現在新潮文庫のライト系レーベルと言えば「新潮文庫NEX」だが、それに先立つことおよそ四半世紀前。もうひとつのライト系レーベルが存在していたことをご存じだろうか。
本日は僅か二年、総数13冊で消滅してしまった新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズについて、その概要と作品を紹介。そしてどうして短命レーベルに終わってしまったのかを考察していきたい。
- 新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズって?
- 第1期配本(1990/07/25)
- 『星虫』岩本隆雄
- 『月のしずく100%ジュース』岡崎弘明
- 『三日月銀次郎が行く』武良竜彦
- 第2期配本(1990/12/20)
- 『念術小僧 大江戸サイキックボーイ』加藤正和
- 『ラストマジック』村上哲哉
- 第3期配本(1991/07/25)
- 『魔剣伝 暁ノ段』流星香
- 『イーシャの舟』岩本隆雄
- 第4期配本(1991/09/25)
- 『魔性の子』小野不由美
- 『魔剣伝 黄昏ノ段』流星香
- 第5期配本(1991/12/20)
- 『東方見聞録 竜の伝説』広井王子
- 『メルサスの少年「螺旋の街」の物語』菅浩江
- 第6期配本(1992/07/25)
- 『魔剣伝 牛若丸異聞』流星香
- 『六番目の小夜子』恩田陸
- 「新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズ」が短命に終わった理由
新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズって?
新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズは1990年に創刊された。明確に公表はされていないが、刊行ラインナップを見ている限り、1989年に始まった日本ファンタジーノベル大賞の受賞選外作品を刊行するための受け皿として始まった感が強い。
特に大きな功績は二つ。
- 恩田陸を『六番目の小夜子』でデビューさせたこと
- 小野不由美「十二国記」シリーズのエピソードゼロ『魔性の子』を世に出したこと
その他にも、岩本隆雄(いわもとたかお)、流星香(ながれせいか)、のデビューが当レーベルからである。また、当時デビュー二年目であった菅浩江(すがひろえ)は『メルサスの少年』をこのレーベルから上梓し、第23回星雲賞日本長編部門を受賞している。
僅か13冊という極めて少ない総冊数でありながら、このシリーズ、実はかなりレベルが高いのである。
それでは、以下、時系列に沿って、新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズ全作品を紹介していく。
第1期配本(1990/07/25)
記念すべき第一回配本である。
第一回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作三作を文庫化している。同賞応募作品の中で優れた作品でありながらも、受賞には至らなかった作品をピックアップして文庫化したものと推測される。
ちなみにこの際の大賞受賞作は酒見賢一の『後宮小説』優秀賞は 山口泉の『宇宙のみなもとの滝』であった。
『星虫』岩本隆雄
岩本隆雄プロフィール
1959生まれ。ジュブナイル寄りのSFファンタジー作品の書き手として知られる。何度かの中断期間を挟みつつ、『イーシャの舟』『鵺姫真話』『ミドリノツキ』『鵺姫異聞』『夏休みは、銀河!』等、二十年にわたって作品を上梓。残念ながら、2008年以降は新作が出ていない。
作品プロフィール
イラスト:道原かつみ
第一回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作。岩本隆雄のデビュー作品である。
選外となったが新潮文庫のファンタジーノベルシリーズの一冊として刊行された。ファンタジーノベルシリーズの終了と共に、幻の名作とされてきたが2000年入って朝日ソノラマからソノラマ文庫の一冊として復刊した。
ソノラマ版では若干の設定の変更や加筆修正が行われている。
その後第二作の『イーシャの舟』と合本化されたノベルズ版『星虫年代記 1 』が2009年に朝日ノベルズから登場している。こちらは2013年に電子書籍化されているので現在でも読むことが可能である。
おススメ度:★★★★
あらすじ
氷室友美の夢は宇宙パイロットになること。しかし高校生となった今、現実は必ずしも友美に対して友好的なものではなかった。そんなある日突然地球に降り注いだ数十億もの星虫たち。人間の額に張り付いたそれは感覚機能を飛躍的に向上させる機能を有していた。誰もが当初は星虫を受け入れていたが、無気味なまでに成長を続けていく星虫を前に人々の嫌悪感は高まっていく。
ジュブナイルSFの傑作
ファンタジーノベル・シリーズ終了後、復刊を願う声が絶えなかった隠れた名作だった。ソノラマ版が出てしまったのでもう「幻の」という形容は似合わないかな。未だに電子版で読めるのはありがたい。
『月のしずく100%ジュース』岡崎弘明
岡崎弘明プロフィール
1960年生まれ。熊本県出身。本作がデビュー作だが、翌年の第二回日本ファンタジーノベル大賞では『英雄ラファシ伝』にて、優秀賞を鈴木光司『楽園』と分け合い受賞することになる。その他の作品に『たんぽぽ旦那』などがある。ノベライズ版『地獄先生ぬ〜べ〜』の書き手としても活躍。
おススメ度:★★★☆
作品プロフィール
イラスト:加藤洋之+後藤啓介 解説:高橋源一郎
第一回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作品。岡崎弘明デビュー作品。残念がら選には漏れたものの新潮文庫のファンタジーノベルシリーズの一冊として刊行された。
あらすじ
売れないシナリオライターひろしと同棲中の春子。喧嘩の果てに部屋を飛び出した春子は何故かひろしの描くところのミュージカルシナリオの世界へと入り込んでしまう。そこは書き割りの背景、吊された天体、謎の怪物ゴジやダツジがはびこるいい加減きわまりない世界だった。天使役を演じることを強制された春子の前に、次から次へと奇妙な事件が訪れる。
独特のとぼけた文体
その後の『英雄ラファシ伝』でも健在だが、とぼけた作風になんとも言えない味がある。このヘンテコ加減を楽しみたい。加藤洋之+後藤啓介の表紙が美麗。この当時、加藤洋之+後藤啓介コンビが手掛けた書籍のカバー絵は、かなりの数が出ていた記憶がある。
『三日月銀次郎が行く』武良竜彦
武良竜彦(むらたつひこ)プロフィール
1948年生まれ。児童文学、俳人のジャンルで活躍。デビューは1983年の『その名はピカリック』で福島正実記念SF童話賞を受賞。
おススメ度:★★★☆
作品プロフィール
イラスト:石川浩二
第一回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作の一作。残念ながら選外となったが新潮文庫のファンタジーノベルシリーズの一冊として刊行された。
あらすじ
宮沢賢治先生は迷子になった山羊を探しているうちに<イーハトーボ>の世界へと迷い込んだ。そこで先生は二人の青年ファゼーロとミーロ、そして奇妙な力を持つ三日月銀次郎、三味線の桃次郎などの「エレキやなぎ猫」たちと知り合う。彼らを伴い悪徳議員のデストウバーゴとの戦いに乗り出す賢治先生の活躍を描く。
宮沢賢治『ポラーノの広場』を元にした作品
個人的に賢治の『ポラーノの広場』にはトラウマがあるので当時はツボ直撃な作品なのであった。オリジナルのエレキやなぎ猫がインパクト強すぎて賢治的世界とはちょっとそぐわない感があって、そこが残念といえば残念。
第2期配本(1990/12/20)
第二回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作二作を文庫化。
ちなみにこの際の大賞受賞作は「該当作なし」。優秀賞は、先ほども書いたが岡崎弘明の『英雄ラファシ伝』と鈴木光司の『楽園』であった。
タイミング的に大賞受賞作の刊行(12/10)からほとんど時間を置いていない。大賞選外作発表の受け皿として、ファンタジーノベルシリーズが既に機能していたことが伺える。
『念術小僧 大江戸サイキックボーイ』加藤正和
加藤正和プロフィール
不明。本作刊行後、作品が書かれなかった作家である。
おススメ度:★★★
作品プロフィール
イラスト:唐沢なをき 解説:横田順彌
第二回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作。選外となったが新潮文庫のファンタジーノベルシリーズの一冊として刊行された。落語ファンタジーSF小説。
あらすじ
江戸時代。捨て子として八公に拾われた百合五郎は長じるに連れて。念で釘を曲げて見せたり、未来の事を予測してみたりと不可思議な能力を発揮していく。噂が噂を呼び見せ物小屋にまでかり出された百合五郎はかくて江戸でも評判の人気者に。とうとう将軍家からのお声がかかるのだが、そこで事態は思いもよらぬ方向へと進展する。
不思議な三題噺
百合五郎はもちろん超能力者ユリ・ゲラーのもじりであろう。落語+ファンタジー+エスエフの三題噺としてその融合の妙を楽しむ作品。自分的に落語の素養があればもっと楽しく読めるんだろうなあ、というのが当時の感想。
『ラストマジック』村上哲哉
村上哲哉プロフィール
鹿児島県出身。能條純一のアシスタントを経て作家デビュー。
って昔調べたんだけど、ソースが辿れなくなってしまった。求む情報!この作家も、本作以降は作品が書かれなかった。
おススメ度:★★★
作品プロフィール
イラスト:村上哲哉 解説:荒俣宏
第二回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作。賞には選外となったが新潮文庫のファンタジーノベルシリーズの一冊として刊行された。表紙や作中のイラストも本人作である。解説が荒俣宏というミスマッチ感(笑)。
あらすじ
プロ野球初の少女監督の誕生か!?祖父の遺言でパリーグ万年最下位の東亜ホワイト・ウイングスを率いることになった由貴。しかしその前途は厳しい。リーグ優勝出来なければ球団は身売りとなってしまうのだ。強豪ひしめくペナントレースの中で、落ちこぼれ球団ホワイト・ウイングスの奮闘が始まる。
落ちこぼれ球団再生譚
解説で荒俣宏も驚いてるけど、野球小説なのに、どうしてファンタジー?というくらいファンタジーの概念から飛び出ている。しかしながら、作者の野球愛がひしひしと伝わってくる作品ではある。
第3期配本(1991/07/25)
第二回ファンタジーノベル大賞応募作品をリライトした流星香『魔剣伝』に、初の同賞出身作家による書き下ろし作品、岩本隆雄の『イーシャの舟』の二冊を刊行。そろそろネタ的に苦しくなり始めた頃である。
『魔剣伝 暁ノ段』流星香
流星香(ながれせいか)プロフィール
1965年生まれ。本作でデビュー後、複数のライトノベルレーベルに作品を上梓。高齢読者としては『プラパ・ゼータ』シリーズ、『少年伯爵』シリーズが印象に残っているが、最近のヒットは『お庭番望月蒼司朗参る!』あたりかな。未だ現役で執筆をつづけており頼もしい限り。
おススメ度:★★★
作品紹介
イラスト:高河ゆん
第二回日本ファンタジーノベル大賞の応募作品をリライトした作品(だと思う。ちと自信なし)。流星香のデビュー作品。
あらすじ
その裡に魔が潜むという伝説の魔剣。若き日の斉藤道三は一振りの刀を手に入れたことから野望の階段を一気に駆け上がることになる。時は流れ、道三の愛妾が産んだ子供は魔剣と共に忍の一団に拾われシナと名付けられ養育されることになる。やがて成長したシナは次第に魔剣に魅せられていく。
刊行当時かなり売れた作品
表紙が高河ゆんということもあってか、かなり当時は売れた筈。90年代前半で、ファンタジーノベル・シリーズの中で二版や三版がかかった作品を見たのはこのシリーズくらいだと記憶している。
『イーシャの舟』岩本隆雄
作品プロフィール
『星虫』に続く岩本隆雄の第二作である。時系列的には『星虫』の前日譚ともいうべきストーリーとなっている。一時絶版となったがこちらも2000年に入り朝日ソノラマからソノラマ文庫の一冊として復刊した。
『星虫』同様に、ソノラマ版では大幅な加筆修正が加えられている。
こちらも『星虫』とセットになったノベルズ版が朝日ノベルズから登場している。
電子書籍化されているので現在でも読むことが出来る。
おススメ度:★★★★☆
あらすじ
宮脇年輝の不幸は筋金入りだ。身寄りもなく、莫大な借金を抱え、守銭奴そのものの雇い主の下でタダ働き同然の暮らしを強いられていた。そんな年輝に追い打ちをかけるような災難が訪れる。無気味な伝説の残る「入らずの山」で妖怪天邪鬼に取り憑かれてしまったのだ。日々成長を続ける天邪鬼との生活の中で年輝の生活は大きくかき乱されていく。
『星虫』を読んでから読みたい
必ず『星虫』とセットで読むことを強くお奨めしたい。『星虫』の前日譚という位置づけだが、読む順番としては『星虫』→『イーシャの舟』とした方が良い。
第4期配本(1991/09/25)
ファンタジーノベルシリーズ最短の二ヶ月という短期間での新刊リリースとなった。
非ファンタジーノベル賞系作家(この時点では)小野不由美の『魔性の子』が登場。
また、流星香『魔剣伝』の続篇「黄昏の段」が刊行されている。
『魔性の子』小野不由美
小野不由美プロフィール
1960年生まれ。大分県出身。大谷大学仏教学部出身。在学中は京都大学推理小説研究会に所属。1988年『バースデイ・イブは眠れない』(講談社X文庫ティーンズハート)でデビュー。代表作に『十二国記』シリーズ『悪霊(ゴーストハント)』シリーズ、『営繕かるかや怪異譚』シリーズ、『屍鬼』『残穢』等がある。
作品プロフィール
イラスト:山田章博 解説:菊池秀行
ファンタジーノベルシリーズへの書き下ろし作品。
小野不由美の人気を不動のものとした「十二国記」シリーズの、エピソードゼロとして位置づけられている作品である。エピソード6『黄昏の岸 暁の天』とは内容的に裏表の関係にある。
『魔性の子』に限っては、ファンタジーノベル版絶版後も早々に新潮文庫入りした。本シリーズ中もっとも高い販売実績を残した作品であろう。
こちらがノーマル新潮文庫版の表紙カバー。同じように見えるが上部の「ファンタジーノベル・シリーズ」の文字がなくなっている。
その後、「十二国記」シリーズの刊行が講談社から新潮社に移行。これに伴いカバーデザインがリニューアルされている。
おススメ度:★★★★
あらすじ
教育実習生として久しぶりに母校を訪れた広瀬はそこで高里という奇妙な生徒に出会う。「祟る」と畏れられ周囲から孤立している高里だったが、広瀬は高校時代の自分と同じものを見いだし関心を持つようになる。怪現象の原因は高里の幼少時の神隠しにあるようなのだが、次第にエスカレートする「祟り」はやがて彼らを追いつめていく。
「十二国記」の世界へ
読後感の切なさが印象的な一作。
後に長大なシリーズとなっていく「十二国記」シリーズだが、最初に刊行されたのがこの作品であった。「あの」ラストを提示されて、戸惑った読者も多い筈である。
『魔性の子』に関してはガチの感想を過去に書いているので、興味のある方はこちらもどうぞ。
『魔剣伝 黄昏ノ段』流星香
作品プロフィール
イラスト:高河ゆん
流星香第二作。ファンタジーノベルシリーズへの書き下ろし作品。前作『魔剣伝 暁ノ段』の続篇である。
あらすじ
戦国時代後期。戦場で青の魔剣を手に入れたことで少年コナタの運命は大きく変転していくことになる。自らの出生に隠された意外な事実に衝撃を受けたコナタは「男でありながら女であるもの」へとその身を変え、京の都を目指し旅立つ。一方赤の魔剣を身に帯びたシナの姿も京都に。宿命の戦いを運命づけられた二振りの魔剣が遂に出会う。
こちらの方が後編
最短での続編リリース。タイトルだけではわかりにくいが、「暁ノ段」→「黄昏ノ段」と読むのが正しい順番である。上下巻構成にしても良かったような気もする。
第5期配本(1991/12/20)
『東方見聞録 竜の伝説』は映画のノベライズ作品。分類に困って、ファンタジーノベル・シリーズから出してみるか?的なノリを感じた。
また、他社ライトノベルレーベルで実績のある菅浩江を投入。このあたりで、ファンタジーノベル・シリーズは、かなりライトノベルレーベルっぽい雰囲気になっていた。
『東方見聞録 竜の伝説』広井王子
広井王子プロフィール
1954年生まれ。マルチクリエイター。アニメ/マンガ原作、小説、ゲーム企画など多岐に渡り活躍。代表作品は『天外魔境』シリーズ、『サクラ大戦』シリーズがある。
おススメ度:★★
作品プロフィール
イラスト:細石照美
緒形直人主演、ヒロイン役に設楽りさ子、井筒和幸監督の映画『東方見聞録』のノベライズ。ファンタジーノベルシリーズへの書き下ろし作品である。
あらすじ
戦国時代。伊上家の内乱に足軽の一人として動員された福助は合戦の最中に三郎佐と名乗る武士を捕らえる。三郎佐は伊上家に伝わる財宝の隠し場所を知っていると語る。かくして宝探しに乗り出した福助たち。目指すは竜神さまの住まう滝。ポルトガルからやってきた謎の西洋騎士一向も仲間に加わって、数奇な冒険行が始まる。
読まなくていい
唯一「読まなくていい」と断言出来る一冊。こういうレベルの低いものを世に出してはいけない。比較的良質な作品が多いファンタジーノベル・シリーズにあって、唯一、「なんで出しちゃったかな」的な大人の事情を垣間見ることのできる作品である。
『メルサスの少年「螺旋の街」の物語』菅浩江
菅弘江(すがひろえ)プロフィール
1963年生まれ。京都出身。『ゆらぎの森のシエラ』がデビュー作。代表作に『そばかすのフィギュア』『永遠の森 博物館惑星』がある。
おススメ度:★★★★
作品プロフィール
イラスト:草なぎ琢仁 解説:高千穂遙
菅浩江の長編第六作目。ファンタジーノベルシリーズへの書き下ろし作品。1992年の星雲賞国内長編部門受賞。一時絶版となっていたものの、2001年に入って徳間書店の徳間デュアル文庫の一冊として復刊した。
あらすじ
異形の女たちの暮らす街メルルキサス。人とも獣ともつかない遊女たちが春を売る螺旋の街で生まれた少年イェノム。唯一の男である彼は<街の子供>として育てられ今年で十五歳になる。いつまでたっても子供扱いされることに苛立ちを覚えるイェノムだった、そんな彼の元へトリネキシア商会から追われる少女カレンシアが現れる。
星雲賞受賞作!
バリバリ書いてた頃の菅浩江の代表的作品。ボーイミーツガールモノの良作であり、「Boy」が「Man」になる成長物語でもある。
第6期配本(1992/07/25)
これが最終配本。流星香「魔剣伝」シリーズの三作目が登場。
そして、第三回ファンタジーノベル大賞の最終候補作から『六番目の小夜子』が刊行されている。
ちなみにこの際の大賞受賞作は佐藤亜紀の『バルタザールの遍歴』、優秀賞は原岳人の『なんか島開拓誌』であった。
『魔剣伝 牛若丸異聞』流星香
おススメ度:★★★
作品プロフィール
イラスト:藤井みどり
イラスト担当が高河ゆんから井みどりに変更になっている。
流星香の第三作。『魔剣伝』シリーズの外伝的作品。魔剣という共通モチーフは用いつつも時代を数百年逆行。平安時代末期の牛若丸を中心に据えた構成となっている。ファンタジーノベルシリーズへの書き下ろし作品。
あらすじ
シナとコナタが活躍した前作から遡ること数百年。平安時代末期。一振りの魔剣。黄金の太刀を振りかざす一人の少年がいた。牛若丸と呼ばれるこの少年は鞍馬の山中に住む稚児。しかし数奇な運命は牛若丸に過酷な試練を与える。魔人弁慶との出会いはその人生に新たな転機をもたらすのだが……
外伝的な作品
いきなり時代を逆行して読者を戸惑わせたシリーズ第三作。外伝的なノリの作品だが、魔剣の存在を通して、シリーズとしての一貫性は保たれている。
『六番目の小夜子』恩田陸
恩田陸プロフィール
1964年生まれ。仙台出身。本作が第三回ファンタジーノベル大賞の最終候補作となる。第五回ファンタジーノベル大賞にて『球形の季節』が優秀賞を受賞。主な作品に本屋大賞受賞作の『夜のピクニック』、直木賞と本屋大賞をダブル受賞した『蜜蜂と遠雷』がある。
作品プロフィール
イラスト:秋里和国
新潮社主催の第3回ファンタジーノベル大賞応募作。選外となったものの加筆改稿され、ファンタジーノベル・シリーズの一作として刊行された。ファンタジーノベル・シリーズの消滅と共に一時絶版となるが、90年代後半の恩田人気を受けて、1998年に単行本にて復刊という異例の経緯を辿る。
2001年に新潮文庫として再文庫化。こちらは現在でも容易に入手できるはずである。
2000年にはNHK教育(現Eテレ)枠にてドラマ化されている。
おススメ度:★★★★★
あらすじ
地方の進学校に伝わる『サヨコ』という名のゲーム。3年に一度サヨコの名を継ぐものは学園祭でその証しを示さなくてはならない。十数年間にわたり連綿と受け継がれてきたサヨコの印。そして六番目の小夜子の年。転校してきた少女の名は津村沙世子。それは不慮の死を遂げた二番目の小夜子と同じ名前だった。
恩田陸はここから始まった
まもなく作家生活30年を迎えようとする恩田陸だが、その原点となる作品が『六番目の小夜子』である。
地方都市の空気感、ちょっと不思議な学園モノ、魅力的な謎の設定、解釈の余地を残すラストと、恩田陸「らしい」要素がこの時点で出揃っており、デビュー作にはその作家のすべてが含まれているというのは本当なのだなと思わされる作品である。
「新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズ」が短命に終わった理由
1992年の第6期配本を最後に、ファンタジーノベル・シリーズは新刊が出なくなる。1990年のレーベル創刊から、わずか二年、全13冊での終了であった。
どうしてファンタジーノベル・シリーズはこれほどまでに短命に終わってしまったのだろうか?
私見だが、最大の理由は十分な作家数、作品数を用意できなかったこと。これに尽きるのではないかと思われる。ファンタジーノベル・シリーズは日本ファンタジーノベル大賞の選外作を文庫化することでスタートしたように思えるのだが、選外作とはいえ出版に耐えうる作品群が毎年揃うとは思えない。
実際、1992年の第四回日本ファンタジーノベル大賞からは、一作もファンタジーノベル・シリーズ入りを果たした作品がないのである。
それではと、既に他社で実績のある作家を投入してみたものの、なかなか続かなかったというところではないだろうか?
1990年代はライトノベル界にファンタジーブームが巻き起こった時代である。良い作家を継続して揃えていくことは難しかったのであろう。