東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 4月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

大林宣彦監督死去 「転校生」「時をかける少女」

「時をかける少女」の尾道ロケ。左から大林宣彦監督、主演の原田知世さん。右手前は角川春樹さん=PSC提供、1983年撮影

写真

 「時をかける少女」など広島県尾道市を舞台にした青春映画で知られる映画監督の大林宣彦(おおばやしのぶひこ)さんが10日、肺がんのため死去した。82歳。広島県出身。葬儀・告別式は家族葬を行い、後日お別れの会を開く。喪主は妻でプロデューサーの恭子(きょうこ)さん。

 二〇一六年に進行した肺がんが判明し、闘病しながら撮った「花筐 HANAGATAMI」が一七年十二月に公開。遺作となった最新作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は死去した十日に公開予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となっていた。

 子どもの頃から8ミリフィルムに親しみ、成城大在学中などに発表した自主製作映画が評価された。一九六〇年代からテレビCMのディレクターとして活躍した。

 七七年に「HOUSE」で劇場用映画デビュー。八〇年代に故郷の尾道市が舞台の「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の“尾道三部作”がヒット、小林聡美さんや原田知世さん、富田靖子さんら若手女優を育て、青春期の揺れる心情を描いて人気を集めた。

 二〇〇〇年代以降は日本各地の風土をいつくしむように映画を製作。大分県で「なごり雪」、長野県で「転校生 さよなら あなた」、新潟県で「この空の花 長岡花火物語」、北海道で「野のなななのか」を撮った。

 晩年は非戦、平和を希求する作品づくりに注力。「海辺の映画館」は日本の戦争の歴史をたどる大作で、現代の日本への危機感を訴えていた。情熱的な語り口で知られ、テレビのコメンテーターも務めた。〇四年に紫綬褒章、一九年に文化功労者。

 「時をかける少女」に主演した原田さんは十一日、ツイッターに「在りし日のお姿を偲(しの)びつつ、ご冥福をお祈りいたします」と投稿。山田洋次監督は「唯一無二のユニークな監督であり、戦争を激しく憎み平和を愛してやまない優しいアーチストだった」と悼んだ。

◆「9条守る」遺作に貫く

<評伝>

 「自分たちの手で平和をつくる大人として生まれた世代」。十日に八十二歳で死去した大林宣彦監督は、生き方の根底となる意識をそう表現した。昨年一月、大分市で開催された日本劇作家大会でのスピーチ。映画を通じて反戦の志を後世に伝えようという使命感を持ち続け、「映画には未来を変える力がある」と熱弁を振るった。

 七歳の時、終戦を迎えた。「国のために死ねと教わった。日本が負けたら殺してやると大人から言われたが、誰も殺してくれなかった」。そんな混乱の世を生きる意義を「平和をつくること」に見いだした。

 軍医として従軍した父が「若者の命、もしかしたら敵の命も救えるかもしれない」と、思いを手記に残していたと明かす。その父に与えられた8ミリカメラを手に、広島・尾道から東京にやってきた。

 自主製作映画からCM、アイドル主演の映画を次々に手掛け、通俗性とちゃめっ気を備えた硬骨漢。「転校生」などの“尾道三部作”は、郷里の良さを伝える「街守りの映画」という。ファンが尾道に殺到するようになると、地元住民は「もっときれいな場所を撮れ」と憤ったというが、「観光客を呼ぶためじゃない。(土地の)いいものや人情をなくしてほしくなかった」とこだわりを貫いた。

 晩年はがんと闘いながら、「花筐 HANAGATAMI」(二〇一七年)をはじめとする戦争をテーマにした作品に注力。ステージ4まで進んだ肺がんとの闘病について「がんで死ぬのはとんでもない。とんでもない死に方はしねえぞ」とユーモラスに話していた。昨年もパリなどへの渡航を精力的にこなしていた。

 十日公開予定だったが、延期された最新作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は、約二十年ぶりに尾道で撮影した。戦争と原爆を描いた作品を踏まえ、憲法九条について「世界中が戦争し、それで外交も成り立っているような地球に、おとぎ話のような憲法が(日本に)ある」と誇った。「押しつけられたか、自分で作ったか、そんなことを言っても仕方ない。とにかく私たちは手にした。売り渡してはいけない」

 世の中が同じ方向に流れていく恐ろしさを知る大林監督ならではのメッセージは、強く心に刻まれた。 (酒井健)

◆映画の力信じ思いをつなぐ 出演者ら悼む声

 生涯をかけて映画作りに心血を注いだ大林宣彦監督の訃報に接し、出演者らから11日、「思いをつないでいく」など悼む声が相次いだ。

 尾道3部作の「転校生」に主演した小林聡美さんは「映画を通してたくさんのことを教えていただきました」とコメント。「さびしんぼう」主演の富田靖子さんは「監督の作品に参加させていただいたことは私にとって宝物です」としのんだ。

 同3部作で共演した尾美としのりさんは「今の気持ちを率直に言うと大変残念です。それに尽きます」と惜しんだ。

 「ふたり」や新作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」に出演した中江有里さんは「『人生にリハーサルはない。いつも本番。映画も同じだ』と教わった。(訃報を)まだ受け止められません」。

 「海辺の映画館」などに出演した常盤貴子さんは「監督が命を削って訴え続けてくださった二度と戦争なんて起きない世の中になるよう、私たちは映画の力を信じ、その思いをつないでいきたい」と追悼文を寄せた。

写真
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報