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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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冤罪、再び

 他の勇者共も船には乗ったらしい。影が出発すると伝えてくれた。


 夕日の海を見ながらこれからの事を考える。

 まずは城下町に戻って女王に頼んだ物を貰うだろ?

 次に武器屋の親父の所に顔を出して波に備える。作ってもらう素材とかは女王に頼むか? 余裕があるなら自分達で取りに行ってついでに魔物退治も悪くない。

 後は盾を完璧に鍛え上げる事か。島で調達できる強化素材は限界があるからなぁ。


 

 夜になり、夕食を終えて甲板に上がる。

 夜風を感じつつ、海を見る。

 ……フィーロが食後の運動と言って泳いでいるのを見つけてしまった。どんだけ泳ぐのがマイブームになっているんだ。

 見なかったことにしよう。


「ん?」


 甲板の隅の方で元康と……リーシアが居るのを発見した。

 またナンパか? そういえば元康の美少女ランキングとやらにリーシアも入っていたな。

 どんだけハーレムを作る気なんだよ。

 樹が何を言うか分かっているのか?

 とりあえず注意しに行くか。


「おい。元康、ナンパもいい加減にしないと――」

「あ! 尚文じゃないか! 頼んだ!」


 何か顔色が悪い元康が俺の肩を叩いてリーシアに向けて突き出す。


「なんなんだ、お前は」

「良いから! 任せたぞ!」


 どうしたんだ? あの女好きが俺に任せるって……とリーシアの方を見ると、驚いた。

 なんか……目が腫れて充血している。

 何度も泣いたであろうリーシアが隅に座り込んでいたのだ。


「ど、どうしたんだ!?」

「じゃ、じゃあ俺はこれで!」

「待て! お前まさか船の上で……」


 とうとう犯罪にまで手を染めるほどに落ちぶれたか。

 どうしても靡かないから『大丈夫、痛いのは最初だけだから……』とか言ってリーシアを強姦したんだな。

 元康ならやりそうな手口だ。快楽漬けにして寝取りとか、平然としそうだもんな。コイツ。

 で、余りにも泣くものだから動揺していると。

 とんでもないゲスだ。絶対に逃がさん。


「ち、ちげえよ!」

「じゃあ証明しろ」

「も、モトヤス様の所為ではないです……」


 掠れるような声でリーシアは呟く。

 む、俺の考え過ぎか。

 さすがの元康もそこまで腐ってはいなかったか。


「じゃあどうしたんだよ」

「事情があってだな。でも俺は苦手なんだ。だから頼んだ!」


 と言って元康の奴、笑って居るけど今にも吐きそうな程、震えながら逃げるように船室へと帰って行った。

 元康のあんな表情初めて見たな。

 というか、アイツに苦手な女のタイプとかあったのか。

 リーシアがそのタイプだったのか? ただの幸薄い奴にしか見えないんだが。


「何かあったのー?」


 フィーロも事態に気付いて甲板に戻ってきて尋ねる。


「気にしないでください」

「そうは行かないだろ、元康に強姦されたのかも知れないと思うと不安だ」

「いえ……わたしが我慢できなかっただけなのです」

「我慢できずに元康を?」

「ち、違いますよ!」


 泣きそうだったのがちょっと怒り気味になった。まあ少しは元気が出たか。


「モトヤス様も最初はそうわたしを元気付けてくれたのですが……やっぱり話さない方が良いと思うので」

「そうは言ってもな……お前には一応、恩もあるし」


 樹に問い詰める材料の鉱石を教えてくれたのはリーシアだ。

 リーシアが困っているのなら俺が出来る範囲で協力をしてやりたいとは思う。


「いえ……ホント、気にしないでください」


 そう言ってリーシアは逃げるように立ち去る。


「……なんなんだ?」


 結局、例え様も無い嫌な物だけが残った。



 翌朝。

 昨夜のリーシアの態度に疑問を抱きつつ、俺は船室で本を読んでいた。


「やっぱり気になるな」


 何か……本来なら無視しても良いような事なのだが、心がざわつくのだ。

 この感覚はビッチに冤罪を掛けられた時とメルティが護衛に攻撃された時と似ている。

 どうも嫌な予感がする。


「何がです?」

「ちょっとな。少し調べ物をしてくるからゆっくりしていてくれ」

「はぁ……」


 腕立てをしているラフタリアを置いて俺は部屋を後にした。

 一体どうしたのだろうか? 自分で自分がわからん。

 不安に思いつつ、樹達が宿泊している船室を盗み聞きする。

 何か楽しげな声が聞こえてくるなぁ。

 考え過ぎか?


「あ……」


 すると何故かリーシアが船室を羨ましそうに遠くから見つめていたのを発見。

 やがて俺に気が付き、逃げられてしまった。

 ……どうしたんだ? 本当に。

 これは元康を問い詰めるしか事情を聞き出せそうに無い。


 そんな訳で元康の船室をノックする。


「はーい」


 女1が扉を開けた。

 俺には見せた事も無い様な凄い笑みだ。

 コイツ……こんな顔ができるのか……。

 これがビッチと女2に合わせている演技とやらか? 正直気持ち悪い。

 淡々と無表情な現実主義者の癖にとんでもない能力だ。

 女って怖いな。


「……あ、アンタは!? どの面下げて私達の元へ来れるのよ!」


 数秒、物凄く冷めた表情で俺を見た後、演技の入った怒りを俺にぶつける。

 絶対怒っていないのが理解できた。


「元康はいるか?」

「なんでアンタに教えなきゃいけないわけ?」

「おーい。元康ー」

「無視するんじゃないわよ!」

「そうよそうよ!」


 女2が便乗する。ビッチは、俺が視界に入らないように無視を決め込んでいるようだ。

 ここまで来るとトラウマにでもなっているんじゃないかと勘繰りたくなるな。

 コイツ等はどうでもいい。


「なんだよ尚文、お前が居ると皆が嫌がるだろ」


 元康がビッチと女2を挟んでハーレムっぽい感じで俺を眺めている。

 癇に障るポーズだ。

 尋ねる立場で無ければ嫌味の一言でも告げて帰る所だな。


「そんな事はどうでも良い。少し聞きたい事があるのだが」

「……なんだよ?」

「昨夜の件だ。任せたと言われてもどうすれば良いんだよ」

「……分かったよ。だけど、後の事は全部任せるからな」

「他人任せな……まあ良い。好奇心で行動しているんだ。それ位のリスクは受けるとしよう」


 心当たりがあるのだろう。元康の奴、ちょっと顔を青くさせながら船室から出て取り巻きに留守番を指示する。

 それから甲板に上がって、青い顔をしつつ俺を見る。


「リーシアちゃんの事だろ」

「ああ」


 俺では口の堅いリーシアがどうして泣いているのかを聞き出せない。

 元康は女には優しいからな、事情を知っていると思う。


「実はな――」


 そうして元康の口から事情が説明された訳だが……。

 元康の話を聞いた瞬間、俺は自分の直感が正しかったと悟り、怒りが込み上げてくるのを理解した。



「樹ーーーーーーーーーー!」


 勢い良く樹の部屋の扉を蹴破る勢いで開ける。

 力強く開けられた扉は大きな音を立てて、中の奴等が一斉にこちらを凝視した。


「な、なんですか!?」

「貴様は盾の勇者! 何のようだ!」

「何のようだ? それは自分の胸に聞け! このクズ共!」


 俺の大声に船内が騒がしくなったような気がする。

 高圧的な俺の態度に鎧を含め、樹が一瞬たじろぐ。

 やがて最初に復活した樹が怒り混じりに声を上げる。


「だから一体どうしたのですか!」

「まだ分からないのか!」


 やばい、黙っていてもラースシールドに変えられそうな憤りが俺の心で燻る。

 錬が来たら暴走しそうだ。


「有らぬ疑惑を擦り付けるつもりだな、盾の勇者!」


 鎧が俺に向けてつかみかかろうとしてきた。

 だから俺は鎧の腕を避け、向けられた腕を握り締めて関節技を掛ける。


『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』


 バシンバシンと俺の腕に弾かれるような痛みを受けるが知ったことではない。

 考えてみれば関節技も禁止攻撃に入るのか。

 投げるのは大丈夫だったが、この違いはなんだ?


「いだ! いだだだだ!」

「俺は樹と話をするために来ているんだ。邪魔をするな、雑魚!」


 鎧をドンと突き飛ばして、樹を睨みつける。

 この怒りは久しぶりだ。

 ラフタリアのお陰で静かになっていたからな。

 今は抑えるつもりもない。


「お前……正義を主張する癖に何も分かっていないんだな!」

「何を……」


 俺の怒りを感じつつ、樹は騒ぎに駆けつけて部屋を覗き込むリーシアを見て悟った。


「まったく、何で怒っているかと思えば、その事ですか」

「わかっているんじゃないか」

「悪いのは彼女ですよ」

「ふざけるな!」


 俺が元康から聞いた話、それは――



 何故リーシアが悲しんでいたのかというと、こうだ。

 活性化の最終日、リーシアは買出しを終えて仲間の所に戻ってきた所だった。


「リーシアさん。アナタだったんですか」

「へ? 何の話ですか?」


 リーシアは帰ってきて早々、残念そうに答える樹に首を傾げる。


「知らない振りをしてもダメですよ。僕のアクセサリーを壊したのはアナタなんですよね」


 そう言われて樹が大事にしていた腕輪が見るも無残に壊れてしまっていた。


「え? し、知らないですよ。何のことですか?」

「嘘を吐くとは……証拠はあるのですよ」


 そう言って、樹は仲間に目を向ける。


「ええ、俺達は見ましたよ。リーシアがイツキ様の大事にしていた腕輪を壊してしまって隠すのを」

「そうそう」

「見たよね」

「ええ!? ち、違います! わたしは何も……本当に知りませんよ!」


 リーシアは必死に弁護をした。

 だけど樹は信じてくれなかったという。


「だってこんなにも目撃者が居るではないですか……しょうがありませんね。反省しているのなら許してあげようかと思ったのですが……リーシアさんは今日限りでパーティーから抜けてください」

「そ、そんな! わたしは本当に知らないんですって!」


 その時、リーシアは鎧達が微かにほくそ笑んだのを見た。

 しかしそれ所ではなく、樹に捨てられるのが嫌だとリーシアは樹に縋りつくように懇願した。


「お願いします! どうか! イツキ様の傍に居させてください」


 樹は若干罪悪感に苛まれながらも目を泳がせる。


「ここで許してはダメですよ、イツキ様!」

「リーシアは他の勇者に情報を流した疑いがありますよ!」


 鎧とその仲間が後押しをした。


「残念ですが……お別れです」

「イツキ様!? 本当に! 本当にお願いします! どうか考え直してください、どんなことでもしますから!」


 涙ながらに懇願するリーシアだったが、樹は応じずに背を向ける。


「何を何時までイツキ様の同情を買おうとしている! この嘘吐きが! お前には我等がイツキ様に近づく資格は無い!」


 樹の仲間達はリーシアを無理やり引っ張って追い出したそうだ。

 その後は、少しでも近付きたくて、後を追っていたのだが……結果は実らなかった。


 元康がリーシアから聞き出した内容はざっとこんな所だ。

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