富士山が大噴火を起こせば、火山灰で首都機能まひの恐れがあると、政府の作業部会が予測した。防災計画の整備などが急務だ。過去に例のある南海トラフ地震との連動も考慮する必要がある。
古文書によると、富士山は八世紀以降で十七回以上噴火したという。中でも、一七〇七年の「宝永噴火」は最大級。直線距離で百キロ離れた江戸にまで大量の火山灰が達した。新井白石は『折(おり)たく柴(しば)の記』に「雪のふり下るごとくなるをよく見るに、白灰の下れる也」と記している。
その後大規模な噴火はなく、三百年以上静寂を保つが、政府の中央防災会議の作業部会は今回、「宝永」と同規模の噴火と偏西風による西寄りの風を想定。気象条件によっては、噴火後三時間で首都圏の広い範囲に火山灰が降る。
首都圏の鉄道は火山灰が微量でも地上路線は停止し、量が増えれば道路の速度低下や渋滞、停電、電話など通信の阻害-といった状態に陥り、人の移動は徒歩に制限されるとも推測している。
噴火から十五日目には、東京・新宿で火山灰が十センチ積もるという。これを含め、除去が必要な火山灰の総量は、東日本大震災での災害廃棄物量の十倍もの四・九億立方メートルにのぼると想定された。
重大なリスクを抱える首都圏。この報告を元に、国や指定公共機関、地方公共団体などは、防災対応の計画を早急に立てなければならない。それと同時に、現在は議論がほぼ止まっている首都機能の一部移転や分散の検討にも再び取りかかる必要があろう。
噴火時の風が東寄りなら、他地域にもリスクがある。また「宝永噴火」の四十九日前にはマグニチュード8以上とされる「宝永地震」が起きている。震源域は四国沖から遠州灘までの南海トラフとされ、死者は四千九百人といわれるが、二万人超との説もある。
「大地震と大噴火は連動する可能性がある」と見る火山学者もいる。そうなれば、首都圏だけでなく、東海や近畿、四国地方にも多大な影響が出る。
今、私たちの前には、新型コロナウイルスという難敵がいる。非常事態宣言が出され、まずはウイルスへの対処が優先だが、わが国には噴火や地震、水害といった危難も多数待ち受ける。行政などは、さまざまな対策を地道に整備していくほかない。私たちも、コロナ禍の今、リスク山積の国に生きていることをあらためて自覚し、備えを常に心掛けたい。
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