地位
「領地をくれないか?」
「領地ですか? 問題ありませんが、理由をお聞かせくださいませんか? 今までのイワタニ様は……失礼ながらこういった事には無頓着だったと思うのですが」
「無礼になるのを承知で良いか?」
連合軍が居る中で言うのは正直、避けたいのだが……。
女王もそれを理解して頷く。
「霊亀の中へ進軍した時、連合軍の連中が冗談でも無く弱いと思った。これは改善しないと波を乗り越えられない次元だ」
「きさま――!」
激高する連合軍の幹部だが、他の幹部が止める。
こう思われるのがわかっていたから言いたくなかったんだが。
「イワタニ様は冷静に分析なさっているのですよ。受け入れましょう」
「兵士の証言にもあります。盾の勇者様の仲間は獅子奮迅の活躍をなさったと、それに比べて我等は……」
周りの意見に激高した幹部も黙り込む。
実際は様々な手段を使ったり、影の助力もあった訳だからあの場にいた全員の功績だ。
結果的に霊亀を倒したのは影を含めた俺達だったが、防御だけの俺はやはり仲間が重要となってくる。
「先に述べておくが連合軍がいなければ俺達は霊亀に負けていた。そこは前提としてくれ」
「むう……」
激高していた幹部が拍子抜けした表情で席に付く。
騎士って言うのはプライドが高くて鬱陶しいが、扱い易くて良いな。
「弱いと言ったのは全体の戦力だ。霊亀が波と関わり合いがある以上、霊亀よりも強い化け物がこれから現れる可能性が非常に高い。だから波に備えた私兵を育成したいと考えた。ついでに色々とな……金も必要だし、その下地として領地が欲しいんだ」
「なるほど、イワタニ様の考えが見えてきました。恩賞も出さねばなりませんし、良い機会ですね」
「それなら我が国こそが!」
「いや、我が国も領地を――!」
「悪いが欲しい場所が決まっていてな。お前らの気持ちはありがたいが今回は断らせてもらう」
転々とした位置に領土があっても困るからな。
それにお前等の領土って霊亀が通った所だろう……それだと国を作る次元になるんだが。
三ヶ月でそこまで作れる余裕は無い。
「誰か地図を」
女王は地図を影から取り寄せて広げる。
「……城下町の近くがよろしいかと思いますが、ご希望の箇所は何処でしょう?」
「ここだ」
俺は迷い無くカルミラ島へ向う港の近く、海岸線にある地域を指名した。
「え……」
ラフタリアが声を出しそうになるのを堪えた。
「ふむ……その地域は最初の波によって多大な被害が出て廃墟となっている場所ですが、よろしいのでしょうか?」
「ああ、どうせ開拓するんだ。城の近くのような既に済んでいる場所よりも自分好みにしやすいから、ちょうど良い」
「分かりました。後は領地を得るという事はそれ相応の地位を授けねばなりませんね」
「どうせ俺は波が終わったら帰るつもりなんだ。一代限りで十分」
「では伯爵の地位を授けましょうかね」
「おい……」
盾が伯爵と翻訳したという事は、継承権利が発生する地位じゃないか。
ライトノベルとかだと騎士の地位辺りが妥当じゃないのか?
随分前に読んだマンガが気にいって爵位については知っているんだよな。
あのマンガは中世ではなく、近世だったが。
公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。
通称五等爵と呼び、上から順により強い爵位と考えるといい。
一般的に爵位は二つに分類され家門と領土、俺の世界……ヨーロッパの場合は基本領土に対して爵位が生じ、その領土を支配している者を総じて貴族と呼んだ、だったか。
その為、複数の領土を保有する貴族は当然複数の爵位を持っていたという事でもある。
そして爵位を持つ=最低一万エーカー以上の土地を保有している貴族という事だ。
まあこの世界で通用するかどうかは知らないが。
「もしかしたらイワタニ様にお子様ができるかもしれませんからね。その時の為ですよ」
「ねえよ」
まったく、何を考えているのか丸分かりだな。
そんなにメルティと婚約させたいのか?
「とにかく、やっていくしかないか」
「少々お待ちを、称号授与の儀式を行わねばいけません」
「めんどくさいなぁ……」
「そうは言いましても、この度の活躍にふさわしい形式と報酬を支払わねば威信に関わるので」
確かに、あれだけの化け物を倒した勇者に金を渡しただけでは示しが付かないというのも頷ける。
多大な被害を出したからなぁ。
「それに……面白い因果ですね。亜人が信仰する盾の勇者様はメルロマルク国内でも有名だったその地域を所望するとは……前に話しましたよね。我が国でも優秀な者の話を」
「は?」
そういえばクズが身勝手な行動に出てしまった理由に有能な者が波で死んだとか言っていたような気がする。
亜人のラフタリアがメルロマルクの亜人が住んでいた地域に暮らしていた。
なるほど、俺が指定した地域はその優秀な者とやらの領土だった訳か。
「その者は丁度、イワタニ様がご所望の地域を管理していたのですよ。人望も厚く、頼りにしていたのですがね」
……女王の奴、俺の意図を完全に理解しているな。
連合軍の連中なんて首を傾げているぞ。
「良い宣伝にもなりますね。お任せします」
「期待されても困るがな」
「では玉座の間へどうぞ」
「はいはい」
玉座の間へ案内された俺達。
女王が俺に儀式用の剣を持たせる。
戦闘意志を持たない限りは弾かれないから問題は無いな。
これで弾かれたらカッコ悪い。
俺はどうやるかを玉座の間に来る前に、影から聞く。
剣を抜いて、女王に渡し、女王が俺の肩の交互に剣をかざして許可をする事で称号授与は終わるそうだ。
「盾の勇者、イワタニ・ナオフミの称号授与!」
ラッパのような楽器を吹き鳴らす城の兵士。
騒がしいな。
俺は玉座で待つ女王に向けて扉から堂々と進む。
そしてギザったらしくポーズを決めて頭を垂れ、脇に刺した剣を抜いて女王に手渡す。
女王は剣を受け取り、俺の肩に翳した。
「汝、我が国の決まりに則り、此度の活躍によって伯爵の地位を授ける」
そして女王は俺に剣を返す。
「活躍を期待している」
剣を鞘に戻して、俺は立ち上がった。
「という事です。本当はもっと大々的に行いたいのですが……」
「面倒」
「そう言うと思って略式に致しました。ですが、民衆には宣伝させていただきますよ」
「わかったよ」
これで大っぴらに城下町を歩けなくなったような気がするのは何故だろう。
あれが盾の勇者? ほら、あの人よ。へーやっぱりー悪い事しそうな顔しているわ。
ヒソヒソ……。
だったのが。
あ! 盾の勇者様よ! あの化け物から私達を救ってくれたあの盾の勇者様!?
ヒソヒソ。
と、後ろ指刺されていた時とは別の意味で歩きにくくなりそう。
目立ちたくない訳じゃないけど、虫唾が走るな。
「ではこれから私は近隣諸国の皆さんと話があるので、失礼致します。何かあったら呼んでください」
「ああ」
そういえばクズは何処だ?
……いた。
忌々しそうに俺を睨んでいる。
女王が目を光らせているから何も言えないんだな。
そう思っていたら……よく見ると首輪を付けている。
「――!」
あ、何か言おうとして首輪に触れている。
締まってそう。笑える。
笑ってやった。
「――――!!」
メッチャ腹立ってるみたい。
だけど叫ぼうものならその前に首輪が締まって黙らされる。
いやぁ笑える。
「ナオフミ様……?」
ラフタリアが注意するように声を掛けて来る。
「いや、だって笑えるからさ。見ろよアレ」
「とにかく、私からもお聞きしたい事が山ほどあるんですよ」
「わかってるって、とりあえず今日は色々話を聞いて疲れているんだ。城で休ませてもらうとしよう」
目が覚めたのが昼をとっくに過ぎていたからなぁ。もう日が傾きかけている。
「じゃあな、この世のクズ。お前のビッチな方の娘は死んでるかもな。これから貴様は勇者を罠に掛けた無知の愚王として永遠に名を刻むんだ。良かったな、有名人だぞ?」
「――!!!!」
玉座の間を出る俺達に、クズが必死に俺を指差して殴ろうと追いかけてこようとする。
だが、取り巻きの兵士がそれを許さない。
首輪で黙らされているとか、女王も良い仕事をしてくれる。
というか、アイツは本当に七星勇者なのか? 絶対に嘘だな。