広島県尾道市を舞台にした「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の尾道3部作で知られる映画監督の大林宣彦(おおばやし・のぶひこ)さんが10日午後7時23分、肺がんのため都内の自宅で死去した。
正直、苦手な監督だった。話が半端なく長いのはあまりに有名。上映前の舞台あいさつ。聞き疲れて寝る観客が出始めても話は続く。こういう空気も読めないのに、なぜ映画が撮れるのか。理解できずにいた。
疑問が解けたのは16年。角川映画の特集上映でのインタビューで、愚問と知りつつ「なぜ映画監督を続けるのか」と聞いてみた。「たとえ肉体が滅ぼうと、人の心に“思い”は生き続けるんだ。100年後も語り継がれるためにね」。生死は相反するようで限りなく地続きではないか。話は独特の死生観にも及んだ。
生家は7代続いた医者で父方は名前に「彦」がつく。しかし戦争が、医師になることが全てでないと悟らせる。実家では警官もヤクザも分け隔てなく診察。赤ちゃんの産声が聞こえる一方で、当時不治の病だった結核患者の「死にゆく人の部屋」があり、近づくことを禁じられていた。その部屋から伝わってくる咳(せき)で、人生の終末が近い人もいることを知る。
まだ3、4歳。生死が日常で行き交う特殊な空間で育まれた「独特の死生観」こそが、監督の人生、作品に影響を与えたのではなかったか。
命を救う医者にはならなかった。しかしスクリーンに刻むという手段で命を永遠のものにしようとした。「時空、生死を超えた中に生き続けた人」そう思えば、監督の会話がめちゃくちゃ長かったことなど些末(さまつ)なことである。