◆低悪性度神経膠腫(グレード2)
JCOG1303試験(手術後残存腫瘍のあるWHO Grade II星細胞腫に対する放射線単独治療とテモゾロミド併用放射線療法を比較するランダム化第III相試験:
UMIN000014578 ) を国立がんセンター中央病院が研究事務局で当院は参加施設として試験進行中です。
◆退形成性神経膠腫(グレード3)
JCOG1016試験(初発退形成性神経膠腫に対する術後ACNU化学放射線療法先行再発時テモゾロミド化学療法をテモゾロミド化学放射線療法と比較するランダム化第III相試験:
UMIN000014104) を当院が研究事務局として全国多施設で行っています(進行中)。
◆膠芽腫(グレード4)
A. 自家腫瘍ワクチン療法(AFTV: Autologous Formalin Fixed Vaccine)
当時理化学研究所大野忠夫先生が中心となって開発した新しい形のがん免疫療法です(8)(9)。摘出後にホルマリン固定されている腫瘍組織標本を材料として作成したワクチンを患者さん上腕の皮膚内に投与します。これまで、再発膠芽腫(筑波大学石川先生)、初発膠芽腫(放射線との併用
C000000002(13)) 、初発膠芽腫(放射線とテモゾロミドとの併用
UMIN000001426(3)) についての第III相のランダム化試験で、東京女子医科大学を中心に臨床研究として行われています(
UMIN000010602 )(現在、患者さんの登録は終了いたしました)
B. 光線力学的療法 (グレード3以上)
悪性腫瘍に対する光線力学的療法は、「腫瘍細胞に選択的に集積する性質を持つ体光感受性物質を患者さんに投与し、腫瘍組織にレーザー光を照射すると、光感受性物質とレーザー光の光化学反応で、強力な活性酸素が発生することによって腫瘍細胞を死滅させる」、というメカニズムを利用した治療法です(14)。
肺がんや食道がん、子宮頸がんなどではすでに臨床応用されており、期待される新規治療であります。脳腫瘍に関しましては、東京女子医大を中心として、東京医科大学と共同で医師主導治験(第II相、単アーム)を行いました。医師主導治験の結果は、膠芽腫の1年生存率100%、6ヶ月無増悪生存率100%と良好な治療結果を得て(10)、 2013年9月に薬事承認されました。
画像診断で悪性神経膠腫が強く疑われる場合や悪性神経膠腫の再発に対して手術を行う場合が治療対象となります。まず、手術前日(腫瘍摘出予測時間の約24時間前)に光感受性物質であるレザフィリンを注射します。開頭手術で腫瘍を可能な限り最大限摘出した後に、運動繊維や言語繊維近傍でこれ以上摘出できない部位や、将来再発が起こりやすい深部白質繊維部分をターゲットとして、レーザー照射を行います。
図3. 術中PDレーザー照射のイメージ
当施設では保険承認後2014年1月より原発性悪性脳腫瘍(主に神経膠腫)に対する光線力学的療法を開始し、2018年1月の時点で130例を超える症例に保険治療として施行しています。現時点で、医師主導治験の症例を含め、光線力学的療法が原因と思われるような重篤な副作用は生じておらず、安全な治療と考えております。
レザフィリン注射後は、約1〜2週間は強い光からの遮蔽(しゃへい)が必要になります。具体的には、通常の部屋の蛍光灯の明るさでは問題ないですが、携帯電話やテレビなどの強い光を見るときにはサングラスを着用していただく、外出を避ける、などを行っていただきます。
治験
C. 免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)治験(グレード4)
初発膠芽腫患者が対象となります。近年、自分の免疫細胞が活性化して悪性腫瘍を攻撃するメカニズムが解明されてきました。悪性腫瘍細胞は、その免疫細胞による攻撃から守るための因子を持っており、その因子を不活化する抗PD-1抗体(オプジーボ)の治験となります。本薬剤は現在肺がんや悪性黒色腫、腎細胞癌やホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍に適応があります。術後標準治療(放射線治療および化学療法)とオプジーボを組み合わせた治療と標準治療を比較します。
D. IDH遺伝子変異を有する再発神経膠腫(グレード2-4)
変異型イソクエン酸脱水素酵素IDH1阻害剤によるIDH1 遺伝子変異を有する再発神経膠腫を対象とした第I相の治験が進行中(参加者募集中)です。
この治験薬は、がん細胞のみで発現する変異型IDH1を特異的に阻害することが期待されています。
どのような患者さんが参加できるか等、治験の詳細情報は、下記サイトから確認いただけます。
E. ABT-414治験(再発グレード3、4)
上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子増幅のある再発悪性神経膠腫が対象となります。EGFRに対する抗体に微小管阻害剤であるモノメチルアウリスタチン(MMAF)の抗体薬物複合体とテモゾロミドを用いた化学療法を併用する第II相治験です。
F. WT1ワクチンによる免疫療法治験(再発膠芽腫)
WT1という腫瘍関連抗原に対するワクチンを用いた免疫療法とベバシズマブを併用する治療とベバシズマブ単独治療を比較する試験です。再発膠芽腫が対象となります。ランダム化試験ですので、ワクチン投与群と非投与群に振り分けられます。
G. エリブリンメシル酸塩治験(再発膠芽腫)
ベバシズマブ治療歴を有する再発膠芽腫が対象となります。現在再発乳癌や再発悪性軟部腫瘍に適応があるエリブリンメシル酸塩という薬剤を用いた治験です。エリブリンメシル酸塩単独治療による第II相医師主導治験です。
以上、現在上記のさまざまな臨床研究や臨床試験、治験を行なっており、各患者さんの治療状況を踏まえて最適な治療方法を提供したいと考えております。
これら治験については、それぞれ参加するための規準があり、また終了することがあるので、その都度外来でご確認ください。