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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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弓の勇者の仲間達

 翌日の朝。


「今日は樹の所だったな」

「……」


 ラフタリアが若干渋い顔をする。

 二度ある事は三度あるとも言うし、出来れば何も起こらないで欲しい。

 正義感が強い樹だからな。元康や錬と同じ様な事にならないと良いが。


「あんまり樹の正義感を気にしないようにな。奴等には奴等の理屈があるんだ。たった二日だから……」


 念のために注意する。ありそうな所というとその辺りだと思うし。

 仲良くしろと言っている訳じゃない。普通にLv上げができれば良いんだ。

 弓はさすがに元康や錬みたいに、一人で戦える武器じゃないだろう。

 現に樹の仲間には派手な鎧を付けた前衛がいた覚えがある。


「は、はい。頑張ります」

「ごしゅじんさまいってらっしゃーい」


 何か後ろ髪引かれつつ、部屋を出た。


「今日の槍の勇者殿の仲間交換は休みになったでごじゃる」

「何かあったのか?」

「ルコルの実、中毒の治療でごじゃる」

「あの実がねー……」


 体質か? 俺はまったく問題なかったのだが。

 一応名称は同じ日本だが、別々の世界らしいからな。身体の作りに差があっても不思議ではないか?

 それとも元康が食ったのだけ毒が混じっていたとか。

 あとは……俺は盾のお陰で毒耐性あるし、平気だったとかかなぁ。


 元康は今日一日寝ている感じか。

 アイツの事だから、女共に看病してもらって美味しいイベントだろ。

 勇者の中で一人だけギャルゲーみたいなパーティー構成だからな。


 ……微妙に跳ね返っている様な気もしなくも無いが。


「従って剣の勇者殿と槍の勇者殿の交換は明日だけでごじゃる」

「ふーん」


 元康には丁度良いだろ。錬は……あんまり変わらないんじゃないか?

 ま、ビッチ達と一日付き合わなくて良いから良い事尽くめだろうし。


「盾の勇者殿が酒に異様に強いのは後で報告するでごじゃる」

「あの実、ものすごく美味かったぞ。酒場に代金払ってくれたか」

「ちゃんと支払ったでごじゃる」

「ならいい」

「酒の勇者と巷で噂になりつつあるでごじゃるよ」


 変な噂が付いたものだ。

 酔っても無いのに酒とはこれいかに。


「俺じゃないよな。元康に付いた称号だよな」

「盾の勇者殿に決まっているでごじゃる。むしろどうしてそう思ったのか逆に気になるでごじゃる」


 まったく……アレだ。毒耐性のおかげか、それとも俺の世界の人間にはアルコールとして働かないかのどっちかだな。


「なんて話をしている間に着いたでごじゃる。ここが弓の勇者殿の仲間が宿泊している部屋でごじゃる」


 そう言って影は姿を隠した。


「さて……」


 不安に思いつつ、俺は部屋の扉をノックする。


「どうぞ」


 普通に返事が来た。

 元康の所がおかしいだけで気にする必要は無いよな。

 扉を開けて中に入った。


「よくきてくださいました。盾の勇者さん」


 部屋の中に入ると樹の仲間達がそれぞれくつろいだ体勢で俺を出迎える。

 錬の所みたいに礼儀正しいとも、元康の所みたいに自分勝手とも違う。まさしく自然体だ。

 ただ……どっちかというと元康寄りか。


「最後の人員交換で担当する盾の勇者の岩谷尚文だ。これから二日間一緒に行動することになる。よろしく頼む」


 挨拶をしつつ、樹の仲間を確認する。

 えっと……5人か? 目立つ鎧をつけている奴が偉そうに腕を組んでいるな。

 なんか嫌な予感がするなぁ。

 しかし、俺が凝視した瞬間、組むのをやめた。


「ええ、よろしくお願いします。我等、イツキ様親衛隊の戦いを盾の勇者さんは見ていてください」


 親衛隊!

 すげぇ言葉が出てきた。

 やばい……笑いそう。アイツは一体何をしているんだ。

 どうにか笑みを噛み殺す。


「そう、我等、イツキ様親衛5人――」

「すいません! 頼まれた物を買ってきました!」


 俺の後ろの扉が開いて誰かが駆け込んで来た。

 振り返るとそこには女の子が一人、道具袋を担いでいた。


「え、あ――もう盾の勇者様が来てしまっていました?」


 年齢は……どれくらいだろう。14歳前後か? ちょっと幼い感じだ。

 育ちの良さそうな整った顔付きをしている。元康だったらナンパしているだろうな。

 小柄だなぁ。戦闘に適している様には見えない。魔法とかで戦うのかな?


 この声、聞き覚えがあるな。

 確か、俺がツヴァイト・オーラを習得した時に説明してくれた奴だったと思う。

 即座に出てきた所を見るに、知識面では優秀かもしれない。


「遅いぞリーシア! ほら、自己紹介に加われ」

「は、はい!」

「我等、イツキ様親衛6人衆!」


 さっき5人と言おうとしなかったか?

 つーか1人だけ買出しに行ってたのか。

 なんか不穏な空気を感じるんだが……。


「じゃ、じゃあ、とりあえず出かけるか」

「そうですね。盾の勇者さんに戦いのご教授を頂かねばなりませんからね」

「あ、ああ……」


 なんだろう。このテンション。

 付いていけない気がしてきた。



 必要な道具はさっきの女の子が買出しをしてくれたおかげで問題は無い。

 不安は残るがパーティーを組み、出発した。

 市場を通り過ぎた時、詐欺商の店に、人だかりが出来ているのを目撃した。

 上手い事やっているみたいで結構だ。


 こうして船に乗った訳だが……。

 俺を入れて7人もいるのでちょっと船が狭い。

 まあ、干潮だったら歩ける所でもあるから大丈夫だろうけど。

 サンゴ礁が綺麗だなー……。


「リーシア、もっと端に寄れ」

「こ、これ以上寄ったら落ちてしまいますよ」


 何だろう。

 どうもリーシアって子の立場が弱いと言うか……。

 やがて大きな物が水に落ちる音が聞こえた。


「ガボガボ……」


 案の定リーシアは海に落ちていた。


「落ちたぞ!」


 俺がリーシアって子の手を掴んで船に乗せる。


「まったく……盾の勇者さんに迷惑を掛けるとはどういうことだ!」

「いや、落としたのはお前等だろ」


 狭いからとか言って端に寄れって、この子相当小柄だから問題ないだろ。

 正直、他の奴等がスペースを取り過ぎだ。


「むしろ鎧、装備の関係で仕方ないのかもしれないが、お前がもう少し詰めろ」


 派手なでかい態度の鎧が一番スペースを取っている。いったい何なんだコイツ等。


「それはしょうがありません」

「何がしょうがないんだよ……」


 何だここは。

 とりあえず、リーシアって子に体を拭かせる為の布を渡す。


「あ、ありがとうございます!」

「風邪を引かないようにな」

「は、はい!」


 なんか気弱そうな子だ。



 船から降りて、島に到着した。

 そのまま狩場の方へとゾロゾロと向かう。

 7人ともなると多く感じる。


「じゃあ、とりあえず質問だが、樹は普段どんな戦い方をしているんだ?」

「盾の勇者さん。イツキ様の呼び方をどうにかなりませんか?」


 一番態度のデカイ、派手な鎧が俺に進言する。

 またコイツか。


「はい?」

「せめて、さんとか様とかを付けて呼んでください」


 ……何を言っているのだろうか。

 俺が樹をなんと呼ぼうが俺の勝手だろう。それを正そうとするなんて何様のつもりだ?

 忠誠心の高さなのかもしれないが、相手を選べと言いたい。


「一言注意しておく、俺はお前等の勇者とは同列として扱われる盾の勇者だ。その俺が何でそんな事まで指示をされなければならない」

「いいえ、盾の勇者さんはイツキ様よりは活躍の面で格下、ですから盾の勇者さんはイツキ様に敬意を示さなくてはならないのです」


 なんと言う屁理屈。

 もはや暴論だ。何がコイツをそこまで……周囲を見ると一人を除いて同じ意見らしいな。

 尚、その一人はリーシアと呼ばれているパシリにされていた子だ。

 本音はわからないが、問題事に対してうろたえている。


「……何を言うかと思えば」


 活躍の面って……あの秘匿主義の樹が世間でどんな認識を受けているのか分かっているのか?

 世直しの旅をしているつもりになっているが、全然噂になってねえよ。


「活躍? 一番地味な勇者って評判の樹がか? 俺には弓の勇者が何処何処でどう活躍したのか耳に入ってこないな」

「貴様……犯罪者風情が」


 そう言った瞬間、鎧の背後に影が現れて短剣を突き立てる。


「盾の勇者殿に罪は無いでごじゃる。これは女王の認可があり、それで尚、盾の勇者殿を愚弄する行いは罰則が下るでごじゃる」


 突然の出来事に鎧の奴が驚愕の顔を浮かべる。

 ビッチの場合は泳がせているのも絡んでいるからな。

 こう言った罵声は注意されるという事か。


「特に盾の勇者殿に対する罵倒は重罪になるでごじゃる。その行いが汝等の信頼する勇者への裏切りになる事をゆめゆめ忘れてはならぬでごじゃる」


 思っていても喋ってはいけない。

 ま、俺の無罪を樹の仲間はまだ信じていないのか。

 あの正義感が人一倍多そうな樹の事だからな。その視野の狭さがこうして仲間に移っているのか。


「ぐ……」


 忌々しそうに鎧が俺を睨む。


「なあ、コイツ等を放っておいて帰りたくなってきたんだが」

「そう言われても困るのは盾の勇者殿だと拙者は思うでごじゃるが」

「まあ……」


 一人じゃLvの一つも上げられないしな。

 参考程度に狩りには行った方が良いとは思うけどさ。

 この俺=悪という認識、どうにかならないか。

 おそらくコイツ等は長く樹と一緒にいたから、ある事ない事吹き込まれているんだろう。


「とにかく、尋ねられた事はちゃんと答えるでごじゃるよ!」

「チッ!」


 鎧が悔しそうに舌打ちした後、影は姿を消した。


「ほら、とりあえず話せよ」

「……イツキ様は我等の後方で常に我等を守りながら戦ってくださる」

「へー……」


 ま、弓の戦い方ってそうだよな。

 この世界でどうかは知らないが、遠距離ってだけでアドバンテージがある。

 逃走生活の時も樹の攻撃には困らせられた。

 そのおかげで遠距離攻撃の対処方法を見つけた訳だから、今となっては問題無いが。


「と、とりあえず、魔物を倒しに行きましょうよ!」


 何か肩身が狭そうな、リーシアって子が告げると、ぞろぞろと歩き出した。

 で、魔物と遭遇する。

 派手な鎧が一番前に出て、それに続くように仲間が飛び出す。


「さあ! 盾の勇者さん。攻撃を」

「いきなり俺に頼るのか?」


 樹がここで弓を引くのか……。


「というか頭を使え、それは俺の役目だろ」


 鎧に魔物の攻撃が加わりダメージを受けるのを仲間が回復させて時間を稼ぐ。

 その間に、他の仲間が魔物に攻撃をしていた。

 一応は連携が取れているが、俺を加えた場合の戦略としては間違っている。


「お前は下がってろ」


 鎧を下げさせて、魔物の前に出る。

 まだ雑魚だからな。痛くも痒くも無い。


「ぐ……」


 なんか鎧が悔しそうに声を出している。

 平然としている俺がそんなに羨ましいのか?

 俺としてはお前が持っている武器の方が羨ましいんだが。


「で、お前等の樹は弓でトドメを刺すと」

「ああ、少しでも我等へのダメージが大きそうになると力を込めてくださる」


 まあ……平均的な戦い方だよな。

 ただ、人間の壁を作っているだけのような戦い方とも言えるけど。


「イツキ様は我等の中でも飛びぬけて高い攻撃力を持っていらっしゃる。我等の役目はその力を最大限引き出すこと也」


 鎧とは別の、戦士が答える。

 遠距離から攻撃ができるから近付かれなければ攻撃し放題だもんな。

 要するに樹は味方誤射さえ気を付ければ良いのか。


「後は回復と補助を行うだけです」

「魔法援護は?」


 樹だけじゃ対処ができない時だってあるだろうに。


「それは私が時と場合によって行います」

「わ、わたしも!」


 ま、そうだよな。

 錬の所程じゃないが、連携は成り立っているようだ。

 ……錬が不要な程に、あそこは出来上がっているとも言えるが。


「じゃあ、鎧のお前と剣を持ったお前は守りよりも攻撃重視で戦え、俺が全て抱えるから」

「そんなに抱えられるのか?」


 挑発気味に鎧が言い放つ。

 またコイツか。

 この鎧は俺に何か恨みでもあるのか。


「できるさ、偉ぶるお前みたいな怪我もせずにな」


 この程度の雑魚相手に、何を警戒すれば良いのやら。

 そもそも教皇の攻撃を全て受けきったのは誰だと思っているんだ。

 コイツ等もその場にいたのだから分かっているだろうに。


「貴様……」


 どうもこの派手な鎧を着た奴、プライドが高いな。

 俺が何かする度に文句を付けてくる。

 とは言いつつ、狩りは問題なく進行して……行かなかった。


「貴様! 我等の倒す魔物を横取りするとは何事だ! お前に生きている資格は――」

「ひぃ!?」


 鎧とその他が我が者顔で冒険者が戦っていた魔物にトドメを刺す。


「島でのルールを破るな! 悪い、コイツ等ちょっと勘違いしていてな」


 ああもう、早く帰りてぇなぁ!

 元康パーティーよりやりづらい。

 この島に来た初日にレクチャーされたのをすっかり忘れて居やがる。

 冒険者が戦っている魔物を横取りするような事はしてはいけないって注意されていたじゃないか。

 どうもコイツ等、自分達が特別な存在だと思い込んでいるみたいなんだよなぁ。

 樹はどんな教育をしているのやら……。


「頭が重い……」


 で、戦っている最中に気付いたのだが、リーシアって子、すごくどっちつかずの戦い方をしている。

 剣で敵を突いたかと思うと、離れて魔法を唱えるを繰り返し、誰かが怪我をすると回復魔法を唱える。

 のだけど、どれも出遅れている。

 なんか自分の役割を掴みきれていない感じだ。注意する事は出来るのだが……。


「リーシア、もっと前に出なさい!」

「リーシア、後ろに下がれ!」

「リーシア、回復。早く!」

「リーシア、魔法を唱えろ!」

「は、はい!」


 既にボコボコにされているので言ったら悪いと思ってやめた。

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