東方裏@ふたば
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画像ファイル名:1586595680183.png-(450995 B)
450995 B無題Nameとしあき20/04/11(土)18:01:20No.12881968+ 15:10頃消えます
文芸スレ
怪文書SS雑談総合スレ
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
1無題Nameとしあき 20/04/11(土)18:01:39No.12881969+
先週立てられなくてすまない…
2無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:37:31No.12882951+
>先週立てられなくてすまない…
いえいえ毎度ありがとうございます
今週は書けないのでまたおねがいします
3無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:38:01No.12882955+
今から投稿します
4無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:38:28No.12882959そうだねx1
「もうダメだ!終わるわけがないこんな量の仕事!!」
 畜生界のとある高層ビルの一室で、河城にとりは声にもならない叫びを上げた。
 しかし彼女に投げかけられるのは無情な言葉ばかりである。
 「じゃあ、死ぬか?」
 異様な凄味を持つ声色で、にとりの傍らに立っていた鬼傑組組長・吉弔八千慧が脅迫の文句を告げた。
 「ひゅい!」
 声は裏返り、間抜けに響いた。
 「全く、たかが三日三晩寝ずに働いただけで音を上げるのか?最近の若者はこれだから嫌いなんだ……」
 「ひゅ、ひゅい……。アンタらの頃とは仕事の内容が違うし……私たちはもっとインテリジェンスの必要とされる高度な仕事を…………」
 「あん?」
 「す、すみません」
5無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:38:57No.12882962+
自暴自棄の果てのなけなしの抵抗の言葉も、八千慧の持つ魔力の籠った一言一句の前にはたやすく蹴散らされた。そもそも明らかに八千慧は、にとりよりも格上の妖怪なのである。
 「まあいいだろう。根性なしの無能はな、甘やかすと際限なく落ちていく。だが、お前は『レア種』だ。粗暴なものの多い畜生界において、お前のように工作を得意とする人材は極めて珍しい」
 「で、でしょ!私、まだ価値があるでしょ!」
 「ああその通り。が、残念ながら私は結果主義者なんだ。給料泥棒は許さん。この広大かつ過酷な畜生界でさまよっていたお前に、私は衣食住の保証をしてやった。その大恩に対し、まさか結果の一つも残せないということはないだろう。もう三日待ってやる。だから何でもいい。私に目に見える形で成果というものを見せてみろ」
 (大恩って、自分でゆーなよ)
 内心不服なにとりだが、声に出して言ったらどんな目に遭うかは分かっている。にとりは目の前のヤクザによって、その生殺与奪を完全に握られてしまっているのだ。今は従い続けるしかない。
6無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:40:04No.12882969+
 「わ、分かりましたよ……。ただ、私の計画が成功したアカツキには約束をちゃんと守ってくださいね」
 「なんだ。そんなことを気にしているのか?私も低く見られたものだ。とにかく、とっととやれ。時間は金だ。闘争に臨んではなおさらだ。私たちはなんとしてでも、霊長園を不当に占拠した邪神とその下僕共を、塵一つ残さず抹消せんといかんのだ」
 「分かってますよ。そんなくどくど言わなくてもいいじゃないですか」
 「ふん、こんな大事な時に、睡魔に倒れそうになっている雑魚風情が口答えをするな。では、私はもう行くぞ」
7無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:40:21No.12882973+
 そう言って八千慧はオフィスから出て行った。その後ろ姿を見ながら、にとりは深々と溜息をついた。
 「けっ、やっとうるせーのがいなくなったぜ」
 しかし安心する気にもなれなかった。この畜生界の更に下層、地獄へ放り込まれるか否か、その明暗を分ける時まで、もう時間はほとんど残されていない。
 「とにかく寝ないと。腹が減っては戦ができぬ。瞼が重けりゃ仕事はできぬ」
 そう呟くとにとりは、練りに練った未完成の設計図をたたむことも忘れて、仮眠室へトボトボと歩いていった。
8無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:40:42No.12882977+
一ヶ月ほど前、にとりは逝去していた。理由は単純である。実験に失敗し、肉体が木端微塵に四散したのだ。ちなみににとりの死に対し、彼女の同胞や家族らは、「いつかはやると思っていた。むしろ長生きした方だと思う」・「十銭の貸しを返さずに死んでいきやがった。保険屋に行ったら自爆は適応外と言われた。ちくしょー」・「どうしてもっと早く生命保険をかけておかなかったのだろう。大事な娘なのだから、保険料が高くてもかけておくべきだった」などのコメントを残した。これらの発言が文々。新聞に掲載されると「故人の人柄がうかがえるよいコメントだ」との反響があった。
9無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:40:58No.12882979+
 しかし、ここは幻想郷である。生前楽園で生きたのだ。その代償なのか、にとりは死後の安息というものを与えてもらえなかった。具体的に言うと、彼女は畜生界にぶちこまれた。本当は地獄行きでもいいくらいには、金銭絡みの悪行を積み重ねていたにとりだが、地霊殿で起きた異変の解決に貢献するなど、片手で数えられる程度のいくつかの善行を理由に多少刑罰は酌量された。にとりは、地獄よりかは手ぬるい、畜生界へと落とされることとなったのである。
 だが、河童が畜生界に落ちるということは非常にまれなことである。そもそも、本来河童は「妖怪」であり、「畜生」よりかは多少高級な存在なのだ。そのくせ外道な所業の数々の結果、自らを貶めたせいでにとりは、弱肉強食の世界の中を、たった一人で孤独にさまよう羽目になった。
10無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:41:18No.12882984+
「べ、別にいーもん。一人でも生きていけるもん」
 にとりは最初の頃はこんな強がりを吐いていたが、流石に限界があった。そもそも彼女は表に出すのがニガテなだけで、本当は結構寂しがりなのである。
 そしてそんなにとりの孤独を目ざとく見抜き、付け込まんとするものがいた。
 「あなた、大丈夫ですか?」
 寒風の中孤独にさまよっていたにとりは、ある日一人の妖怪に突然声をかけられた。
 「だ、誰だお前!」
 にとりは彼女の姿を見た時驚きの声を上げた。それは彼女が人の姿を取っていたからである。人間と同じ姿が出来るほどの力を持つ妖怪は、畜生界においてとても珍しいのである。
 「ふふ、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。私の名は吉弔八千慧。鬼傑組という、とある団体の長を務めています」
 「鬼傑組?いったい何をする組織なんだ?」
11無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:41:38No.12882985+
「相互扶助組織ですよ。この畜生界は実力本位の世界。自分の身は自分で守らねばなりません。しかしたった一人で出来ることはタカが知れている。だからこそ、団結しなくてはならない。鬼傑組はそういった組織なのです。一人の一人は力は弱くとも、皆が皆手を取り合い、互いに力を合わせ、暴力の嵐が吹き荒れるこの畜生界で生き抜いていく。これこそが、鬼傑組の理念です」
 「ふむ……」
 にとりは八千慧の言葉に、一抹の怪しさを感じていた。
 (私の、詐欺師としての勘が言っている。コイツは信用に値しない)
 そんなにとりの疑念に、気づいているのかいないのか。とかく八千慧は話し続けた。
 「そしてにとりさん。あなたもそういった団結を求めている妖怪のはずです。どうか、鬼傑組に入団してくれませんか?私たちはあなたを歓迎しますよ」
12無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:41:58No.12882990+
(――おそらく、本心八割、欺瞞二割だ!そしてその二割は、私の身を破滅させかねないものだ!!格の高い詐欺師ほど、物腰柔らかく口調も丁寧だ。すなわち、人からの信頼を得て、そうして生じる心の間隙につけこむ能力が高い!!コイツもそうだ!コイツにはおそらく九分九厘の人間が、コイツの誘いに乗るだろう。薄々怪しいと思ってる奴でも、我が身可愛さで乗ってしまうだろう。だが私は違うぞ!私は、零分一厘の河童様だ!!)
 「悪いが断らせてもらおう!私は強者だ!たった一人、孤立無援でも、たくましくこの畜生界を生き抜いて見せる!!」
 「……何?」
 八千慧は困惑しているかのような表情を見せた。
 「何を考えているのです?そんな生ぬるい考えではこの畜生界でやっていくことは……」
13無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:42:14No.12882991+
「うるさい!私に指図するな。これはこの私自身が決めたことなんだ!!」
 「……!!」
 八千慧の形相が、一瞬にして変わっていく。
 (……コイツ!)
 先ほどまでの善人面は、もう跡形もなく消え去っていた。目尻は吊り上がり、瞳は紅く染まり、凄まじい殺気を放ちながらにとりを凝視している。
 「なるほどな。想像していたよりもずっとガードが堅い。河童という戦闘に不向きな種族ながら、旧地獄や幻想郷の強者と渡り合ってきただけある」
 抑揚のない、淡々とした口調だった。それがかえって、表情の凄味を際立たせていた。
 「その通りさ!お前のような龍の成りそこないよりも、遥かに強い連中を、私は相手にしてきたんだ!!」
 八千慧の放つ威圧感はすさまじく、そこらの下級妖怪ならば一目散に逃げだしてしまうほどだった。しかしそれでもにとりは一歩も後ずさることなく、八千慧を睨み対峙し続けた。
14無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:42:49No.12882994+
(おそらくほんの少しでも弱気を見せれば一瞬で敗れる。コイツの気はそれほど圧倒的なものだ。もしやすると……妖気でも込められているのか?)
 にとりの懸念は当たっていた。にとりは自分の背中に、物理的な荷重を感じ始めた。
 「――っ!?」
 「まあそうだな。私強い連中を相手にしてきたというのも本当なのだろう。だがな――ここは私の領域なんだよ!!」
 途端に、膝が砕けるほどの重圧がにとりの全身に襲い掛かった。たまらずにとりは前のめりになって倒れる。
 (ぐっ、起き上がることも出来ない!?)
 「フン、愚かな奴だ」
 八千慧がにとりを見下ろしながら、頭に足を載せる。ただそれだけなのに、頭蓋へと凄まじい負荷がかかり、脳が締め付けられるような激痛が走る。にとりはたまらず苦悶の声を上げた。
 「な、何をしやがった……」
15無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:43:23No.12882996+
 「昔の知り合いに、便利な能力を使える妖怪がいてね。物の重さを自在に操ることが出来る。今回はその能力と、私自身の能力を組み合させてもらった」
 「なっ!もう一人の気配なんてどこにも……」
 「当然だ。先程は相互扶助団体などという、下らない退屈な方便を使ってすまなかった。今だからこそ包み隠さず真実を打ち明けよう。鬼傑組の本分は『奇襲』にあるんだよ」
 「き、奇襲……」
 「さて、ここまで追い詰めた状態ならば、私の能力で完全にお前の理性を侵蝕できるだろう。さあ命じるぞ河城にとり――“私と共に、来い”」
 その言葉と共に、にとりの意識は薄れ、視界は暗転していった。同時に自分を苦しめていた、正体不明の質量からも解放され、後には夢心地の浮揚感のみが残る。脳裏は濃霧に包まれたかのように曖昧に白濁し、遂には思考も感覚も宙に融けていった。
16無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:43:45No.12882999+
冷水を浴びせかけられ、にとりは目覚めた。
 「ようやく起きたか」
 重いまぶたを開くと、そこには八千慧が冷たい表情をしてにとりを見下ろしていた。
 「貴様……私をどこへ連れてきたんだ!!」
 「見て分からないかい。鬼傑組の事務所の、とある一室さ。それより、周りをもっとよく見ろ」
 「……これは」
 そう言われて、にとりは気づいた。この薄暗い部屋は、いくつもの、金属製のガラクタで溢れていた。そしてそのうちのいくつかは、機械として使われていたであろう頃の原型を未だに留めていた。
 「この部屋は鬼傑組の倉庫の一つだ。エンジニアのお前からすれば、垂涎ものじゃないかね」
 「フン、私のラボに比べれば五等は劣るな」
 「まだ強がりを吐くのか。あまり調子に乗っていると、お互いにとってすこぶる不利益な結果を招くこととなるぞ」
 「まどろっこしい言い回しはよしたらどうだ。私はすでにお前の本性を見ているんだぞ。この鬼畜生め」
17無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:44:19No.12883003+
「はあ、ではお言葉に甘えて、単刀直入に言わせてもらおうか。私は、お前に命令を下したい。それは――大量破壊兵器の開発だ」
 「……やはりか」
 「ほう、驚かないのか?」
 八千慧は意外そうな表情をした。
 「当然だ。お前らヤクザが機械畑の人間に頼むことと言えば、そういった分野のことだろうに」
 「察しがいいな。そしてその方がいい。我々にとっては、賢いヤツほど扱いやすいのだ。利を示せば意固地にならず、素直に要求を呑んでくれるからな」
 「ああ、そうだな。お前たちが、私の納得する利を提示できるのならば、いくらでも乗ってやるさ。どれだけ非人道的な兵器だろうが、繭一つ動かすことなく開発してやるよ」
 「よし、では極めて簡潔な提案を行おう。――幻想郷に戻りたくはないか?」
 「!!」
 これにはさすがに、にとりも驚愕の表情を浮かべた。
 「ね、願ってもいない話だが、そんなこと本当に出来るのか?」
 
18無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:44:41No.12883006+
「出来るさ。これは各組織の最高幹部しか知らない極秘の話だが、実は畜生界には抜け穴があるんだ。本当に小さい穴だから、軍勢を送り込むことなど出来ない。人ひとりがようやく入れるだけ。それでも、チビのお前には十二分だろう?」
 「もちろんだ。……チビは余計だがな」
 「ふっ、これで契約完了だな。お前は大量破壊兵器を造り、私はお前を畜生界から解き放ってやる。完全にウィンウィンの関係だ」
 「待て、まだ一つ聞きたいことが残っている。それが分からない限りは、お前に提案に承諾しきれない」
 「何?」
 「――使い道だよ。破壊兵器の矛先はいったいどこへと向かうんだ?」
 「お前は一々そんな些細なことを気にするのか?」
 「当然だ。そいつを使って、幻想郷を侵略でもされたら本末転倒だからな」
 「なるほどな。まあ確かに、教えておくべきかもしれんな。安心しろ。幻想郷ではない。私たちが狙っているのは、霊長園に巣食う邪神の軍団だ」
 「邪神?」
19無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:45:03No.12883010+
 「ああ、邪神。それも肉体を持っているくせに内部はがらんどうというとんでもない連中だ。物理攻撃でなくては、ダメージを与えることすら不可能なのだよ。だから我々もすっかり困っていてだね」 
 「なるほどな……。精神体の動物霊たちの、天敵というわけか」
 「その通りだよ。争いの絶えない畜生界だが、霊長園――人間をいたぶり溜飲を下がる安息の地においては、奇妙な秩序が保たれ続けてきた。しかしある日突如として人間の呼び出した邪神によって、安寧は破壊し尽くされ、果ては霊長園だけではない。畜生界そのものが、奴らの掌中に落ちかねないほど状況は逼迫しつつある」
 (だからエンジニアであり、物質に干渉可能な破壊兵器を作成できるこの私に目を付けたのか)
 「そう、我々も実は追い詰められつつあるのだ。そしてだからこそ、お前の仕事には速度を期待したい。畜生界の全てが支配されてからではもう手遅れなのだからな」
 「了解だ。では、早速仕事にとりかかろう。まずは、設計からだな」
20無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:45:30No.12883012+
こうしてにとりは、自分一人だけ生き返りたいがために、霊長園を木端微塵に破壊し尽くす兵器の開発が取り掛かった。だが、開発は遅々として進まず、結果八千慧による脅迫が行われるほどだった。
 「だって仕方ないじゃん……。畜生界の技術、明らかに遅れてるしさあ……」
 畜生界は確かに都会だが、発展の根本にあるのは際限のない獣欲である。河童たちのような、狂気に近いほどの、科学への情熱はない。故に歓楽に関わる技術では幻想郷をも凌駕する畜生界だが、科学面の発展はかなり遅れていた。それでもにとりは研究に励み続けた。
 (ハッキリ言って、石器時代に携帯作るくらいの難題だ。設備も人員も技術の蓄積も不足している。だが、やるしかない。生き延びるためにも……)
21無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:45:50No.12883013+
 皮肉屋で吝嗇家で、性根のひん曲がったにとりだが、発明――ただこれだけには真摯な姿勢を取り続けていた。それは、にとりが本当に発明が大好きだったからである。かねてよりの情熱と、命がかかっているという極限の状況。この二つの要素が、にとりを加速させた。にとりはあの仮眠の後、ギリギリで設計図を書き上げ、成果物として八千慧に報告した。
 「これは、私には詳細が理解できないな。いったいどういう兵器なんだ?」
 にとりの持ってきた図面を眺めながら、八千慧が尋ねた。
 「外の世界のさる超大国が、さる大戦終結の切り札として用いた兵器さ。絶大な威力を誇り、土くれごとき一撃で木端微塵に粉砕するぜ」
 「それは凄まじいが……いったいそんな兵器の情報どこで手に入れたんだ?」
 「地霊殿でさ。あそこにはあるとんでもない化け物がいてだね。ソイツの分析結果が、今回は随分と役に立ったよ」
22無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:46:17No.12883017+
「なるほどな。それで、この兵器は名前を何と言うんだ」
 「――ニュークリア・ボム。核爆弾といわれる戦略級兵器さ」
 設計図の完成以降、八千慧はこれまでよりはるかに手厚くにとりを補助するようになった。ゴールが見えてきたことと、時間的な猶予のなさ、この二つが要因だろう。そしてそれに伴い、にとりもいっそう真剣に発明へと取り組むようになった。彼女は昼夜も分かたず働き、汗と埃に塗れながらも、発明へと没頭し続けた。命を削りながらの作業だった。その結果、彼女は随分とやせ細り、その力も衰えてしまったが、彼女の必死の努力は、「畜生界のマンハッタン計画」は遂に結実するに至った。最強最悪の大量破壊兵器、核爆弾が完成したのだ。
 「これが、核爆弾か……。確かに、得体の知れない物々しいオーラを感じるな」
 八千慧は目の前の、黒光りする巨大な爆弾を眺めながらそう呟いた。
 「へへ、お目が高い。その通りだよ。コイツの力はあまりにも強大すぎてね。外の世界では、一種の邪神のような扱いすら受けているようだよ」
23無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:46:38No.12883021+
「邪神か。そうかもしれないな。だが私たちにとっては福の神さ。これでようやく、あの土くれどもを塵一つ残さず殲滅できる」
 「へへ、その通りでさあ。さっ、とっととぶっ放そうぜ。そして私に例の抜け穴を教えてくれよ」
 「言われなくてもそうするつもりだ。お前はもう用済みだからな。だが良い働きをしてくれた。これでもう
畜生界は、我々鬼傑組の天下だ!!」
 歯を見せて喜んで見せる八千慧、しかし、そこに水を差すものが一人。異様に慌てふためいた、一匹のカワウソ霊である。
 「や、八千慧様ー!た、大変です!!」
 「どうした急に。これから核の力で霊長園を破壊し尽くすところなんだ。邪魔をするな」
 「それです!その核についてのことなんです!!」
 「?」
 八千慧もにとりも、今一つ言葉が呑み込めず首を傾げて、そして次にカワウソ霊が放った言葉を聞き、二人とも顔面蒼白になった。
 「に、人間霊側も、核兵器を配備しているんです!!」
 「「な、何だと!!?」」
24無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:47:00No.12883022+
「ば、馬鹿な!そんなのありえないでしょ!この天才、河城にとり様が作った兵器だよ!そう簡単に同じものを作れるもんか」
 「で、ですが敵の邪神、埴安神は、確かに核を保有しているんですよ。複数の確かな筋からの報告があります。間違いありません!」
 「待て、埴安神……まさか!」
 「な、何か気づいたのかにとり?」
 「……昔幻想郷にいた時、博麗の巫女が、神降ろしの力を用いて冶金を行ったことがあったんだよ」
 「冶金?」
 「しかもその冶金も、核に関するものだったんだ」
 「そ、それと今回の話に、何の関係があるんだ」
 「いや、思い出しだよ。その時巫女が呼び出したのは、金山彦命、要するに、埴安神の兄弟だったことを!」
 「何!!?」
 流石の八千慧も、これには動揺を隠せなかった。
 「と、ということは……」
 「ああ、おそらく私たちが、核兵器を開発していることをどこからか聞きつけたんだ。そしてその対策として、金山彦命を始めとする自身の兄弟に頼み込み、核の開発を行ったんだろう。クソっ、これじゃあ外の世界がたどったのと、全く同じ結果になるじゃねーか!!」
25無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:47:18No.12883025+
「つ、つまり……」
 「畜生界における、コールドウォー待ったなしってこと!!」
 八千慧も、カワウソ霊も、この言葉には凍りついてしまった。
 (もしかして、完全に藪蛇だったのか……。余計なことをして、私は以前よりも更に面倒な状況を作り出してしまったのでは……)
 あまりにも急転直下、あまりにも劇的な展開。狡猾で隙のない八千慧だが、流石に理解能力が追い付かない。脳味噌がパンクしかねないほどだった。
26無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:47:54No.12883030+
破壊兵器があるのに使用は不可能。この新しい状況に対し、それでも八千慧は冷静に対処した。もっと小規模で、それでも埴輪たちにダメージを与えられる存在、人間たちを呼び寄せて、霊長園へと攻め込ませたのである。部下の動物霊たちの奮闘もあり作戦は成功し、邪神たちは打ち倒された。
 「結局、代理戦争が行われるところまで、外の世界と同じなのかあ」
 あの後、外の世界へと戻ってきていたにとりは、自分のラボで悠々と新聞を読みながらそう呟いた。最終的な顛末はともかく、大量破壊兵器の開発という約束はキチンと守ったので、一応抜け穴の場所は教えてもらえたのである。
 「まるで他人事みたいに言うなあ。お前のせいで私たちがどれだけ苦労したと思ってるんだ」
 隣でコーヒーを啜っていた魔理沙が毒づく。
 「そういうのは吉弔本人に言ってよ。私あの作戦の立案に関わってないし」
 「大元凶が何を言ってるんだ。今回という今回はお前擁護不可能だからな」
27無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:48:28No.12883032+
実際にとりが畜生界を抜けだしてきてからも、彼女が作った負の遺産、核爆弾は残されたままなのである。
 「まったく、外の世界では、核を作った科学者たちが反核兵器のキャンペーンを行ったりもしたのに、お前は自分の尻拭いは全く無関心なんだからな。性根が腐ってるって言われても仕方ないぜ」 
 「そんなの私の勝手じゃん。作る側じゃなくて、使う側に罪があるんだよ。作る側にあるのは輝かしい名誉だけ」
 「好き勝手いうなあ、お前」
 「はいはい。ていうか、そろそろ出てってくれる?今から実験をするつもりなんだよ」
 「実験?」
 「うん、ほら、これを見なよ」
 「なんだその銀色の球体?待てよ……鈴奈庵で読んだ外の世界の雑誌で、似たようなものを見たことがあるような……」
 「へへ、それもそのはず。これは、外の世界のデーモンコアっていう道具を真似して作ったものだからね。今からコイツで、核のエネルギーを更に有効活用するための、素敵な実験を行うのさ」
 
28無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:49:00No.12883036そうだねx4
「お前、まだ懲りてなかったのか……その調子じゃ半年後には、もう一回新聞に訃報が載るぜ」
 「あはは、大丈夫大丈夫!私天才だから!失敗なんてありえないって!って……あっ」
 「へっ?」
 その後二人がどうなったかは、読者の想像にお任せする。ただ一つ確かなことがあるとすれば、にとりは一度死のうが二度死のうが、決して反省することはないだろうということだ。畜生界に堕ちようが修羅界に堕ちようが地獄界に堕ちようが、にとりは何度でも蘇り、科学の発展と己の欲望のために爆走し続けるだろう。
 
 
 
29無題Nameとしあき 20/04/11(土)22:49:50No.12883037+
以上で終わりとなります
30無題Nameとしあき 20/04/12(日)10:20:14No.12884177+
>以上で終わりとなります
面白かったです
ありがとうございます
31無題Nameとしあき 20/04/12(日)10:55:21No.12884259+
>>以上で終わりとなります
>面白かったです
>ありがとうございます
こちらこそご感想ありがとうございます
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