そういったSSが苦手な方は避けてください。
「ねぇンフィー?明日のチャーナハータって本当は何のお祭りだっけ?」
エンリは今準備中のお祭りについて、夏にみんなでいい物を飲み食いして今までの農作業の慰労と、暑さで落ちた体力を回復し間もなく始まる刈り入れへの英気を養い、流れ星に皆それぞれの願い事を願うイベントという認識だった。
この祭りに参加する殆どの人にとてそれは共通認識であり間違いではなかったが、エンリには薄っすらとこのお祭りには別の意味があると聞かされた記憶があった。
ふと浮かんだ疑問を一緒に食事をしているンフィーレアに教えてもらおうと問いかけたのだ。
「ああ…えっとね、昔…1000年よりも前に天に焦がれた鳥の神様がいたらしいんだ。
その神様は強大な力を持ちながらもそれをむやみに振るう事無く、それでも悪い亜人が攻めてくると人々のために従属神とともに万の軍勢をも打ち払ったって言われてる…」
ンフィーレアが記憶を探る様に、感情や熱がこもらない淡々とした口調で話すのを邪魔しないようにエンリは首だけで相槌を打つ。
「そんな強い神様でも空を見上げては帰りたいって泣いていたらしいんだ。
だから帰る手がかりを見つけるために太陽や星の動きを調べて今の暦を作ったって言われてるよ。それまでは月を基準にした暦を使っていたんだ。でも月の運行は魔法や海での生活では大切な物なので、まだその暦を使っているけどね…海の漁師は未だに月の暦を使ってるそうだよ」
「海かぁ…一度見てみたいな」
ンフィーレアはエンリの見ることはないと思いつつも遠くを見つめる表情を見て、かわいいと思った自分に照れてあたふたし始める。
「…そ、それでね明日の日没後丁度に空を見上げると真上に天頂星が見えるよね?」
「うん」
「その神様がこの世界に来たのが丁度その日だったらしく、その日になると天頂星に向けて飛んだらしいんだ…雲を超え人間では生きられない遥か星の世界を目指したんだって。
でも…いつも泣きながら戻ってきては…天の川が越えられない、俺のチャーナハータはいつなんだ…って嘆いたらしいよ…それを慰めるためにお酒の場が設けられたらしい…これがお祭りの源流になるらしいんだ」
「ん」
「その神様は3度願いを叶える力があったんだけど、1度目は帰ることを望んでかなわず、2度目は意思疎通…ほら言葉が違うのに亜人が何を言っているかわかるよね?あれはこの願いが元になっているらしいよ。六大神説や四大神説、八欲説とかもあるけど、僕はこの説が好きかな…で、3度目は天頂星が頭上に輝く日に…たくさんの流星が降るように…沢山の人の願いが叶います様にって…願ったらしいんだ。それでね…」
ンフィーレアが言葉をためるのをゆっくりと待つ。
「その神様がなくなられた後、神様の代わりに星の涙を流す天頂星を慰めるために始まったのがチャーナハータのお祭りらしいんだ」
「…なんか今と全然違うんだね…」
「それはね、神様の従属神がこう言ったらしいんだ…主人はみなさんのおかげで救われ力をもらっていたと仰られました。ですからこれからは…皆さんが力を得られる未来を目指す祭りとしてくださいって、それからこのお祭りが広がったらしいよ…ん~これは伝説とか言い伝えというよりも民間伝承…になるのかな?とりあえずこれが僕が知っている話だよ」
「その従属神はどうなったの?」
「八欲に殺されたという話、雲にある雲上神殿にいるという話、未だに人を守っているとか、守っていた人たちが滅んだ時自殺したとか…いろいろな話があるよ」
「ありがとう…ほんとンフィーはよく知ってるね」
「昔こういう話を集めて回った人がいて、その人の手記を読んだことがあるんだ。
写本の写本の写本ぐらいだから変わった内容もあると思うけどね」
なんとなく気まずい雰囲気が流れ、エンリにこの話は良くなかったと後悔する。
後悔するが何をどう言えばいいかわからなかった。
「…どうして流れ星なのかな?」
「あっうん、神様は流れ星に願ったらしいから」
ンフィーレアは少し複雑な顔をしているエンリの顔を見つめる。
「…このお祭りは神様の心も癒したんだよね?」
「そうだよ」
カルネ村に住むことになったのはさらわれた自分を助けるために冒険者モモンと祖母が交わした契約だったが、エンリの近くにいられる事、そしてポーションを作るという生きがいを得ることが出来た事を幸運とンフィーレアは感謝していた。
対してエンリや村の人たちは気丈にふるまっているが1カ月前に襲われ多くの仲間や家族を亡くしながらも、皆前に進もうとしていた。でも癒やされたわけではないとンフィーレアは理解しているからこそ、そこに壁を感じ、壁を自覚すれば自覚するほど自分で高くし言葉が続けられない。
「ねぇ…ンフィーは何をお願いするの?」
ンフィーレアができなかった会話をエンリが続ける
「3つお願いするよ」
「…いくつも願ってよかったっけ?」
「そのうち2つは自分が目指すことだから…願掛けみたいなものかな?」
「願いというより誓いなんだね、それならいいのかも…で何を願うの?」
聞かないで欲しいと思いながらも会話を手放せなかった。
「まぁいいけど、僕はモモンさんやゴウン様みたいな男になりたいかな」
1つ目のエンリに告白するは流石に言えずに、2つ目の願掛けを口にした。
エンリと自分を助けてくれた英雄モモンとその正体のアインズ・ウール・ゴウン。
彼はンフィーレアにとって強さの象徴だった。
エンリを守りたいという気持ちに自信があっても勇気に自信がない為の願掛けだった。
「うん、ゴウン様いいと思うよ。期待してるね」
ゴウンの名前を聞き少し明るい表情に戻るエンリを見て自分が無駄に力んでいた事に気付き、ゆっくりと息を吐いて力を抜く。
なんとなく回転が良くなった頭で一緒に旅したときにモモンが見せた感情…モモンがどれだけ強くても癒やしきれない気持ちを抱えている事を思い出す。
「…エンリ、いま思いついたけどゴウン様も呼べないかな?」
「あーいいね、でもお忙しいんじゃないかしら?それに急じゃないかな?」
「別にいいっすよ?連絡だけなら引き受けるっす、でも期待しないで欲しいっすね」
いきなり二人の背後から何者かが声をかける。
もう何度も経験したことだが二人は体そらすように驚き硬直する。
硬直しながら大きく開いた目で相変わらず楽しそうなルプスレギナをみつめ
「もう…ルプスレギナさん驚かすのやめてくださいね」
「僕もそう思います…心臓止まるかと思いました」
「いやいや、大丈夫っすよ止まっても私が気合いで生き返らして見せるっす!」
ルプスレギナの宣言を二人はジョークとして受け入れ破顔する。
「あはは…その時はよろしくお願いします」
「僕もお願いします」
「任せるっすよ!
ところで…ンフィー君の他の願いを聞いてもいいっすか?」
顔に聞かなくても知ってるっすけどねと書いたルプスレギナの目を確認してンフィーレアは顔を赤くしながら答える。
「心の底からの願いです…勘弁してください」
あまりにも真剣なンフィーレアの声にエンリは笑う。
その声はカルネ村に響いていた。
読んでいただきありがとうございます。
まだしばらく時間がかかると思いますが最後まで楽しんで書こうと思います。
オリジナルプレイヤーについては、異形種であるバードマンで飛行特化ビルドのため戦闘力が低く、異形種狩りやモンスターの危険を避けるため今まで挑めなかったユグドラシル最上層アルブヘイムの最高地点を目指して空に飛び立ち、本来なら強力な敵に阻まれる最高地点に初到達した結果ワールドアイテムとギルドホームに使える物件をもらい転移した設定です。ギルドはワールドサーチャーズ。
この辺は最後にまとめて書く予定です。
時間については、ツイッターでくがねちゃんが描き下ろしてくれたアイちゃんルートではアインズ様がナザリック地表部をフライで飛行状態で書籍よりも200年も昔に転移しています。
なので最上層の最高点であれば六大神よりもはるか昔六大神の時代に土着の神として信仰される存在になっていてもいいのかな?という妄想だと思っていただければ幸いです。