「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する天使。
鈴木悟さん、あなたは本日午後24時00分に亡くなりました。
辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです」
気が付くとそこは事務所のような部屋の中だった…どう言う事だ?
先ほどまではナザリック地下大墳墓の玉座の間に居たはずだ、サーバーダウンの時間を過ぎて、現在は00時04分…ユグドラシルのサーバーダウンが延期したのか?
それともユグドラシル2へデーターが送られているのか?
今の自分の姿を見る限り、既存の装備やキャラは引き継いでいる。
自分の姿は死の支配者のままだし、服装は神器のグレート・モモンガ・ローブ。そして手元には最終日に装備したスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがそのままある事から、その可能性が高いだろう。
そして、目の前には事務椅子に座った一人の天使の存在、彼女の存在もゲームの続編だと言うことを実感させる。無駄にキラキラと後光エフェクトがかかっている事と、背中に大きな羽が生えている、それは現実ではありえないことだ。
書類を整理しながら事務的な感じで喋っていた天使が書類を整え終わったのかこちらに顔を向け
…そして大きく目を見開き、絶叫した。
「ヒエッ!?まっ…魔王!?いえ、そんな生優しい部類のものじゃないわ…
これは邪神の部類…な、なんでなの?私の手には余るわ!?創造神様案件…?
いえ、これはアクア様とエリス様の居る世界に押し付けるべきかしら」
天使が胸元を隠してイヤイヤする。
いや…異形種が嫌いだからって公式がその反応はどうなんだ?と鈴木悟は顔をしかめた。
ロールプレイにしては悪趣味だが、ユグドラシルだからなぁ…とポリポリ顎を掻く。
「ところで…このチュートリアルは何時までかかるんですか?
時間も時間ですし、移転させるなら急いで欲しいですね」
鈴木悟…いや、死の支配者(オーバーロード)のモモンガの体から絶望のオーラⅤが滲みだす。
「ひいいいい‥わかりました、わかりました、すぐ飛ばします、今飛ばします!
神器を与えるのは私は無理ですが、言語の適応だけでそのまま飛ばしますが宜しいですか」
(新規プレイヤーは神器(ゴッズアイテム)を1個貰えるのか?羨ましい話だがそれよりは今の装備の引継ぎのが良いな…どれもこれも思い出深い品ばかりだし。)
モモンガがうなずくと同時に世界が白い光に包まれた。
◆
「ここは…草原か?旧ユグドラシル時代より格段に美しいな…技術の進歩には驚かされる」
モモンガが降り立ったのは一面の大草原、ゲームとは思えない世界の完成度に若干の違和感を感じる。そして気になったのは、ほのかに香る青臭さ…今までのDMMORPGではありえるはずのない臭覚が働いていることに不安を感じる。
「…翌朝4時起きだから少しでも睡眠を取らなきゃね」と言い訳を呟き、微妙に浮かんだ恐怖心を隠し、システムコマンドを起動させログアウトしようとするが‥システムコマンドが一出ない。
シャウト、GMコール、システム強制終了入力、一切のシステムが使えない事に焦りを覚えた。
「どういうことだ!」
モモンガの叫びに答えるかのように現れたのはGMではなく、地中からモモンガを喰おうと飛び出してくる巨大なカエルだけであった。大口を開けて飛びかかってくるカエルの飲み込みに対してモモンガは咄嗟に《フライ/飛行》を使い、足元からの奇襲を避ける。
反射的に魔法が使えたのは幸運だっただろう、ユグドラシルの魔法の使い方は浮かび上がるアイコンをクリックするだけだったが、今となっては別の手段で行う必要がある。
…だがどうやら今では己の中に埋没している能力を感覚で使えるようだ。
逃げられた獲物を馬鹿みたいな顔で眺めているカエルに対して、どんな魔法を使うかを考える。
目前の化け物は強そうには見えないが外見詐欺などユグドラシルでは日常茶飯事だったはずだ。
モモンガは暗記している718の魔法を検索する、今に最も適した魔法は何か。
…ここは他の伏兵が居ない事を確認するためにも広範囲魔法を撃ちこむべきだろう。
《エクスプロージョン/爆裂》
半径10m範囲に渡って爆炎が炸裂し、潜んでいたカエルを消し炭に変える。
それと同時に魔法の範囲では草1本残らない焦土と化していた。
(…うん、ちゃんと魔法は使えるようだな。奇襲には驚いたけど牽制用の爆裂1発で処理できる。問題はモンスターよりも他のプレイヤーの存在だな…異形種狩りとかとあったら面倒だ)
「ふふふ、中々に見事な爆裂魔法でしたが、この辺りでは2番目ですね」
モモンガがそんな思考に浸っていると、背後から変な格好をした1人の少女が現れた。
相手は人間種ゆえに異教徒狩りのプレイヤーキラーかと警戒するも、他のプレイヤーと初遭遇な事もあり、最初は友好的に行こうと考えを切り替えた。
「えーと‥君は?」
「我が名はめぐみん! アークウィザードにして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者。
貴方は実に運がいい、私が本当の爆裂魔法をお見せしますよ。」
その言葉に《グラスプ・ハート/心臓掌握》の発動の準備をするが、彼女の発動させた魔法陣がモモンガから離れた位置に発動している事を確認し、警戒を緩める。厨二を拗らせたプレイヤーが他者とのコミュニケーションを取ろうとしているのだと判断し、優しく様子を見る事にする。
(めぐみん…と言うことは本名はめぐみさんかね?まんまの名前だな…)などと考えていると、少女がどこかで聞いたような呪文を詠唱した。
黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの 時の流れに埋もれし 偉大なる汝の名において
我ここに 闇に誓わん 我等が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに 我と汝が力もて
等しく滅びを与えんことを!
《エクスプロージョン/爆裂》
――立体魔法陣を中心に炸裂する爆発、大草原に広がる閃光。
そして全てを焼き尽くす爆炎が出現した。
半径10メートル以上のエリアに巨大なクレーターが生まれ地形を改変する。
「…はぁ?」
モモンガは驚きのあまり長い顎が外れたかのように愕然とした表情をした。
…ありえない、あれが《エクスプロージョン/爆裂》だと言うのか?
いや、なるほど、これはこの少女が魔法のグラフィックをカスタマイズしたのだろう。
自慢したいのも納得できる。実に見事なものだ、ユグドラシル2はこんな事もできるのか。
モモンガは嬉しくなった、この可愛らしい外見のプレイヤーは実にゲームを楽しんでいる。
「素晴らしい、実に見事な魔法だっ…」そう言って少女の方を向くと、モモンガはそのまま動きを止めた…何故ならそこには少女が顔面から倒れ込んでいたからだ。
「ふっ、我が奥義である爆裂魔法はその絶大な威力ゆえに消費魔力もまた絶大!
……要約すると、最大魔力容量を超えた魔力を消費したので、身動き一つ取れません」
なんて燃費の悪さだよ!?ワールド・ディザスターの大災厄でもここまで酷くないぞ…
呆れと楽しさを混ぜ込んだような表情でモモンガは倒れた少女を見詰めている。
…しかし倒れ込んだまま一向に少女が動き出さない、大丈夫なのかこれは?
不安になり周囲を見回す、「これじゃあ自分がプレイヤーキラーしたように見えるじゃないか」と感じたモモンガは。流石にこんなステータスで単独狩りをするはずがない、近くに仲間がいるはずだと周囲を見回す。…すると1人の青年がこちらに駆けつけてくるのが確認できた。
「おい、めぐみん大丈夫か…うわっ、アンデッド!?」
「大丈夫です、この方は爆裂魔法を愛する同志です、爆裂魔法好きに悪い人はいませんよ」
少女を抱え上げた青年は驚き距離を取るが、少女は理解できない理屈で擁護してくれる。
それでも青年は納得したのか、頭を掻きながら自己紹介をしてきた。
「あ、ども。俺はカズマって言います。えーと」
緑色の衣装の青年がモモンガに問いかけてくる。さてこれはどう答えるべきだろうか?
…いや、ここはあえて小気味の良い少女に習って返答をすべきだろう。
「我が名を知るがよい。我が名は、モモンガ!
ギルド・アインズ・ウール・ゴウンの長であり、ナザリック地下大墳墓の統治者である」
漆黒の後光を放ちながら、厨二病の少女に対抗してノリッノリで語った。
…続く、と思います。