挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
113/981

強くなる方法

「ふぇえええ~~~~~~~!」


 凄く大きな情けない声が倉庫に木霊する。

 そしてリーシアは俺から脱兎の如く駆け出した。

 妙な所で判断力を発揮する奴だ。


「捕まえろ! 生きて返すな!」

「なんですかその台詞は!?」

「いやぁ、なんていうかノリで言っちゃったな」

「はーい!」

「ち、違う! フィーロ、冗談だ! 普通に捕まえろ! 足に力を入れるな!」

「くちばしもダメです! リーシアさんが死んでしまいます」


 やべぇ、ノリで言ったのに惨事になった。気をつけよう。

 フィーロがリーシアを捕まえ、担いで連れて来る。

 リーシアがめっちゃ暴れている。


「放してください! 故郷に帰るんです! パパとママの所に帰ります! イツキ様ぁああああー!」

「冗談だよ……」

「奴隷にするのも?」

「それは本当だ」

「な、なんでですか!?」

「その成長補正を受けるには俺の盾の場合は奴隷か魔物なんだ」


 これが最大のネックだよな。

 成長補正以外にも奴隷と魔物には能力補正を掛けられる。

 これを使えればリーシアを目に見えて強化できるはずなんだが。

 仲間に補正を掛けられるとかあれば良いのだけど……。


「ちょっと試して見るか」

「はい?」

「リーシア、毛先だけで良いから髪を切ってくれ」

「はぁ……」


 刃物でリーシアは自分の髪の毛を切って俺に渡す。

 俺は徐に盾に吸わせる。


「ふぇ!?」


 ……何も起こらない。

 やはり仲間の髪とかを素材にしても仲間の盾とかは出ないよなぁ。

 そもそもリーシアを仲間と断言できる程関係は深く無いし。


「とりあえず、俺が出来る恩威は奴隷になるか魔物になるしかない」

「魔物ですか? グールパウダーという闇の秘薬があるという話がありますよ。用意しましょうか?」

「それ……死んでるんじゃないか?」


 不死属性の仲間か……人間的リミッターが無い分強いかもしれないな。

 さすがにリーシアをゾンビにするのは俺の良心が痛むから避けたい。

 というか、リーシアも別に人間やめてまで強くなりたい訳じゃないだろうよ。


「まあ、選ぶのはリーシアの自由だが、加護は受けられないぞ」

「でも……」

「良く考えろ、強くなる為にはどうすれば良い? 貪欲に、可能性を模索するんだ。俺はその手段を提示しているだけだ」

「……」


 迷うようにリーシアは深く考え込んだ。

 自分の事だからな。しょうがない。

 俺はそこに補足を加えていく。


「まあ、68にもなっているとLvアップの遅さもあってあまり恩恵を受けられないから必要かは分からないがな。無いよりは成長が見込めると思う」


 こういうのって低いLvの時から行うのに意味があるんだよな。

 ゲームなんかでいるじゃないか。

 最初からLvが高い奴は死ぬか裏切る。あるいは成長が悪い。


「その論理ですとLv1からイワタニ様の保護下にいる者が最も伸びが良い事になりますね?」


 女王が俺に聞いてくる。


「そうだな。だが、Lv1に戻る方法なんて無いだろ?」

「ありますよ」

「……あるのか?」


 そんな便利な事が出来るのか。

 それが使えるならリーシアには丁度良い方法だ。

 問題は1Lvになる分、育てる手間が必要だが……既にそういったリスクを背負っているので、問題無いか。


「ええ、本来は罪を犯した冒険者に行う罰ですが、Lvをリセットする事は可能です。クラスアップの効果も同時に消失します」


 ああ、そういう刑罰があるのね。

 よくよく考えて見れば高Lvの冒険者って一般人からしたら脅威だろうし、特権階級と勘違いして犯罪に手を染めるものも出てくると思う。

 そんな連中からしたら今までの努力が水の泡になってしまうような刑罰だ。

 確かに怖いな。


「それは何処でやるんだ?」

「龍刻の砂時計で行います」

「そうか……で、どうするリーシア?」

「どうするとは?」

「俺は戦いこそ強要するが強くなる方法は本人に委託している。クラスアップだって自由だ。Lv1からやり直すのも一考だぞ」

「……はい」

「そうだな。Lv1に戻るかどうかの期限は次の波を乗り越えたらで良い。今からじゃ時間が無い」


 あと少ししか時間が無いのに、Lv1にするとリーシアの命に関わる。最低でも波を乗り越えてからが良いだろう。


「ただ、奴隷になれば……逃げるな! 別に拘束はまったく掛けないから――聞けっての!」


 俺が奴隷の話をする度にリーシアは逃亡を図る。面倒な奴だ。


「別にお前に酷い事を強要したりしないって言っているだろうが!」

「ふぇええ~~~!」

「良いかリーシア、俺は強くなる方法を見せているだけなんだ。どうする?」


 俺の言葉にリーシアは目を泳がせながら考え出す。

 奴隷になるかと言われて、なると答える奴は相当だがな。

 ……ラフタリアか。


「ちなみに女王、ビッチに掛けたのと同じ奴隷紋を頼めば施してくれるんだろ?」

「ええ、イワタニ様が望むのなら」

「という訳だ。実際俺は手綱を握るが、お前を縛ったりはしないのを誓おう」

「……本当にワガママで困らせてしまう時以外は何もしない方ですよ。私が証明します」

「ラフタリアさん……」

「ごしゅじんさま。フィーロを滅多に縛らないよ?」


 まあ、洗脳してしまったようなラフタリアとフィーロの言葉じゃリーシアには届かないかもしれないけど。


「強要はしない。嫌ならそれで良い。次の手段を考えるまでだ」


 この話はここで区切り、女王の方に顔を向ける。

 リーシアの件で流し掛けたが、七星勇者の全権を放棄すると言いながらクズはこの国に居座っているんだよな。

 それで文句を言われないという事は何かしら理由があるんだろう。

 そういえば以前、女王はクズにこう言ったな。


『国の将として波の最前線で戦うか、冒険者業に身を落とすか選びなさい』


 これを含みある見方をすると杖の勇者として戦えって言っているんだよな。

 国の将というのがネックだ。

 そもそもだ。勇者をまるで所有物の様に世界が認識している様な言い方だが、勇者本人までは縛れないんじゃないか?


 例えば、メルロマルクは七星勇者であるクズの権利は失ったが、クズがメルロマルクに留まると自発的に主張しているのなら成り立つ。

 要するに各国からスカウトは来ているがクズはこの国に留まり続けている、と。

 出て行けという意味であのパレードだったのか?


 だけど、クズの態度を見る限り出て行きそうに無いぞ。

 なんでだ? 俺と違って世界常識に疎い訳では無いだろうし。

 氷漬けにされたり、裸の王様にされたり、思う所は腐る程あるはずだ。

 そんなに女王の事が好きなのか?

 貴様には一生分からん、とか言っていたしな。


 ここで思考を変えよう。

 スカウトされたらクズ自身が困るという可能性はどうだ。

 要するにもう勇者じゃないとかが無難な線だ。

 杖なんか持っている所を見た事も無いし。

 他、もう歳で単純に戦いたくないとか。


 まあ良い。今は波に備えて装備を整えよう。


「武器の注文をしに行ってくる」

「分かりました。イワタニ様が信頼を置く武器屋に委託しましょう」

「あの――」

「ん? どうした?」


 リーシアが胸に手を当てて……きぐるみなので表情はわからないが、決意を込めた様な声を出す。


「決めました……わたしを奴隷にしてください!」

「……それで良いのか?」


 結論が早いな。

 リーシアの事だからうやむやにするかと思っていた。


「はい! わたしは強くなりたいんです!」




「う……く……」


 儀式は問題なく終わった。

 リーシアの胸に高度の奴隷紋が刻まれる。

 ビッチと同じく、発動した時以外は見えない奴だ。

 俺の視界に禁則項目が現れる。

 が、全てのチェック項目を外す……と、弾かれてしまった。

 どうやら縛りの無い仮面奴隷という状態にはできないらしい。


 なので些細なものにだけチェックを入れて完了させよう。

 ……俺に対して嘘を言わないという項目にチェックを入れておこう。

 可能性としてビッチみたいな事をする場合も考えられるからな。

 実は樹が送ったスパイとか、そういう場合に備えてだ。


 奴隷になる事を選択した時点で、その可能性は大幅に減少したんだがな。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

「そうか、それなら良い」


 そして俺は悪いとは思いつつ、リーシアのステータスを確認する。


「っ――」

「どうしました?」

「い、いや、なんでもない。気にするな」


 思わず絶句してしまった。

 なんだこれは……俺やラフタリア、フィーロに比べて致命的に低い。

 68Lvであるはずなのにラフタリアの5分の1以下のステータスだ。

 樹が弱いと解雇した理由も納得が行く。


 だが、俺は見捨てない。ここからどう伸ばしていくかが俺の腕の見せ所だ。

 一般人はこんなものなのか?

 まさか……ラフタリアの初期ステータスに毛が生えた程度だぞ、これ……。


 特徴を挙げればステータスがほとんど均一だ。

 弱点らしい弱点が無い。

 しかし元々の低さが災いして、まさしく器用貧乏という感じに仕上がっている。

 本当に68Lvなのか?

 これは本格的に強化方法を模索しないとやばそうだな……。


「じゃ、じゃあ武器屋に行こう」

「はい!」

「そうですね」

「いこー」


 こうして俺達は久々に武器屋の親父の所へ向かったのだった。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。