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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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反省会

「や、やめなさい」

「イツキ様、ですが!」

「彼女は僕をそう判断しただけでしょう。ですが真実は別にあるのです。ここは穏便に済まして機会を窺います」

「そ、そうですか。分かりました」


 不利を悟った鎧が諦めて力を抜く。するとラフタリアも握った腕を緩めた。


「嘘と手加減。そして正義感だけを満たそうとしているアナタはいずれ、仲間に信用されなくなります」


 これまたきつい言葉が樹に向って放たれる。


「……そうならないように祈っていますよ。アナタもいずれ僕に頼るようになるはずです」


 なんだそれは。

 負け犬の遠吠えだとしても、訳がわからん。

 そもそも俺を差し置いて、何故ラフタリアが樹を頼るんだ。

 状況が想像もできないんだが。


 何だかんだで元康と同類なのか?

 正義感が強いじゃなくて、人の賞賛を受けたいから?

 実は強い、というのも……自己満足の為?

 考え過ぎか?


 さすがにそこまで酷くは無いだろう。

 そう信じたい。でないと、どうしようもないぞ。


「では今夜の会議を楽しみにしていますよ」

「ああ、こっちは聞きたい事がたくさんあるからな」

「ええ、こちら側からも尚文さんに尋ねたい事があります」


 そうして、樹達は宿の部屋に戻っていった。

 しかし……元康は元より、錬よりも早かったとか。まるで元康が一番まとものように見える。


「まったく! ナオフミ様以外の勇者とはあんなのばかりなんですか!」


 頭を抱えたくなるな。

 気持ちは分からなくも無い。アイツ等、良くも悪くも勇者だからなぁ。

 勇者なんて偽善者だとか言う奴も居るし、俺の知ってるゲームじゃ。泥棒をしても勇者だしなぁ。

 ましてや、どいつも自分勝手な正義感と、秘匿主義と自己満足で動いているし。

 とはいえ……ここで一度反省会をしないとだめだろう。


「ラフタリア、フィーロも一緒に聞いてくれ」

「なんですか?」

「なーに?」

「ラフタリアはちょっと理想が高いと思うんだ」

「え!?」


 意外そうな表情でラフタリアは答える。


「原因は俺にもあるんだろうけど、勇者も勇者である前に人間なんだ。お前の知る伝説ではそれはもう立派な活躍をしているかもしれないが、実際は何か欠点の一つや二つ、三つ四つ、五つ六つある」

「なんか多くありません?」

「……気にするな。伝説ってのは脚色されているもんだ。ほら、英雄色を好むって言葉もあるくらいだし、この世界の勇者とかも、そういう結末があるだろ?」

「ま、まあ……」


 ことわざが入っているけど、理解されたとなると似た様な言葉がこの世界にもあるんだな。


「だから一々目くじら立てていたらキリが無い。奴等には奴等の戦い方があるんだ。良く見てみよう」

「はい?」

「元康の戦い方を良く見ると、仲間が傷付くくらいなら自分が前に出て戦う。その姿勢は勇者だろ?」

「そ、そうですね」

「錬の戦い方を良く見ると、仲間には出来る限り無理はさせず、勇者だけでは厳しい相手の時に力を借してもらう」


 ちょっと厳しいか?

 まあ、アイツは作戦不足だったが、普段はそんな感じだったのだろう。慣れれば察する事もできるし。


「まあ……」

「樹の戦い方を良く見ると、絶対に仲間を傷つけないように、自信が持てるように戦わせているとなるだろう。勇者に頼りにされているんだってな」


 ま、それが暴走してあの配下が居る訳だけど。

 自分でもちょっと苦しいなとは思う。

 だけど、悪い所だけを見ていたら始らないし、自分達の悪い所が分からなくなる。


「俺もそうだけど、理想を追い過ぎているのかもしれない」

「……」

「最初から完璧な人間なんていないさ。勇者だって武器を育てて強くなる訳だし……例え強かったとしても、精神的に強いとは限らないだろ?」

「は、はい……」


 俺もそうだが、この世界に来たばかりの頃はかなり浮かれていた。

 なんせ剣と魔法の異世界だ。

 ちょっとでも現実の嫌な所を知っていれば夢の一つも抱く。

 勇者勇者と持ち上げられ、今まで普通だった奴が特殊な力を得たら調子にも乗るだろう。


 考えても見れば、召喚された勇者四人は良くも悪くも人間だ。

 完璧な人間じゃない。

 しかし……選定基準はわからないが、勇者の資質は確かにあると思う。


 例えば元康、女好きで俺からしてみればウザイ奴この上無いフェミニストだが、ラフタリアを奴隷から解放しようとした行動は一般的に考えれば正しい行いだ。

 錬にしても困っている村を救ったりしている。

 樹も、多少思慮は足りないが、あの悪い事を許せないという姿勢は勇者らしいと思う。


 無論、だからといって奴等と仲良くするつもりはないが。

 それを差し引いても問題行動が目立ち過ぎる。だが、ラフタリアに言いたいのは奴等の弁護をしたい訳ではなく、パーティー内の意識改善だ。


「俺の悪い所だって、今までずっと見てきたから分かるだろう?」

「……ナオフミ様は……人が不幸になっている所を見ると笑っている時があります」


 ぐ……これは自覚していたがラフタリアに言われるときついものがあるな。

 実際、今まで商人や村人の不幸で商売していた訳だから他人の不幸と聞けば儲け話と喜んで飛び込んでいった。

 最近だとクズやビッチが酷い目に合っているのを笑っていたな。

 直すつもりは無いが。


「後、礼儀正しくないですし、嘘は吐きませんが約束はしてないみたいな屁理屈っぽい時があります」


 うわぁ……言葉ってやはり刃物だ。

 言われなくても自分が捻くれている自覚はある。

 約束さえしなければ守らなくても良いと思っているし。

 改善するつもりがまるでないのも、俺の悪い所か?


「口は悪いし、所々で鈍感ですし天然入っていますし、気が利かないとか人の心を理解していないとか色々あります」

「言い過ぎだぞ」


 言うようになったじゃないか。

 誰が鈍感で天然だ。気が利かないのは自覚があるけどさ。


「ま、まあ。そういう意味でも俺はまだ勇者とラフタリアには認められないのかもしれない」

「そんな事はありません!」

「そう思ってくれているのなら嬉しいさ。でもな、俺の悪い所と同じように、あいつ等もあるのさ。それが今回は大きく見えただけだ」


 と、納得しないとやってられん。

 それにアイツ等の弱点がわかれば、後々対策が取りやすくなるというのもある。


「俺から言わせてもらえばラフタリアも理想が高くてワガママに感じる。いやな事があると逃げてしまったりな。そこは理解しろ」

「はい……」


 ラフタリアはシュンと俯いて大人しくなる。

 ちょっと言い過ぎた気もするが、人の振り見て我が振り直せとも言う。

 勇者共の悪い所で俺に当てはまる箇所や、これから起こるかもしれない物も多数ある。

 それを起こらない様に注意するのも重要な事だ。


「ねぇねぇ、フィーロは?」

「お前はうるさい」

「ひどーい!」

「はは」


 結論を出すなら、パーティー……人が集まれば問題は必ず起こる。

 あの三人が抱える問題が俺達でも起こらないとは限らない。

 そうさせない為にはパーティー全員の認識を改める必要がある。


「気を付けないといけないのは自分と仲間、そして客観的視点だな」


 姫プレイ、個別プレイ、特権階級認識と、奴等の仲間を見て感じた問題を仲間達にさせないようにしなければ。

 序列とかは勘弁して欲しい。新しい仲間……奴隷か魔物を入れたときに、ラフタリアやフィーロがいじめをしたりしたら嫌だし。

 するような子じゃないと信じたいけど、必ずしも起こらないとは限らない。

 新しく入った奴もそういうのを推進するような奴ではないとも言い切れないし。


 何もそれはラフタリアやフィーロに限らず、俺にも該当する。

 俺が原因で起こる問題を想定して、可能な範囲で改善しないとこれから大変そうだし。


 盾の勇者である俺は、他の三人より仲間の影響をダイレクトに受ける。

 さすがにラフタリアとフィーロだけでは足りなくなってきているし、仲間を増やす必要はある。

 仲間が増えれば舵取りが難しくなる。奴等三人が起こした様な問題や起こり得る可能性を考慮して、これからはパーティーを維持しないといけないな。


「勇者の仲間だからって何をしても良いとか思っちゃダメだ。迷惑を掛けないようにしよう。次にこんな催しがあっても途中で投げ出したりしないようにしような」


 というよりもアイツ等と付き合うのは面倒だ。

 多分、会議でラフタリアへのいちゃもんが飛んでくるだろう。

 正直、次は勘弁してほしい。


「……分かりました。すいませんでした」


 俺の立場を察してラフタリアは反省したようだ。


「まあ、理想を追うのは悪くないけど、ちゃんと誇れるように勤めないとダメだって事だな」

「……はい」

「はーい」


 頷く二人を眺めながら呟く。


「どちらにしても、ラフタリアやフィーロと一緒の方が良いな」


 強いとか弱いとか以前にどいつもこいつも何かしら問題を起こしたしな。

 この一週間でラフタリアとフィーロが如何に付き合い易いのか、痛い程理解できた。


「そういう訳だ。二人に期待している。これからもよろしく頼むぞ」

「は、はい!」

「はーい!」


 落ち込みがちなラフタリアにフォローを入れつつ、反省会を終わらせる。

 他に聞いていない事は……。


「所でフィーロ、樹とずっと一緒に居たんだよな?」

「うん」

「何か俺とは違う事をしていたか?」

「んー……」


 フィーロは考えながらアホ毛をビヨンビヨンと手で弄る。

 なんだそれは?


「えっとね。ぱーせんとがーとかここの魔物はぼーなすがーとか言ってた」


 %? ボーナス?

 やはり何かを隠しているのか? ボーナス……装備ボーナスっぽいが、どうなのだろうか? 魔物はって……カマでも掛ける材料にしてみるとしよう。

 リーシアからもらった鉱石もあるし、上手く聞き出せば何か得られるかもしれない。


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