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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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勇者会議【上】

「さて……そろそろ会議の時間か」


 宿の食事を終えて俺は会議に備える。

 影が現れて、指示をするので付いていく。


「じゃあ行って来る」

「いってらっしゃいませ」

「いってらしゃーい」


 ラフタリアとフィーロに一言告げて出た。

 大きなホテルのような宿の中でもエントランスを抜けて、長い螺旋階段を昇っていく。

 窓から島の夜景が見えて、若干心を奪われる。

 ……?

 なんだろう。隣の島から赤い光の柱が湧き出しているように見える。

 気のせいじゃないような……?

 あんなの、昨日はあったか?


「ここでごじゃる」


 案内されたのは宿の目印にされている塔のような所の頂上の部屋だった。

 部屋に入る。円状のテーブルが中心に備え付けられている内装だ。

 錬と樹が居て、椅子に座っている。


「先程はどうも」

「覗きは楽しかったか?」

「ご冗談を、僕達が楽しんでいたとお思いですか? まったく」


 呆れた様にヤレヤレみたいな表情をしているが、普通に楽しそうな顔をしていたじゃないか。

 都合の良い正義だな。


「強く止めず、一緒に長湯していたのだから同罪だ」

「……ふん。俺まで要らぬ疑いを掛けられた」

「なら早く出れば良かっただろ」


 無意味に風呂場に残っていたから疑われるんだ。

 ムッツリ共が。


「で、肝心のノゾキ魔はどうした?」

「いやぁ! ワリィ。遅れた」


 話をしていると頬にビンタの跡を付けた元康が笑いながら入ってくる。

 とりあえず、全員が用意された椅子に座った。部屋の雰囲気もあって円卓の騎士みたいな気分になる。


「ではこれより、四聖勇者による情報交換を始めるでごじゃる。司会と進行は拙者、影が勤めるでごじゃる」


 少々の沈黙の後、影がそう告げる。


「この催しは明日から本格的に活性化が始まるカルミラ島で、より効率的に、勇者殿達が自らを強化する為の話し合いでごじゃる。それを忘れないよう頼むでごじゃるよ」

「「ちょっと待て!」」


 俺と樹が同時に影に向けて怒鳴る。

 いやいやいや……本格的に活性化って何だよ。

 今までのは違うとでも言うかのような発言だな!


「なんでごじゃる? 盾の勇者殿と弓の勇者殿」

「活性化は始まっていなかったのですか?」

「始まってはいるでごじゃるよ。本格的に活性化するのが明日からの数日間でごじゃる」


 ……?

 理解が追いつかない。


「何を驚いているんだ? 当たり前だろう?」

「そうだよな」


 錬と元康が当たり前のように頷く。


「段階をおって、活性化するに決まっているだろ」

「そうそう」

「しらねえよ! ちゃんと説明しろよ」

「伯爵が説明したはずでごじゃるが?」


 ん?

 そういえば……活性化によって島の中心部に凶悪な魔物が出現するとか言っていたような……その魔物の出現が一番ピークになるとか言っていた気が……。

 てっきり、もう凶悪な魔物が湧いていると思っていた。

 という事は、島が赤く光っていたのはその活性化のピークを知らせているという事か。


「聞いてませんよ!」


 樹がキレ気味に答える。

 ああ、そういえば樹の認識はコンシューマーゲームだったな。

 段階をおって経験値アップするイベントでは無かったのか。

 伯爵の話も、知っているから聞く必要は無いとか聞き流していた可能性が高いな。


「とりあえず、明日から、凶悪な魔物……ボスみたいのが湧くのか」

「そうだぜ。かなり経験値を持っていて、Lvの底上げにはぴったりだろ?」

「ああ、楽しみだ」

「だから急遽、勇者同士による情報交換を推進したでごじゃるよ」


 何も知らずに戦うよりは、ピーク前に情報を交換する方が良いよな。

 ふむ……それならしょうがないのか?

 まあ、良いや。

 ……あれ?


「なあ、お前等、それ……」


 俺は錬、元康、樹の武器に括り付けられているストラップを指差す。


「ああ、これか? 島でも有名なLvアップを促進する装備だ」

「ええ、これを付けていると経験値の入りが良くなるのですよ」

「知らなかったのか?」


 ……一応、目利きで確認する。


 ミラカストラップ

 品質 粗悪品


 付与効果すらない。アイツ等ぼってるなー。


「そんな効果あるのか?」

「知らないのですか? 噂になっていますよ」

「情弱だな」

「そうそう、隠し効果なんだぜ」


 いやぁ……その噂とアクセサリーの出所は俺だし。

 やばい。笑いそう。

 コイツ等、騙されてる。


「なんでニヤニヤしているのですか?」

「なんでもない」

「コレを付けていないとは、遅れていますね」

「やる気がないんじゃねえの」

「後で買うさ」


 貰った奴は置いてきたし、というか……ある意味本物を持ってるし。


「まあ……ブフ、話を続けよう」


 やべ、堪え切れなかった。

 もしかしたら……嘘から出た真みたいに、本当に効果があるかもしれないし。

 錬と元康まで付けているという事はイベントアイテムとして存在している可能性がある。

 ならとりあえず付けて損は無いはずだ。


「では、最初に勇者殿達には、それぞれの仲間について話し合って欲しいでごじゃる」


 仲間か……。

 途端に場のトーンが下がる。


「尚文、お前は仲間の教育をちゃんとしろよ」

「そうですよ。勝手に抜けるなんて何を教えているのですか。後フィーロさんの質問責めがきつかったです」


 きた。いきなり俺への弾劾。

 元康は黙っているな。まあ、元康の場合は怒る理由に納得も出来るし、女の子に文句は言わないか。


「それはこっちの台詞でもあるが……ラフタリアは理想が高くてな。勇者らしくない行動に対して納得が行かなかったそうだ」

「なんだと?」

「怒る理由も一応、筋は通っていると思うがな。錬の場合は連携をするには理解不足、樹の場合は嘘だろ?」

「ぐ……」

「フィーロもお前が本当の事を話さないから聞き続けたんだろうよ。アイツは言葉を解するが魔物だ。野生動物みたいな物だと考えろ。だから勘だけは無駄に鋭い」

「ですから僕は嘘を言ってません」


 まだ言うか。

 ここまで追い詰められているのに懲りないな。

 そうだな。錬や元康がいるなら、アレを言えば本当か嘘かわかるか。


「ファルコン・ストライクだったか? SP半分以上の消費でクールタイム15分の大技らしいな」

「そうだったか? そんなスキルじゃなかったはずだが」

「う……」

「そんな事を言ったのか? まるっきり嘘じゃないか」


 やはりそうか。

 そんな必殺スキルがあったら教皇戦で使っているだろ。

 いや、ペース配分を考えてとかなら分からなくも無いが、力を合わせる所で一番強いスキルを撃たなかった事になる。


「アイツは勇者に尊敬の感情を持っている。その勇者が俗物だったから怒ったんだそうだ」

「じゃ、じゃあお前もそうだろ」

「ああ、俺はラフタリアによく怒られている」


 治すつもりは無い部分もあるが、ラフタリアと話し合って、勇者も人間なんだと理解してもらった。

 そういう意味では人員交換も意味があったな。


「ラフタリアにも注意はしてある。これ以上の指摘は多大な干渉だと思うが良いのか? 同じようにお前等の仲間の短所を指摘するぞ」

「で、出来るものならしてみてください!」


 樹の奴、諦めるつもりがないみたいだ。

 よし、コイツ等には一度言っておきたかったんだ。


「じゃあ樹、お前の所はなんだ? 序列があるようだし、自分達こそ正義だとか思っているようだったぞ。しかもお前、宗教でも作るつもりなのか? ずっとお前の偉業を話された」

「それは俺も感じたな。礼儀正しくはあったが、ずっとお前の事を話していた。いい加減ウンザリしたぞ」

「そうそう。なんていうか宗教か国でも作るかのように話していたぞ。あれは危険な兆候だ。狩場でのマナーもなんか悪かった」


 錬と元康もそう感じたのか、俺に同意する。

 やっぱりどこでも同じ事をしていたのか。


「せ、正義を行うにはしょうがありませんよ。僕は勇者ですからね。皆さん僕を誇りにしているのです。序列なんてありません」


 苦しい言い訳だ。

 それは錬も元康も同意なのか、若干言葉を濁す。

 強く指摘すると反撃が怖いんだな。


「三勇教の二の舞にならない事を祈るばかりだ」

「なりませんよ!」


 そうは言う樹だが、俺を含めた勇者全員に指摘されたのでそれ以上の文句は言わない。


「次に錬、お前は仲間に距離を感じたぞ。自己紹介の後に『私達は何処で戦っていれば良いですか』って聞かれて絶句した」

「そうですね。最初、何を言っているのかと思いました。あれでは仲間というより下僕ですよ」


 樹、お前が言うのか?


「俺からしたらギルドの後輩を育成しているように感じた。適正の狩場に行くように指示して上前だけを撥ねるみたいな……あれは仲間と呼ぶには厳しい。誰とでも組めるだろうが、あれなら誰の勇者の下で動いても良い感じだ」


 これ以上言ったら酷かもしれないが、これからは連携が必要になってくる。

 幾らLvが高いといっても連携は必要だろうし、難しい敵ともなるともっと重要になってくる。


「あれではお前が居なくても回っている冒険者だぞ。お前の必要性が無い」

「なんだと……俺が居なくても戦えるのが良いんだろう」


 冷静を装っているが、自らの必要性が揺らいでいるんだぞ?


「ぶっちゃけ、冒険者のギルドにでもお前が思う適正狩場一覧でも載せておけば量産できるぞ、アレ」


 あ、これは名案だ。

 あのレベルのパーティーが四人ではなく、もっと増えれば波にも対抗できるぞ。

 なんとなく言った案だが、実に効率的だ。

 良く考えてみれば、何も俺達が面倒を見る必要なんて無いんだよな。


「これは名案だ。影、女王に伝えといてくれ」

「勝手に決めるな!」


 錬の奴、さすがに焦ってる。

 ん? 影が耳元で囁く。


「それはさすがに困るでごじゃるよ」

「何でだ?」

「実は勇者殿達がこの国に生息する特定の魔物を乱獲して数が減ってきているという報告があるでごじゃる。そんなリストができると生態系に問題が……」


 なるほど……効率の良い魔物を狩り続けた弊害か。

 そりゃあゲームじゃないんだから、魔物も減るよな。


「勇者の仲間なんだからさ。もっと親しくなれよ。あのまま強くなっていったらきっと樹の所と同じになる」

「だから違うと言ってるではありませんか」

「なるわけないだろ!」

「本人が居ない所で……な。レン様は素晴らしい人なんですよ。是非、レン様のお話を聞いてくださいませ」

「ぐ……」


 錬の奴も不利を悟ったのだろう。黙り込んだ。

 ま、これは俺の所も該当するのだけどな。ラフタリアには注意しているし大丈夫……だと思いたい。


「アナタの所のラフタリアさんはどうなのですか?」

「ラフタリアが俺の自慢をしたとは聞いていないな。ちなみにラフタリアは俺にも文句は言うからな。信仰とは関係性がちょっと違う」


 尊敬してくれていると信じたいが……どうだろうな。


「お前等にラフタリアは俺の自慢をしたか?」

「す……る前に抜けました」

「同じく」

「じゃあ無理な詰問だな」


 指摘できないのを理解したのか錬が悔しそうに元康に意見を募る。


「元康、お前は尚文の仲間に何か無いのか?」

「ないなぁ。ラフタリアちゃんは凄く真面目だっただけだし、俺も悪かったさ」


 で、問題は元康だが……。

 別に元康はラフタリアにケチは付けていない。

 俺が弾劾する事も出来るが、ビッチの奴、他の勇者には猫を被っていたみたいだからな。

 下手に手を出すとこちらがダメージを受ける。


「元康は……お前等は何かあるか?」

「応援しています……には、絶句しました……あれは応援団か何かですか?」

「あれはパーティーじゃない。ここで戦っていろと言ったのに、宿にいた……」


 樹と錬が凄く渋い顔で呟く。

 アイツ等、俺以外の所でもそれやったのか。


「俺達は勇者だぞ。誰よりも前で戦わないといけないだろう?」

「前に出るのは良いんですよ。ですが、あれはそういう物を超越しています。注意したら戦ってくれましたが……」

「正直、アイツ等はいない方が良いだろ。俺の時は勇者様と一緒じゃないと嫌なんです。とか言っていたな。宿に帰ったら魔物の一匹も無かった」


 俺が黙っていても錬と樹が指摘してくれる。

 ぶっちゃけ同意見だが。

 それにしても猫は被ったんだな。下手に突っ込まなくて良かった。


「尚文、お前は?」

「俺が言ったら喧嘩になるだろう? 何より元康が信じない」

「そ、そうだな」


 ビッチ共が猫を被っていたから、他の奴等も弁護に回る可能性がある。

 言いたい事は沢山あるが、まだ聞き出したい事があるからな。

 無難に流しておこう。


「では、それぞれの仲間に対する問題はコレにて終了でごじゃる。指摘された事実は改善する事を心掛けて欲しいでごじゃる」

「わかった」

「……納得は出来ませんがね」

「そうだな」

「はいはい」


 コイツ等、まったく反省はしなさそうだな。

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