挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
95/981

正義の病

 昼過ぎになり昼食を取ることになったのだが……。


「リーシア! ランチの時間だ!」

「は、はい!」


 鎧、他の仲間達がリーシアって子に昼飯を出す事を指定する。

 偉そうに、何がランチだ。

 盾が翻訳してくれているのだろうが、表現が気に入らない。


「……それくらい自分で出せよ」

「何を言っているのですかな? リーシアは我等が中で一番の新米、雑務が仕事でありますよ」

「はぁ……!?」


 言葉が出ない。


 何? 新米?

 え?

 勇者が仲間を雇っているといえば、会社の様にも思えるが、何か違わないか?


 リーシアって子が仲間達に昼飯を配る。

 のだが……渡す順番があるように食べ物を注意深く調べ、反芻して順番に仲間達の名前を呟いていた。

 でだ。

 俺は自分の分は自分で持ってきたから良いのだが、樹の仲間達はリーシアが配る順に食事が貧相になっていく。


 一番は派手な鎧。骨付き肉と大きな肉の挟まったサンドイッチ。

 二番目は戦士。サンドイッチと焼き魚。

 三番目は……。

 と、続き。

 リーシアは残った袋から果物を取り出して食べ始める。


 何コレ? 一緒の物を食べるとかじゃないのか?

 これは……。


「まさか序列とかあるのか?」


 俺の問いに当たり前のように樹の仲間達は頷く。


「如何にイツキ様に信頼されているか、そして貢献しているかが我等の地位を物語るのです。良いでしょう。盾の勇者さんにはじっくりとイツキ様の素晴らしい所を話すとしましょうか」

「いや、聞きたくない!」

「そういわず、まずは我等がイツキ様に出会い。正義に目覚めたのは――」


 それから鎧とその仲間達は樹の行った偉業を褒め称え続けた。

 どんな内容だったかは、思い出すまでも無い。

 目立たないように自らを隠して悪さをする奴等を退治して回る話がほとんど。

 その出来事でコイツ等は樹こそが世界を救う勇者だと信じ込むようになってしまったみたいだ。


 宗教か何かかここは……。

 もはや樹教だ。


 そして……これは俺の分析なのだが。

 樹がいつも悪人を退治している=自分達を正義の味方と錯覚している。

 やがて自分達に逆らう者こそが悪という思考が働き、横暴な態度へと変貌していったのでは無いかと思う。


 確か……そう言った精神状態に名前があったはずだ。

 昔見た映画に、外国の正義の警官が悪を倒していく様に刺激されたような、そんな名前がついた精神病。

 警察官が患うことの多い病。

 名前は思い出せないが、元は映画のタイトルが由来だったか……。


 悪党に生きている資格は無いとか言い出して、小さな罪であろうとも死によって償わせようとする行き過ぎた正義感の末に起こる事件。

 抵抗したからとか言って殺すんだよな。

 実際の映画の警官はそんな真似はしないのだが、イメージだけが先行した結果だったはず。

 それに似ていると感じた。


「疲れた……」


 樹の仲間達による樹の偉業を、狩りが終わって宿に入っても話された。

 あんまりLv上げができなかったな……。

 連携とかは出来るのに、どうも序列意識からか、攻撃が中途半端になりがちだった。

 悪い傾向だよなぁ。

 風呂に入っても樹の自慢話をするからいい加減ウンザリしている。


「ふう……」


 湯上りに軽く外を探索する。

 というか……部屋にいると奴等の樹教勧誘がしつこい。

 今日は夕涼みがてら、奴等が大人しくなるまで隠れていよう。

 そう考えているとざっざっと足音が聞こえて来たので音の方に振り返る。

 するとそこにはリーシアって子が島の小売店で何かを買って来た所だった。


「あ、盾の勇者様」

「おお、お前はどうしたんだ?」

「えっと、買出しを頼まれまして」

「そうか……」


 序列最下位だからか?

 いじめに近いような環境に良く耐えているなぁ。

 パシリ扱いされているだろ。自己紹介でもはぶられかけていたし。

 樹を頂点とした仲良しグループっぽいからな。一人はこういう子が出てくるんだ。

 俺も嫌な目には沢山あってきたから理解できる。興味もあるな。


「なあ」

「はい?」

「なんであんなパーティーに入っているんだ?」


 居心地悪いだろうに、あんな正義を遂行するためにはどんな手を使うことも辞さないような連中と一緒にいて嫌にならないのだろうか。

 俺のパーティーに来いとまでは言わないが、元康や錬の所ならもう少しマシだと思う。


「しょうがないですよ……私はまだ入ったばかりですから」

「いや、なんでそんなにされているのに抜けないのかってな」

「えっと……それは私がイツキ様に助けて貰ったからです」

「そうなのか?」

「ええ……」


 リーシアはどのような経緯で樹のパーティーに入ったのかを説明しだした。



 リーシアは簡単に言うと没落貴族の娘らしい。

 家にはお金が無く、細々と生活していた。

 そしてリーシアの住んでいた隣の領地には金に汚い貴族が居て、リーシアの両親が運営、経営していた領地に妨害工作を働いた。

 金はあっという間に底を尽き、村人も横暴に文句を言えず、泣き寝入りをしていたそうだ。

 そして……妨害工作をしない、金を提供する代わりにリーシアを人質にするという提案を悪徳貴族は突きつけて、半ば強引に連れ去ってしまったらしい。


 なんとも樹が飛びつきそうな状況だ。

 その後は、お約束の樹達が駆けつけ、勇者の権力を使って悪徳貴族を懲らしめてリーシアを助けてくれたそうだ。

 強い恩を感じたリーシアは見送ってくれた家族を背に樹の仲間に加わったらしい。

 典型的な恋愛話だな。


「わたしは……このご恩に報いたいと思っています」


 俺からしてみれば樹のやっている慈善活動は無駄極まり無いが、リーシアからすればまさしく勇者の偉業なんだろう。

 話をしているリーシアからは樹に対する感謝の気持ちが聞き取れた。

 鎧達の自慢話よりは聞いていても苦にならない程度ではあったし。


「そうか……大変だな」

「はい。ですが、中々上手くいかなくて」

「見た感じだと、後衛に向いていると思うのだがなぁ」


 後ろで魔法を唱えていると邪魔とか前に出ろと注意されて、前に出ると下がれとか言われていた。

 正直仲間も悪い。剣も魔法も回復もできるのなら、やり方って物があるだろうよ。

 これはパーティーメンバーが多過ぎる弊害と、メンバーの無理解が原因だな。


「わたしは昔から才能があまり無く、器用貧乏で、しかもドジでして……どちらかと言うと魔法が得意なのですが、イツキ様が前衛も出来る方が良いと言われたので、クラスアップで近接の資質を上げたんですよ」

「なんとも……」


 長所を消して短所を補ったと。だからあんな中途半端な立ち位置になってしまったのか。

 樹の戦略を考えれば前衛が一人でも多い方が良いのは事実だが、それで戦い辛くなったら意味が無い。


「まあ、頑張れよ。器用貧乏ではなく、万能と呼べるようにさ」

「はい!」


 気が弱いけど、心は強いみたいだから大丈夫だろう。

 俺も一度は底辺まで落ちたが、自分なりのやり方を見つけて今ここにいる。

 リーシアとやらもがんばれば樹の役に立てる様になると思う。


「悪かったな。長話させてしまって、怒られない様に俺も一緒に行ってやる」

「ありがとうございます」


 こうして、その日の夜は更けていった。

 やはり鎧とその他はリーシアを叱り付けようとした。なので俺が呼び止めたと注意して、その日は落ち着いた。



 翌日も頭痛の連続だった。

 他の冒険者に因縁を付けるわ。ジンクスで売り出している詐欺商の過去の悪行の噂を聞きつけたコイツ等がどうするか騒ぎ出すわで問題が多々あった。

 ちなみに詐欺商は俺が既に退治して心を入れ替えていると出来る限り説明したので、一応は落ち着いている。

 俺だけだと信じなかったが、影も口裏を合わせてくれたので大丈夫だった。

 彼は新たな事業を始めたばかりだと説明、これで悪と断定するには無理があると奴等も納得した。


「まったく……」


 狩りも島の奥のほう、カルマーラビットファミリアを倒すので精一杯だった。

 強くはないが弱くも無い程度だったな。

 俺が押さえつけていたので、倒すのは難しくなかったけど……アイツ等の攻撃が期待以下だった。

 樹の攻撃を主体とした防御と回避に重点を置いた連携に慣れている所為で攻撃が疎かみたいだ。

 ラフタリアやフィーロと一緒だったら数分も掛からなかったかな。


 カルマーラビットファミリアシールドの条件が解放されました。


 カルマーラビットファミリアシールド

 能力未解放……装備ボーナス、察知範囲(小)


 終いには問題を起こす度に注意する俺の事が気に食わないのか、鎧がパーティーから抜けた。

 ラフタリアやフィーロが同じ事をしている手前文句は言えないが、最後まで面倒な奴だったな。

 尚、鎧が抜けた後、今度は戦士の態度が豹変し、偉そうな態度を取った。注意するとコイツも抜けた。

 最終的に残ったのはリーシアだけという始末。

 必然的に何でもできるリーシアの仕事は増えたが、陽が真上に昇った頃、無難に狩りを終了して本島行きの船に乗った。


 もはやどうでも良いが、集団でボイコットした癖に鎧達は同じ船に同乗している。

 樹に怒られるのが嫌だったのかは知らないが、宿で休んでいやがった。

 注意するのも面倒だ。海でも眺めて疲れを癒そう。


 最悪の二日間だったな。

 樹の情報もそんなに得られなかったし、裏取りもできなかった。

 だが、やっと面倒な人員交換が終わる……。

 ぼんやりと海を眺めていると今朝の事を思い出した。


 そういえば……リーシアって子が朝に一個鉱石を俺に渡してきたな。

 昨夜、話を聞いてくれたお礼とかなんとか。

 その時はさすがは没落とはいえ貴族、良く出来た子だと思いながらも何食わぬ顔で受け取ったが、今考えると言動が少しおかしかった。


「イツキ様が良く買われる鉱石です。何に使われているのかは存じませんが、お役に立ててください」


 だったか。

 最初は鉱石類の解放武器かと思ったが、良く買われるって事は頻繁に使っているって事だ。

 帰ったら会議が待っている。

 その時にでも、元康、錬と合わせて尋ねるとしよう。

尚、精神状態の名前はダーティハリー症候群と言います。

映画の名前なので伏せました。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。