神経膠腫(グリオーマ:glioma)治療方針

担当医

村垣善浩 (先端生命医科学研究所教授) 、新田雅之(助教)、齋藤太一(助教)、都築俊介(助教)、
福井敦(助教)

1.東京女子医科大学の治療方針

当院での神経膠腫(グリオーマ)治療の特徴は、情報誘導手術(11) による最大限の脳腫瘍摘出と最小限の術後神経症状の両立、標準的な放射線化学療法に加え新規治療開発です。近年、神経膠腫に関して、より高い摘出率が予後に貢献することが当施設からの報告(17)(18)(1)(2)を含め世界中から報告され、より高い摘出率をめざす方針が標準的になってきています。これは、浸潤性を示す神経膠腫であっても手術によって可能な限り腫瘍細胞の数を減らすことにより、後療法を有利に進めることができ、予後の改善につながるという考え方からきています。
手術後は、詳細な腫瘍の種類の診断(病理診断)に加え、腫瘍に生じている様々な遺伝子異常を解析し(遺伝子診断)、それらの結果を総合的な診断して、国内や海外の専門家の間で認められている標準的な放射線・化学療法を施行します。さらに、標準的な治療方法で治療結果(治療開始日から再発までの期間:無増悪再発期間や生存可能な期間:生存期間)が満足できない種類の悪性神経膠腫の場合は、臨床研究や治験などの新規治療法が選択できる体制をとり、幅広いオプションを持つ施設です。その他、手術に必要な検査は、他大学や他医療機関などの所属や場所を問わずに施行しています。

2.東京女子医科大学での年間手術件数と治療成績

当院は、年間300件以上の脳腫瘍の手術を行っており、特に神経膠腫(グリオーマ)は毎年100件以上の手術を行っており、日本一の手術件数を誇っております(表1)。

表1 東京女子医科大学神経膠腫手術件数

2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
神経膠腫(グリオーマ)
手術件数
159 142 158 185 141 139 127
全脳腫瘍手術件数 338 359 346 386 336 354 336
当院で治療を受けた患者さんの経過(治療成績)を示します。2000年から2014年までの14年間で、初めて神経膠腫(初発神経膠腫)の手術を受けた患者さんのデータ(統計)です。(2016年のWHO分類改訂にて神経膠腫の分類は遺伝子情報を取り入れて変更されましたが、以下のデータは2007年分類に基づいたものを示しています)

A.東京女子医科大学成人初発低悪性度神経膠腫(グレード2) 手術症例治療成績

  • 東京女子医科大学成人初発低悪性度神経膠腫(グレード2) 手術症例治療成績
組織型 (WHO2007分類) 症例数 5年生存率 10年生存率
グレード2全症例 283 89% 77%
星細胞腫 76 79% 61%
乏突起星細胞腫 93 86% 79%
乏突起膠腫 117 95% 87%

B.東京女子医科大学成人初発退形成性神経膠腫(グレード3)手術症例治療成績

  • B.東京女子医科大学成人初発退形成性神経膠腫(グレード3)手術症例治療成績
組織型 (WHO2007分類) 症例数 5年生存率 10年生存率
グレード3全症例 220 74% 66%
退形成性星細胞腫 86 63% 55%
退形成性乏突起星細胞腫 66 83% 73%
退形成性乏突起膠腫 63 80% 74%

C.東京女子医科大学成人初発膠芽腫(グレード4)手術症例治療成績

生存期間中央値:18.2ヶ月(生検症例を含む全症例の治療成績)
1年生存率:71%、3年生存率:26%
画像上全摘出できた場合の生存期間中央値:23.0ヶ月(2)
膠芽腫に関しては、近年いくつかの新しい治療方法が開発され、治療成績は徐々に改善しています。
*化学療法剤テモゾロミド導入後(2006年~)
生存期間中央値21.9ヶ月、1年生存率75%、3年生存率31%
自家腫瘍ワクチン併用(自費診療、2004年~)
生存期間中央値31.3ヶ月、1年生存率64%、3年生存率46%
*タラポルフィン-PDレーザーを用いた光線力学的療法併用(2009年~、2014年から保険適応)
生存期間中央値31.5ヶ月、1年生存率100%、3年生存率42%
*オプチューン(2018年〜)電場を用いた新規治療法で初発膠芽腫患者が対象になります。

3.東京女子医科大学での治療方法

A.術中MRIを核とした情報誘導手術

従来の手術は外科医の経験と技術によって判断施行されていました。我々は手術の成功確率を上げるために、客観的で再現性のある情報に基づいた手術-情報誘導手術-を提唱してきました。現在、それを提供する場が東京女子医科大学インテリジェント手術室であり、腫瘍の位置情報(解剖学的情報:術中MRIとナビゲーション)、どこに重要な脳の働きをする場所があるかの情報(機能的情報:覚醒下手術や運動神経モニタリング)、摘出したものが腫瘍であるかどうかの情報(組織学的情報:術中迅速診断や5ALA)を提供しながら、手術を遂行しています(24)。この3種類の情報を駆使して摘出する部位を決定するのが情報誘導手術で、情報誘導手術を実行する場所がインテリジェント手術室です。本システムは国際的な医学雑誌lancet oncologyで世界13施設の中に紹介されています(11)。
解剖学的情報を提供する術中MRIは、手術中にMRI検査ができる装置(術)であり、情報誘導手術の核となります。術中MRIによって、腫瘍摘出後に残存した腫瘍を画像で示されるために、残存腫瘍を追加摘出でき、腫瘍の取り残しが少なく最大限の腫瘍摘出が可能になりました(12)(20)。結果としてMRI画像上の腫瘍の平均摘出率は90.6%(中央値96.7%)でした。また、手術中の緊急事態や出血も術中MRI画像で術中に確認できるため、より適切な対処につながり、術後出血率は0.8%でした(一般には1-3%)。この術中MRI画像を基にしたナビゲーションは術中の変化に対応しており、車でいえば渋滞情報を随時更新するナビゲーションのようなもので、正確に術者に状況を示します。初代術中MRIは2000年から2013年まで、2013年以降は2代目の術中MRI装置が稼働しており、これまでに約2000例の手術を行ってきました。

表2.東京女子医科大学神経膠腫摘出術における術中MRIの使用率と摘出率

術中MRI使用率* 摘出率中央値 平均摘出率
グレード2 93% 95% 86%
グレード3 87% 95% 90%
グレード4(膠芽腫) 80% 99% 94%
*緊急性を優先し、術中MRIが使用できない場合もあるので使用率100%ではありません。
機能的情報としては、運動神経が傷ついていないかをみる運動誘発電位を全症例でモニタリングしており、半身不随(麻痺)の出現を防ぎながら手術を進めます。また、言葉の神経(言語野や言語神経)に近いところの腫瘍を摘出する際には、患者さんが起きた状態で会話をしながら腫瘍摘出を行う覚醒下手術を行い、言語障害(失語症)を最小限に抑えます(21)(22)(24)。運動神経に近い腫瘍では、上記の運動誘発電位モニタリングに加え、覚醒下手術で運動機能を細かくチェックしながら手術を行う場合もあります。 覚醒下手術は2000年以降、約500例に施行しています。
組織学的情報の基本は、手術中に小さな腫瘍組織を採取してインスタントで病理診断を行う術中迅速診断です。術中迅速病理診断によって、摘出した腫瘍がどのような腫瘍であるか(腫瘍の種類や悪性度)を確認するとともに、腫瘍摘出後の断端を採取して、まだ腫瘍細胞が多く残っているのか、正常脳に近いとこまできているのかを確認します。最近では術中にフローサイトメトリー(細胞のDNA量を測定することにより、異常な染色体数を有する腫瘍細胞や増殖している腫瘍細胞と、染色体数が正常で増殖していない正常細胞を見分ける方法)(7)(23) を用いて、神経膠腫の術中悪性度診断や、浸潤部位の残存腫瘍量を測定することにより、摘出する範囲の意思決定に利用しています。また最近は、神経膠腫(グリオーマ)の病理診断に必須となったIDH変異などの遺伝子情報を手術中に同定する臨床研究を行っており、手術中に神経膠腫の病理・遺伝子診断を行って摘出の意思決定に用いる試みを行っています。
2019年10月からはインテリジェント手術室での手術は終了となり、「Hyper smart cyber operating theater (Hyper SCOT)」(図2)と呼ばれる新たな治療室の運用が開始されました。「Hyper SCOT」とは、術中MRIを中心とした各種の医療機器をパッケージ化し、ネットワークでつなぐことにより、手術中の患者の状況をリアルタイムに把握し、安全性と医療効率の向上を目指す近未来の治療室です。

図1. インテリジェント手術室

  • インテリジェント手術室

図2. Hyper SCOT

  • Hyper SCOT
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野

B.標準的な放射線化学療法

手術後にどのような補助療法を行なうかは主治医により意見が分かれるところです。しかし最近では欧米を中心に、複数の施設による大規模で多数の患者に対して信頼性の高い試験が行われております。我々はそれらの最新結果を基にして十分な説明を行い、同意を得た上で補助療法を決定しております。また、日本国内でも同様の試験が行われており、その中心となる組織である日本臨床腫瘍グループ(Japan Clinical Oncology Group: JCOG)の脳腫瘍グループ に参加している施設の一つです。現在の補助療法を下記に挙げますが、これらは一般治療方針であり、患者さん毎に異なる場合や新たな試験結果で変更する場合があることをご了解ください。

初発神経膠腫に対する治療

  • ◆Grade 2:手術±放射線治療±化学療法(8)
    MRIでT2 強調画像での異常領域の90%以上摘出 → 経過観察
    MRIでT2 強調画像での異常領域の摘出が90%未満の場合
    星細胞腫で再摘出可能な場合 → 手術にて再摘出
    星細胞腫で再摘出不可能な場合 → 放射線治療+化学療法(ACNU)
    乏突起膠腫 → 化学療法(ACNU)
  • ◆Grade 3:手術+放射線治療+化学療法
    Grade 3腫瘍に対する化学療法の薬剤は組織診断に関わらずACNUを用いています。
    (現在は後述するJCOG1016臨床試験 を行っており、ACNUおよびテモゾロミドのいずれかを用いています)
  • ◆Grade 4 :手術+放射線治療+化学療法(テモゾロミド)
    上記に加え、後述する免疫療法(自家腫瘍ワクチン)光線力学的療法(PDT)を行う場合があります。

再発時治療

  • ◆Grade 2:
    可能な限り再手術にて腫瘍の最大限摘出を行います。MRI T2強調画像で90%以上の摘出ができ、かつ再手術の病理診断がグレード2の場合は、上記初発時の治療方針に従います。
    MRI T2強調画像で90%未満の摘出の場合 → 化学療法(テモゾロマイド、初期治療で化学療法を行わなかった場合はACNU)+放射線治療(初期治療で行っていない場合)
  • ◆Grade 3, 4:
    再手術が可能な場合は、手術による最大限摘出を行い、術中光線力学的療法(PDT)を併用します(適応のある症例は限られます)。術後の後療法に関しては、患者さんの再発前の治療内容をふまえ、化学療法(テモゾロミド、ACNU)や分子標的治療(ベバシズマブ)、免疫療法(自家腫瘍ワクチン)や定位放射線治療など様々な治療を行います。
    * 自家腫瘍ワクチン・光線力学的療法ともに治療の対象となる条件(年齢や腫瘍の型や状態)があり治療のご希望に添えないことがあります。

4.新規治療法の開発と臨床試験

上述の集学的治療によりグリオーマの成績は改善してまいりましたが、特に悪性度の高いグレード4の生存率は低いままであります。またグレード2や3であっても悪性化を伴って再発した場合は治療の選択肢が限られるのも、治療の難しいところです。これらを少しでも改善するために、新規治療方法開拓も必要になります。当科では新しい術中放射線治療装置、ナチュラルキラー細胞(免疫細胞)による局所免疫療法、テモゾロマイド(テモダール:2006年9月認可)の国内臨床治験等、多数の神経膠腫に対する新規治療開拓を行ってまいりました。 現在、当施設で施行している臨床試験は以下に紹介します。なお詳細な内容はUMIN試験IDを用いてUMINホームページからも検索可能です。

現在進行中の神経膠腫臨床試験

◆低悪性度神経膠腫(グレード2)
JCOG1303試験(手術後残存腫瘍のあるWHO Grade II星細胞腫に対する放射線単独治療とテモゾロミド併用放射線療法を比較するランダム化第III相試験:UMIN000014578 ) を国立がんセンター中央病院が研究事務局で当院は参加施設として試験進行中です。
◆退形成性神経膠腫(グレード3)
JCOG1016試験(初発退形成性神経膠腫に対する術後ACNU化学放射線療法先行再発時テモゾロミド化学療法をテモゾロミド化学放射線療法と比較するランダム化第III相試験:UMIN000014104) を当院が研究事務局として全国多施設で行っています(進行中)。
◆膠芽腫(グレード4)
A. 自家腫瘍ワクチン療法(AFTV: Autologous Formalin Fixed Vaccine)
当時理化学研究所大野忠夫先生が中心となって開発した新しい形のがん免疫療法です(8)(9)。摘出後にホルマリン固定されている腫瘍組織標本を材料として作成したワクチンを患者さん上腕の皮膚内に投与します。これまで、再発膠芽腫(筑波大学石川先生)、初発膠芽腫(放射線との併用C000000002(13)) 、初発膠芽腫(放射線とテモゾロミドとの併用UMIN000001426(3)) についての第III相のランダム化試験で、東京女子医科大学を中心に臨床研究として行われています(UMIN000010602 )(現在、患者さんの登録は終了いたしました)

B. 光線力学的療法 (グレード3以上)
悪性腫瘍に対する光線力学的療法は、「腫瘍細胞に選択的に集積する性質を持つ体光感受性物質を患者さんに投与し、腫瘍組織にレーザー光を照射すると、光感受性物質とレーザー光の光化学反応で、強力な活性酸素が発生することによって腫瘍細胞を死滅させる」、というメカニズムを利用した治療法です(14)。
肺がんや食道がん、子宮頸がんなどではすでに臨床応用されており、期待される新規治療であります。脳腫瘍に関しましては、東京女子医大を中心として、東京医科大学と共同で医師主導治験(第II相、単アーム)を行いました。医師主導治験の結果は、膠芽腫の1年生存率100%、6ヶ月無増悪生存率100%と良好な治療結果を得て(10)、 2013年9月に薬事承認されました。
画像診断で悪性神経膠腫が強く疑われる場合や悪性神経膠腫の再発に対して手術を行う場合が治療対象となります。まず、手術前日(腫瘍摘出予測時間の約24時間前)に光感受性物質であるレザフィリンを注射します。開頭手術で腫瘍を可能な限り最大限摘出した後に、運動繊維や言語繊維近傍でこれ以上摘出できない部位や、将来再発が起こりやすい深部白質繊維部分をターゲットとして、レーザー照射を行います。

図3. 術中PDレーザー照射のイメージ

当施設では保険承認後2014年1月より原発性悪性脳腫瘍(主に神経膠腫)に対する光線力学的療法を開始し、2018年1月の時点で130例を超える症例に保険治療として施行しています。現時点で、医師主導治験の症例を含め、光線力学的療法が原因と思われるような重篤な副作用は生じておらず、安全な治療と考えております。
レザフィリン注射後は、約1〜2週間は強い光からの遮蔽(しゃへい)が必要になります。具体的には、通常の部屋の蛍光灯の明るさでは問題ないですが、携帯電話やテレビなどの強い光を見るときにはサングラスを着用していただく、外出を避ける、などを行っていただきます。
治験
C. 免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)治験(グレード4)
初発膠芽腫患者が対象となります。近年、自分の免疫細胞が活性化して悪性腫瘍を攻撃するメカニズムが解明されてきました。悪性腫瘍細胞は、その免疫細胞による攻撃から守るための因子を持っており、その因子を不活化する抗PD-1抗体(オプジーボ)の治験となります。本薬剤は現在肺がんや悪性黒色腫、腎細胞癌やホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍に適応があります。術後標準治療(放射線治療および化学療法)とオプジーボを組み合わせた治療と標準治療を比較します。
D.  IDH遺伝子変異を有する再発神経膠腫(グレード2-4)
変異型イソクエン酸脱水素酵素IDH1阻害剤によるIDH1 遺伝子変異を有する再発神経膠腫を対象とした第I相の治験が進行中(参加者募集中)です。
この治験薬は、がん細胞のみで発現する変異型IDH1を特異的に阻害することが期待されています。
どのような患者さんが参加できるか等、治験の詳細情報は、下記サイトから確認いただけます。
E. ABT-414治験(再発グレード3、4)
上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子増幅のある再発悪性神経膠腫が対象となります。EGFRに対する抗体に微小管阻害剤であるモノメチルアウリスタチン(MMAF)の抗体薬物複合体とテモゾロミドを用いた化学療法を併用する第II相治験です。
F. WT1ワクチンによる免疫療法治験(再発膠芽腫)
WT1という腫瘍関連抗原に対するワクチンを用いた免疫療法とベバシズマブを併用する治療とベバシズマブ単独治療を比較する試験です。再発膠芽腫が対象となります。ランダム化試験ですので、ワクチン投与群と非投与群に振り分けられます。
G. エリブリンメシル酸塩治験(再発膠芽腫)
ベバシズマブ治療歴を有する再発膠芽腫が対象となります。現在再発乳癌や再発悪性軟部腫瘍に適応があるエリブリンメシル酸塩という薬剤を用いた治験です。エリブリンメシル酸塩単独治療による第II相医師主導治験です。
以上、現在上記のさまざまな臨床研究や臨床試験、治験を行なっており、各患者さんの治療状況を踏まえて最適な治療方法を提供したいと考えております。
これら治験については、それぞれ参加するための規準があり、また終了することがあるので、その都度外来でご確認ください。

5.神経膠腫治療に必要な諸検査施行

A.神経膠腫診断手術のためのPETやMRIによるスペクトロスコピー
中部療護センター (篠田淳センター長:岐阜)では、メチオニン・コリン・FDGという3種類の核種によるPET検査を行っております。特に、メチオニンは脳腫瘍とその他の疾患との区別や腫瘍の中で代謝が高い場所(増殖している場所)を同定し手術計画を立てるために重要な画像情報の一つです(4)(19)(25)。
B.言語野の場所を調べるための機能MRI検査
個人差が激しい言語野の場所を予想するため、手術前に特殊なMRI検査(機能MRI)を行なうことがあります。一般的なMRIと比較して患者さんの体の負担は変わりません。言語脳科学の専門家である東京大学大学院 酒井邦嘉先生の研究室で行っております。神経膠腫を持つ患者さんの言語、特に文法に関する脳中枢の同定5、言語に関するネットワークが大きく3つ存在することを同定しました(6)。
C.高次脳機能検査
神経膠腫は脳内に発生する脳腫瘍であり、脳腫瘍そのものや治療による影響で人間の高度な機能(作業や計算や判断など)が障害される可能性があります。これらは専門家が詳しく検査しない限り、一般の身体検査では見つけることは困難なものです。東京女子医科大学では京都大学熊田孝恒教授と共同で、高次脳機能を検査するセット(東京女子医大バッテリー)を開発し、患者さんの術前術後の状態把握に努めています。また、腫瘍の場所によって並行して物事を進められないあるいは絵を書くと手指を6本書いてしまうなど特殊な症状を呈することを発見しました(15)(16)。
D.腫瘍の遺伝子診断
近年、グリオーマの予後は病理診断による悪性度に加え、腫瘍に生じた遺伝子変異が予後を大きく左右することが分かってきました。その代表的なものがIDH1変異、1p/19q染色体欠失であり、2016年に改訂されたWHO2016脳腫瘍病理分類ではグリオーマはこれらの遺伝子情報によって分類されるようになりました。当施設ではこれら代表的な遺伝子変異を全症例で調べており、その他、MGMTメチル化やTERTといった予後に関わる重要な遺伝子異常や、EGFR、p53、ATRX、BRAF遺伝子変異などの様々な遺伝子異常を調べて治療方針の決定に役立てております。

6.脳腫瘍外来受診を希望される方へ

脳腫瘍の診断や治療に関するご相談は、東京女子医科大学病院の脳腫瘍専門外来を受診されてください。直接のご予約、他医療機関からのご紹介、セカンドオピニオン等どのような状況にも対応いたします。基本的には予約診療ですが、予約外の診察も可能です。当院外来予約センター(代表03-3353-8111)の担当者とご相談ください。

担当医師

  • 村垣善浩(むらがき よしひろ):毎週火曜日終日
  • 丸山隆志(まるやま たかし):第1・3水曜日
  • 新田雅之(にった まさゆき):毎週火曜日終日
  • 齋藤太一(さいとう たいいち):毎週火曜日午後
  • 都築俊介(つづき しゅんすけ):毎週火曜日終日
  • 福井敦(ふくい あつし):毎週木曜日終日

論文リスト:

  1. Fujii Y, Muragaki Y, Maruyama T, Nitta M, Saito T, Ikuta S, et al: Threshold of the extent of resection for WHO Grade III gliomas: retrospective volumetric analysis of 122 cases using intraoperative MRI. J Neurosurg:1-9, 2017
  2. Fukui A, Muragaki Y, Saito T, Maruyama T, Nitta M, Ikuta S, et al: Volumetric Analysis Using Low-Field Intraoperative Magnetic Resonance Imaging for 168 Newly Diagnosed Supratentorial Glioblastomas: Effects of Extent of Resection and Residual Tumor Volume on Survival and Recurrence. World Neurosurg 98:73-80, 2017
  3. Ishikawa E, Muragaki Y, Yamamoto T, Maruyama T, Tsuboi K, Ikuta S, et al: Phase I/IIa trial of fractionated radiotherapy, temozolomide, and autologous formalin-fixed tumor vaccine for newly diagnosed glioblastoma. J Neurosurg 121:543-553, 2014
  4. Kato T, Shinoda J, Nakayama N, Miwa K, Okumura A, Yano H, et al: Metabolic assessment of gliomas using 11C-methionine, [18F] fluorodeoxyglucose, and 11C-choline positron-emission tomography. AJNR Am J Neuroradiol 29:1176-1182, 2008
  5. Kinno R, Muragaki Y, Hori T, Maruyama T, Kawamura M, Sakai KL: Agrammatic comprehension caused by a glioma in the left frontal cortex. Brain Lang 110:71-80, 2009
  6. Kinno R, Ohta S, Muragaki Y, Maruyama T, Sakai KL: Differential reorganization of three syntax-related networks induced by a left frontal glioma. Brain 137:1193-1212, 2014
  7. Koriyama S, Nitta M, Shioyama T, Komori T, Maruyama T, Kawamata T, et al: Intraoperative flow cytometry enables the differentiation of primary central nervous system lymphoma from glioblastoma. World Neurosurg, 2018
  8. Liu SQ, Saijo K, Todoroki T, Ohno T: Induction of human autologous cytotoxic T lymphocytes on formalin-fixed and paraffin-embedded tumour sections. Nat Med 1:267-271, 1995
  9. Maruyama T, Muragaki Y, Ishikawa E, Nitta M, Saito T, Ohno T, et al: [II. Autologous formalin-fixed tumor vaccine for newly diagnosed glioblastoma]. Gan To Kagaku Ryoho 42:683-686, 2015
  10. Muragaki Y, Akimoto J, Maruyama T, Iseki H, Ikuta S, Nitta M, et al: Phase II clinical study on intraoperative photodynamic therapy with talaporfin sodium and semiconductor laser in patients with malignant brain tumors. J Neurosurg 119:845-852, 2013
  11. Muragaki Y, Iseki H, Maruyama T, Kawamata T, Yamane F, Nakamura R, et al: Usefulness of intraoperative magnetic resonance imaging for glioma surgery. Acta Neurochir Suppl 98:67-75, 2006
  12. Muragaki Y, Iseki H, Maruyama T, Tanaka M, Shinohara C, Suzuki T, et al: Information-guided surgical management of gliomas using low-field-strength intraoperative MRI. Acta Neurochir Suppl 109:67-72, 2011
  13. Muragaki Y, Maruyama T, Iseki H, Tanaka M, Shinohara C, Takakura K, et al: Phase I/IIa trial of autologous formalin-fixed tumor vaccine concomitant with fractionated radiotherapy for newly diagnosed glioblastoma. Clinical article. J Neurosurg 115:248-255, 2011
  14. Muragaki Y, Maruyama T, Nitta M, Ikuta S, Iseki H: [Photodynamic Therapy]. No Shinkei Geka 43:583-592, 2015
  15. Niki C, Maruyama T, Muragaki Y, Kumada T: Disinhibition of sequential actions following right frontal lobe damage. Cogn Neuropsychol 26:266-285, 2009
  16. Niki C, Maruyama T, Muragaki Y, Kumada T: Perseveration found in a human drawing task: six-fingered hands drawn by patients with right anterior insula and operculum damage. Behav Neurol 2014:405726, 2014
  17. Nitta M, Muragaki Y, Maruyama T, Ikuta S, Komori T, Maebayashi K, et al: Proposed therapeutic strategy for adult low-grade glioma based on aggressive tumor resection. Neurosurg Focus 38:E7, 2015
  18. Nitta M, Muragaki Y, Maruyama T, Iseki H, Ikuta S, Konishi Y, et al: Updated therapeutic strategy for adult low-grade glioma stratified by resection and tumor subtype. Neurol Med Chir (Tokyo) 53:447-454, 2013
  19. Saito T, Maruyama T, Muragaki Y, Tanaka M, Nitta M, Shinoda J, et al: 11C-methionine uptake correlates with combined 1p and 19q loss of heterozygosity in oligodendroglial tumors. AJNR Am J Neuroradiol 34:85-91, 2013
  20. Saito T, Muragaki Y, Maruyama T, Tamura M, Nitta M, Okada Y: Intraoperative functional mapping and monitoring during glioma surgery. Neurol Med Chir (Tokyo) 55:1-13, 2015
  21. Saito T, Muragaki Y, Maruyama T, Tamura M, Nitta M, Tsuzuki S, et al: Difficulty in identification of the frontal language area in patients with dominant frontal gliomas that involve the pars triangularis. J Neurosurg 125:803-811, 2016
  22. Saito T, Tamura M, Muragaki Y, Maruyama T, Kubota Y, Fukuchi S, et al: Intraoperative cortico-cortical evoked potentials for the evaluation of language function during brain tumor resection: initial experience with 13 cases. J Neurosurg 121:827-838, 2014
  23. Shioyama T, Muragaki Y, Maruyama T, Komori T, Iseki H: Intraoperative flow cytometry analysis of glioma tissue for rapid determination of tumor presence and its histopathological grade: clinical article. J Neurosurg 118:1232-1238, 2013
  24. Tamura M, Muragaki Y, Saito T, Maruyama T, Nitta M, Tsuzuki S, et al: Strategy of Surgical Resection for Glioma Based on Intraoperative Functional Mapping and Monitoring. Neurol Med Chir (Tokyo) 55:383-398, 2015
  25. Watanabe A, Muragaki Y, Maruyama T, Shinoda J, Okada Y: Usefulness of (1)(1)C-methionine positron emission tomography for treatment-decision making in cases of non-enhancing glioma-like brain lesions. J Neurooncol 126:577-583, 2016
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