純利益1兆円のソフトバンク「法人税ゼロ」を許していいのか?

孫さんは「日本は後進国」と言いますが…
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これじゃ日本が終わるよ

一方で、市井の一般国民や高齢者はどうだろうか。いくばくかの貯金をやりくりして暮らす高齢者は、国から言われるままに税金を吸い上げられる。かといって、少しでも稼ぎを増やそうと働きに出ると、様々な控除を外され、結果的に税負担増になる。

それどころか、政府や財務省は仕方のないことだと言わんばかりに高齢者の負担増を訴え、医療費や介護保険料の値上げが社会保障改革の指針に組み込まれている。

こうした幾重もの課税に加えて、今年10月には消費増税も控えているわけだ。元国税調査官の大村大次郎氏は言う。

「日本の法人税は世界的に高額と言われていますが、ありえないほど抜け穴が多く、タックスヘイブンレベルとさえ言うことができます。

『金持ちから1円の税金を取るのは、貧乏人から1万円を取るより難しい』と言ったりしますが、本来であれば消費増税をするよりも、こうした法人税の抜け穴をふさいでいくことで増収を見込むべきだと思います」

消費増税による家計への負担は4.6兆円と見られている。とてつもない金額だ。だが、'89年から導入された消費税の税収を私たちがこれまで享受してきたかと言えば、そういうわけではない。

立正大学法学部客員教授の浦野広明氏は言う。

「消費税が導入されてから、これまでに徴収された消費税収の累計は349兆円におよびます。

一方で政府は、法人3税(法人税、法人住民税、法人事業税)の優遇を進めてきました。この法人3税の減税額は'17年度までの累計で、実に281兆円にのぼるのです。

消費税は逆進性が高く、高齢者をはじめとする所得が高くない世帯のほうが、重い負担を強いられる税金といえます。

その消費税の8割近くを、法人税の減税で食いつぶしてしまった。税制的には、大資本を持った企業であればあるほど有利な状況で、むしろ格差を容認する仕組みを政府は作っているとさえ思えます」

 

こうした我が国の現状は、はっきり言って「異常」だ。タックスヘイブンの活用や租税回避は外国で横行しているイメージがあるが、実際には違う。日本だけが、ソフトバンクのような大企業の「税逃れ」に対して見て見ぬふりをしている。

前出・奥村氏は次のように言う。

「G20会議では近年、『低税率国や租税回避地を利用した脱税に近い方法は、企業のモラルとして禁止しなければならない』と決議しています。

また、ジェフ・ベゾス氏がCEOを務める米アマゾンも税逃れの常習犯で有名ですが、トランプ大統領がベゾス氏を名指しで批判し、苦言を呈したこともありました。

こうしたことを鑑みると、世界では法人の税逃れに否定的な風潮に向かっていると言えます。そのなかで、意図的に租税回避を行っている孫氏のやり方は、もっと日本で取り沙汰されてもおかしくないと思います」

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なけなしの年金から安くない携帯料金を、ソフトバンクに払っている人もいるだろう。そうして得た儲けは、すべて彼らの懐に入り、税金として世の中に還元されることはない。

重税にあえぐ庶民から、さらにカネを吸い上げるだけの企業ばかりになったら、それこそ日本は終わりだ。

「週刊現代」2019年9月14日・21日合併号より