武器屋の好奇心
残りの日々は忙しなく過ぎた。
俺達は波に備えて出かけ、鉱山で鉱石を掘ったり、魔物を倒してLv上げをしたりと様々な事に取り掛かった。
鉱山で手に入った鉱石を盾に吸わせ、ついでに近隣の魔物を倒す。
フィーロの足なら1日で城へ戻ってこれる距離だ。
城に戻ってから俺は薬の調合と魔法を学び、ラフタリアとリーシアは宮廷魔術師に魔法を重点的に教わった。
驚いたことにラフタリアはクラスアップの影響で幻影の魔法以外にも適正が発現したらしく、スポンジが水を吸い込むかのように色々な魔法を使いこなすようになるかもしれない。
のだけど、さすがに2、3日程度でそこまで強力な魔法は覚えられないとか。
ただ、2週間頑張ればドライファクラスの魔法を覚えられるんじゃないかと宮廷魔術師は教えるのを楽しむようにラフタリアに講義していた。
将来有望だな。
俺は過去の疫病に苦しんでいた村を自力で救えなかった教訓から調合を教わった。驚いたのは薬屋の店主が態々教えに来たことか。
この世界の薬学は相当な効果が期待できるのだが、一種の排他的な環境があってあまり広まっていない。
治療院がギルドに近い役割を持っているらしい。
問題として治療院は教会派と薬学派が常に争いあっており、有能な人材は少ないそうだ。
教会派は回復魔法に関して力を入れている。大怪我に対して多大な効果を期待できる反面、病には弱い。
薬学派は薬の調合に力を入れている。病に多大な効果を期待できる反面、大怪我に弱い。
両方を上手いこと取り込んでいる技術者は少ないと薬屋の店主は嘆いていた。
まあ、リーシアの例を参考にするとどちらかに偏らせないと厳しいのだろうなぁ。
そんな事もあって、学ぶ事は増えていった。
フィーロはメルティとずっと遊んでいたな。
波まで後4日。
途中経過を尋ねる為に武器屋に顔を出しに行く。
「おうアンちゃんたちじゃないか」
「経過はどうだ?」
「そうだな……鳥の嬢ちゃんが友達を連れて遊びに来たぞ」
友達って……メルティだろそれ。
この国の第二王女だぞ。あ、今は唯一の王女か。
俺の指名手配を見たのなら知っているだろうに。
というかメルティもあんな事があったのにお忍びで遊びに行くとか随分と余裕だな。
「いや、そんな事は良いから」
「分かってる。それも関わってくるんだ。見てくれ」
と、親父は店の奥から武器を持ってきてくれる。
まずはラフタリアの剣だな。
なんかカルマーラビットソードのような外見……この剣は元々刀身が黒っぽい物だったのだけど、白くなっている。
「禍々しい力を持っていたろ? アンちゃんが持ってきた黒いウサギの素材を使って強化してみたら逆に白くなってな」
「ほー……」
「ブラッドクリーングリスで加工しておいた。コーティングほどじゃないが血糊を弾く」
ブラッドクリーングリス?
コーティングの劣化版か。
「あ……何か前のよりもしっくり来る感じがしますよ」
「切れ味は上がって、付与効果も上昇しているのは上手くいったと思っている」
「何か凄いです」
「同じように鳥の嬢ちゃん用のツメもやってみたら上手くいったぞ。こっちは黒い犬か?」
「わーい!」
フィーロのツメも同様に白くなっている。
何だろう。呪いが解けた的な?
徐にこの二つを目利きしてみる。
ウサウニーソード 品質 高品質
付与効果 敏捷上昇 魔力上昇 剣技威力向上 ブラッドクリーングリス
イヌルトクロウ 品質 高品質
付与効果 敏捷上昇 魔力上昇 爪の威力向上 ブラッドクリーングリス
「良い仕事をしてくれたな」
「おうよ」
使いやすくなったのなら期待できるだろう。というか名前がちゃんと付いているという事は蛮族の鎧のオプション改造みたいな物とは異なるのか。
ウサウニー……イヌルト……確かあの島での伝説の魔物だったか。
「他にこんな槍が出来たぞ」
ペックルスピア。
……効果は殆ど同じ。
「誰が槍を使うんだ? というか何処から槍に変わった」
あの材料の中でなりそうなのというとカルマーペングーの素材か?
「悪いとは思ったんだけどよ。どうも素材の声に耳を傾けていたらこんな武器がな、材料ギリギリだったから大変だったぜ」
「余計な物を……」
まあ良い。いざという時にリーシアに持たせるか。ペングーのきぐるみが板に付いて来ているし、似合うだろう。
「これはまだ改造中だ。きぐるみの嬢ちゃん用に突剣にしてみる」
「頑張れよ」
「ああ、で……問題は依頼されていたきぐるみの改造なんだがな」
と、言って親父は申し訳無さそうに店の奥からペングーのきぐるみだったものを持ってくる。
「おい……きぐるみの体裁を維持して改造するとはどういう了見だ」
全体的に白くなったきぐるみっぽい物を見て俺は注意する。
「俺も頭がどうにかしていると思ったさ、でもな、鳥の嬢ちゃんが友達連れて遊びに来た夜に閃いちまったんだからしょうがねえだろ」
「……凄くいやな予感がする。開くな」
「なんですか?」
「こら、リーシア!」
リーシアはきぐるみに恐れも知らずに触れて広げる。
……。
「なあ親父、幾らなんでもこれは無いだろ」
「俺だってどうかしていると思っちまったさ!」
嘆くように親父は俯く。
そう……ペングーきぐるみはよりにもよって、フィロリアルきぐるみに変貌していたのだ。
しかもどう見てもフィーロをモデルにしているのが一目でわかる。
今ここにこれをフィーロのきぐるみと名づけよう。
フィーロきぐるみ
防御力アップ 敏捷上昇(大) 衝撃耐性(小) 風耐性(大) 闇耐性(小) HP回復(弱) 魔力上昇(中)
自動修復機能 牽引技能向上 積載量向上 サイズ補正 種族変更 -魔物装備時、種族変更以外無し
……親父と俺は両者揃ってきぐるみから目を逸らす。
「わー、フィーロの真似?」
「良く似てますね」
「ステキなきぐるみですね」
「コラ! 勝手に着ようとするんじゃない!」
リーシアが勝手に着替えだす。
「どうですか? クエクエ」
……人型のフィーロの隣に魔物の姿のフィーロが1匹。
まあ本物に比べれば小柄だけど。
残念な光景だ。
徐にリーシアのステータスを確認する。
たか! 盾の補正による効果たか!
ラフタリアの5分の1だったステータスが3分の1まで上昇している!
装備だけでこれって……種族変更でフィロリアルの補正が入ったな。
とりあえず、効果は高いから良いか……。
「うん。見栄えは悪いが……良いかもな」
「ひどーい!」
リーシアが嫌がらないから着させておこう。
フィーロが抗議している。知らんな。
「今のところはこんなもんだ。後は嬢ちゃんの鎧を作れば一段落だな」
「俺のは?」
「鎧を置いていけば作るが間に合うかわからねえ」
「そうか」
まあ、盾の強化が進んでいるお陰で鎧は後回しでもどうにか出来そうだから我慢するか。
「じゃあまた顔を出す。よろしく頼む」
「おうよ。所でアンちゃん」
「なんだ?」
「盾を作るという方法もあるんだぜ」
そうだよな。変わった材料で解放されていない盾を作ってもらうという方法もあるんだよなぁ。
盾に吸わせたら素材は無くなるような物だし、もったいないという意味では親父に作ってもらってからコピーすれば良いかも。
次の波のボスとかの素材を親父に任せてみるか。
「変わった素材があったら頼みに来るかもしれないな。その時は頼む」
「期待しているぜ。アンちゃん」
ま、こんな感じで波に備えている。
ちなみに波に備えて強化を終えた盾の復習をしておこう。
ソウルイーターシールド(覚醒)+6 35/35 SR
能力解放……装備ボーナス、スキル「セカンドシールド」 魂耐性(中)精神攻撃耐性(中)SPアップ
専用効果 ソウルイート SP回復(弱) ドレイン無効 壁抜け アンデットコントロール
熟練度 67
アイテムエンチャントLv7 SP10%アップ
ヤマアラスピリット カウンター効果向上 防御力50
ステータスエンチャント 体力30+
熟練度は現在上げている最中だ。なんと驚くことに強化した結果のステータスはキメラヴァイパーよりもこれが上だった。
腐ってもキメラヴァイパーの次のボスだっただけはあるという所か。強化倍率はこちらに軍配が上がった。
専用効果のドレイン無効と壁抜けとアンデットコントロールは覚醒させたら出現した。
壁抜けはそのまま物質をすり抜ける技能なのだけど……壁一枚通過するのでSPを全て盗られてしまった。しかもかなり薄い壁で実験してやっとだったので、分厚い壁で行ったらどうなった事か……。
アンデットコントロールは不死の魔物を操る事が出来る力、これも骨の魔物に試したのだけど、30秒操るのでSP切れ。
効率が悪いネタ技能だな。
数値上では今までの4倍の防御力を手に入れている。
昨日、出会った魔物の攻撃を受けてもびくともしなかった。
……滅多に俺がダメージを受ける事は無いのだけど。
だから親父の店から帰った後、城の庭で実験する事にした。