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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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知人達

 ローブを纏って町を見て回る。

 やはり損害が激しいな。霊亀の被害の爪痕が深く残っている。

 使い魔の猛攻の形跡も数多い。

 と、歩いて行くと目当ての店に辿り着いた。


 うん。良かった。この店は無事のようだ。

 特に目立った被害はなく、通常営業をしている。

 俺は店……親父の所へ顔を出す。


「いらっしゃい」

「無事で何よりだな」

「その声は……アンちゃんか」


 俺はローブのフードにしていた部分を脱いで親父に挨拶した。

 幸い親父の方も傷一つ無い、五体満足の状態だ。


「どうしてローブなんて纏ってんだ?」

「目立ちたくない」

「一躍有名人だもんな。アンちゃんは」


 一番の問題はそれなんだよな。

 樹じゃないけど、盾の勇者様! って歓迎されると虫唾が走る。

 優越感には浸れるんだろうが、この国の奴に慕われてもな……。

 それに今はやらなければいけない事があり過ぎる。無駄な事に時間を割く訳には行かないんだ。


「ゾロゾロと付いて来られたら困るだろ?」

「見た感じだと、特に被害はなさそうだな」

「まあな、出てきた魔物は追い払ってやったぜ」

「それは何より」

「見てたぜ、アンちゃんが化け物の背中で血を吹いたと思ったら何か出てきて化け物を倒した所」

「見えたのか?」


 そりゃあ凄いな。あの状況を目撃していたとか。

 親父って実際どれくらいの強さなんだ? 底が知れないな。

 試すのもどうかと思うし。


「戦っていたからな、見えるだろ。アンちゃん目立つ所にいたしな」

「そうか。親父は何Lvなんだ?」

「既に冒険者業から足は洗ってらぁ、詮索は野暮だぜ」


 やんわりと拒否られた。ホント、何Lvなんだろう?

 少なくともクラスアップをしていて、霊亀の使い魔と戦える程度のLvはありそうだ。

 ……最低、70ラインだな。


「いろいろな意味で見違えたな。ここに来た時は、なんか残念そうだと思ったのに」

「言ってろ」


 そんな事を言いながら色々としてくれた親父に答える。

 親父は俺を一度見た後、キョロキョロと周りを見回した。


「今日は一人か?」

「ああ」

「どうしたんだ?」

「ラフタリアは別の事を頼んでいてな。フィーロとリーシアは出かけている」

「で、アンちゃんは?」

「ああ、城下町がこの被害だろ? 城からの援助が厳しくなってな、武器防具作りは中断してもらおうと思ってさ」

「そりゃあ、しょうがねえだろうなぁ……前金を貰っている奴は大丈夫だろ?」

「そうだな」


 新しく作って貰うのはやめてもらい。今ある奴の完成で打ち止めだな。

 後々必要になってくるだろうから、考えておく必要はあるが。


「店の方はどうなんだ?」

「こんな被害があったばかりだからな。みんな武器を欲して買っていくぜ」

「繁盛中か」

「そうだな、売れすぎて在庫が心もとない所だ」

「そりゃあ盛況な事で」

「だがなぁ……心得がない奴が買占めに走っていて微妙な心境だぜ」


 しょうがないだろうなぁ。城下町が半壊している訳だし、たとえ心得がなくても欲しくはなる。

 あれだよな。災害が起こってから水や食料を買い占める行為に似た意識が武具を欲している結果になったのだ。

 見た所略奪なんかは起こっていないみたいだから、マシな方ではあるが。


「今日はそれだけか?」

「そこなんだよな」


 親父に奴隷用の武器を大量に発注するか悩む。

 女王には話を通してあるから中古の武器は譲ってもらうことは出来る。だけどそれ以上の武器は物資的に厳しい。

 そこまで必要かと考えるのだが……中古故に問題も多い。

 足りなくなったらどうするか。メンテナンスとかもあるし。ま、親父には話しても良いか。


「女王から領地を貰ってな、手広く事業を始めるんだ」


 奴隷の武器の作成やその他諸々で親父は役に立つ、誘うだけの価値はある。


「で、それが俺に何の関係があるんだアンちゃん」

「スカウトに来た、と言えば分かるか?」


 領地に武器屋の親父が来てくれれば、収入の一つに充てられる。

 腕は良いと見込んでいるし、売れ行きは期待できるだろう。


「なんとなくな、だが俺には店があるしなぁ……」

「分かっている。別に強要はしない。もしかしたら……弟子の一人や二人を入れさせるかもしれないというのを考えておいてくれ」

「ああ、そういう事か……分かったぜアンちゃん。弟子とかは作る程じゃねえけど」


 よし、言質は取った。

 これで手先が器用な奴を親父の弟子にでもさせて技能を覚えさせるという手段が出来るようになった。

 技術は金になるからな。無論、恩を仇で返す様な事をするつもりは無いが。


「謙遜するな。腕は信用してる」

「はは、期待に応えるよう頑張ってるんだよ」

「後は、そうだな。親父と俺が知っている奴の事は分かるか? 大丈夫か不安でな」

「そうだな……魔法屋の店がぶっ壊れちまったな」


 ああ、あの大きな魔法屋か……城下町の大通りにあった店だけどよくよく考えて見ると、ちょうど霊亀の進撃があった範囲だ。

 って。


「大丈夫なのか?」

「ああ、魔法屋本人は傷一つない。問題は店が壊れちまってな、リユート村に避難中だ」

「そうか……」

「他には、薬屋は忙しいみたいだな」

「けが人も多かっただろうし、繁盛中か」

「そんな所だ。後は洋裁屋が退屈そうにしているぞ」


 ふむ……知り合いで死人が出てはいないという所か。

 こりゃあ、態々探しに行かなくて良かったな。


「ま、俺が事業を始めるから、知り合いには話しておいてくれよ。場所は――」


 親父に俺の領地を教え、拠点にする村に関しても説明しておいた。

 今は盾の勇者ブームが起こっている。新たな事業を広げるなら乗ってくる奴も多いだろう。

 そういう奴等の中で信頼できる者を人選して、伸ばせば利益を上げられる。

 俺の領地は城下町も距離的にある程度近いしな。


「分かった分かった。まあ、みんなアンちゃんの事は心配していたし、良い機会だから話に乗るかもしれねえな」

「恩もあるから優遇はする。親父は特にするつもりだから考えておいてくれよ」

「分かった分かった」


 と、軽く会話を交わした所で、親父が俺を凝視している。


「他にもあるんだろ?」

「分かるか?」

「アンちゃんは色々と一度に持ってくるからな」

「そうか……」


 俺はあんまり見せたくなかったけれど、纏っていたローブを脱いで見せる。

 それを見て親父は理解した。


「凄い戦いだったからなぁ。よくもった物だぜ」


 そう、蛮族の鎧がボロボロになってしまっていたのだ。防御力も期待できない。

 自動修復がまったく効果を発揮していない。完全に壊れているのか、それを確かめる為に親父に聞きに来た。


「核にしている部分は問題がないが……他は破損が激しいな」

「直せないか?」

「うー……ん。出来なくはないが……素材しだいだな。少しは融通が効くかもしれねえ」

「そうなのか?」

「俺の店はアンちゃん御用達だろ? ついでに、今はあの化け物の素材を配布しているような状況でな」


 腐るほどあるからなぁ……霊亀の素材は。

 俺の分を確保しているらしいが、それでもあの巨体ではありあまる程あるだろう。


「多めに貰えたしな。後で金を払うなら色々と作ってやっても良いぜ」

「良いのか?」

「他ならぬアンちゃんの頼みだし、未知の素材に興味が尽きねえ」

「おお……」


 この懐の深さ……ほんと報いたいと思う度量のある奴だよなぁ。武器屋の親父。

 実力的にも信頼度もかなり高い。正直言えば領土の鍛冶師として欲しい人材だ。

 今は引き下がっておくが、領土の拡張が済んだらもう一度頼むとしよう。


「とりあえずは優先順位だと鎧か……後は盾を作れば、アンちゃんには損にはならないだろ」

「そうだな、最悪、盾はコピーだけさせてもらえば良いし」

「分かってるじゃないか。じゃあ鎧は置いていけ」

「任せた」

「おうよ」


 俺はボロボロになった鎧を脱いで親父に渡す。


「核石は一応、アンちゃんが持ってな」

「良いのか?」

「後ではめ込むようにしておく、その時にでも金を払ってくれば良い」

「助かる」

「アンちゃんはその間どうするんだ?」

「城で中古の鎧でも着ているさ、最悪、きぐるみか」


 あれって色々と便利な能力を所持しているし、見た目さえ気にしなければ問題は無い。

 リーシアとセットで奇妙な集団が出来上がるが……まあいい。


「そんな訳で、頼んだ」

「おうよ!」


 親父との交渉を終えて、ローブを纏って店を出たのだった。

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