、財務省や各省のウェブサイトで公表された情報を基に、補正予算案の内容を解説しよう。
一般会計の概要
まず、国費として主となる一般会計予算では、16兆8057億円の歳出を増やすとともに、全額を国債の増発で賄うこととした。税収の減少が今後懸念されるが、税収の減額補正はこの補正予算では一切していない。だから、この国債増発は、すべて支出増に充てられる。
その歳出の概略は、
(1)感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発に、1兆8097億円
(2)雇用の維持と事業の継続に、10兆6308億円
(3)次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復に、1兆8482億円
(4)強靱な経済構造の構築に、9172億円
(5)新型コロナウイルス感染症対策予備費に、1兆5000億円
である。
一般会計の歳出
(1)感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発
これには、最も話題となった、全世帯を対象に1住所当たり2枚の布製マスクの配布に233億円がこれに含まれているが、主たるものは他にある。
緊急性のあるものとして、「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(仮称)」として1490億円を計上した。この交付金は、PCR検査機器の整備、病床・軽症者等受入れ施設の確保、人工呼吸器等の医療設備整備、応援医師の派遣への支援などのために使われることを国は念頭に置いて、都道府県に配られるが、都道府県の判断でその使途を決める。
さらに、人工呼吸器の確保に265億円(厚生労働省分)、治療薬アビガンの確保に139億円、産学官連携による治療薬等の研究開発に200億円、国内におけるワクチン開発の支援に100億円、国際的なワクチンの研究開発などに216億円を盛り込んでいる。
マスクにも結構支出を割いている。前述した布製マスクに加え、医療機関等へのマスクなどの優先配布のために953億円、幼稚園・小学校・介護施設等におけるマスク配布など感染拡大防止策として792億円、人工呼吸器・マスク等の生産支援に117億円を充てる。
これら(記載していないものも含めて)合わせて、8097億円である。
残りは、使途を限定しない形で地方自治体に配る、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(仮称)に1兆円を計上した。この感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発の中ではこれが最も多い。これは、新型コロナウイルス感染拡大を防止するとともに、感染拡大の影響を受けている地域経済や住民生活を支援し地方創生を図るために、地方自治体に配り、自治体の判断でその使途を決めるものである。感染拡大防止策や医療提供体制の整備という予算の枠に属するが、それ以外のものに用いてはいけないというしばりは強くはなさそうである。
(2)雇用の維持と事業の継続
これには、10兆6308億円計上しており、他の費目よりも最も多い。ここには、休業や収入減による経済的打撃を受けた人や企業への支援のための支出が計上されている。
雇用調整助成金の特例措置の拡大(要件を緩和して助成対象者を増やす)に690億円を盛り込んでいる。雇用調整助成金は、後述するように特別会計から大半の支出をするので、これだけの金額しか助成を増額しないというわけではない。雇用調整助成金についての詳細は、拙稿「新型コロナに伴う休業補償はどこまでできる?」を参照されたい。
中小・小規模事業者等の資金繰り対策に3兆8324億円、中小・小規模事業者等に対する新たな給付金(持続化給付金)に2兆3176億円と、中小・小規模事業者向けに計6兆1500億円を支出することとした。また、生活に困っている世帯に対する新たな給付金に4兆0206億円を充て、1世帯当たり30万円の給付がこれである。これらの解説は、拙稿「【速報】緊急経済対策はどう取りまとめられたか」を参照されたい。
さらに、児童手当の増額に1654億円を盛り込んだ。これは、児童手当を支給対象となる子供1人あたり1万円増やして支給するものである。
(3)次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復
これは、感染拡大防止のためではなく、感染収束後の予算といえよう。その予算として、“Go To”キャンペーン事業(仮称)に1兆6794億円を計上している。“Go To”キャンペーン事業(仮称)とは何か。以下の4つのキャンペーンとその広報費から成る。
旅行業者等経由で、期間中の旅行商品を購入した消費者に対して代金の1/2相当分のクーポン等を付与するGo To Travel キャンペーン、オンライン飲食予約サイト経由で、期間中に飲食店を予約・来店した消費者に対して飲食店で使えるポイント等を付与したり、登録飲食店で使えるプレミアム付食事券(2割相当分の割引)を発行したりするGo To Eat キャンペーン、チケット会社経由で、期間中のイベント等のチケットを購入した消費者に対して2割相当の割引やクーポン等を付与するGo To Event キャンペーン、商店街等によるキャンペーン期間中のイベント開催、プロモーション、観光商品開発などを実施するGo To 商店街キャンペーンという具合である。
早くも収束後に予算を執行しようと、観光や運輸、飲食、イベント事業者向けキャンペーンを盛り込んだ。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業の新事業開拓を後押したりする狙いで「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド(仮称)」を創設するために1000億円を計上している(後述)。
(4)強靱な経済構造の構築
これは、公共事業系がずらりと並ぶ。含まれるのは、サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金、海外サプライチェーン多元化等支援事業、農林水産物・食品の輸出力・国内供給力の強化、GIGAスクール構想の加速による学びの保障、公共投資の早期執行等のためのデジタルインフラの推進、中小企業デジタル化応援隊事業である。いかに「不要不急」ではなく、早急な対応が必要でかつ速やかな予算執行ができるものかは、しっかりと精査しなければならないだろう。
(5)新型コロナウイルス感染症対策予備費
この予備費は、感染症対策として今後急な予算執行が必要となり、国会の議決を経ずとも支出できるための予算枠で、1兆5000億円を確保した。
国債費、税収
これらに加えて、国債の元利返済に要する国債費を999億円増額した。それは下記のように国債が増えることによる。
一般会計で国債を16兆8057億円増発するということは、当初予算と合わせて2020年度は49兆3619億円の国債発行となる。これは、第2次安倍内閣発足直後の2013年1月に打った緊急経済対策で7.8兆円国債を増発して、2012年度補正後予算ベースで52兆0492億円の国債発行となって以来の金額となる。ただし、過去最高額にはまだ達していない。
とはいえ、今後、税収の減額補正が加わるから、今年度の国債発行額は過去最高(2011年度決算の54兆0480億円)を超える勢いである。
緊急経済対策に含まれている納税猶予や法人税での欠損金の繰り戻し還付などに伴う減収は、補正予算には全く加味されていない。
特別会計
一般会計分以外にも、特別会計でも支出を増やすこととなっている。
前述した雇用調整助成金は、一般会計分に加えて労働保険特別会計からも7640億円支出して、助成金を増額する。それ以外の分も加えて、労働保険特別会計は合わせて9101億円の支出を追加する。
財政投融資
財政投融資では、10.2兆円の追加を行うこととした。最も大きいのは、中堅・大企業向けを含む危機対応融資で、6兆円計上している。中小・小規模事業者等には、実質無利子・無担保融資の資金繰り支援を3兆3436億円(日本政策金融公庫・沖縄振興開発金融公庫)用意した。
加えて、「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド(仮称)」を日本政策投資銀行に1000億円を投じて創設(前掲の一般会計予算から捻出)したり、日本と密接にかかわるアジア・大洋州の途上国での経済活動の維持などに貢献する狙いで「新型コロナ危機対応緊急支援円借款(仮称)」を国際協力機構(JICA)に2491億円を投じて創設する。
まとめ
補正予算としては、国会で成立後早期に執行するものとして、医療向けを除くと、家計向けの支援が支出ベースで5兆円強、企業向けの支援が支出ベースで6兆円強と投融資ベースで10兆円強といった配分になっている。
感染拡大防止のための予算だけでなく、感染収束後に執行することになる予算も盛り込まれているようである。