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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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弓の勇者と仲間達

 昼過ぎには船で本島に戻ってきた。

 ……ラフタリアが怒ってません様に。

 と祈りを込めて宿の方へ歩くとフィーロが同じく入り口に居た。

 またか……と思っていると隣で樹がうんざりそうに座っている。


「ねえねえねえ。なんで? なんでなの? ねえ」

「いえ……僕は」

「僕はじゃわからない。教えてよ。ねえねえねえ」


 と、予想に反してラフタリアではなく、フィーロがずっと樹に何かを尋ねている。

 なんだ? 状況がまるでわからないんだが。


「あ、尚文さん!」


 樹が俺を見つけるなり縋りつくような勢いで近づいてきてフィーロを指差す。


「この子を早く連れて行ってください。ずーっと僕に着いて来て、質問攻めにするんですよ」

「だってごしゅじんさまが出かけている間は着いて行かないとダメなんでしょ? それよりホントの事を教えて、ねえねえねえ、なんで教えてくれないの?」


 フィーロが凄く興味津々に樹を質問攻めしている。

 こんなフィーロ初めて見るな。


「えっと、それはラフタリアにやれとか言われているのか?」

「んーんー違うよ。フィーロが知りたいから。後、お姉ちゃん怒ってる」

「……やっぱりそうか」


 樹のパーティーを見ていて、思っていたんだよな。

 あの鎧達のリーダーである樹だからな。正義に準じた行動でもしていたんだろう。


「途中で抜けてしまった彼女よりは真面目に戦ってくれたのですが、何を返してもこれなんですよ」

「ねえ教えてよ。ねえねえ」

「この鳥! イツキ様を困らすとは良い度胸だ」

「ん~? フィーロと遊ぶの?」

「やめなさい。この子は簡単に勝てる相手じゃありませんし、勇者の仲間です。争いはダメですよ」


 樹がキレた鎧に注意する。

 まあ、正直、鎧じゃフィーロに遊ばれて終わるのが目に見えているもんな。冗談でも機動性から攻撃力に関しても勝てる見込みは無い。

 最悪、汚い花火が打ちあがりそうだ。鎧がフィーロによって蹴り上げられてな。

 樹もそれくらい分かっているのだろう。


「先に注意する。お前、ラフタリアに何したんだ」


 正義感は目を瞑れと注意したにも関わらず怒らすとか。

 しかし、ラフタリアもあれだけ注意したのに簡単に破ってくれるな。

 ラフタリアが悪いとは言わないが、少し我慢が足りない様な気もする。

 だとしても、こちらから言葉は緩めない。

 鎧達は見事にボイコットしてくれたからな。


「後、お前の仲間はもう少し何とかしろよ。最終的にリーシアだけだったぞ、真面目に戦った奴は」

「ち、違います! 我等は盾の勇者さんの戦いが肌に合わなかっただけです!」

「どんなに言い繕っても同じ意味だからな。それ」

「それはこちらも同じです! アナタの仲間は何ですか!」


 ……まあ、お互い様みたいだから、これ以上言い争うのは不毛か。

 正直、鎧共の所為で疲れている。


「とりあえず、どっちが悪いとか決めるのやめような。お前の仲間も俺から言わせてもらえば酷かったんだから」

「……分かりました。これ以上、僕が主張したらアナタが……フィーロさんを停めてもらえなさそうですし」


 あの正義感の強い樹が珍しいな。

 そんなにフィーロの質問攻めがきつかったのか。


「保留にしただけですからね。今夜の会議で言いますよ」

「言ってろ。お前の仲間も酷かったからな」


 何とも不穏な雲行きな情報交換になりそうだ。

 勇者同士の罵りあいにならない事を祈るしかない。


「ねえねえ、まだ教えてもらってない」

「フィーロ、諦めろ。奴にどれだけ尋ねても答えてくれないさ」

「むー……」


 ホント……フィーロがここまで知りたがるとは……。

 何があったのか本気で気になるな。


「で? ラフタリアは何処だ?」

「あっち」


 前と同じ場所をフィーロが指差す。

 はぁ……まったく。どの勇者とも問題を起こすとは、俺の所為か?


 前と同じくラフタリアは尻尾を膨らませて俺を待ちわびていた。


「ただいま」

「ナオフミ様!」


 俺が声を掛けるなりラフタリアは駆け出してくる。


「……何かあったんだな?」

「実は――」


 あんまり聞きたくなかったが、樹との人員交換をラフタリアは語りだした。



 不安に思いつつもラフタリアは樹を待った。


「今日はだれー?」

「弓の勇者であるイツキ様だそうですよ」

「へー……あの髪がくるんってした人だよね」

「そうよ」


 俺に念を押されている為に、出来る限り怒らないよう、樹がどんな人間でも耐えてみせると心に刻んで。

 錬よりは遅く、元康よりは遥かに早く樹はやってきた。

 トントンと扉を叩く音が聞こえる。


「どうぞ」

「失礼します」


 礼儀正しく扉を叩き、樹は部屋に入ってきた。


「弓の勇者をしている川澄樹です。これから2日間よろしくお願いしますね」

「はい。私の名前はラフタリアと言います。弓の勇者様にご教授お願いします」

「フィーロ」


 あっさりと自己紹介は終わった。

 この時、ラフタリアは言っては悪いが礼儀正しさだけで見たら勇者の中で一番良い印象を持ったという。

 まるで俺は悪いみたいな言い方だな。

 ……実際悪いか。礼儀正しくしていたらつけ込まれる事が多いから俺はしなかったけど。


「さっそくですがLv上げに行きましょうか」

「はい。準備は出来ています」

「うん! いこー」


 こうしてラフタリアは樹と一緒に出発した。



 狩場に到着するまで、樹はラフタリアと戦い方についての打ち合わせをしたらしい。

 まあ、移動の時間は無駄が多いからな。

 ラフタリアもフィーロもそれぞれ、自分の必殺技の特性を説明し、Lvがどれくらいで、島のどの辺りの魔物まで戦ったかを話し合った。

 樹も魔物が大量に集まったら一箇所に集めて欲しいと言い。必殺スキルで倒すと告げた。

 これだ。俺以外での尊敬に値する勇者を見つけたかもと、この時、ラフタリアは樹の事を信用しだしていた。

 若干の正義感が強すぎるという話だったが、勇者なら当たり前だとも考える事にした。

 それが大きな間違いだと気付くのにそんなに時間は掛からなかったそうだ。


「じゃあ、ラフタリアさん達は大分奥まで行けるようですから、そこまで、足早に行きましょう」

「はい!」


 と、島の内部へと進んでいったのだが……。


「魔物を見つけました。引き寄せますから戦って!」

「え?」


 かなり離れた所に居る魔物に向けて樹は弓を引いて矢を射る。

 サクッと矢は魔物に当たって、魔物はこっちに近寄ってくるのだが……。


「へ?」


 その魔物と戦おうとしていた冒険者がコッチを呆けた顔で見ていた。


「あの……」

「なんですか? ファーストアタックは僕達が取りましたよ?」


 ラフタリアと冒険者が両方思った問いに樹はさも当然のように答えたという。

 ルールは破っていないが、些か考えさせられる所だな。

 ネットゲームで言う所のタゲ取り、もしくは釣りと言う行為だ。ゲームによってダメだったり良かったりするから一概に言えないが……樹は確かコンシューマーゲームの世界に来たという認識じゃなかったか?

 まあ気にしたらダメか。もしくはゲームとの差異か何かを学んだとか?


「いえ……」


 ルール違反ではない。だけど、どうも違うのではないかと思いつつ、ラフタリアは近付いてくる魔物に剣を振るった。

 弱い魔物だったのであっさりと倒す。

 フィーロも樹が引き寄せた魔物を一撃で屠った。

 のだが、樹の攻撃が思いのほか威力が出ていないのにラフタリアは疑問を感じていた。

 手数も少ないし……。

 ちなみに俺はよく知らなかったのだが、樹の弓は無限に矢が取り出せる矢筒付きで引き絞るだけで矢が出てくるそうだ。

 自分達が邪魔をしているのかもしれないと思いながら、進んでいく。

 のだけど、行く先々で冒険者が戦おうとしている魔物への先制攻撃を行っていった。


「あの、イツキ様……お願いですから周りの冒険者と戦っている魔物を掠め取る行いはしないで欲しいのですが」

「何を言っているのですか。僕達が先に攻撃しているのですから理はこちら側にあります。島の領主も言っていたではないですか、増えすぎて困っているから見かけたら戦ってくれと」

「ですが……」

「それよりも魔物が来ますよ。戦ってください」


 何か歯車が合わないのをラフタリアは察した。

 で、その途中でラフタリアは不思議に思ったという。

 どうも樹の攻撃力や手数が少ないと感じたらしい。

 樹のLvがどれくらいあるかは一応聞いた。75Lvという高さにラフタリアも信用した。

 のだけど、元康や錬に比べて幾らなんでも攻撃力が低いと思った。


 それは島の中心に近付いて確信に変わる。

 カルマースクイレルファミリアという魔物が出現した。

 黒いリスのような小さな魔物で群で襲い掛かってきた。

 群での攻撃、しかもすばしっこく戦いづらい。ラフタリアとフィーロは各々戦っていたのだけど、どうもこの魔物は仲間を呼ぶ習性もあるらしい。ゾロゾロと倒したその場で増援が来る。

 しかも、同族だけではなく、ここまで来るとかなり強力な高Lvマゼンタフロッグとかも連れて来る。


「イツキ様! 早く……範囲攻撃を」

「分かっています! ちょっと待っていてください! アローシャワー!」


 樹は弓を天高く引いて矢を射る。

 矢は雨のように別れて降り注いだ……のだが、カルマースクイレルファミリアを倒すには及ばなかった。


「てい!」


 攻撃力が低いのならしょうがない。

 ラフタリアは樹の作戦を超えない範囲で力を振るって倒し続ける。


『力の根源たるフィーロが命ずる。ことわりを今一度読み解き、かの者を激しき真空の竜巻で吹き飛ばせ』

「ツヴァイト・トルネイド!」


 フィーロがジャストタイミングで魔物たちを吹き飛ばした。

 のだけど、それも数の前では不利。俺が居たらプリズンを出し、一箇所に纏めて、次の魔法で仕留められるとラフタリアは踏んだ。

 さすがに厳しいかと、魔物の攻撃を受けそうになったその時――


「ファルコン・ストライク!」


 樹の攻撃、樹の放った矢が炎の鳥に変わって通り過ぎ、ラフタリアに襲い掛かる魔物が一瞬にして消し飛んだ。

 更に。


「ファイアアロースコール!」


 辺りを炎の矢が降り注ぎ、魔物達が一掃された。


「大丈夫でしたか?」

「え……ええ」


 魔物の屍を尻目にラフタリアは樹を見る。

 一瞬だが、樹をかっこいいと思ったとラフタリアは自分を恥じている。

 なんでだ? 普通にかっこいい瞬間だと思うんだが。


「助かりました」

「それは良かった」

「……ねえ」


 くいっとフィーロがくちばしで樹の背中を摘んだ。

 樹は何事かとフィーロの方へ振り返ったという。

 そしてフィーロは不思議そうな顔を樹に向けてこう尋ねた。


「ねぇ、なんで力を抜いてるの?」


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